オリオ vs テン
短編です。このお話だけでも読めると思いますのでぜひお楽しみください。
英雄は明日笑う第1話後のオリオのお話です。
ギャグです。下ネタです。大いに笑ってやってください。
オレの名前はオリオ。事はオレが英雄ウッドシーヴェル様に憧れて研究所に捕らえられた”紋章持ち”達を救おうと家を飛び出したことから始まった。この時はまさかあんな戦いが繰り広げられるなんて思ってもみなかったけれど……。
「くそっ! クソクソクソ!! 離せっ……!! 離せよーーー!!!」
研究所に辿り着いて一分。オレはオレ達”紋章持ち”の敵、クソレシアことクロレシアの兵にいとも簡単に捕まった。いや、一分とかねーだろ!? ごはん食べるのだってもっと時間かかるぞ!? なんて言ってはみたもののオレは今両腕を掴まれブランブランしてるわけで。腕抜けるから家族や親戚の人は真似しちゃだめだぞ。って、そんな事はどうでもいい。
「くそぉっ! 離せっつってんだろ!! いい加減にしねーとオレの力が火を噴くぜクソレシアー!!」
「チッ、クソクソうるさいガキだな。おい、ケツが火ぃ噴いて漏れるそうだ。早く中に連れて行け」
「クソはそっちの話じゃねーよ!!」
どれだけ文句を言っても足をバタつかせても、結局話も聞いてもらえずオレはあっという間に研究所内に連れて来られてしまった。
研究所ってのはあれだ。”紋章持ち”を捕らえて研究してるって場所だ。人体実験とかそういうことしてるって噂で聞いた事がある。母ちゃんたちも危ないから近づくなって言ってた。もう遅いけどさ。
だけど乱暴に放り込まれた場所を見て、オレは驚きで大口を開けたんだ。アゴが外れるかとさえ思った。だってそこは今まで歩いてた緑のライトに白い壁、なんていかにも研究所ーって所とは全く違う次元だったんだ。
一言で例えるなら街。研究所の中に大きな街があった。
「我々の研究に協力すれば酷い事はしない。お前の部屋も与えてやる。ついて来い」
それだけ言ってオレの腕を掴んでいたクロレシアの兵が手を離し、先に歩き出した。直後オレの背中に何かがぶち当たってくる。
「あっ! ごめんなさい」
その声は涼やかで凛とした、春の陽気のような美しい声だった。例えどんな綺麗な声だってオレは騙されて許したりなんかしないぞと、痛む背中を押さえ一言文句を言うために振り向いた途端身体を強張らせた。
「かっ……」
「本当にごめんなさい。慌ててて……」
「許す」
秒速で答えた。だってかわいい!!! めちゃくちゃカワイイ!! 背はオレより少し下、くりっくりの緑の瞳は宝石みたいだし、ふわふわのピンクに近い紫の髪は左耳の横で三つ編みされ、花の飾りで留められていた。さらに醸し出す雰囲気は守ってあげたい小動物だ。
「オレ、オリオってんだ。オレの嫁になってくれ」
「え?」
居てもたってもいられなくていきなりプロポーズした。まぁ、彼女の反応は当然だよな。まだ十二の子供に結婚してくれなんて言われたらさ。だけどオレ譲る気ねーから。今を逃したらこんなかわいい子二度と出会えないかもしれないんだ。真面目な顔で彼女の手を握ろうとしたらいきなり背中を蹴り飛ばされた。
「テメー! ぼくのリラちゃんにその汚い手を出すんじゃねー!!」
金髪だ。オレと同い年ぐらいの金髪の少年がでかい本を背負ったままオレに迫ってきた。目が敵意むき出しだ。オレこいつとはぜってーそりが合わないって確信した。
「テ、テン君っ……彼まだここに来たばかりみたいだからっ……」
「はんっ、関係ないね。ぼくのリラちゃんに勝手に手を出そうとするヤローは誰であろうと許さねー。あ、リラちゃーんもう逃げないでさ~ご飯食べに行こうよ~」
村でもこういう奴居たよ。嫌がってんのにお姉さんの腕引っ張って無理やり連れて行こうとするやつ。オレそういう奴大っ嫌いなんだよな!! 怒りのままに二人の間に割って入った。
「テメー、この子嫌がってんだろ!! 今すぐ失せろ。お食事はテメーの代わりにオレが彼女と行ってやるよ!!」
「あ? 何? 弱っちそうなくせして、このぼくとやろうっての?」
「おう! 表出ろやぁ!!」
オレと金髪の少年……彼女がテンって呼んでたな、そいつと睨み合うように表へ出た。いや、出ようとした。
「ぐえっ!」
クロレシアの兵士のやろう、予告もなしにオレの首根っこを掴んできやがったんだ。おかげで自分の服で首が絞まった。
「お前、クソはどうした。先に行って来ないと漏れるぞ」
一気に力が抜けた。いつまでその話するつもりだよ!? 誰もしたいとは言ってねーっつの。苛立ちながら反論した。
