9万字 『分所、戸惑う』
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前回のあらすじ
通与と礼多は共同ペンネーム
「蘇芳花連」を表明し、文匁は二人の担当編集となった。
そして文匁のメイド姿を見るために
川瀬(と書いてリバーサイドと読む)に
男装ルックで来店した丁夏に対し
文匁は思わぬ反応をする。
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小瀬通与、須堂礼多
爽田丁夏の3人は、
アヤこと分所文匁の案内で
4人席に座った。
「爽田がこういう方向性で来るとは思わんかった……」
「かっこいいものというか
”ピッシリしているもの”が好きなんですよ、私」
「学校で制服をキッチリ着こなしているのもそういうこと?」
「そう
こういう服も”ピッシリ”を突き詰めた結果こうなったからで
別にジェンダーがどうこうとか、そういうのは関係ないんだ」
「いやー、個性が出るねぇ」
「で、アヤさんはどこ向いてるんですかね」
アヤの視線は三人の方向とはあらぬ方向を向いている。
顔は赤く、かなり汗をかいている。
「ごひゅうもんは?」
「どうした?」
「だいじょうぶれす」
「大丈夫じゃないだろ」
「ひょっとてんちょうによばれたのれ
いってきます」
呼ばれてないが、アヤはズサーっとバックヤードへ消えた。
「アヤさんどうしたんでしょう?」
「あたしら二人が来た時は普通だったんだ
原因があるとしたらこいつしかいないだろ」
通与の視線が丁夏に向く。
「……え?!私ですか?」
「でもツーさん、学校では全然問題ないじゃないですか?」
「そう
つまり、その爽田の容姿が
アヤの好みにガン刺さりだったんだ!!多分!」
「えーーー!?」
「しかしあの状態だと仕事にならんだろ……
爽田、行くぞ」
「え?!あっハイ!」
「あ!ツーさんズルい!
私も行きます!」
3人はゾロゾロとバックヤードへと向かっていった。
「アヤちゃんがああなるの見るの私も初めてなのよ
ホールはなんとかするからちょっとお願いね」
店長の川瀬冥の了解も取り付け、
3人はバックヤードを覗いた。
文匁は以前として顔を真赤にしたまま
汗をダラダラかいていた。
まず通与と礼多だけ中に入る。
「おい分所、大丈夫か?」
「ふぇ?!」
「礼多!ちょっと水汲んでくれないか?」
「はい!お借りします!こちらに!」
「分所、とりあえず飲め」
「うッ!」
渡された水をゆっくり飲み干すと
ようやく文匁が落ち着いた。
「ふぅ……
ありがとうございます」
「正直ヤバかったから心配したぞ」
「すみません
精神を全く制御できていませんでした」
「爽田か?」
「……そうです
……爽田さんはどこに?」
「そこの裏にいる、呼ぶか?」
「……はい、お願いします」
「爽田ー、出てきていいぞ」
「はい」
壁際からちょっと顔を出したあと
丁夏が姿を現すと
文匁は「ひゅっ!」と声を出したが、
なんとか落ち着けた。
「アy……分所さん
大丈夫ですか?」
「ええ……なんとか」
選ぶ言葉が見つからず、しばし沈黙になったが
丁夏が文匁に寄り添った。
「あの!分所さん!
この際なので言ってしまいますが
好きです!
あとメイド姿すごく似合っています!」
「「え?!」」
通与と礼多は固まった。
文匁は目を丸くして
落ち着いていた顔が再び真っ赤になった。
「おふぅ……」
その場で気を失ってぐちゃっとなった。
「「「分所!!」さん!!」」
結局その日、文匁はずっと気を失ってしまったので、
急遽通与と礼多と丁夏がホールの手伝いをすることになった。
幸い客は少なく、なんとかはなった、なんとか。
(バイト代も後日出ることになった、優しい)
文匁が目を覚ましたときにはもう閉店時間で、
店長の冥は、謝り倒している文匁をなだめると
「ゆっくり話あってきなさいね」と優しく送り出し、
4人は近所のファミレスに入った。
「ちょっと二人で話してきます」
「おう」
文匁と丁夏は
通与と礼多から離れた席に座り、
少し話してから、
二人でお冷を持って
通与と礼多の席に来た。
「爽田さんのお気持ちを受けとることにしました」
「「速っ!」」
…………
丁夏語る。
「実は文王に入ったときから
分所さんのことは気になっていました
自分がデザインで編集部に入れたのは
たまたまなんですが
かっこいいし、仕事できるし
この感情は憧れに近いかもしれませんが
改めて自覚すると『恋』なのかなぁって」
「分所は?」
「信頼できる方とは思っていました
まさか自分に好意を持たれているとは……
なので付き合うとはいっても
徐々に互いの関係を確認し合うということで
合意していただきました」
「あるぇ?なんか聞いたことある話ですね?
