第二話 蜘蛛のマークはジャーク教団
「あの洞窟がゴブリンの巣だな?」
草をかき分けて脇道を抜けると岩に穴の開いた洞窟を
発見したハルヒコ。
「もしかしたら、あれができるかもしれない」
前世の知識からレントゲンやサーモグラフ的な事が今の自分
ならできるのではと思い草陰に身を隠しつつ集中して洞窟を見る。
すると、ハルヒコの目が赤く光り洞窟の中身が映し出された。
「見えた、洞窟の中はこういう構造か便利だな人は攫われていないな」
ハルヒコにはゲームのオートマッピングのように罠の場所や
敵の居場所が把握できた、敵の数も動いている者や眠っている者まで
すっぱ抜けるこの能力はありがたかった。
「誘拐はなし、なら遠慮せずに権能を使わせてもらうぜ」
洞窟を透視しながら精神を集中し、額に刻印を浮かばせるハルヒコ。
洞窟の中ではゴブリン達がバタバタと熱中症で倒れて行った。
「よし、これで行ける! 探索開始だ」
茂みを出て洞窟の中へと入って行くハルヒコ、太陽神の権能のおかげで
暗い洞窟も青空の下のように明るかった。
「どいつもこいつも倒れてるな、浄化して天に送ってやる」
ハルヒコの手の甲に、額と同じく金環日食の刻印が浮かび光を放つ。
刻印が輝く手を倒れたゴブリンの頭に当てると、緑色の小太りの小鬼
といった姿のゴブリンが破裂音を立てて爆ぜ金色に輝く光の粒となる。
そして光の粒が一気に収束し頭に白く光る輪が浮かぶ羽の生えた天使
の赤ん坊となって洞窟の天井をすり抜けて上昇し昇天していった。
「次は良い生を送れよ」
昇天した魂を見送ると次々と倒れたゴブリンを天使にして昇天させて
いくハルヒコ、洞窟の中にはゴブリン達の犠牲者の骨などもありそれらも
輝く拳を当てて次々と天へと送る。
人に近い物は天使の赤ん坊になり、動物は生前の姿で天へと昇って行った。
かくして、洞窟内をクリアにしてぼろ布を風呂敷代わりに犠牲者の遺品
をかき集めたハルヒコは洞窟を後にした。
下山し、下宿や冒険者学校のあるベーグルの街へと帰って来たハルヒコ。
「あ~、久しぶりの街だぜ♪」
街の空気を吸い体を伸ばすハルヒコ、街の広場はやけに人が多かった。
「ん? 祭りでもあったのかな?」
街が賑やか、と言うか賑やかすぎた。
人々がハルヒコを見るとざわつき出す、ハルヒコが何事かと訝しむと街の
住人達が晴天の勇者が帰って来たぞと叫び出した。
「え! な、何で皆その事知ってるんだ?」
驚くハルヒコ、よく見ると広場の噴水の上に巨大な水鏡が浮かびそこには
先ほどまでハルヒコが行なっていたミノタウロス退治やゴブリンの洞窟での様子が
映し出されていた。
広場付近では、住民達がジョッキ片手に酒飲んで宴会しながら水鏡を見ている。
「ぶっ! お、俺の事が配信されてる~っ!」
前世知識でライブ配信ってあったなとか思いつつ、変身ヒーローの身バレに
頭が痛くなるハルヒコ。
酔っ払った住民達が、変っ・身っ! 変っ・身っ! と変身コールを上げる。
どうしようかと突っ立っているハルヒコに、白い法衣を纏い金環日食の紋章
が描かれた帽子を被った司祭が近づいてくる。
「よくぞお帰り下さいました晴天の勇者様! 私共サンサン教は貴方様を支援
させていただきます、皆さん勇者様を宜しくお願いします♪」
司祭さんが声を上げると、酔っ払い達が勇者コールを上げる。
前世の記憶が戻るまでは気にも止めなかったが、この世界でも太陽神の信仰
がありサンサン教と言う大規模な宗派だと言う知識が入って来た。
「もうこうなりゃ自棄だ、変身っ!」
勇者コールに応える事にしたハルヒコは、サニーカイザーへと変身した。
魔法の水鏡でなく実際にハルヒコが変身した事で勇者降臨に住民達が叫ぶ。
この日、ベーグルの街はご当地ヒーロー誕生と言う新たな娯楽に盛り上がった。
そして翌日、街の南側にあるパン屋の二階でハルヒコは目を覚ます。
簡素な本棚と机とベッドとクローゼットと言う質素な部屋の戸が
マスターキー! と言う叫びで蹴破られハルヒコは目を覚ました。
「げげ! お、大家さん?」
目覚めたハルヒコのそばには筋骨たくましい老婆が金色に光り輝く
パンとサラダと牛乳が載ったトレイを抱えて立っていた。
「ハルヒコちゃん、朝飯だよ! 起きてるね?」
「えっと、何が起きたんでしょう?」
山に行く前まではハルヒコより小さかった老婆の大家の体格が
二倍ほど巨大化し筋肉の塊になっていた。
