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第1話

いつも通りのリアル志向なミリタリー作品となっております。

ゆえに、専門用語もバンバンでてきます。

新潟県南西部・日本海沿岸


 後に日本中を驚嘆させる事となる大事件の始まりは、本当に些細なものであった。なぜなら、住宅地の造成工事現場の地面に埋まっていた5m近くある大きな岩の周りの土砂を重機で取り除き、同じく重機に取り付けた削岩機で砕いたのが始まりだったからだ。


「なあ、急に涼しくなったと思わないか?」

「気のせいだろ。こっちは、さっきから暑くて死にそうだってのに……」


 災害級とも称される猛暑が当たり前となった今の日本では、9月に入っても真夏としか思えない暑さが連日のように続いている。だから、こういった屋外の直射日光に晒される工事現場ともなれば、対策をしていても熱中症で死人が出る可能性を否定できない過酷な環境だった。

 それだけに現場にいた作業員達の反応は鈍く、砕いた大岩から冷気が漏れ出すという本来ならあり得ない現象も見過ごされた。


「おい、お前ら! サボってないで、さっさと作業に――」


 数分後、作業員の姿が見えなくなった事に気付いたベテラン作業員は、てっきり彼らがサボっているものだと思い込んで注意しに向かったのだが、そこで衝撃的な光景を目にして言葉を失う。

 なにせ、鬼としか形容のしようがない異形の生物が地面に屈み、姿の見えなくなった2人の作業員の身体を引きちぎって骨ごと食らっていたのだから。


「う、うわああああっ!」


 いきなり視界に飛び込んできた凄惨な光景に恐怖した彼は、たまらず叫び声を上げて後ずさり、その場から急いで逃げ出そうとした。しかし、想像を超えた衝撃的な光景を目の当たりにした身体は思うように動かず、回れ右をして2~3歩も進まないうちに足をもつれさせて転んでしまう。

 そして、恐怖に染まった顔で慌てて後方を振り返り、鬼の様子を窺った。ところが、鬼は手に入れた獲物の方が大事なのか、まるで興味を示さずに食事を続けていた。それに僅かばかりの安堵を覚え、この隙に逃げようと前を向いた作業員の表情が凍りつく。


「ひっ……!」


 思わず息をのんだ彼の眼前には明らかに自分よりも大きな化物、いわゆる大蜘蛛が進路を塞ぐように立ちはだかり、赤くギラついた眼で見下ろしていた。次の瞬間、大蜘蛛は素早い動きで作業員に襲いかかると巨大な顎で頭を噛み砕き、そのまま頭から食べ始めてあっという間に平らげてしまう。

 こうして工事現場は化物どもの餌場と化したのだが、ここにいた人数程度で満足する筈もなく、新たな獲物を求めて移動を開始する。また、化物の数や種類も時間の経過と共に増加していき、それに伴って周辺の被害も徐々に拡大していくのだった。


   ◆


東京・総理大臣官邸


 新潟県での異常事態発生から丸1日が経過した現在、総理大臣官邸では国家安全保障会議の中の緊急事態大臣会合が続いていた。もっとも、あまりに非科学的な現象という所為もあり、どういった対応を取るのが政府として正しいのか結論すら出せずにいる。

 しかし、そうやって時間を浪費している間にも被害は拡大しており、主要メディアも軒並み今回の異常事態をトップで扱っていた。さらに、ネット上やSNSでは異常事態に関連した投稿が猛烈な勢いで増加し続け、政府の対応の遅れを非難する声も着実に増えていた。


「総理、ご決断を」


 さすがに、これ以上の時間を会議に費やしていると事態の悪化に歯止めが掛からなくなると判断した官房長官は議論が途切れたタイミングを見計らい、総理大臣の方を向いて決断を下すよう促した。当然、この場にいた全員の視線が一斉に総理大臣へと集中する。

 ただ、彼らの表情には総理が決断を下すのを期待するようなところが見てとれた。もちろん、そこには正解のない状況下で迂闊な事を言い、後々になって責任を追及されるのだけは避けたいという強い思いがあったからだ。

