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第一話 晴天の勇者誕生

 「やっと会えましたねハルヒコ、私が選んだ晴天の勇者♪」

 「は~~~~っ! 俺が、晴天の勇者(せいてんのゆうしゃ)っ?」

 古代遺跡の石造りの神殿の中、短い黒髪を真ん中分けに下ろした武道着姿の

少年は我が身に起こった事態に混乱して立ち呆けていた。

 少年の目の前で神殿の天井に金の光の輪が浮かび、輪の中の虚空から

赤い衣を着て金の宝冠を被ったオレンジの髪の美女が舞い降りて彼に

語り掛けてきたのだ。

 「ハルヒコ? 私の事を忘れてしまったのですか? 思い出してくださいっ!」

 美女は少年、ハルヒコ・ファインウェザーに近づき彼の頭の後ろに

手を伸ばしたかと思うと一気に彼の唇を奪った!

 

 突然の事態に声も上げられずハルヒコは頭痛に襲われると同時に思い出した。

 目の前の女性の事と自分の前世の記憶を。

 

 「おらっ! さっさと、金を出せ!」

 「きゃ~~~っ!」

 コンビ二のレジの前で、サングラスに白マスクの男が女性店員に向けて

軍用ナイフを突き付けている光景に出くわした高校生はそうそういない。

 「天地と人の闇を照らして砕く、太陽キーーーック!」

 大好きな変身ヒーロー、太陽(たいよう)ファイター(テラス)の技名を叫びながら

特撮オタクでヒーロー願望のある高校生天晴晴彦(あまはる・はるひこ)は即座に正義と悪との

識別を完了した。

 迷うことなく悪を討つべく、コンビニ強盗へと駆け出して跳ぶ!

 そして、敵の顔面にドロップキックを叩き込みコンビニ強盗を弁当の棚へ

と弾き飛ばした。

 

 ……までは良かったのだ、強盗を弁当棚に叩きつけて倒したと同時に相手の

ナイフが宙を舞い晴彦の心臓に刺さらなければっ!

 心臓にナイフが刺さり、更にドロップキックからの落下の衝撃が加わり晴彦は死んだ。


 気が付くと晴彦は雲の上にいた。

 「え! ここは一体どこだっ! 強盗はっ?」

 起き上がり周囲を見回すと、太陽が輝く天気の良い青空が広がっていた。

 「……なんて美しい太陽なんだ、心まで暖かくなる」

 晴彦が太陽を見上げると、太陽が光を彼に当てる。

 その光の上を歩いて晴彦の下へと近づく者がいた。

 晴彦は見た、輝く太陽を模した飾りの付いた宝冠を被り豊満な胸と引き締まった

体の上に赤いポンチョと緑の短いスカートを纏ったオレンジの髪の美女の姿を。

 

 美女は晴彦を見て涙を流しながら駆け寄り彼を抱きしめた。

 「ハルヒコのお馬鹿っ! 何であなたは前世の頃から私を泣かせるんですか!」

 美女は泣きながら晴彦を叱る。

 「……俺の前世っ? ここは何処で、あなたは一体誰なんですかっ?」

 コンビニで死んだかと思ったらわけのわからない世界に連れて来られてと

謎の美女に叱られてと、晴彦は状況について行けなかった。

 「あなたが見ていた太陽ファイター照は、前世の貴方の物語です!」

 だが、晴彦の問いに美女は答えず問いよりも衝撃的な事実を語る。

 「え? 嘘だろ! 俺が太陽ファイター?」

 晴彦は美女の言葉が信じられなかった。

 「あなたの勲を知る者が転生して番組を作ったのでしょう、それをあなたが見て

憧れて真似をしてまた命を落とすなんてハルヒコのお馬鹿っ! 正義馬鹿っ!」

 美女が泣きながら更に晴彦を強く抱きしめる。

 「痛っ! は、離してくれ!」

 思い出せない前世の事を言われても晴彦は何も思えなかった。

 

 謎の美女から抜け出そうともがくが、美女は晴彦を離そうとしなかった。

 「離しません! 前世の時も愛を誓った私との約束を破って死んだ罰です!」

 「そ、そんな事言われても俺は俺の心に従っただけだ!」

 「友や家族や愛する人と、あなたの周りの人の事も考えなさいっ!」

 晴彦を叱る美女、前世だ何だ言われても何も感じられなかった。

 「愛する人っ? 出会った事のない相手の事なんかわからないよ!」

 「私です! この太陽の女神ソレイユは貴方を前世の頃から愛しています!」

 謎の美女ソレイユの言葉に晴彦は止まった、生きていた頃の誰よりも強い想いを

自分へとぶつけて来たのは彼女が初めてだった。

 「……いや、そういう事言われたの初めてで俺はどうすれば」

 戸惑う晴彦、できれば生きている内に言われたかったなと思う。

 「何で、鈍感な所だけは前世から変わらないんですか!」

 ソレイユが涙を流す、その涙は今度は燃えていた。

 

