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レム・ワールドの話


 急いで書きあげました。

 分かってる人には分かってる事情用の短編です。

 文字が事故してたらすみません。





 市内に通う中学二年生の本田二亜(ほんだにあ)は、ごく普通の女子中学生だ。

 とりたてて、特別な技能があるわけでもないし、とりててて特別な境遇にあるわけでもない。

 ちょっと面白い事が好きなだけの、中学生だ。


「ふわぁ、うーん……むにゃ」

「二亜……二亜……」

「あと、五分……」


 そのはずだったが、ところがどっこい。

 その本田二亜さんは、なぜか今薄汚れた部屋の中で、制服姿で床にごろっと眠っていたりしちゃうのだ。


 周囲には大勢の人の気配

 それも当然だろう。

 同じ部屋の中には、同じ学校の同じ教室に通うクラスメイト達がわんさと詰め込まれているのだから。


 誰かが寝返りを打つ音や、いびき、寝言なんかもよく聞こえてくる。


「二亜、そろそろ時間よ、起きなきゃ駄目じゃない」

「うーん」


 けれど、いま二亜の近くから聞こえて来た声はそのどれでもない。

 クラスメイトでもなければ、知人や隣人でもない、つい最近知り合ったばかりの殺し屋の、そして友達の少女の声だった。


「二亜、起きてってば」

「うーん、むにゅ? あ、狂花(きょーか)ちゃんおはよう」

「やっと起きたわね」


 目をあければそこには、薄暗い部屋の中にいてもよく栄える金髪に、大きな橙色の瞳がある。

 彼女の名前は、狂花きょうか


 闇世界に生きる殺し屋の少女で、今は二亜達と同じ立場でこの部屋に詰め込まれている少女だ。


「あれ、もう最終ゲームの時間? 二亜、もうちょっと眠りたかったなー」

「駄目よ、ちゃんと頭を起こしておかないと、生き残れないわよ」


 子供にしかるような感じで「めっ」と注意されるのだが、狂花から説明される内容はそんな簡単に脇に追いやっていいものではない。


 驚く事なかれ。何と二亜達は、現在どこかのいけ好かない成金たちに拉致られて、デスゲームに参加されている真っ最中だった。

 三日前にクラスメイト共々まるごと連れて来られた二亜達は、これまでに他の学校から連れて来られた者達と、命をかけたデスゲームをしてきた。


 まったく自慢ではないが、二亜達は普通の中学生だ。

 この場にいるクラスメイト達も同じくで、特に何かの戦闘術に秀でたり、ミリタリー関係の知識に詳しかったりするわけではない。

 普通だったら、真っ先に蹴落とされていたことだろう。


 しかし、それが運よく今日の最終ゲームまで生き残ってこれたのは、二亜達の中に殺し屋である狂花が紛れ込んでいたからである。

 クラスメイトの中の誰かを暗殺する為に接近していたらしい狂花は、二亜達と共に拉致されたことにより、デスゲームの参加を余儀なくされていた。それで、最終ゲーム直前の今にいたるまで、二亜達をひっぱってきてくれていたのだ。


「うーん、まだ眠いよー。狂花(きょーか)ちゃーん、まくら」

「二亜、私は枕じゃないわよ」

「うん、知ってる。真面目で冗談が通じない狂花ちゃんもかわいー。そこが癖になりそう!」

「えっと、私なに言われてるのかしら。そういうのちょっと分からないんだけど……」


 勢いで狂花をぎゅっとするが、相手からの反応はいまいちのもの。

 彼女は見た目的には二亜達と同じくらいの歳だ。(実際の年齢は本人には分からないらしいが)