 一方、全員からの視線を一身に浴びる格好となった総理大臣は困惑した表情を浮かべていたが、やがて諦めたように大きく息を吐くと、行政のトップとしての決断を口にした。


「新潟県で発生した異常事態に対し、自衛隊への災害派遣を要請します」

「承りました」


 総理大臣からの要請を受け、国家安全保障会議のメンバーでもある防衛大臣が了承し、アドバイザーとして会議に参加していた統合幕僚長(現役自衛官のトップ)に目配せをしてからメモ書きを担当者に持たせ、各部署に指示を伝えに行かせる。

 それと似たような事は他の大臣達も行っており、国土交通大臣・外務大臣・国家公安委員長(警察組織のトップ)あたりは特に忙しそうに担当者とやり取りを交わしていた。

 ただ、その中でも国家公安委員長の憔悴ぶりが目立っており、そこには管轄権を根拠に警察力で対応すべきと半ば強引に主張して実行した結果、現場で対応に当たった機動隊を含む新潟県警の警察官に多数の死傷者を出した事が深く関係しているのは明らかだった。


 ちなみに、防衛出動ではなく災害派遣としたのには対象が既存の国家やそれに準ずる組織に当てはまらず、現段階での脅威が原則として殺傷等が禁じられている生物とは異なる蟲型という事で、有害害虫の駆除での派遣が法解釈の上でも妥当としたからだ。

 ただし、それでも政治的な理由から使用する火器には制限が設けられている。だが、国防を担う自衛隊が矢面に立って対処に当たるという事は決まり、いかにも役所らしい『特殊危険生物群対処事態』の名称で日本国政府主導による対応が始まった。


   ◆


新潟県南西部・上越市方面防衛線


 国家安全保障会議での決定を受け、既に新潟県知事からの要請で派遣に向けた準備を進めていた陸上自衛隊東部方面隊第12旅団第2普通科(歩兵)連隊と第1施設団(工兵)第5施設群は、直ちに作戦行動を開始する。

 まず、新潟県警のパトカーに先導される形で車列を組んだ部隊は上越市にある高田駐屯地を出発し、交通規制が敷かれた市内を移動して目的地へと急いだ。

 この時点で上越市全域に避難勧告、より異常事態の発生源に近い地域には避難指示が出されて市民の避難も始まっていた。しかし、完了には時間が掛かるため避難途中の市民とも各所で擦れ違い、彼らは不安そうな表情で自分達とは反対の方角へ向かう物々しい雰囲気の車列を眺めていた。


 その後、第2普通科連隊と第5施設群は目的地へと到着し、敵の侵攻に備えて急ピッチで防衛線の構築に取り掛かる。あの工事現場から出現した敵は現在も勢力を拡大し続けており、その先遣隊ともいえる蟲型の一団が国道8号線に沿って上越市に迫りつつあるからだ。

 しかし、前述したように当該地域の避難完了には暫くの時間が掛かる為、その時間を稼ぐ意味でも上越市への侵攻は阻止する必要があった。

 だが、迫りくる敵の個々の能力が未知数な上に多数の後詰が控えている状況下では無理は出来ず、実際の作戦運用に当たる陸上総隊は高田駐屯地の部隊が時間を稼いでる間に日本各地から部隊を集結させて戦力を整え、充分な戦力が揃ったところで海空自衛隊とも連携して反撃に出る事にした。


「目標を捕捉! 11時方向、距離は500m、数は50以上!」

「総員、射撃準備!」


 施設科が簡易的な防御陣地を構築して後方へと下がり、実際に戦闘を行う普通科の隊員達が配置に就いて5分と経たない頃だった。

 防衛線の一角、ちょうど国道8号線の道路上に展開する小隊の偵察員が数か月前より試験目的で導入していた市販品のドローンを使い、接近中の敵集団を捕捉した事を報せてくる。それを耳にした隊長が双眼鏡で直に確認し、指揮下の隊員達に命令を出した。


 まず、道路を挟み込むように左右に1両ずつ展開していた『軽装甲機動車』の上部ハッチ前方の銃架に据え付けられている『5.56mm機関銃MINIMI』を操作する隊員が動き、身体ごと銃口を敵集団へと向けた。

 続いて道路上に鉄筋コンクリート製の大型ブロックと人力でも移動可能な波消ブロックのような形状の障害物を組み合わせて構築した阻止線、いわゆるロードブロックの背後に控える複数の隊員達が『89式5.56mm小銃』を構え、その銃口を一斉に敵集団へと向ける。

