1万字 『小瀬、バレる』
「ツーさん!お願いします!」
「ヤダ!」
メイド喫茶「川瀬(と書いてリバーサイドと読む)」の隅の席で、
背が高めのギャルと背が低めの着物女子が問答をしていた。
「レタはわかっとらん」
「えー、読者さんは見たがるはずです!」
着物女子は「ツーさん」、ギャルは「レタ」と呼ばれていた。
「乳○!出してくださいよ!」
「ダメだ!隠した方が絶対エロい!」
そのやり取りを、店長の川瀬と、店員のアヤが見ていた。
「元気ねぇあの2人、アヤが知ってる人?」
「……残念ながら、顔も名前も知っています」
───その2日前───
都内の文王市には一風変わった高校がある。
私立文王女子学園は「芸に秀でた学生を育てる」ことに重点を置いた学校だ。
美術やスポーツのみならず、詩歌や考古学などの分野も取り扱う。
ここにいる学生はなんらかの「芸」に秀でた者たちだ。
美術室(人数が多いので複数ある)で絵を描いている生徒がいた。
かなり長めの黒髪をラフに髪留めで束ねていた。
名は小瀬 通与、
高等部2年。専門は美術、特に水墨画に秀でる。
その扉を静かに開ける生徒がいた。
「しつれいしまーす」
「どなた?」
「あ、すみません、1年の」
「ちょっと待った!
見覚えがあるから当てさせて!
……あ、須堂さんだ、ギャル俳句の」
「そうです
……いや、別にギャル俳句詠んでるわけじゃないんですけど」
「この前の校誌に載ってた
『タピオカの 笹の流れの 小川かな』ってやつ、
あれすごい好き、感性とかリズムとかさ」
「それは……ありがとうございます」
須堂の耳が赤くなった。
須堂 礼多、
高等部1年。専門は詩歌、特に俳句に秀でる。
「タピオカの季語の季節、まだ決まってないんですよね、あれ川柳かも」
肩まで伸びる髪色はクリーム寄りの金髪なものの、
色白の肌に校則に則った崩しすぎないファッションは
2010年代以降のギャルと形容するのが適切だ。
(作者はどうしてもギャルというとガングロが出てくる)
「で、あたしに何の用」
「ああ、ちょっと確認したいことがありまして」
礼多は携帯端末を取り出した。
画面にはある絵描きのSNSアカウントが
タピオカドリンクを持っている手の写真がある。
背景はボケており場所はわからない。
アカウント名は「オズ(OZ)」。
「このアカウント、小瀬さんですよね?」
……
…………
「ナンノコトダカ」
「めっちゃ溜めた上に、しらばっくれるのドヘタクソですね」
「いや、こんなありきたりな写真、あたしだってわかる要素ないじゃん!」
「では私の推理を披露してもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「座りますね」
礼多は床にベチャ座りした。
スカートが短いのでパンツが見えそう。
「このタピオカ、チェーン店の八娘ですけど、
さくら味は地域の開花時期に合わせて販売するので
この日付だと販売は都内に絞られるんです」
「マジ?」
「やっぱり認めます?」
「いえ、続けて」
「次、オーダーのイラスト、可愛いですが、かなり癖が強いですよね、2人といないと思います。
そして私はこのイラストを文王店で見たことがあるんです」
「ふむ」
「まだやりますか?」
「え?まだあるの?」
「はい」
「なら続けて」
「そしてこの袖口の藤色の着物、私服で着物を着ている小瀬さんで間違いないです」
「それであたしが首を縦に振らなかったら?」
礼多は端末を素早く操作した。
そこにはタピオカを片手に自撮りしている礼多の奥で、
タピオカの写真を撮っている通与の姿があった。
「タピオカを撮っている小瀬さんがたまたま私の自撮りに写ってました」
「……いやこれ出せば一発じゃん!
なんで良い感じの推理タイムやったん?!
地固めか?!
