第1話 呪われた記憶
実験的な作品です。暖かい目で見てやってください。
寝静まる夜に子供時代の古い記憶が自分を追い立てる。貴方にもそんな経験はありますか?急に眠れなくなる。怒りとも悲しみともつかない良くない感情が心を締め付ける。
小学校5年生のときだ。好きなことがあった。ダンボールが私の創作意欲を掻き立てる。素晴らしい時間だった。誰のためでも無い。ただ楽しかった。動く車や人形は私の得意分野だ。思ったことはなんでも形にした。才能の開花を体験した。その感覚は今でも心の奥底で命を繋ぎ止めてくれている。大事な命綱だ。
しかし私は大きな過ちを犯した。その時にはもう遅い。現実は決して離してくれはしない。時間が足りないと思ったのだ。だから作っている途中の作品を学校に持ち込んだ。それが先生に見つかってしまうとは…。
「はーい!皆さーん注目して下さーい!」
先生は私の肩をガッシリと掴んで離さない。逃がすつもりはないらしい。教卓の横まで連れていかれて立たされる。痛い。心がキリキリと傷む。今から始まることはきっと良くないことだと本能が叫ぶ。
「キロくんがこんな物を作ったんです!凄いですよね!!」
取り上げられて、見せびらかすようにして掲げられた。それは未完成のロボット。ダンボールで出来ている。動力源はない。完成したらラジコンのように動く予定だった。
「ほら、キロくんもこう言いなさい…」
その次に言われた一言が私の人生を深く左右する。
「みんなにも作ってあげます。ほら?言いなさい…」
言いたくない。私のために作っていたのだ。これを言ってしまったら最後…もう何もかも元には戻らないのだ。けれど私はその呪いの言葉を口にしてしまった。
「みんなにも…作ってあげます…」
それからというもの、何もかもがつまらなくなる。依頼は殺到した。毎日のように進捗を聞かれた。一週間が経ち一ヶ月が経ち。未だ、誰の分も出来ていない。その度に私は嘘を吐く。
「もう少し待ってて…もうちょいで出来るから…」
「えぇ〜!どんだけ待たせんの!もう結構、経つで!」
「……」
私は無言を貫き通すしかなかった。それ以上嘘を吐きたくなくて必死だった。心の中で何かが一つずつ壊れていく。泣きたくなって堪えた。けれど醜態を晒すのはもっと嫌だった。
楽しかったあの頃に戻りたい。何度そう願ったか。学校に持っていかなければ…先生があんな事を言わなければ…見つかってしまわなければ…。何もかもを呪った。苦しかった。そしてもう誰にも聞かれなくなると皆と同じようにそんな事実は無かった事にした。
誰しもが救われない自分を知っている。もう取り返しがつかない程に時間が経つ。既になんの意味もなさなくても心の中にそのときの自分が呆然と立ち尽くしている。やり直したい。その思いが全ての始まりであり、強い動機だった。