机にトレイを置いてから老婆が語る。
「何って、あんたが勇者になって帰って来た影響だよ! 御覧の通り
私の体は強化されるは店の竈の火は聖なる炎になってパンが全部神聖な物に
なっちまったのさ♪」
ポージングをしながら語る大家の老婆。
「……え~っと、ごめんなさい?」
良い事なのか悪い事なのかわからない状況で謝るハルヒコ。
「何言ってんだい、近所の連中まで元気になってるしパンにご加護が付いて
と良い事だらけさ勇者の仕事頑張りなよ♪ 食事が済んだら学校行って来な♪」
大家さんがポージングを決めて笑う。
こうして、変わり始めた日常の中ハルヒコは食事をし洗面難度の身支度を
整えて冒険者学校へと向かった。
下宿を出て、街の北外れにある煉瓦の壁で囲われた区画。
その中にある白く四角い二階建ての建物が冒険者学校だ。
久しぶりに登校したハルヒコは、さっそくトラブルに巻き込まれた。
「勇者~! 洗濯物乾かしてくれ~!」
「畑の野菜に栄養を与えてくれ~!」
「風呂の湯沸かしを~!」
広場での映像配信を見た生徒や教師からあれやこれやと、太陽神の権能を
用いての雑用の申し込みが舞い込んできたのだ。
「勘弁してくれ~~~!」
悲鳴を上げつつも、断り切れず頼まれ事をこなすハルヒコ。
「勇者や冒険者とは一体何なんだろうか?」
放課後、すべての用事をこなして教室の机に突っ伏すハルヒコ。
正直、今日はもう働きたくなかった。
だが、本当の厄介事はこれから始まるのである。
下宿に帰って休もうと校門を出たハルヒコの前に昨夜の白い法衣の司祭が
息を荒くして駆け寄ってきた。
「……ゆ、勇者様! 何とぞ、お力をお貸しください!」
司祭はハルヒコに頭を下げて頼む。
「わかった! わかったから、一息ついて司祭さん!」
司祭の肩に手を当てて大家の老婆を無意識の内に変貌させた事から
回復魔法みたいな事ができるのではと思い、春の陽だまりのような日光
を当てる感じで司祭へとエネルギーを送り込む。
だが、ハルヒコが司祭へエネルギーを注ぐと小太り中年だった司祭は
服が破け筋肉ムキムキのパンツ一丁の変態へと変わった。
「……フン! ハッ! ありがとうございます勇者様!」
それまでと打って変わってサイドチェストで元気に礼を言う司祭に
ハルヒコは頭を抱えた。
「な、なんで軽めにしたはずなのにこうなった!」
「いえ、勇者様は悪くありません! それより神殿へお急ぎ下さい!」
神官帽子にパンツ一丁のムキムキ司祭に肩車をされてハルヒコは街の中心部の
商店街にある白く四角い二階建ての建物へと案内される。
司祭に降ろされて初めて見るサンサン教の神殿を見回すハルヒコ。
「ここがサンサン教の神殿か、初めて来た」
屋根に金環日食のシンボルが飾られ、長椅子が四つと説教台と言うシンプルな
部屋だった。
「ですか、それはさておきご依頼したい件がございます」
司祭が話を切り出すので聞く事にするハルヒコ。
「最近、各地で怪しげな邪教の輩が悪さをしておりましてその者達の
退治をお願いしたいのです」
と依頼を語る司祭。
「邪悪な輩? 悪の組織って奴?」
と尋ねるハルヒコ。
「ええ、まさにそうですその者達は蜘蛛の紋章を掲げてジャーク教団と名乗り
人々に害をなしておりまして普通の冒険者や軍では太刀打ちできんのです」
司祭が答える。
「わかりました、どこに行けば良いんです早急に叩きに行きます!」
即決するハルヒコ、その言葉に司祭が笑顔になる。
「ありがとうございます、それでは地下の神具の間へお越しください!」
司祭が説教台をどかすとその下には地下通路の入り口が開いていた。
司祭について地下へと降りると広い空間があった。
「え~っと、神具と言うのはもしかして目の前の三輪戦車ですか?」
ハルヒコ達の目の前には現代日本でいうトライクに似た形状の三輪の
赤い古代戦車が鎮座していた。
「ええ、これぞ太陽神の神具カイザーホイールでございます!」
司祭が活き活きとした笑顔でスペックを語ろうとするのを制するハルヒコ。
ハルヒコの脳内に変身して乗れと情報が浮かぶ。
ハルヒコは即座にサニーカイザーに変身してカイザーホイールの座席に跨る。
それと同時に赤く燃える炎の馬が二頭出現し、カイザーホイールに繋がれる。
その一連の光景に司祭は涙を流していた。
「カイザーホイール、発進!」
サニーカイザーが叫ぶと目の前の壁が開いて通路が出来、炎の馬が駆け出した!
