第5話 異次元の化け物
ナメクジのように地面を這いずり回る。異次元からやって来た化け物は地面にヌメっとした跡を付けながら外を目指す。僕はその化け物から眼が離せない。正確に言えば離させてくれないのだ。二キロは息を殺す。そしてある一定の距離があくと車の下からゆっくりと出てその後ろを追う。
柱の影に隠れてスロープを登っていくそれを観る。まだお目当ての現象は起きない。二キロは何かを待っている素振りだ。そして遂に事件が起きる。
「わぁぁぁー!化け物!…いや仮装か?なんや気持ち悪い!!失せろ!」
登った先に人がいた。声からして大人の男性だ。トラブルに巻き込まれている。すると二キロが慌てて駆け出す。決して見逃してはいけない。
「なんやおまえ!!ってああああああ!!!」
そしてたどり着くとそこにはもう誰もいない。
「クッソやられた!なんや早すぎるやろ!」
二キロは悪態をつく。そして事件が起きた現場には血溜まりと財布が落ちている。それを拾い上げて中身を確認した。
「武田清貴…」
血まみれの財布から血まみれの免許証を取り出す。そして何も無かったかのように戻し血溜まりに投げ捨てた。
「なるほどなぁ。こんな顔やってんなぁ」
二キロは一人で勝手に納得をする。目的は十分に果たしたようだ。そしてコントロールを戻される。そのあと、大声で大人達が駆けつけてきた。血溜まりと血まみれの僕を交互に見て不審な顔をする。
「自分ここで何してんの?何なんその血みたいな?…」
そして暫くして警察がやって来て僕は人生初のパトカーに乗る事が出来た。全然楽しくない。
「うんん〜。ほなあれか?何も見てへんし、叫び声も聞いてないって言いたいんやな?」
「そうです…」
警察は頭を悩ませる。現場に残ってた血溜まりは本物。落ちていた財布から身分証を発見。それを頼りに被害者家族と連絡。協力を得てDNA鑑定中。結果は後日出る。そして目撃者はゼロ。ただ駆けつけた数人は叫び声を聞いたと証言。しかし、第一発見者らしき少年は何も観てをらず聞いてもいないと言う。取り調べ中の警察官は思った。
(絶対嘘やん!)
怪しいその少年を怪訝な目で見つめる。しかし至って冷静で落ち着いている。気持ち悪いぐらいにだ。事件は難航する。そんな雰囲気が漂うのであった。