10万字 『小瀬、ラリる』
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前回のあらすじ
丁夏と文匁が付き合うことになった。
礼多は通与との関係の進展を目論み、
小石川薬草園のデートを計画した。
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小石川薬草園は
都内にある巨大薬草園で、日本では最大規模である。
広大な敷地と希少種を多数取り扱う専門性から、
その筋の人たちには文字通り楽園であるものの、
悲しいかな、エンタメ性はさほど高くないため、
デートスポットとしての強みはほとんどない。
その地に着物姿の小瀬通与と
ギャルルックの須堂礼多が降り立った。
「で……なんでここにしたの?」
「ふふ……今回はデートであると同時に
取材も兼ねているんですよ」
「取材?」
「私たちがあまり詳しくない薬草というジャンル!
たくさん刺激を得て創作の糧にしましょうよ!」
「ふぅん……本音は?」
「う”ッ!」
礼多の顔が赤くなって汗が垂れていく。
「び……媚薬に興味があって……」
「媚薬ぅ?!」
「薬草園なので、少なからず”そっち方面の”薬もあるかなって思って」
「なるほど……まぁそう言われると
あたしも興味ゼロかと言われればそうでもないかな」
「ですよね!?おうちで媚薬使いましょうよ!」
「倦怠期の夫婦かよ!」
「若干倦怠期ですよ!!」
ぎゃーぎゃーかまびすしく言い合いしながら二人は薬草園に入った。
入場料を払った二人はそこで看板を見つけた。
「研究員ガイド?」
「へぇ、薬草学初心者から上級者まで
当園のプロフェッショナルがご案内いたします、ですって」
「これ申し込んだ方がいいんじゃないか?」
「そうですね
先達はあらまほしきことなりです」
二人はその場で申し込みをした。
自分たち以外申込みはゼロらしい、もったいない。
……5分後……
小走りで白衣を来た人物が二人のところに駆け寄ってきた。
「お二人でご予約の小瀬さまでよろしいですか?」
「はい、そうです」
「研究員の八代と申します
よろしくお願いしますね」
「「よろしくお願いします」」
八代は、黒いTシャツに濃い青のジーンズを着て
その上に白衣を羽織っていた。
汚れやすい園での仕事のためか、格好はラフだが
髪はしっかり手入れがされており、
化粧もいやらしくない程度に整えられ、
社会人としての風格を感じさせた。
身長は通与とほぼ同じであるものの、
メリハリの取れた身体の曲線美をしており、
いわゆる「トランジスタグラマー」な体型であった。
胸のサイズは礼多と同じくらいある。
通与の目線がおっぱいに向かっていたので
礼多は通与の尻をつねった
(痛い!)
「当園に来る若い方って正直かなり少ないんですよ
嬉しいです!お二人はどうしてここに?」
「二人とも創作をしてて……その参考になればなぁって思ってきました」
「素敵!じゃあ話のタネになる面白い薬草の話を色々しないと!