地下の通路から地上へと出たカイザーホイールは天へと舞い上がった!
行く手には火の手が上がり人々が逃げ惑う村があった。
「あそこか! とうっ!」
サニーカイザーはカイザーホイールから悪の脅威にさらされる村へと舞い降りる。
村人を追い回す蜘蛛の仮面の被った雑兵達は空から舞い降りた炎の化身に驚いた。
着地したサニーカイザーは即座に腕を振るい、雑兵達を焼き払って行く!
そんな彼に声をかける者がいた。
「貴様、一体何者だ! 冒険者か?」
声を掛けたのはいかにも悪そうな黒蜘蛛を頭の上に乗せたような兜を被った
中年男の黒い鎧の騎士だった。
「俺は太陽神の使い、晴天の勇者サニーカイザーだ!」
ファイティングポーズを取って構えるサニーカイザー。
「むむ! 貴様が忌まわしき太陽神の使徒か! 我らの侵略の邪魔はさせん!」
黒騎士が剣を振り雑兵達をけしかけるがサニーカイザーは胸の火の玉から炎を
噴き出して敵兵を焼き殺した。
「おのれサニーカイザー、こうなれば我らが改造モンスターが相手だ!
出でよ、コボルトのブル!」
黒騎士が指を鳴らすと地面に光り輝く魔法陣が出現しその中から蜘蛛の紋章が刻まれた
ベルトを蒔いたブルフドッグ頭の筋骨隆々の巨漢が現れる。
「行け~! コボルトのブルよ、サニーカイザーを殺せ!」
黒騎士の命令にコボルトが吠える、その雄叫びは村の建物を崩壊させた。
「いかん、村に被害が出る! ならばリングインだ!」
サニーカイザーが叫ぶと額の刻印が輝き光の環を空中に生み出してコボルト
とサニーカイザーを戦いの場へと吸い込んだ。
何時とも何処ともわからない空間で退治するコボルトのブルとサニーカイザー
ここなら被害が出ないと踏んだサニーカイザーにブルが爪に風を纏わせて殴り
掛かる!
爪を避けるも風が鎧の炎をかき消してダメージを与える。
「ぐわっ!」
傷はすぐに癒え鎧の炎が燃え上がるも、受けたダメージから敵を警戒する
サニーカイザー。
「くそ! 脅えるな俺!」
自分を奮い立たせるサニーカイザーに口から竜巻を吐いて攻撃するブル。
迫る竜巻に対し、サニーカイザーは胸の火の玉を燃やし巨大な火球を
作り出し投げつけた!
ぶつかり合う炎と風は相殺された、自分の炎が敵に効くと知りサニーカイザーは
闘志を燃やす!
「風と太陽が争う話があったが、俺の炎は風に負けない!」
全身を燃え上がらせてブルに挑むサニーカイザー。
互いに拳の打ち合いから、手四つに組み合い力比べ。
サニーカイザーが額の金環日食の刻印を輝かせブルの鼻っ柱に
頭突きを打ち込むっ!
ギャウン! と吠えて力が抜けたブルを頭上へと担ぎ上げるサニーカイザー。
「止めだ! ファイヤーフォールッ!」
バックブリーカーを掛けながらブルを燃やし投げ落とすサニーカイザー。
ブルは木っ端みじんに爆散した!
ブルの巻いていたベルトを拾うと、通常空間にサニーカイザーは帰還した。
「ジャーク教団、貴様らの怪物は倒したぞ!」
黒騎士へベルトを投げつけるサニーカイザー、黒騎士は想定外の事態に固まるも
すぐに正気を取り戻した。
「おのれサニーカイザー! 覚えておれ!」
捨て台詞を吐くと黒騎士は瞬く間に姿を消した。
「くそ、逃げられたか! まさか、異世界転生して悪の組織と戦う事になる
とは思わなかったがやってやるぜ!」
戦いが終わっても闘志を燃やすサニーカイザー、こうして彼とジャーク教団の
闘いが幕を開けたのだ!