 そして、彼らは銃本体に付いているセーフティ(安全装置)をフルオート(連射)に切り替え、緊張した面持ちで射撃許可が下りるのを待った。


 ただ、戦術的な観点からすれば初撃は『81mm迫撃砲L16』小隊が担うのだが、現段階では個人が携行するグレネード以外の爆発物や重火器は使用を制限されている為、現場に持って来てはいるものの射撃準備すらしていなかった。

 ゆえに、隊長は敵集団を確実に殲滅する為にも互いの距離が300mを切るまで辛抱強く待ち続け、充分に引きつけたところで射撃命令を出す。


「総員、射撃始め!」

「了解!」


 次の瞬間、配置に就いていた隊員達が一斉に射撃を開始した。こうして2個小銃分隊(14名)から一斉に発射された無数の5.56mm×45弾は敵集団へと次々に着弾し、昆虫などと同様の光沢と丸みのある外皮を易々と貫通してダメージを与えていく。

 反対に敵の方は射撃というものを理解できていないらしく、無防備に等しい状態で被弾した個体がギチギチと奇怪な鳴き声を上げ、前進を止めて小刻みな痙攣を繰り返しながら絶命する。それでも後続の敵は一向に怯まず、前方に散乱する蟲の死骸を乗り越えたり蹴散らしたりしつつ防衛線に向かってきた。

 当然、自衛隊側は自分達に近い個体から優先して攻撃していくので、斃された蟲に代わって前方へと進み出た個体も即座に死骸の仲間入りを果たす。だが、まるで恐怖というものを感じていない敵は死骸の山を築きながらも侵攻を止めない。


「くっ、マズいな……」


 両手で構える『89式5.56mm小銃』を短く連射してダンゴムシ型の敵を仕留めた隊員が思わず呟いた直後、その懸念が現実のものとなった。


「リロード!」


 同じく『89式5.56mm小銃』を連射していた別の隊員が叫び、右手人差し指で銃本体右側のリリースボタンを押して空になったマガジン(弾倉)を引き抜き、『防弾チョッキ(ボディアーマー)3型』の背面下部に取り付けたダンプポーチに放り込み、弾が入っている新しいマガジンの1本をボディアーマー左側面に取り付けた専用ポーチから取り出して銃へと装填した。

 そして、最終弾の発射後に後退して止まっていた銃本体左側にあるボルトキャッチを押し下げ、初弾をチャンバー内に装填して発射可能状態へと戻し、自分から見て最も近い距離にいると判断した敵に照準を合わせて射撃を再開する。


「リロード!」

「リロード!」


 すると今度は、ほぼ同時に2人の隊員からマガジン交換に取り掛かる事を報せる声が上がった。それを耳にした他の隊員達は即座に彼らが抜けた穴をカバーするように射撃を行い、部隊全体の火力低下を最小限に抑えるよう努める。

 こうして自衛隊は敵の侵攻を食い止めていたが、その数を半分以下に減らすのに想定よりも多くの弾薬を消費していた。つまり、先の隊員が懸念していた事とは、激しい射撃を加えているにも関わらず敵の数が思ったよりも減っていない点にあった。

 実は、『89式5.56mm小銃』などが使う小口径高速ライフル弾では貫通力が高すぎ、ダメージは与えられるものの急所を的確に捉えない限りは致命傷になりにくかったのだ。


 それでも敵が人間に近い身体構造をしていれば状況は変わったのだが、いま交戦している敵は体の構造も普段から目にする機会の多い虫に近く、感覚としては細いピンを何度も突き刺して殺そうとしているようなものだった。

 ただ、どちらの銃もフルオート射撃による発射弾数の多さで急所に命中する確率が高いのと、有効射程の長さで遠距離攻撃手段を持たない敵を大きく上回っていた事もあり、見た目的には一方的な殲滅戦の様相を呈していた。

 なにより、武器の使用に制限がある中で特性の分からない敵と交戦している事を考えれば、これ以上の成果を現場の隊員達に求めるのは酷というものだろう。


「レモン1、投擲!」


 そんな中、射撃を止めて銃から手を放した(銃本体はスリングによって支えられているので落下する事はない)隊員の1人がポーチに固定してあった破片手榴弾を取り外し、左人差し指を金属製のリングに引っ掛けると力を入れて安全ピンを引き抜き、もう1つの安全装置であるクリップも外して安全レバーを跳ね上げるようにして解放すると、右腕を大きく振りかぶって前方へと放り投げた。