……ちなみに、媚薬とかも興味ありますか?」
「「!」」
二人がギクッとした顔をしたのを八代は見逃さずニヤリとした。
「ふふ、もちろん案内しますよ
自分で言うのもなんですが、私は会社ではかなり香料に詳しいんです
リラクゼーションアロマからえっちなお香まで
幅広く解説できますよ」
「会社?って八代さんはここの研究者ではないんですか?」
「兼任ですね、週1でこちらに来ています
普段は佐倉製薬にいます」
「佐倉製薬……って双星市の?」
「はい、よくご存知ですね」
佐倉製薬
双星市に本拠地を置く日本有数の製薬会社
成り立ちの関係上、社員の9割超がふたなり
得意分野は性生活に関連する洗浄系製品
それに付随した家庭のクリーニング洗剤
「汚れをゴッソリ取りたいなら佐倉」と言われるほどで
掃除やAV業界でのシェアがむちゃくちゃ高い
「それならお察しかと思いますが、
私はふたなりです
双星市外では必ず伺うことにしているのですが
そこは問題ないでしょうか?」
「「大丈夫です」」
このやり取りは双星社の高槻菫ともやっている。
「なら良かった、それでは御案内しますね」
手招きする八代の左手には指輪がはめられていた。
…………
香料の歴史から始まり、
リラックス効果のある香りや、
安眠効果のある食物、
脳の活性化に効果があるお香など、
多岐にわたる八代の解説に魅了され
通与と礼多は非常に濃密な時間を過ごした。
そして三人は問題のエリアに足を踏み込むことになる。
「ここからが、いわゆる『媚薬』のエリアになります」
「「ゴク……」」
「ああ、言っておきますが
香りを嗅ぐだけでえっちな気分になるみたいなものはないので
そこは安心してください
香りは人類の叡智でエッセンスが濃縮されて
初めて有効な効果が発揮されるものなので」
「実際、そんな漫画みたいなやつあるんですか?」
「その手のお店なら業務用のすごい強力な奴はありますよ
でも刺激が強すぎて薦められませんね
依存性もあるので、そういうものは大人になってから
使うようにしてください」
「あれ?なんでカカオがあるんですか?」
「かつてチョコレートが媚薬と考えられていた名残で展示されています
実際のチョコレートには科学的根拠があるほどの媚薬効果はありません
まぁバレンタインデーに送るチョコには
そういう魔法がかかっているかもしれませんね」
「あ、詩人ですね」
「うふふ」
八代の解説を聞きつつ、二人はぼんやりと
(2月までまだ結構あるなぁ)と考えていたりした。
そんなこんなでガイドは終了した。
悪いことには使えなさそうだけど
刺激的なほど沢山の知見を得た二人は
それは満足気な顔をしていた。
「「どうもありがとうございました!!」」
「いえいえ
私も久しぶりに沢山話せて楽しかったです
そこに売店もあるので
興味が湧いたアロマなどを買われるのもいいと思いますよ」
「商売上手ー」
「そしてこれは私からのお土産です」
八代は白衣のポケットから小さな箱を二人に渡した。
「これ、入門版のえっちなお香です」
「「?!」」
「私の試作品なの
効果はそこそこな代わりに依存性なし
入門用には最適だと思うからあげますね
あ、でもモニター用だから
ここに感想送ってくださいね」
八代は名刺も渡した。
「佐倉製薬香料開発部主担当
八代燈」と書かれてある。
「大丈夫
効果は私のパートナーとで実証済みですから」
「Oh、生生しい」
「あはは、じゃ、感想待ってますね」
燈は二人を笑顔で送り出した。
その後売店でアロマを買ったり、
小腹が空いたので軽食を取ったりしたが、
二人の気はそぞろだった。
すべては通与のバッグに入っている
手土産のお香が原因だ。
……帰路の電車……
「礼多……帰りうち寄るか?」
「え……それって……」
「うん、さっきの、使おう」
「うわぁ」
「これも含めて取材だろ?嫌か?」
「私は全然!それよりツーさんの方が」
「転機かなって思ってさ
いいきっかけじゃないか?」
「媚薬が?」
「媚薬言うな」
「あはっ」
通与の家に着いた二人は
早速セッティングに入った。
通与はラフなルームウェアに着替えて
蚊取り線香に使っていた皿とライターを準備した。
お香に火をつけて机に置く
二人はベッドの縁に腰掛けた。
「あ、いい香りですね」
「うん、思ってたより普通な感じだな」
