第3話 二キロは僕
この公園は基本的に誰も来ない。ベンチと公衆トイレしかないからだ。たまに暇なおじいちゃんが座っている事があるが、夕方にはもう人気はない。
「ちょっと話ししよか。驚かんでええで俺も一応お前やからな」
僕は1人でにしゃべる。もう一つの人格が話をしようというのだ。パニックである。けれど僕が気持ちを落ち着かせるまで待ってくれる。
「話しって…なんなん?」
ようやく口を動かす事が出来た。恐る恐るである。いつまた自由を奪われるか。その恐怖で逆らえないのだ。ズルい奴だ。そう頭の中で愚痴をこぼすとそれは返事をした。
「ズルくてすまんな。俺にとっては大事な事やお前にとってもな。これからやる事に拒否権はない。せやけど説明だけはするから良く聞きや…」
「お前なんなん!意味わからんで!誰やねん!」
「せやからお前や言うとるやん…。未来のな」
「へ?…未来」
全く理解が追いつかない。けれど話は続く。
「俺のことは…せやな。もう一つのキロ。キロツー…いや。二キロでええわ。よろしくな」
二キロ。それが彼の通称だ。この時はまだ二キロと奇妙なミッションをこなす羽目になるとは思いもよらなかった。その先にどんな未来が待ってるのかも知る由もない。
「それで大事な話や。俺は世界を救わなあかん。せやけどホンマに救いたいんはお前や。せやから協力してもらうで。お前にしか出来へんからな。覚悟せんでも良えけど逃げられへんそれが運命っちゅうやつや」
嗚呼、頭が痛い。混乱する。いったい僕に何をさせるつもりなのだろうか。正直、怖い。けれど逆らえない。
「ほな行こか」
二キロを主導に僕は何処かへと向かう。辿り着いたのはボロいビルだ。その地下駐車場に入っていく。危ない空気がぷんぷんとしている。
早く帰りたい。あまり遅くなると親が心配する。早く終わらせてくれ。心からそう願うしかない。
「大丈夫や。すぐ終わる。今日はただの下調べや。大変なのは明日やぞ」
二キロはガラガラの駐車場をひとしきり確認すると「こんなもんか」と言って外へ出る。全くもって何をしたいのかわからない。壁をコンコン叩いたり、放置されたボロボロの車の中を物色したり。まるで不審者だ。防犯カメラもあった。けれど全く気にもとめない。不安だ。
「僕、どうなってまうんやろ…」
二キロは何も答えない。そしてこの日はそれから何もなく無事に自分の体を操る事が出来たのであった。