 だが、この年になるまでまともな生活を送ってきていなかった為に、一般人の感性というものが分からないそうだ。


 と、そんな風にしていると同じクラスメイトの男子生徒、樹多託斗きだたくとが間に割って入って来た。


「あ、二亜ずるいぞ。俺が一番に話しかけようと思ってたのに!」


 多くいる友達の一人である彼は、出会った際に狂花に一目ぼれしたらしく、ことあるごとに話しかけようとしているのだった。


「託斗も起きてたのね、おはよう。でも今は私と二亜がお話してるんだから、いきなり邪魔するのはだめ」

「えー……」


 ただし、彼のその思いは一方通行で本人にはうっとおしがれられいるようだ。

 そもそも、まともな生活を送っていなかった狂花には、恋愛感情というものがどういう物なのか理解できていない節がある。だから、なおさらだろう。


「嘘よ、もうそんなにへこまないの。貴方って小さな子供みたいね」

「全然察してくれない事実に悲しむ俺がここにいる! 俺がこうなるのは狂花限定なんだけどなぁ」

「そう、変な人ね」


 とりあえずそんな風に惨敗した託斗の肩を叩いて、慰めておく事にした。


 他愛ないやり取りをしている間にも、他の人間は徐々に起きてきている。

 当然だろう。今日は最終日で一番最後のゲームがこれから始まるのだから、誰だってのんびり寝てなんていられない。

 そう言ったら、他の日はぐっすり寝ていたのかと思われるが、全然そうではないからあまり変わらない気もするが。


「後もうちょっとしたら時間ね」

「うん、そうだね。あともうちょっとで終わるんだ」


 部屋の中。壁の高い位置には時計があって、時刻が確認できるようになっている。

 あともう少しで、あらかじめ教えられていた最終ゲームの開始時間となる。


 そうなったら、残ったもう一つの他の学校の生徒達と、命をかけたデスゲームが始まって、最後の勝者が決まるのだ。


 物思いに沈んでいると、ふいに狂花が、ごそごそと何かを取り出して見せた。


 それは、二亜があげたクマのキーホルダーだった。

 ガチャガチャで同じ品物を出して持ってたので、友情の証として狂花にあげたのだ。


 最初、狂花が殺し屋という事実が明るみになった時は、クラスメイト達と距離が開いていた彼女なのだが、純粋培養のお嬢様かと突っ込みたくなるようなまっすぐな性格をしていたため、皆と打ち解けるのにそんなに時間がかからなかった。


 それで二亜は、これからの事を考え、クラスメイト達と距離を縮める意味で、狂花のニックネームを考えたり、お揃いの制服を着て見たりとあれこれ企画したのだが、その時にクマのキーホルダーをプレゼントとしたのだった。


「二亜達と同じ制服を来たり、ステラとか中条星菜っていう私のもう一つの名前を考えてくれたり、よく分からなかったけど恋バナとかもしたりして、とても楽しかったわ。この数日間は、私にとってすごく特別な宝石みたい」

狂花(きょーか)ちゃん」


 二亜がプレゼントしたクマのキーホルダーを大切な宝物のように抱きしめる狂花。

 その姿を見て、二亜はなぜだか言葉が出なくなり、三日間の間にあった色んな事を思い出した。


 二亜達はほとんど狂花に助けられっぱなしであったが、こちらからも狂花に対してできた事があるのだと分かって胸がいっぱいになったのだ。


 二亜は、脳裏に浮かんだある可能性を口に出していた。


 それはデスゲームをクリアしたその後の話についてだった。


「最終ゲームをクリアしたら、その後はご褒美だよね。どんな願い事でも一つだけ叶えてくれるってやつ……。ひょっとしたらだけど……」


 今から生還した時の事を考えるなど、気が早すぎるだろうが、それでも考えずにはいられなかった。


 このデスゲームを企画した人間は、正直言って本当に、頭とか脳みそとか倫理観とか常識とか、その他もろもろの色々や様々を含めて、かなり狂っていると思うが、最低限の優しさっぽい何かはあったらしい。


