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裏アカ女子二人、微エ◯小説で名を上げる【完結済】  作者: ながつき ゆう
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2/12

2万字 『須堂、ゴネる』

「お帰りなさいませ、お嬢さm、ぶふっ!」

「「???」」

二人を出迎えたメイドは全力で噴いた。

「失礼いたしました、お席にご案内いたします」

「え、なんか可笑しいところありました?!」

「いえ、むせただけです」


メイド喫茶「川瀬(と書いてリバーサイドと読む)」

クラシカルなメイド服を基調とした「真面目な」メイド喫茶である。

だが実のところは店長の川瀬冥かわせ めいの趣味・嗜好を

ゴテゴテに実現させた喫茶店であり、

真面目な方向性のはずなのに、

オムライスにメイドが字を書くサービスは存在する。

あとめっちゃコーヒーの種類があるわりに、

紅茶はダージリンしかない。

カツ丼がある。

デザートの種類がやたら多い。

そして量が多くて安いという定食屋のような食事設定は

年頃の男子女子にとって非常にありがたい存在だ。

惜しむらくは学園からわりと遠いので、平日の帰りには寄れない。


先程、小瀬通与(おぜ かよ)須堂礼多(すどう れた)を迎えたメイドは

「アヤ」という名札を下げていた。


「ご注文はいかがなさいますか?」

「しらたまあんみつセットの栗マシで」

「いちごパンケーキのクリームマシで」

「お飲み物は?」

「「リバーサイドブレンドをホットで2つ」」

「かしこまりました」

「メイドさん、やっぱりさっきの何かありませんでしたか?」

「いえ、ありませんね」

メイドはスタコラとバックヤードに消えた。


「じゃあ早速だけど本題ね」

「あ、ちょっと待ってください!呼び方を変えませんか?」

「要るか?」

「要りますよ、名前にするだけで詮索されるリスクが下がります

 名前呼びにしましょう」

「じゃあレタ」

「はい、ツーさん」

「……ちょっと待て!ツーさん!?」

「相方感ありませんか?」

「なんかバク◯ンみてーだな……んー、まぁいいか」

通与はバッグから大判タブレットを取り出した。

1年時から使っている今でも最新モデルの機種だ。

「わぁ凄い機材ですね!」

「便利だぞ、こういうときはテキメンだ」

「では私も」

礼多はバッグから薄いノートPCを取り出した。

こちらも今年発売の最近機種である。

「そっちも相当じゃないか」

「そりゃ重いのは持ちたくないですからね」


……


『スペースウーマン魚屋さん』

礼多が執筆した読み切り小説、1万字。

宇宙女海賊がひょんなことから少女(10歳差)を拾い、

宇宙有機生物を「サカナ」と称して売り渡っていく短編だ。

少女との恋愛描写あり、戦闘あり、

有機生物に海賊が絡まれるお色気ありと、

やりたいこと雑多に詰め込んだ感満載だが、

リズムと語彙で読みやすさをカバーした良作、

と通与は読んだ感想をテキストにしていた。


「面白かったよ、この前の以上に」

「ありがとうございます!」

「で、これが設定画と、表紙絵と、挿絵だ」

「おぉ~!」


タブレットに表示されているのは

A4サイズの解像度で描かれた

女海賊と少女の設定画と、

二人を中心にすえた表紙絵、

そして挿絵だ。


色も置いてあり、

絵を描かない人から見ると

「もうこれ完成絵じゃん」と言われるレベルだが、

よく見ると手がラフかったり、

影を置いていない部分がちらほらあったりと、

作業時間、礼多との認識のすり合わせを考慮した

ほどよい(それでいて力が入った)仕上がりであることが見て取れた。


「おお~いいですね!

 私のイメージにピッタリです」

「それは良かった」

通与は鼻が高い。

絵を細かく見ていた礼多の目が止まった。

「あ……でもあの……挿絵で一部修正願えますか?」

「ん?どこを直せばいい?」

礼多は女海賊が有機タコに絡めつけられ

ぐちょぐちょになっている挿絵の胸の部分を指差した。

胸にタコの足がかぶさっている。


「ここ、タコの足を避けて乳○出してください」

小沈黙

「……はぁ?!ダメだ!!」

通与は両手でバカでかいバツ印を出した。

お願いが通ると思っていた礼多は面食らった。

「え?!乳○出してくださいよぉ!」

「ダメだ!そこは譲れん!」

ほのぼの和気あいあいの空間が一気に修羅と化した。


「見せ場の挿絵にして唯一のえろシーンなんですよ!

 乳○もろ出しになってしまうほどの余裕のなさと

 艶めかしさで読者を半勃起くらいにしたいんです!

 勃ったら読めなくなりますからね!」

「ちげーわ!ほらここ!赤みとも乳輪ともつかない

 赤色を置いてるだろ!想像なんだよ想像!

 読者はこの乳輪かどうかわからない赤色の先に

 乳○を見出して勃起すんだよボケ!」

「あ!ボケ言いましたね!

 ほんとは乳○描くの難しいから避けたんじゃないですか?!

 ここのおっぱいの肉がプニッとなってるところは

 とても良いものですけど

 それと乳○は共存共栄できるでしょドアホ!」

「うっせー!お前あたしの過去絵全部見たんだろ!

 発展途上だけどわりといいやつ描けてると自画自賛してんだわ!