「だから!! そのクソじゃねーって!!!」
そのまま兵士の腕を振り払ったけど、オレの事を本気で心配している様子の兵士に一瞬戸惑った。いや、だから……さ。何故かしどろもどろになる。
「さっきまでクソクソ言ってたじゃないか。我慢するな」
「もう漏れたんじゃねーの?」
テメ、余計なこと言ってんじゃねーよ!! 金髪少年テンのおかげで兵士の足がオレの方からやや下がる。オレのイメージが台無しだ。かわいい子、リラって言ってたな。その子は聞いていなかったのか理解できなかったのか、キョトンとこちらを見ていただけだったから助かったけど。
「ちがうってのー!!! あーもー、その話題はもういいって! とにかく、勝った方が今日彼女……リラちゃんとお食事だ!! 負けた方は土下座だぞ!!」
オレの決め事にテンはニヤリと笑った。
「い~よぉ~。テメーを地面にひれ伏させてそのバカそうな頭ぐりぐりしてやんよ! 今度こそ表へ出ろや!!」
「ま、待って二人ともっ……そんな勝手に……」
威嚇しあいながら街を出て研究所の廊下の方へと歩いていくオレとテンをリラちゃんが慌てて追ってきた。止めないでくれ。これは男と男の戦いなんだ!! リラちゃんもオレ達を止められないと分かったのか、必死な様子で叫んだ。
「お願い、殺し合いなんてダメだよ!! 勝負は相撲でやって!!」
「すもう?」
なんだそれ? と思っているオレにテンがえええ~~~っと嫌そうな声を出した。
「ヤローの裸なんか見たくねーよぉ。リラちゃんから何か貰えるならやるけどさぁ……」
「わ、分かったわ。プレゼント考えておくからっ……」
裸? 訳分かんねー。キョトンとしていたら嬉しそうなテンがオレを指差してきた。
「よっしゃぁ! 今すぐやろう!! 第三研究室!! あそこ荷物しか置いてねーから!! ぶんぶん投げ飛ばしてやるから早く来い!!」
そのまま奴は先に歩いていく。リラちゃんが相撲を分かっていないオレにルールを説明しながら歩いてくれた。裸の戦い……あいつと? ややげっそりだ。
「あ、しまった。第三研究室は今日荷物の搬送があって半分ぐらい埋まってると忠告するのを忘れたぞ。……まぁ子供だしそこまで暴れることはないだろう。いいか」
クロレシアの兵士がそんな事を言ってるとも知らずオレ達は第三研究室へと向かっていったのだった。
――――――――☆☆☆☆☆☆――――――――
「…………ちょっと待て」
戦う姿になってテンの野郎と向き合った途端オレはさらにげっそりとした。
上半身裸、下はパンツ一枚。そこまではいい。相撲ってやつの説明を聞いてたら仕方ない事だと思えたしな。オレだって今そんな格好だ。
「お前なんで食い込ませてんだよ!? 変態か!?」
奴のパンツはなぜか尻の丘を守ってはいなかった。背中側は中央に一本、かろうじてあるだけだ。しかも黒。オレはこいつ、テンに変態の称号を与えることにした。
「相撲っていったらここまでやるのが普通でしょ!? お前もちゃんと本腰入れろよ!!」
目がマジだ。いきなりオレに近づいて来たかと思えばパンツの背中側のゴムを上に引っ張られた。
「テメ、やめろッ!! この変態パツキンヤロー!!」
叫びながら必死で抵抗してたけど、なぜかこの部屋やや傾斜がかってて上側に居るテンの方が少し有利になってる。それでも負けたらオレまでティーバックだ、と死ぬ気で抵抗した。叫ぶことも忘れない。
「変態はテメーだけで十分だっての!! 離せぇー」
「誰が変態だ!! ぼくは本格派を決めたいだけだ!!」
本格派? 裸芸でも極めろっつの!! ぐいぐいと食い込まされるあまりの気持ち悪さにいい加減オレはテンを放り投げた。投げ技は結構得意なんだ。おかげで目測とは逆に飛んで行ったけど思った以上に威力があったみたいで、テンは置いてあった荷物の中に酷い音とともに入っていった。へっざまぁみろってんだ。オレは今の隙にパンツの食い込みを直した。
「て~め~ぇ~!! 名を名乗れぃ!!」
悔しげに荷物の中から姿を現したテンはまるで化け物のように海藻をかぶっていた。新しい生物だと言われれば納得しそうな出で立ちだ。
まぁ、海藻をカツラのようにかぶった半裸のティーバック男だけどな。もう変態以外の何者でもねー。
「オレはオリオだ。かかってこいやぁ!!」
「ふんっ! 油みたいな名前しやがって! これでもくらえ!!!」
テンは海藻をかぶったままオレに向かって手近にあったボトルを放り投げてくる。ボトルゥ!!? 危ねぇな!! オレを殺すつもりか!?