 こうして隊員の手を離れた『M61破片手榴弾』は物理法則に従って放物線を描くように飛び、20mを切る程の距離にまで迫っていた敵集団の足元に落下する。

 そして、安全レバーの解放から約4秒後に信管が作動して内部の炸薬が起爆し、その衝撃で砕けた外殻を含む無数の破片が周囲に飛び散って対象へと突き刺さった。


 この時、飛び散った破片は高速ライフル弾ほどの貫通力は持っていない為、外皮を突き破って体内を少し進んだところで運動エネルギーを失って停止した。しかも、破片は抵抗の大きい不規則な形状をしているので体内を真っ直ぐには進まず、より多くの体組織を傷付けて致命傷を与える。

 結果、神経節を至るところで寸断された蟲型の敵は生命機能と運動機能の両方をほぼ同時に喪失し、複数が瞬時に絶命して動かなくなった。さらに、破片手榴弾は本体を中心とした半径数mの全周が加害範囲になるので、現状のように敵が密集しているほど効果的だった。


「レモン1、投擲!」


 そうしている間にも別の隊員が投擲した『M61破片手榴弾』が地面に近い高さで爆発すると、2匹の大蜘蛛とカナブンのような外見をした敵1匹は無数の破片が突き刺さって即死し、他にも複数の敵が死んではいないものの前進を止めて痙攣していた。

 この状況下では死んでいなくても前進を止めた敵への攻撃は後回しにされるので、何匹かは僅かな時間だけ生き永らえたが、より脅威度の高い敵の排除を完了した隊員達が5.56mm×45弾による容赦のない射撃を浴びせて瀕死の敵にも止めを刺す。


「射撃停止! 射撃停止!」


 やがて隊長の声が辺りに響き渡り、ひっきりなしに続いていた銃撃音や散発的な爆発音が途絶えて急に静かになった。だが、万が一の事態に備えて警戒態勢は解いていなかった。


「施設科を呼んでくれ。死骸を片付けるぞ」

「分かりました」


 そう言って隊長が傍らの通信士に指示を出すと、通信士は無線で後方に待機していた施設科と連絡を取って隊長からの指示を伝えた。すると、施設科の隊員達が土木用重機と共に現場へと駆け付け、一時的に開放されたロードブロックを通過して死骸の散らばる一帯に進入する。

 そして、普通科の隊員達が護衛する中で重機を使って死骸を一カ所に集め、ドラム缶に入れて持ち込んだディーゼル燃料を掛けて燃やした。ただし、全ての死骸を焼却処分する余裕は無いので、片付けたのはロードブロックが設置された場所から50m程の範囲にある死骸だけだった。


 また、専用の装備や人員がないのを理由に敵の正体を探る為のサンプル回収なども行われず、彼らは任務を果たすと早々に引き揚げ、弾薬の補給を受けると防衛線を維持する事に集中する。

 その後、ここで起きた出来事についての簡単な報告書が作成されてラップトップPCを通じて上級司令部へと送信されたのだが、そこには武器使用基準の緩和を求める一文が添えられていた。


   ◆


新潟県南西部・糸魚川市方面


 当然の事ながら敵の侵攻は上越市方面だけに止まらず、反対の糸魚川市方面にも及んでいた。だが、こちらの方が状況は深刻だった。なぜなら、普通科連隊を有する近場の駐屯地が金沢(石川県)と松本(長野県)にしかなく、陸路で迅速に部隊を派遣するのが困難だったからだ。

 しかも、避難する人々の車両が特定のルートに集中した事で交通渋滞と多数の事故が発生し、避難行動そのものにも遅延が発生していた。結果、高齢者や車椅子利用者といった人々が身動きの取れなくなったバスを降り、独力での避難を余儀なくされるという事態にまで発展する。


「もう、そこまで敵が……!」

「とにかく、我々で時間を稼ぐんだ!」


 そういった諸事情から素早い徒歩での避難が困難で逃げ遅れた20人程の小集団の1つ、その最後尾で警護に当たっていた2人の県警機動隊員がヘルメットの下で悲壮な表情を浮かべ、ほんの10m程の距離にまで迫った複数の百足型の敵と対峙していた。

