永遠の痕
あなたの、「きれいなもの」は、なんですか?
きれいなものが好き。
たとえば、夕暮れから宵闇に変わるちょうどその一瞬の、濃い紫とピンクとが混じったような色だとか。
たとえば、寒い夜の、透き通った空気や眩しいほどの星々だとか。
そういう、多分、限られた時間の中の、一瞬のきらめきが好きで。
永遠にきれいなままのものなんて存在しない。いつかは変わっていってしまう。きれいだと思った感情も、慣れ親しんだ景色も、ぜんぶ、ぜんぶ、変わってしまうから。
それは自分も同じで。
いつまでも、幼い頃のままのようにきれいなまま、無垢なまま、純粋なままではなくなってしまうから。なくなってしまったから。
いつの頃からか作り笑いは染み付いて。
都合の良い嘘は吐くようにもなったし。
永遠なんて、ないでしょう?
永遠にきれいなものなんて、ないでしょう?
人はきれいなままではいられないでしょう?
「ずっと傍にいるよ」
そう言ってくれたあの人は、今何をしているのかな。
きらきら、きらきら、していたよね。何もかもが、きらきらしていて。一緒に歩いた道端の風景とか、寒い冬にただ黙って手を繋いでいた時間でさえも。全部。きらきらしていて。
だから、一瞬でなくなってしまったんだね。
人と人との繋がりほど脆くて変わりやすいものはないね。
だけど、あの日くれた言葉も、一緒にきれいだと感じたものたちも、一瞬だったけれど、もうなくなってしまったかも知れないけれど、それでも確かに、その一瞬は永遠で。わたしの中に残る、切ないけれど、確かに、永遠で。きれいなもので。
きれいなままではいられないかも知れないけれど、きれいだと思った景色や、きれいだと感じた感情たちは、わたしの中で、「一瞬の永遠」として痕を残すようにして、今でも、在るんだよ。
だからわたしは今でも、きれいなものを求める。
それが、いつか変わっていって、消えてしまうものだとしても、今、それは確かに、きれいで、それは、一瞬の永遠でしょう?
拙い作品を読んでいただき、ありがとうございました。
何かを訴えたくて書いたものではありません。
ただ、つらつらと、綴った短い作品になりました。
何も残らなくても良いです。ほんの少しだけ、「きれい」だなと、感じていただけたなら嬉しいです。