テンの投げたボトルは、咄嗟に避けたオレの背後にある何かのタンクに当たり砕けた。それが気にくわなかったのか奴は荷物の中から出てくると、次から次へと物を投げてくる。全て華麗に避けてやったから背後のタンクにガンガン当たってたけどな。
「リラちゃん! 危ないからオレ達の服持って街に戻ってて!」
「う、うんっ……」
我を失ったらしいテンの攻撃から守るべくリラちゃんを逃がすと、オレはあいつの方を見た。
ここまで来たらあいつ、もう変態の魔物だろ。このままやられっぱなしなんてムカつくぜ。
いい加減反撃してやろうと一歩足を踏み出した途端、オレの背後で何かが砕け散る音がした。何事かと振り返ったオレの視界を透明な黄色の液体が覆う。
「はああぁぁぁぁぁ!!!???!?!?!?!!?!?!?」
とめどなく溢れてくる黄色の透明な液体は一気に床全体を埋め尽くした。何だこれ!? なんかぬるぬるする!? 原因は先程ガンガン物がぶち当たってたタンクだと気づき、確認しようと足を踏み出した途端、その液体に足を取られステンと転んで後頭部を床にぶつけた。
「あっはっはっはっは! だっさい転び方ー! ざまぁみろぉ!」
テンの笑いに腹立ちが膨れ上がる。
「てめ、どーすんだよ!? これオイルじゃねーか!!」
パンツ一丁の尻を床に付けたままオレはそのヌルヌルする物体を手で触って叫んだ。とにかく一旦部屋を出るため立ち上がろうとしたけど、つるりと滑って再び転ぶ。それを見ていたテンが囲まれていた荷物の山から出てきてこちらを指差しながら大笑いしてきた。
「あはははは! おま、最っ高! 名前とおんなじオイルでゥあぶぁ!?」
奴も笑い途中で転んで尻をついた。テメーこそざまぁみろ。しかも奴は転んだ時に勢いがついていたせいか、つるつると滑り出す。
そこでオレは突然嫌な事を思い出した。
この部屋やや傾斜がかってんだよ。それでもってテンは坂の上の方から滑ってくるわけで……。
なぜか海藻は上手にかぶったまま、足を閉じることも忘れて奴は尻で床を駆け抜けてきた。こっちに向かって。
「こっち来るんじゃねーよ!?」
「仕方ないだろ!! 止まんないよー!」
「せめて足閉じろ足ーーー!!!」
オレの意見に賛成したテンは足を閉じようと体をひねった。そして華麗な尻ターンが披露される。
「何回ってんだバカー!!」
「うわわわわ! 回転止まんないーっ」
最悪だ。テンは尻で上手にくるくる回りながら逸れることなくオレに向かって来ている。こうなったらここはオレが逃げるしかないだろ。覚悟を決めてオレも動き出した。
「おま、やめろぉ! 尻をぼくの方に向けるんじゃないーーー!!」
「うわぁ、こっち来るなっ止まれよぉぉぉ!!!」
「へぶしっ」
「………………」
テンの顔がオレの尻山に直撃してからしばらく、オレ達は沈黙した。生憎それ以上つるつるとは行かなかったけど、オレ達二人精神的ショックの方が大きかったんだ。テンの野郎なんてオイルまみれの手でずっと顔をごしごししてやがるし。
「ううう、こんな屈辱……。おねいさんやリラちゃんならまだしも何で油野郎の尻なんかに……。大体こっちに尻向けるってバカなの? 輝けるバカなの? シャイニングバカって呼んでもいい? ちっくしょ……もう許すもんか。油野郎ぉぉぉぉ! 覚悟しろ! あの世へ送ってやるうぅぅぅ!!」
叫びと同時に腰を掴まれて放り投げられた。とは言っても座ったままだったからオイルのせいでつるつる向こうへ滑って行っただけなんだけど。おかげで衝撃もなく突き当りの壁に手をついた。このまま壁を伝って外へ出ればぬるぬるともおさらばだ。
余裕で逃げ切れると思っていたオレに海藻かぶったままのテンはいきなり立上がると、走ってこちらに向かってきた。げぇ!? 走ってるぅ!? マジかよ!?