「私達の場合、既に話を聞いているので
プラセボの可能性も否定できませんね」
「んん……そうかも……うぉ!」
「ツーさん?」
「ちょっとクラっとしたかも」
「え、もう効果出てるんですか?」
「そうかもしれんな」
「ツーさん?」
「なんだよ礼多」
「なんで私の腰に手回してるんですか?」
「そりゃちょっとムラっとしたからだよ」
通与の手が礼多に腰に回り、礼多のくびれをいじっていた。
「え、ツーさんすごい積極的」
「んーこれじゃ足りないな」
「あッ!」
通与のもう片方の手が礼多の胸を下から抱え上げた。
「こんなデカいおっぱいしちゃってさ
あたしがビックリしたらどうすんだよ?」
「?……よくわからないです」
「悪い子だな礼多は」
「あッ!」
通与が礼多の白い首筋に甘咬みした。
通与の舌が礼多の首筋を一舐めする。
「お前の首はあたしだけのもんだ」
「ああああ!ツーさん大胆!」
実のところ、お香の効果は
通与にはめちゃくちゃ効いていたが、
礼多には全く効果が出てなかった。
礼多は少し身体が熱いかも?という気はするが、
お香にアテられた通与の強気な態度に興奮して
一人湧いているという認識が正しい。
「わ、私もちょっと効いてきたカモー」
全然効いてないが、礼多は胸元のボタンを3つくらい外した。
結構気合を入れていた黄色のブラがチラ見えする。
つかチラ見せしている。
それを見た通与は、シャツの中に手を滑り込ませると
礼多もろともベッドに倒れ込んだ。
「う~!」
獣のような通与の手は、礼多の胸を強めに揉みしだいた。
「あッ!ツーさんもうちょっと優しく!」
通与の眼がギラッと礼多の眼を射抜いた。
(ああ、ツーさんとこういう形で初めてヤッちゃうんだ……
でもいいかもしれない……)
ガバッと通与が礼多に覆いかぶさる。
「ああ~ッ!」
…………
……
すー
「あ?」
……
ぐぉ
「え?……ツーさんもしかして」
抱え上げた礼多は横に通与を横たわらせた。
先程までのギラギラした通与はどこへやら、
健やかに寝息を立てていた。
「……はぁ」
通与にふとんをかけ、
礼多は一人盛り上がった自分を慰めると、
タブレットPCを立ち上げ、
醒めた頭で物凄い勢いでテキストを打っていった。
続く!
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次回予告!
「お香事件」の結果
礼多が目覚めたジャンルは「スパダリ百合」?
そして通与は丁夏と文匁から
テコ入れ大改造を受けることに
次回11万字『爽田、指南する』
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用語まとめ
・八代 燈
佐倉製薬香料開発部主担当。
小石川薬草園研究員兼務。
ふたなり。
リラクゼーションアロマから媚薬まであらゆる香りを扱う
香料開発のスペシャリスト。
小石川薬草園には研究員として籍を置いており、
研究者および解説員として仕事をしている。
背は低いが出ているところは出ている
トランジスタグラマー体型。
既婚者。
旧姓:芦屋
・小瀬 通与
私立文王女子学園高等部2年。
美術専科。
特に水墨画に秀でる。
女性。
微エロ絵描き「オズ(OZ)」の裏アカウントを持つ。
背は低い。
着物女子。
礼多と共同創作者以上恋人未満の関係。
媚薬がめちゃくちゃ効く体質。
・須堂 礼多
私立文王女子学園高等部1年。
詩歌専科。
特に俳句に秀でる。
女性。
微エロ小説書き「レターパックマン」の裏アカウントを持つ。
背は高い。
おっぱいが大きい。
ギャル(2010年代基準)。
通与と共同創作者以上恋人未満の関係。
媚薬が全然効かない体質。
・高槻 菫
双星社編集。
ふたなり。
通与と礼多にコンタクトを取った人物。
・小石川薬草園
都内某所にある日本最大規模の薬草園。
元ネタはもちろん同名の都内の植物園。
・佐倉製薬
双星市に本拠地を置く製薬会社。
性生活ケア用品と掃除用品が強み。
八代(芦屋)燈は拙作の別シリーズに出ていた子で
実に5年ぶりの登場になります。
高槻菫同様、スターシステムでの成長後の姿になります。
お楽しみください。
登場回(R-18)→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7942387