 彼らは指揮官から避難者の護衛に当たるよう命じられて仲間の隊員達とは別行動をしていたのだが、無線から漏れ聞こえてきた音声で仲間が全滅した事を知っている。つまり、このままだと自分達も確実に死ぬが、市民が助かる可能性が僅かでもあるならと覚悟を決めての行動であった。


「行かせんっ!」


 本能のままに襲ってきた5mはある巨大百足の噛みつき攻撃を機動隊員の1人が両足を踏ん張り、しっかりと両手で支えたライオットシールド(暴動鎮圧の際などに使われる盾)で受け止めると、すかさずもう1人の隊員が至近距離から百足の頭部と思しき部位に向かって『S&W M360J』リボルバーの38スペシャル弾を撃ち込んだ。

 しかし、1発程度では致命傷にならなかったらしく、まだ攻撃していたので続けて2発3発とダブルアクション(撃鉄を起こさなくてもトリガーを引くだけで発砲できる機構)で敵の動きが止まるまで弾を撃ち込んでいく。

 さすがの巨大百足も頭部に連続して弾を撃ち込まれては耐えられなかったようで、汚い色をした体液を銃創から垂れ流しながら地面に崩れ落ちて絶命する。


「ぐああああっ!」


 だが、1匹目を仕留めたのとほぼ同時に別の1匹が射撃をしていた隊員の脇腹へと食らいつき、そのまま力任せに押し倒して噛み殺してしまう。


「クソがっ!」


 仲間が殺される瞬間を視界の隅に捉えた隊員は、悪態を吐きながらも右手をライオットシールドの取っ手から放して『S&W M360J』リボルバーに素早く持ち替え、なおも仲間の身体に食らいついたままの巨大百足の頭部に連続で弾を撃ち込んで殺した。

 もっとも、彼の奮戦もそこまでだった。数に物を言わせて襲ってくる敵には勝てず、銃を持った右腕を肘の辺りから食い千切られた後に体当たりで押し倒され、止めとばかりに強靭な顎でギロチンのように首を切断されて絶命する。


 当然、この程度の量の獲物で満足する敵ではなく、障害が無くなったのを良い事に今度は必死に逃げようとしている市民達に狙いを定めた。しかし、1mも進まない内に巨大百足たちの方が次々に体を裁断されて絶命していく。

 そして、その攻撃を実施した存在が重低音を轟かせながら上空に姿を現した。陸上総隊直轄の第1ヘリコプター団隷下の第102飛行隊、そこに所属する『UH-60JA』多用途ヘリを中心とした空中機動部隊である。

 緊急展開部隊でもある同飛行隊は、命令を受けると直ちに離陸準備を整えて木更津駐屯地を飛び立って習志野駐屯地へと向かい、そこで同じく緊急展開部隊に指定されている第1空挺団から選抜された隊員を乗せて陸路での派遣が困難な同方面の防衛に当たるため飛来したのだ。


 その過程でFFRS(新無人偵察機システム:ヘリ型無人機を主体とした偵察システム)によって逃げ遅れた市民に敵が迫っている事を知り、陸上総隊は飛行隊ならびに空挺団の任務を急遽、救助へと切り替える決定を下していた。

 ただ、それでも部隊の現場への到着がぎりぎりになった事を考えると、2人の機動隊員が命を懸けて時間を稼いだ意味はあった。


「射撃続行だ! 連中を要救助者に近付けるな!」

「了解!」


 空中機動部隊の指揮官がインターコム(機内通信装置)で命じると、彼を乗せた『UH-60JA』多用途ヘリは機体側面を敵に向けた姿勢でホバリングし、ドアガンとして搭載した『M2』HMG(重機関銃)の銃口を再び地上へと向ける。

 そして、『M2』HMGを両手で構えたドアガナーの隊員がトリガーを引き、500発/毎分という発射速度で12.7mm×99弾の雨を降らせて地上を這う様々な蟲型の敵を掃討していく。

 その威力は凄まじく、アルミ缶を撃ったみたいに対象の体に無数の大穴を開けて引き裂いていった。それによって千切れ飛んだ敵の体が土埃と共に宙を舞い、先程までとは打って変わって敵の方が奇怪な鳴き声を上げて逃げ惑う。