「ふはははは! 逃がすかシャイニングバカめぇ!!」
怖えぇぇっ……。そう思っていたけど、すぐにオイルのおかげですてんと転んだ。ざまぁないぜ。しかも転んだ拍子にちょうど出ていたでっぱりに足が当たってまたくるくる回ってるし。
「うわああぁぁっ! とめてーーーーー!!!」
知るか、お前こそバカだろ。そう思ったけどあいつはまたしても尻でくるくる回りながらこちらに向かって来た。後ろは壁だ。ってかこっち来るなよっ! 逃げ道がないだろがぁ!! それでもさっきのあんな屈辱味わうぐらいならと、恐怖のままテンの方を見据えた。おかげでテンの頭に乗っていた海藻がオレの顔面に直撃するまでの一部始終を拝んでしまったわけだけど。しかもびたんと当たった衝撃に痛いと思う間もなく腹にテンの足がめり込んだ。
「ぐふっ」
「はっはっは。見たか、このぼくの華麗な回し蹴り」
「……尻で回って華麗もクソもねーだろ」
だんだん突っ込む気力も失せてきた。こいつは常識を破壊するブレイカーだ。タンクも破壊してたしな。しかもねちっこい、しつこい。根暗ブレイカーと呼んでやる。そう心に決めた。
「あーもー! この油うっとうしいなぁ! 先に全部洗い流そっ」
テンはそう言うと、いきなり魔法を使った。”紋章持ち”ってのは魔法を使えるって分かってたけど、いきなり大量の水を呼び寄せるほどの力の持ち主なんて初めて見たから驚いた。
「おま……実はすげー奴だったの?」
「ふふん。お前みたいなちっちゃーい無力な紋章しか持ってない奴と一緒にしないで欲しいよね」
「なんだと!? オレだって力ぐらいある!! 見てろよ!!」
めちゃくちゃバカにされたって分かったから、見せつけてやろうと怒りのままにオレも魔法を使った。オレの魔法は火の加護だ。そして忘れてた。ここがオイルまみれだったってこと。一気に辺り一帯、テンが洗い流したオレ達の周りを除いて火が広がった。
「ぶわっかぁ!! このオイルまみれの場所で火ぃ使う奴があるかぁぁぁ!! こんっの短絡能無しウルトラシャイニングバカ!!」
「うっせー! 忘れてたんだから仕方ねーだろ!? 大体オイルまき散らして原因作ったのはお前じゃねーか、この変態パツキン根暗ブレイカー!!」
「やるの!? ええ?」
「やんのか!? おお?」
お互い睨み合ってる間に騒ぎに気付いたクロレシアの兵士が駆け込んできた。その後はテンの魔法で無事火は消し止められたけど、オレ達二人はパンツ一丁、テンに至ってはティーバックのまま正座でお説教された。長い長いお説教の後、服はリラちゃんに預けたままだったからパンツ一丁のまま街へ戻った。
「あ、オリオ君、テン君。今騒ぎがあったけどぶじ…………」
街に戻っていたリラちゃんがオレ達を確認して嬉しそうに駆け寄ってきて……言葉がそこで途切れた。
「心配してくれたの? ありがとうリラちゃーん❤」
「ご、ごめんな。すげー騒ぎにしちまった……」
オレ達がどんなに話しかけても何故かリラちゃんは固まったままだった。そして暫くテンの方をチラチラ見ながら、ようやく口を開いた。
「あ、あの、テン君……。ちょっと出てる……」
「え? わあぁ!! 本当だっ。ひゃあぁ!!」
お前……ティーバックの隙間から女の子に見せてはいけないもの見せて嬉しそうに叫んでんじゃねーよ、変態ヤロー。ジト目で睨んでたらまだオイルを拭ききっていなかったせいで足を滑らせたのか、いきなりテンが横向きに転んだ。
「うわあぁぁ!」
テンの叫びの直後、いきなりオレの下半身の風通しが良くなる。足首に、オレが穿いていたパンツと同じ色の布の塊があって、テンがそれをなぜか握り締めていた。
嫌な予感がする。
とてつもなく嫌な予感が……。
「いやあぁぁぁぁ!!!」
バチーンっと頬に衝撃がはしったと思ったら、リラちゃんが真っ赤になってその場から脱兎のごとく逃げ出した。
これが……男と……男の……たたかい……。
何だこの虚しい戦い……。色々なものを失った代わりに貰えたのは、頬に一つ真っ赤なもみじだけ……。
「二度とテメーとは戦わねぇぇぇーーーーー!!!!!」
この日、全裸で叫ぶの少年の話題は街人全員が知る事となった。
☆END☆
この後は再会する
第四十一話 研究所再び
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に続きます。
読み直してみるとだからかーっと笑えるかもしれません。