戻れない道
「じゃー変身してみるか」
と言いつつ、ステータスカードを更新してみると【怪化】の部分に新たな文字が浮かんでくる。
異能 【怪化】 倒した怪物に変身できる。魔量はかからない。
【変身怪種】 小鬼
と、記入されていた。
どうやって変身するんだろう。少し考えてみる。
少しイメージしてみる。
「う、ゥううウう・・・・・。」
何だかすごい気分が悪い・・・・。
意識が入ってくる。
誰か、俺以外のもう一人の存在とでもいうのだろうか。
とにかく吐き気や、目眩がとにかく半端じゃない。
しばらく呻き続けること数十分。怪物や冒険者に遭遇しなかったのは奇跡とでもいえよう。
とにかく、体調の悪さは戻った。
正確には『何か』の存在が一体化したと言った方が正しいのであろうか。
とりあえずは成功したらしい。
目を開けて自分の手を見てみる・・・・。
「うわッ!!」
人間のような肌色はどこかへ消えてしまっており、俺の両手全体には黄緑色が広がっていた。
それは両手だけでなく、俺の体全体にまで広がっているようだった。
近くに水たまりができていたので自分の姿を確認しに行く。
「なッ!!」
その水に写る自分の姿に俺は絶句してしまう。
(き、キモすぎるだろこれ・・・。)
身長は変わらないものの、全体的にほっそりとしている。
髪の毛はそのままの黒色であるがなんとしても特徴的なのは顔である。
醜い。
その一言に尽きる。
小鬼の醜さに、俺の顔が混ざり小鬼の中ではイケメンであろう容姿はそれにしても醜さが残っている。
いくらか予想はしていたが、自分の顔に小鬼がプラスされたという事実にショックを隠しきれない。
(とりえず動かないと・・・。)
ここに長居しすぎたせいか怪物の声が近くにいるように感じる。
てか、怪物と融合したせいか直感、みたいなものが働いている。
とりあえずバレないように移動することにした。
この怪物の状態での能力の変化を見てみたかったのでローブのフードを深くかぶり、冒険者に見えるようにする。
しばらく進んでみると、何か怪物の匂い?みたいなものを感じたので近づいてみる。
そこにいたのは、2匹の小鬼だった。奴らは他の小鬼と似たような装備をして歩いていた。
(やってみるか)
融合する前はかなり手こずっていたが、今はなんだか楽にいけそうな気がしてくる。
ステータスカードを確認しなくとも、自分が強くなっていることを実感できた。
奴らは俺の存在に気がついていないのか呑気にだらだらと歩いている。
少しずつ距離を詰めていき、一気に駆け抜けるッ!!
「ッシ!!」
『ガッ!?』
「エ?」
驚愕
ポーン。と音でもするように小鬼の首がふたり仲良く飛んでいく。
残るのは首から下の体のみ。
その体からは、血が飛び散ったかと思うとすぐに魔核を落として灰となった。
強すぎる。
俺は単純にそう思った。さっきの俺はどこへ消えてしまったのか、全く別の人のような感覚に陥った。
「ス、ステータスッ!!」
思い出したかのように、咄嗟に叫び魔力を少し流し込む。
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レン・キリシマ Lv2
体力 870/1100 魔量 600/600
力 850
魔力 400
俊敏 850
耐久 850
異能 【怪化】 倒した怪物に変身できる。魔量はかからない。
【変身怪種】 小鬼
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「アガ、ギガゴギガギッ!?」
思わず変な声が出てしまった。
跳ね上がりすぎだろ・・・。
てか、そんなのありかよ。
体の動きが早すぎると思ったのも、さっきの小鬼の首が軽すぎると思ったのも全部これかよ。
正直怖くもあったが、それよりも今は喜びが俺の全身を駆け巡っていた。
しかも、もうLv2になっている。
通常の成長速度で行くとこれは異常だ。
普通の人ならば小鬼を約50体以上倒してからLv2へのレベルアップとなる。
しかし、俺の場合合計10体くらいしか倒していない。
小鬼と融合したことによって、成長速度も進化しているのか。
とかいろいろ考えてみるが、俺の異能は”謎系”である。理解できなくても仕方がないだろう。
(ま、考えても変わんねえか)
そう思い、全身から溢れる興奮を抑え自重する。
ダンジョンに熱中しすぎて気がつかなかったが、時間はかなり進んでいるだろう。
外は既に暗闇に染まっているはずだ。
明日は学校もあるし、もっと鍛えたい気持ちはあるが今日は我慢するべきであろう。
もう帰ろうとして、変身を解除しようとする。
イメージは逆だ。
離れて行く感じを強くイメージする。
が、しかし
「アレ?」
戻らない。
何度も強くイメージしてみる。
目を見開く。
「戻ラネェ・・・・・。」
俺が人間に戻れることはなかった。