 女神の燃える涙が晴彦の額に当たり金環日食のような刻印を刻む。

 それと同時に晴彦の魂は燃え上がり神の世界から転生した。

 

 「思い出した、あんたの涙で殺されてこの世界へと生まれ落ちたんだ!」

 女神のキスが終わり、前世の記憶を思い出したハルヒコ。

 彼の額には女神が付けた金環日食の刻印が浮かんでいた。

 「思い出してくれたのですねハルヒコ♪」

 ソレイユが微笑む。

 「こ、殺される~~~っ!」

 前世の記憶を思い出し、殺される事を恐れてソレイユから逃げ出そうと

背を向けて走り去ろうとするハルヒコ。

 だが、女神からは逃げられなかった。

 

 「あの時は私の力でうっかり転生させてしまいましたが逃がしません♪」

 ソレイユの指から放たれた金の光がハルヒコを縛り引き寄せ石の祭壇へと

彼を寝かしつける。

 「や、止めてくれ! 俺はもう無茶な事はしないから!」

 生贄の如く祭壇に拘束されてもがくハルヒコ。

 「信用できません、あなたには前世の前世の時以上に私の力と加護を与え

神の伴侶たる晴天の勇者として私の庇護下に置きますっ!」

 晴彦の言い分を却下したソレイユ、手から火の玉を出すと火の玉が

太陽を模したバックル付きの幾何学模様が描かれた金属のベルトに変わる。

 「な、何だよそのベルト!」

 女神が出したベルトにおびえるハルヒコ。

 「これは私とあなたの結婚指輪で、あなたを守る鎧です♪」

 ソレイユが、ベルトをハルヒコの臍の下へかざすとベルトがハルヒコの

体内へと吸い込まれた。

 「さらに、私の太陽神の権能をあなたに贈ります!」

 ソレイユが胸の前で両掌を合わせて開くとオレンジ色の火の玉が生まれる。

 そして、その火の玉をハルヒコの胸へと押し込んだっ!

 「ぎゃ~~~っ!」

 胸に熱い火の玉を押し込まれたハルヒコ、額に金環日食の刻印が浮かび

胸には火の玉が灯り腰にはベルトが浮き上がるとハルヒコの全身を

赤き炎が包み鎧へと変わる。


 ハルヒコは炎を模した赤い外骨格を纏った騎士、と言うか太陽を

擬人化したヒーロースーツを纏った変身ヒーローの姿に変身していた。

 「……俺、変身してるっ!」

 意識を取り戻し変身した自分を見て驚くハルヒコ。

 

 起き上がると体の中に熱さを感じ、全身に力が湧いてくるのを感じる。

 そして、前世の前世でソレイユから力を授かり悪と戦う旅の中で

彼女に愛を誓うも魔王との戦いで全力を使い過ぎて相打ちで死んだ事を

思い出す。

 「そうか、俺は無茶をし過ぎたのか」

 変身を解いて元の姿に戻りソレイユを見る。

 「ええ、もう一人では無茶はさせません私も一緒に戦います♪」

 ハルヒコを抱きしめるソレイユ、今度は春陽の如く優しい笑顔だ。

 「それはありがたいんだけれど、神様の仕事は?」

 記憶を思い出したのでソレイユへの態度を改め心配するハルヒコ。

 「大丈夫です、私の分体をこの世界に派遣します楽しみにしていて下さい♪」

 ハルヒコを安心させるソレイユ。

 

 「ああ、今度こそは悪と戦いつつ天寿を全うして神の世界へ上がって行くよ」

 これまでは彼女との約束を破って来たが、根性では守ろうと誓うハルヒコ。

 「天から常にチェックしていますし介入しますからね♪」

 笑顔で首に紐を付けて強制的に守らせると伝えるソレイユ。

 「後、あなたの事は他の神やこの世界の全ての太陽神を崇める司祭や神使いに信徒達に

伝えましたから勇者としての活動に支障はほぼないはずです♪」

 さらりと個人情報流してると告げる女神。

 「え! それって、凄い面倒な事になるんじゃ?」

 この先の人生に不安しかないハルヒコ、それは後に的中する事になる。

 「そんな事より戦闘ですよハルヒコ、この遺跡に眠る敵が目覚めたようです♪」

 嬉しそうに語るソレイユ、眠る敵って? とハルヒコが思う中グラグラと床が揺れて

穴が開きハルヒコ達は地下へと落ちて行く。

 得た力でソレイユをお姫様抱っこし、足の裏から炎を噴射しつつゆっくりと着地する。

 「……へっ! 変身しないでも何か使えたっ!」

 普通なら大怪我しそうな状況で無傷でいる事に驚くハルヒコ。

 

 常人なら暗闇に絶望するはずだが、ハルヒコには周囲が明るく見えていた。

 それもそのはず、ソレイユに力を与えられた事で彼は人間から太陽神の半神

へと改造されたので照明器具いらずと言うか自分が照明器具状態だ。

 炎や光はもはやハルヒコの肉体や意思と同じだった。

 太陽の女神であるソレイユも同行しているのだから猶更だ。

 「ではハルヒコ、私は一度天へ帰ります頑張ってくださいね♪」

 ハルヒコから降りたソレイユは光の柱を出して天へと昇って行った。

 