金◯一少年やりたかったんか?」
「認めます?」
「はいそうですオズはあたしです」
通与は折れた。
……
「なんで粘ったんですか?」
「だってこのアカウントさぁ……あたしの裏アカだっての!」
OZは通与の裏アカウントである。
便宜上「裏」と言っているが、表アカウントは持っていない。
オズは「微エロ絵描き」である。
要は「局部は見せないものの、かなり際どい表現を駆使し、
駅前広告に出したら確実に怒られるやつ系絵描き」であった。
「で?」
「はい?」
「あたしのアカを暴きに来たってことは……なんかゆすりにきたんだろ?
こう……ヌードモデルやれ!ゲヘヘ……みたいな」
「小瀬さん、漫画の読みすぎでは?」
「……え?ゆすらないの?」
「しませんよ!ただちょっとお願いを聞いていただきたくて……」
「ほら!ゆするじゃーん!」
「受けるか受けないかは小瀬さんが決めていいですから!」
「ふーん……じゃあ話を聞こうじゃないの」
「あの……私の小説の表紙と挿絵描いてください!」
「え!?」
……
礼多の端末に表示されているのは
創作サイトに投稿されている小説だ。
「この『レターパックマン』ってアカウントが
須堂さん、あなただっていうの?」
「そうです、ほらこの画面
本人じゃないと出せない画面でしょ?」
「そうやね」
レターパックマンは「微エロ小説書き」である。
要は「本番は書かないが、際どい描写を駆使し、
挿絵とかあったらかなりヤバいことになりそう系字書き」だった。
「これが私の裏アカです!」
「相当過激だな、これ触手でネッチョネチョじゃん!」
「楽しいので」
「いやわかるよその気持ち」
通与が読んでいるのは召喚をミスした女召喚士が
触手でネチョネチョにされたあとに
それを助けた女剣士とねんごろになる小説だ。
「ヘテロ書かないの?」
「いいじゃないですか、女と女」
「いやわかるよその気持ち」
……
「これ、面白い!」
「ありがとうございます!」
「で、これの挿絵が欲しいの?」
「いや、まだ投稿してないやつがあって
それが自信作で絵が欲しいんですよ、私ヘタクソなので」
「ならちょっとここで描いてみ」
丸と棒だった。
「あの……これはこれでかわいいけど……
別で絵教えるわよ……」
「じゃあ描いてくれるんですか?!」
「あー、なんか面白くなってきたから乗るだけよ
でも今日はもう遅いから今度の土曜ね
あとこれバレるとあたしもあんたもマズいでしょ
どっか町外れの場所で会うわよ」
「あ!じゃあ川瀬(と書いてリバーサイドと読む)にしましょう!
ほぼ隣市ですし、長居もしやすいです」
「じゃあ10時ね、はいこれ連絡先」
「わぁ!じゃあこれ、私のです!」
そうやって別れた後、
通与は一人暮らしのアパートの風呂で自問していた。
「あれ?なんか結構ヤバいことになってね?」
───その2日後───
メイド喫茶「川瀬(と書いてリバーサイドと読む)」の前にて
着物姿の通与と
ギャル姿の礼多が
店内へと入る。
続く!
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次回予告
礼多の小説からイラストラフを作った通与、
しかし礼多には譲れないところがあり……
次回 2万字「須堂、ゴネる」
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用語まとめ
・小瀬 通与
私立文王女子学園高等部2年。
美術専科。
特に水墨画に秀でる。
微エロ絵描き「オズ(OZ)」の裏アカウントを持つ。
背は低い。
着物女子。
・須堂 礼多
私立文王女子学園高等部1年。
詩歌専科。
特に俳句に秀でる。
微エロ小説書き「レターパックマン」の裏アカウントを持つ。
背は高い。
ギャル(2010年代基準)。
・川瀬(と書いてリバーサイドと読む)
メイド喫茶。
文王市のほぼ市境にある。
・川瀬
リバーサイドの店長。
・アヤ
リバーサイドの店員。
・八娘
日本生まれのデザートドリンクチェーン店。
主力は紅茶、タピオカミルクなど。
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