 しかし、ドアガナーの隊員は微塵も容赦をしなかった。ホバリングを続けるヘリから敵集団を目視で捉えると即座に銃口を向け、トリガーを引いて死の雨を無慈悲に降らせ続ける。そこには、これ以上は1mmたりとも市民に近付けさせないという強い意志が働いていた。

 そうやって上空からの射撃で敵の侵攻を食い止めつつ大損害を与えている隙に別の機体が避難者に近い場所で着陸態勢に入ると、降着装置が地面につくかどうかのタイミングで開け放たれた機体両側のスライド式ドアを通って空挺団の隊員達が次々に飛び出し、あっという間に防御陣形を整えた。

 すると、隊長と思しき人物の指示で隊員の1人が立ち上がって突然の出来事に呆然となって立ち尽くす避難者の下へと駆け寄り、救助に来た事を口頭で伝える。


「もう大丈夫です! さあ、あのヘリに乗ってください!」

「え? あ、はい……」


 声を掛けられた避難者の方は未だに思考が追い付いていないのか、どこか現実感に乏しい反応を示したものの指示には素直に従い、隊員の支援を受けてヘリに乗り込んでいった。

 そして、定員に達するとドアを閉めた機体はエンジン音を轟かせて上昇していき、避難者の移送先として指定された場所に向かって飛んでいく。すると、すぐに別のヘリが着陸態勢に入って空挺団の隊員達を展開させ、それが終わると彼らの代わりに避難者を乗せて離脱していった。

 こうして20人近くいた避難者は誰一人としてケガをする事もなく全員が救助され、安全な地域へと運ばれていったのだ。


 一方、地上に展開した空挺団の隊員達は分隊ごとにまとまると、1つの分隊が前進する間はもう1つの分隊が停止して援護射撃を行い、前進した分隊が地域を確保すると停止して援護射撃に回り、先に援護射撃を行っていた分隊が追い越すように前進して地域を確保するという事を交互に繰り返して支配地域を着実に広げていた。

 しかも、彼らは無線で上空の『UH-60JA』多用途ヘリとも緊密に連携を取っており、敵を先に発見して攻撃するだけでなく、必要に応じて援護射撃も受けられる態勢を整えている。

 それもあって敵は近付く事すら叶わず、『89式5.56mm小銃』や『5.56mm機関銃MINIMI』を短く連射する発砲音が聞こえて5.56mm×45弾が発射されるたびに殺され、その数を急速に減らしていくのだった。


「よし、ここだ。総員、停止! 繰り返す、総員、停止!」


 やがて、地上の空挺団の隊員達を率いる小隊長が立ち止まり、携帯GPS端末に表示された座標と周囲の地形を見比べて新たな指示を伝える。逃げ遅れた市民の救助が完了した今、彼らの任務は増援部隊を運んでくる後続のヘリ部隊の着陸地点を確保する事に切り替わっていた。

 つまり、ここが1つ目の候補地である。当然、この場所が適さない可能性もあったので2つ目の候補地も選定してあったのだが、特に問題は無かったので1つ目を使う事を彼は決めた。


「第1ポイントをLZ(着陸地点)に定める。その事をHQ(指揮本部)に伝えるとともに、各分隊は周辺の警戒に当たれ!」

「了解!」


 こうして小隊長の指示を受けた各分隊長は指揮下の分隊員と共に四方へと散らばり、それぞれの場所で配置に就いて警戒を始める。その後は時折、群れからはぐれたみたいに単独の敵が姿を見せて排除される事はあったが、それ以外は増援の到着まで平穏そのものだった。

とりあえず、ストーリー的には序章みたいなものです。だから、戦闘シーンも控えめですね。

今後、作戦規模が拡大するにつれて登場兵器も増えますし、戦闘シーンも大規模でハデになる予定です。

なので、大型兵器ファンは期待していてください。

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和語り企画
― 新着の感想 ―
[良い点] 私も妖怪ものを書いてますので気になって読んでみました! 自衛隊の方々にはがんばって欲しいものです! ああ妖怪怖い……
[一言] 妖怪と言っても反応速度が音速越え、肉眼で視認できない速度で動ける、物理攻撃無効じゃないだけ救いですね 個人的には12.7MM重機関銃クラスの攻撃当てれば、アニメキャラだろうと拳銃弾で貫通す…
[良い点] めちゃ、ハードでカッコイイです!
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