2.息子と母
小学2年になった藍子は、祖母と出かけた際に再び車に撥ねられ死んだ。
「おばあちゃん! こっちこっち! はやく~!」
「待って頂戴。藍子ちゃん。危ないから。おばあちゃん、そんなに速く走れませんよ」
藍子は、自分の所為で母親が亡くなったのでずっと落ち込んでいたが、最近漸く元のように元気になっていた。
「あ。赤になっちゃう」
祖母も追い着いて来ないし、急ぐ必要も無かったのに、直ぐ渡らなくてはと飛び出した。
そこへ、やはり必要も無いのに急いでいた車が、藍子に気付かずに右折して来たのだ。
「どうして、もっと気を付けてくれなかったんですか!」
再び藍子を失った正子は、母を責めた。
「おばあちゃんは、悪くないよ!」
美鳥には、母の命と引き換えに助かっておいて、たった一年でそれを忘れたかのようにうかつな行動を取った藍子が悪いとしか思えなかった。
「藍子は死んだんだぞ!!」
美鳥は正子の剣幕に怯え、何も言えなくなる。
「クソッ!」
そんな美鳥に何故か罪悪感を感じた正子は苛立ち、壁を殴るとその場から離れた。
その夜、正子は夢を見た。
『息子の死を、無かった事にしてやろうか?』
何者かは、気前良くも再びそうしてくれると言う。
「今回も、同居家族の?」
『無論だ』
正子は、母か美鳥かで迷った。
母は大切だが、藍子をよく見ていてくれなかった所為で、藍子は死んだのだ。
美鳥は薄情で可愛くないが、彼女の所為で藍子が死んだ訳ではない。
大切さで言えば、母に軍配が上がる。
しかし、非があるのは母の方なのだ。
結局、正子は、母を引き換えにしたのだった。
走る藍子を追い掛けていた母が倒れ、それに気付いた藍子は足を止め、事故に遭わなかった。
母は心臓が弱っていたと、辻褄が合うようにされた。