プロローグ
──魔王。この言葉を聞いてあなたは何を思い浮かべますか?
魔物や魔族の王。強い。勇者に倒される。
ええ。その認識であっていますよ。
次に、大魔王。これはどうでしょうか。
魔王の格上のもの。魔王をまとめるもの。また、魔王が自分を尊大に見せるために好んで使う名称。
まぁ、そんなところですよね。
魔王がいるから魔族は平和に過ごすことができ、また魔族に従えられる魔物も生活ができるのです。
──さてさて、本日皆様にお話させて頂く物語は、大陸中の魔族と魔物をまとめて何百年かの、素直になれない魔王の話。はじまりはじまり。
*
大陸の半分を占める魔国グリュンデ。
そこには多くの魔族と多くの魔物が暮らしており、魔王のためにと人間のもとへ行っては殺戮を繰り返していました。
「魔王さま!まずいです!今日も勇者が攻めてきました!」
半泣きでそう報告するのは角を一本生やした魔王の部下。
「なんだと!?」
魔王の一言で彼は小さく縮こまり何も言えなくなってしまいます。
「リンデストリアの王の仕業か!また勇者を召喚したのだな!?」
この大陸には人間の国がいくつかありますが、その中でも一等強敵なのが一番の領土を持つ大国リンデストリア。
はじめは森に囲まれた小さな国だったのですが、森や洞窟にひっそりと暮らす妖精やエルフたちを味方につけ、今や多くの種族との交流を持ち、他の国を圧倒しています。
魔王はリンデストリアが大嫌いでした。
何百年か前に、『種族を超えて仲良くしよう!』と掲げたリンデストリアに魔族の受け入れを求めたところ、「そんなの無理だ!魔族なんて滅びればいいのだ!」との返答をされたからです。
魔族や魔物の討伐は人間にとって一番の収入源ですからね。それに当時すでに、人間と魔族は仲良くなれないという固定観念がありました。生きるために魔物を殺す人間とそれを従える魔族は相容れない存在なのです。
それを聞いた魔王は「魔族だけをのけ者にするのか!」と大層お怒りになりました。
そして「ならば人間など滅ぼしてしまえ!やらなきゃやられるぞ!!」と配下に命令を下しました。
それから魔族や魔物は「人間は敵だ!」と人間を見境なく攻撃するようになり、人間もまた「魔族は危険だ!」と防戦しました。
これで完全に対立してしまったんですね。
え?あぁ、そうですね。今は人間と魔族は仲良く暮らせていますよね。
何を隠そう、僕は人間と魔族の混血です。ほら、小さいけれど角もあるんですよ。
……早く続きを話せ?そんな急かさないでくださいよ……。今話しますから……。
えーと……。どこまで話しましたっけ……。あぁ、そうそう。魔族と人間が対立したところまでですね……。
大国リンデストリアは魔王を倒し、魔族を滅ぼすため、勇者召喚をはじめました。
それも何度も何度も。
話によると、勇者は不思議な力をもっているそうなんですが…どうも平和な世界から召喚されているらしく、戦場に出ると途端に使えなくなるそうなんですね。廃人になる……とでもいいますか。
どんなにすごい能力を持っていても使えなきゃ意味ないですよね。
……そこで、使い物にならない勇者はポイッともとの世界に送り返し、新しい勇者を召喚するんです。
そうしてやっと召喚されたのが、女性にして、この国ダイバーシティの建国者!我らが王、ブレイブ様なんですよ!
大陸を統一した勇者!彼女こそが最強!
人間と魔族が今仲良く暮らせているのはブレイブ様のおかげなんです!
……そうそう!流石にそれは知っていましたか。
ブレイブ様は当時最強と呼ばれていた魔王ルシファーをくだし、なんと無理やり結婚してしまったんですよ!
国民からの避難の声を押さえ込み、魔族に対する偏見を取り除き……。なんと、最後まで反対する王とその周りを退け、自分が王の座についたんです!!
前代未聞の大事件ですよ!!
……ダイバーシティ。そういえば、この国の名前の由来って知っていますか?
ブレイブ様の国の言葉で、多種多様って意味だそうですよ。
人間であろうと魔族であろうと他の種族であろうと、差別されない国。それを実現してしまったんです。
ちょっとお話するつもりが、なんだか長くなってしまいましたね。
今日のところはこれで終わりです。最後まで聞いてくださって、ありがとうございました。
……拝聴料?いえいえ、お気持ちだけで結構です。確かにお金は頂かないと、仕事になりませんが……。あなたははじめてのお客さんですから、特別です。
いつもここでやっているんで、話の続きが気になれば、また来てください。
ではまたいつか、機会があれば。
読んでくださった方、ありがとうございます!
面白いと思っていただけたら評価をお願いします!
他の連載との兼ね合いもあり、評価の高いものを優先的に更新させて頂こうと思っています。
あ、ブックマークでも構いません。
お手数ですが、誤字脱字等を指摘していただけると幸いです。
追伸:「魔王コンプレックス」は実在しません!
コンプレックスって「精神分析で、感情の複合。現実の意識に反する感情が抑えつけられたまま保存され、無意識のうちに現実の意識に混じり込んでいるもの」らしいので魔王という立場にコンプレックスがあると考えてもらったらいいと思います!