 自分にも付いてるやつちゃんと描けなくて何が絵描きだ!」

「じゃあ描いてくださいよ、チクビ!!」

「嫌だ!描かねえ!!」


「お客様、いえ、小瀬さん、須堂さん

 ちょっとよろしいでしょうか」

「「アッハイすみません」」


右手に栗がドカドカと乗ったくりーむあんみつ、

左手にクリーム山盛りのいちごパンケーキを抱えて

アヤが立っていた。


「くりーむあんみつ栗マシと

 いちごパンケーキのクリームマシでございます」


くりーむあんみつが礼多の前に

いちごパンケーキが通与の前に音を立てずに置かれた。

「このあと珈琲をお持ちします

 食事はおいしいタイミングで食べないと作る側も食べる側も可哀想なものです

 一旦問答をやめてお食事に専念なされては?」

「おぁ……すみません……え?店員さん、なんであたしらの名前を……」

「すみません、職業柄、首を突っ込まずにはいられませんでした

 食べ終わりましたらお話させていただきます

 よろしいですね」

アヤは表情一つ動かさないが、その顔には覇気がこもっていた。

「「アッハイ」」

二人は静かに食べ始めた。


……


「うんめぇ~~~

 え、ここのパンケーキ初めてなんだけど

 こんなにフワフワしてんの?!

 クリームもさっぱり軽くて

 マシにしたの正解だったわ~~~

 いちごも甘酸っぱくてGOOD」

「うわ、おいしい!

 白玉ってこんなにもちもちするんですね!

 栗もおいしい!おっきいし!

 黒蜜もすごく良い〜!

 珈琲に合う~~~」

二人共ご満悦であった。

さっきの喧嘩はどこに行った。

美味い飯は平和をもたらす。


そしてそれぞれのスイーツの量が半分くらいになったところで

急に二人の動きがぎこちなくなった。

食べるスピードが極端に遅くなり、

そして互いの目がそわそわしていた。


「一口くらいは相手のスイーツが食べたい、

 たださっきの口喧嘩の手前、

 それを自分からいうのは憚られる、

 といった感じでしょうか」

「「あ……」」

テーブルの横にはアヤがいた。


「メイドさん、お暇なんですか?」

「いまお客様はあなた方しかいませんよ?」

伽藍堂であった。

「そういやそうか」

「そういうので禍根を残すと後々響きますよ

 そんなつまらない矜持はゴミ箱に捨て置くのが良いかと」

「ズバズバ言いますね」

「私は言葉のディスコミュニケーションによるトラブルは

 極力避けたいのです

 若いうちの言葉の楔は、思いのほか深く打ち込まれますから」

「メイドさん、何歳なんですか?」

「同年代です

 話が逸れました、で、お二人ともどうなさるんですか?」

「「う……」」

「では私はこれで」

アヤはすたこらとバックヤードに消えた。

言うだけ言って自分は野次馬であることを理解していた。


お膳立てされた以上、

引くことは出来なかった。

「レタ」

「ツーさん」

「「一口下さい」」

二人とも顔が赤かった。

そして二人とも無言で頭を下げると、

手元を動かし始めた。


数秒後、

礼多のスプーンには黒蜜がたっぷりついた白玉、抹茶玉、栗

通与のフォークにはクリームとスライスイチゴがたくさん載ったパンケーキ(数層)が握られていた。


2人は赤い顔に汗をかきつつ、

手を相手の口元に近づけると同時に口を開き、

互いにあーんさせて食べあった。


美味いのは確かなのだが、

なんで相互あーんなのだ?

恋人か?!と頭が混乱した二人は

そのまま勢いで自分の残りの皿を平らげ、

少しだけぬるくなった珈琲で一息ついた。


「お皿お下げします」

「「美味しかったです」」

「それは良かった

 それはそうとお二人ともまだわかりませんか?」

「「???」」

「私の正体」

アヤはポケットからカチューシャを取り出した。

「一人では見破られなくとも

 お二人なら気づくかもと思っていたんですがね」

アヤはカチューシャで前髪をかき上げて留めると、

赤いナイロールの眼鏡をかけた。

「え……」

「あんた……」

「「分所(ぶんしょ)さん?!」」

「はい、分所(ぶんしょ) 文匁(あやめ)です

 お二人共、もっと観察眼磨いてくださいね」




続く!




────────────────────


次回予告

スイーツで有耶無耶になった乳○喧嘩

文匁はこの場を収めることができるのか

次回 3万字「分所、気を使う」


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用語まとめ


小瀬(おぜ) 通与(かよ)

私立文王女子学園高等部2年。

美術専科。

特に水墨画に秀でる。

微エロ絵描き「オズ(OZ)」の裏アカウントを持つ。

背は低い。

着物女子。

さっぱりした甘味が好き。


須堂(すどう) 礼多(れた)

私立文王女子学園高等部1年。

詩歌専科。

特に俳句に秀でる。

微エロ小説書き「レターパックマン」の裏アカウントを持つ。

背は高い。

ギャル(2010年代基準)。

こってりした甘味が好き。


・川瀬(と書いてリバーサイドと読む)

メイド喫茶。

文王市のほぼ市境にある。

すべてが店長の川瀬暝(かわせ めい)の趣味で作られた店で、

クラシカルメイドと豊富な種類のコーヒーと

安くて量が多いメシが売りの店。


・アヤ

リバーサイドの店員。


・リバーサイドブレンド

リバーサイドのオリジナルブレンドコーヒー。

酸味を抑えた苦味重視の味。

暝のオススメは水出しのアイス。


分所(ぶんしょ) 文匁(あやめ)

アヤの本名。


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