第2話 二重人格
ある日の朝だ。キロは夢を見た。大人になった自分がタイムマシンに乗り込んで会いにくる。そしてお願いをされるのだ。少しだけ私に体を預けて欲しい。そんな不思議でちょっぴり怖い夢だった。
目を覚ます。何か夢を見た気がするけれど何も思い出せない。そんな事は日常茶飯事で気にしている場合じゃない。現在7時50分だ。残り10分で出発しなければ遅刻である。制服を着てランドセルを背負いテレビをつける。時間は丁度8時だ。そして再放送の一世代前の傑作アニメが放送される。観たい。けれど学校に行かなければならない。もどかしい気持ちを抱えながらその画面に夢中になった。やっぱり面白い。甘い罠だ。けれどその時だ。急に体が勝手に動き出した。
「今は見なくてもええやろ。ほら行くで!」
僕は独り言をこぼした。無意識だ。怖い。誰かが僕の体を乗っ取って動かしている。けれど玄関を出てすぐに全てのコントロールが戻った。
一体何が起きたのか。二重人格。そんなワードが頭に過ぎった。それを理由に学校を休めるか。そこが重要だ。けれどどうもその作戦ではいけそうにない。どちらにせよ頭がおかしい。その問題を自分で抱え込むか。或いは他人に委ねるか。そんな事より遅刻だ。僕は走った。
汗だくで教室に入る。何とか間に合ったらしい。ランドセルをロッカーに押し込んで席に着く。前の席の奴が僕の方を振り向いた。
「今日は遅刻ちゃうんか!ギャハハ」
何も面白くない。言い返してやる!そんな気持ちが湧き上がり、口を開こうとした途端に又もや体の自由が奪われた。
「すまんな。いつも見てくれてたんやね。助かるわ」
「…おぉ。別にそんなんちゃうけど…」
何でこんな奴に謝るのか。腹立たしかった。けれど頭に血が昇っている間は決して体の自由を許してくれない。だから仕方なく気持ちを落ち着かせた。
「お前なんか今日、変やぞ?」
「え?い、いつも通りやで変なこと言わんで」
クラスの数人は僕の異変に気付いている。けれど事情を話そうとしたり、感情のままに発言しようとすることをもう一つの人格が許してくれなかった。
そして放課後、いつもならこのまま学校を追い出されるまでグラウンドで鬼ごっこなどをして遊ぶのが日課になっている。けれどその瞬間に又もや体を乗っ取られた。
「あ、ごめん。今日用事あったわ。ほなまた明日」
友達と泣く泣く別れる。本当は遊びたいのに、この人格は僕を何処へと連れていくのかこの時は知る由も無かった。