 デスゲームを最終ゲームまで生き残った者達には、どんな願いでも叶えられる権利を与えると約束してきたからだ。


 出来る事はもちろんの事、出来ない事でも、馬鹿馬鹿しい事でも、夢物語でも、たった一つだけなら何でも叶えてくれるらしい。


 だから、二亜は思ったのだ。

 その権利を使えば、狂花も自分達と同じように普通の生活を送れるのではないかと。


 だって、このゲームで終わって別れた後、二亜達はいいかもしれないが、狂花の日常は変わらないままなのだ。

 今までと同じように殺し屋として活動して、誰かを殺めてまわっているだけなんて、あんまりだと思った。


 狂花は現時点では、人を殺す罪悪感はあまり感じていないようだし、倫理観についての理解もあまりないようだった。

 まともな日常生活をこれから送っていけるかどうかは分からない。

 罪の清算だってしなくてはいけなくなるだろう。


 けれどそれでも二亜は、友達が見えない裏の世界で、手を汚す事が許せなかった。

 

 彼女には、今まで二亜達を守ってきてくれた優しさがある。

 彼女には、同じ話題で笑い合えるだけの共感の心がある。

 彼女には、新しい事に興味を持ち知りたいという欲と向上心がある。


 だから、頑張ればこれからもこのまま友達として、一緒にいられるかもしれない。

 そう思ったのだ。


「ありがとう二亜、でもその権利は二亜達の為に使って」

狂花(きょーか)ちゃん……、でも」

「今までに死んでしまった人達を生き返らせるっていう願いがあるんでしょう」


 しかし、ここにくるまでに、二亜達が生き残るために奪ってしまった命も同時に、忘れてはならないものだった。


「私はこの三日間の思い出ですごく満足よ。二亜達みたいな普通の子達が、こんな所で駄目になったらいけないわ。貴方達が生きて笑っていられる事に私の命の意味があったなら、きっとこれ以上幸せなことなんてない。ずっと一人で生き残るだけだった私の力でも、誰かを救う事ができるんだって、そう思えるから」


 言葉をなくした二亜の手をそっと包み込む狂花は、大事な事を語りかけるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。


「大丈夫、きっとまた出会えるわよ。その時はまた、この間みたいにお話しましょう、普通の中学生みたいに、お喋りしたり恋の話をしたりして……。学校帰りにコンビニとかにも寄ってみたいわね。あとゲームセンターとかも」

「うん」


 触れればすぐに消えてしまう様な幻想のような儚い約束をした後に、狂花の手は二亜から離れる。


 部屋の外が騒がしくなって、ややあって扉が開かれた。

 デスゲームを動かしている者達の手下、黒服の男たちが入って来て二亜達に外に出るようにと促してきたのだ。


 時間だった。


「行きましょう、二亜。必ず勝つわよ」

「うん、がんばる……」

「そういえば……」

「?」


 部屋の入口へと歩き出した矢先にふと狂花が立ち止まって首を傾げる。


「乙女ゲームっていうのもやってみたいわ。デスゲームとどう違うのか分からないけど、面白そうだもの。攻略対象って人を落としたり、射抜いたり、真っ赤にしたり、鼓動を早めて心臓が爆発しそうになったりって」

「……ぷ、あはは。情報は確かにあってるけど……。狂花(きょーか)ちゃん、それ根本的に色々違うよ」

「そうなの?」


 彼女らしい勘違いをあえて二亜は訂正することなく、そのまま保留にしておいた。


「そうだね。もしまた会えたら一緒にやろっか。二亜が手取り足取り教えちゃうぞー。こんな事言ったら託斗君に嫉妬されちゃうかもだけど、楽しみにしてよっか!」

「ええ!」


 もしも、次に会えたら。

 そんな機会はおそらく二度と訪れないだろうけれど。


 二亜は狂花とそんな約束を交わした。


 ――願わくば今度は、日の当たる場所で友人である貴方と、かけがえのない素敵な時間をおくりたい。


 そんな叶わない約束を。




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