ツーさん???」
「うっさい」
「いでっ」
うざ絡みしてきた礼多を通与が小突く。
「まぁ、二人ともおめでとう
ただ分所にはこれだけは聞いておかないとな
……今日の爽田どうだった?」
文匁の顔が赤くなる。
「あの……すごく好みです
格好良すぎて直視できません……」
これには爽田も赤くなった。
「え……ええ……嬉しいです」
なんか文匁と丁夏の間で
幸せ空間が出来た。
「礼多さん、これが惚気ですか?」
「そうですね、他の人がやってると結構冷静になれますよね」
「うん」
「ツーさんもたまには惚気けていいんですよ」
「分所目線だとあたしも十分惚気けてるらしいぞ」
「足りないです、私にもわかるレベルでお願いします」
「善処します」
文匁と丁夏におごって
その日はそのまま解散した。
……後日、学校通学時……
「ツーさん!デートしましょう!デート!」
「え?!」
「分所さんと爽田さんで気づきました
私たちそれほど関係が進展してません!
イベントが必要です!」
「え?ああそうかもな……
どこか行きたいところあるのか?」
「あります!
小石川薬草園です!!」
「え?!薬草園?」
第二部完!!
そして続く!
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次回予告!
第二部完の節目は文匁と丁夏だった。
礼多は通与との関係の模索のために
デートを計画する
小石川薬草園で出会う新たな人物とは?
二人の関係を進めるための第三部
次回10万字『小瀬、ラリる』
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用語まとめ
・小瀬 通与
私立文王女子学園高等部2年。
美術専科。
特に水墨画に秀でる。
女性。
微エロ絵描き「オズ(OZ)」の裏アカウントを持つ。
背は低い。
着物女子。
礼多と共同創作者以上恋人未満の関係。
・須堂 礼多
私立文王女子学園高等部1年。
詩歌専科。
特に俳句に秀でる。
女性。
微エロ小説書き「レターパックマン」の裏アカウントを持つ。
背は高い。
おっぱいが大きい。
ギャル(2010年代基準)。
通与と共同創作者以上恋人未満の関係。
・蘇芳 花連
通与と礼多の合同ペンネーム。
連は「連名」の連。
花蘇芳の花言葉は「喜び」。
・分所 文匁
私立文王女子学園高等部2年。
出版専科。
特に校正に秀でる。
女性。
通称「鉛の女」。
双星社に籍を置く編集のセミプロ。
川瀬(と書いてリバーサイドと読む)の人気メイド「アヤ」でもある。
通与と礼多の裏アカの存在を知る人物。
丁夏と付き合うことに。
・爽田 丁夏
私立文王女子学園高等部1年。
デザイン専科。
特に装丁に優れる。
女性。
背は低め。
男装女子。
通与と礼多の裏アカの存在を知る人物。
文匁が好きで、告白が実る。
・川瀬(と書いてリバーサイドと読む)
メイド喫茶。
文王市のほぼ市境にある。
クラシカルメイドと豊富な種類のコーヒーと
安くて量が多いメシが売りの店。
・川瀬冥
メイド喫茶川瀬(と書いてリバーサイドと読む)の店長。
趣味道楽で店をやっている。
いい人。
第二部、完です。
通与と礼多の共同ペンネームができ、
文匁が編集となり、
新キャラ丁夏と文匁がくっつきました。
通与と礼多の進展がボチボチだったので
第三部ではそこを掘り下げたいと思います。
双星市の住人もちょいちょい出ると思いますので
お楽しみにください。