 「さて、ひと段落したし実戦テストと行きますか」

 全身から炎と光のオーラを出しつつ地下を進むハルヒコ。

 彼の行く手にはブルルルと鼻息を荒くした牛頭の巨漢の怪物。

 ミノタウロスが目を赤く光らせて待ち構えていた。

 「この遺跡、ミノタウロスの棲家か! 変・身っ!」

 額に光の金環の刻印が浮かび、胸に火が灯り腰にベルトが浮き上がる!

 ハルヒコの全身が燃え上がり炎に包まれる!

 炎が鎧や兜と武具に姿を変えて行き、ハルヒコを真紅の超人へと変える!

 ミノタウロスは、ハルヒコから出る炎に恐怖を感じて動けないでいた。

 「晴天の勇者、サニーカイザー!」

 変身したハルヒコが名乗りを上げる。

 今ここに新たな英雄となる晴天の勇者、サニーカイザーが誕生した。

 

 変身を終えたサニーカイザーに向け、ミノタウロスが大地を殴り地を割り

襲い来る衝撃波を放った!

 大地を割り、飛礫(ひれき)をまき散らしながら迫る衝撃波を晴天の勇者

は跳躍して避ける!

 「危なかった! 力を貰っていなければ死んでいた技だな」

 蜘蛛のように天井に張り付くサニーカイザー、敵の技にビビるが己を震わせて

ミノタウロスへ向けて体を大の字にして全身からオレンジ色の炎を噴き出しながら

飛び降りた!

 「ファイヤーダイブッ!」

 プロレスで言うフライングボディプレス、ミノタウロスはサニーカイザーの

行動が理解できず彼を握り潰そうと腕を突き出す!

 そんなミノタウロスの腕を、サニーカイザーは苦にせず消し炭に変えて行き

ミノタウロスが苦悶の叫びを終える間もなくその本体に激突して焼き尽くした!

 サニーカイザーが着地すると同時に、ミノタウロスの形をした灰が崩れ落ちた。

 振り返り、灰だらけになった地面を見て変身を解きハルヒコに戻る。

 「……これが太陽神の力か、恐ろしいな」

 巨躯のモンスターを一撃で倒した力に、ハルヒコは勝利の喜びではなく恐ろしさを感じた。

 かくして、晴天の勇者サニーカイザーの初陣は勝利で終わった。

 「普通の冒険者なら一生酒の席の自慢話できるが、強化し過ぎだろあの女神様」

 前世のテレビで憧れた力を行使してみた結果に寒気を感じたハルヒコ。

 この力は徒に使わないよう、完全に制御できるように自分を律して鍛えよう

とハルヒコは誓い遺跡の地下から出るべく進んで行く。

 神の加護か戦いの後だというのに体に疲れも来ずと眠気も来ず腹も空かなかった。

 

 遺跡から出ると、夜が明けていた。

 「朝か、下宿に帰って寝よう人間らしい事ができるか確かめたい」

 力を得た事で自分に何ができて何ができないのかわからなくなったハルヒコ。

 駆け出そうと足に力を入れ足を前に出した時、彼は空を飛んでいた。

 慌てて地上へ戻ろうとすると、全身に炎を纏って流星となって地上へと落ちた。

 元にいた地面にクレーターを作り、ハルヒコは地上へと帰還した。

 「ヤバイ、本当に急いで力を制御しないと日常生活が送れない!」

 改めて神の力で自分の身に起きた変化に恐怖するハルヒコ。

 日常生活がまともに送れなければ、勇者として戦う所ではない。

 取り敢えずゆっくりと力を抜いて歩いて帰る事にした。


 山道を下りて行くハルヒコだが脇道の茂みからゴブ! ゴブ! と鳴き声

を上げてゴブリンが踊り出て来る。

 「ち、出たなゴブリン共っ!」

 戦いの構えを取るハルヒコ、ゴブリンはミノタウロスに比べれば雑魚戦闘員

だが一般人には脅威なので出くわした以上倒すしかないと判断する。

 「「ゴブ~~~~ッ!」」

 ゴブリン達が一斉に飛び掛かって来るのをハルヒコは避ける事もせず額に

金環の刻印を浮かばせ、そこから金色の光線を放ちゴブリン達を一気に消し去る!

 「おっかない力だが助かった、ゴブリン共を見かけた以上このまま帰るわけ

にもいかないな奴らの巣を滅ぼそう」

 ゴブリンの増殖力はゴキブリやネズミと変わらない上、オス同士でも増える

奴らを駆除するにはその巣を滅ぼすしかない。

 ハルヒコはこの世界に生きる人間として、ゴブリンの巣を滅ぼすべく

帰るのは後回しにして脇道をへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

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