SS 精霊のとりかえ子
SS 「精霊のとりかえ子」
――グランシャリオの国では、昔から奇妙な事がよくおこる。生まれた赤子が忽然と消えたり、増えたりする事件が。
学校の図書室で、課題の本を探していたステラは、室内にライドがいるのを見つけた。
ライドは、何かの本を眺めているようだった。
「珍しいわね。貴方が図書室で本を読んでるなんて」
「剣士ちゃんは俺をなんだと思ってるの? 俺だって一人で本を読む時くらいあるって」
「そう?」
過去の事を思い出すかぎり、彼が単独で図書室にいた記憶はない……と思う。
図書室にいるもので脳裏に浮かぶものと言ったら、ニオにちょっかいをかけている所か、大抵はクレイに引っ張られたり、生徒会長に引きずられたりしている場面くらいだ。
「どんな話を読んでるの?」
「研究者の論文? 的な奴かね」
「研究者って」
「はいはい、そこ信じられない物を見るような顔しない。俺だってたまにはこういうもん読むって」
失礼かもしれないがやはりステラの頭の中にあるライドは、大抵ニオにちょっかいかけているか、クレイにちょっかいかけられているかの二つしかない。
「俺、どんだけ剣士ちゃんから怠け者認定されてるわけ? まぁ、ニオちゃん以外からの評価なんてどうでも良いけど」
「それは素直にごめんなさいだけど。貴方が興味を向けるような話があったの?」
「精霊のとりかえ子ってやつ」
「精霊のとりかえ子?」
ライドは、自分が手に持っていた本の表紙をこちらに示しながら続ける。
「そ、生まれたばかりの子供が忽然と姿を消したり、逆に増えたりするやつね。昔からグランシャリオではそういう言い伝えがあるみたいだわ」
「そうなの。おかしな話ね」
産んだ覚えのない子供が増えている、などとはステラにはとても想像できないが、そんな場面に遭ったら間違いなく驚いていぶかしむだろう。
「これが大昔に、王宮でやってた事が歴史に残ってるみたいでな」
「昔にそんな事が……」
「無用な争いを避けるため、王族同士の団結をはかるために、わざと自分達の血の混ざらない子供……特徴の異なる子供を連れてきて利用してたってわけ」
「ひどい話だわ」
「綺麗事じゃ世の中まわっていかないってのは理解できる。けどま、俺もまったく同感」
その話には、現実的な考えをするライドにも、さすがに思う所があるようだ。
肩をすくめて、やれやれと首をふってみせる。
しかし彼は、どうしてそんな話を調べようと思ったのだろう。
なんて思っていたら、ライドが苦笑した。
「剣士ちゃんは自分の事になると、あれね。てんで疎い。それ、希少生物か何かなの?」
どういった流れなのか分からないが、なぜかそんな事を言われた。
何について言われたのか分からないが、馬鹿にされたような気がしたのでむっとしてしまう。
「ライドは、私を怒らせようとしたの? ちょっと子供っぽいわよ」
「はは、ニオちゃんに相手にされないわけだよなぁ。でも、そればっかりじゃなくて、ちゃんと仕事で調べてたってのもあるんだけど。出生記録が合わないところがあるから、調べてるうちに回り道をね?」
「そう、それなら邪魔してごめんなさい。一人で好きに勉強してたら?」
「おーおー、今のちょっと怒ってるんじゃない?」
「馬鹿言わないで」
これ以上会話していたら相手のペースにのまれるだけ。そう判断したステラは、その場を去っていく。
引き続き、図書室で必要な本を探していくのだが。
「(とりかえ子……。ライドは大昔の事って言っていたけど、ひょっとしたら、私そうなのかしら)」
王宮での嫌な事を思い出してしまった。
だが、そうだとしてもステラは本当の親を探そうとは思わないだろう。
それなりに、今の環境を気に入っているからだ。
本当の両親なるものが、ステラの失踪に気をもんでいたのだとしたら、申し訳ないのだが。
「(遺伝子鑑定とかがないから、探そうと思ってもそもそも探せないし)」