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前略、魔界の実力者でしたが勇者やってます  作者: おいかぜ
序章 魔人と従者、魔界を発つ
6/51

行列

 夜が更ける。西と東から昇った月が重なる。

 虚と実、彼岸と此岸の境がぼやける。

 刻限が訪れた。

 地上の月の光が、魔界の月に遮られて大地に落とす影。

 それが地上と魔界を繋ぐ門だ。


 ギジッツとエニシダは列の中ほどで順番を待っていた。


「地上行きこちらでーす」

「最後尾から並んでねー」

 整列係の腕章を付けた魔族が声を張り上げながら、割り込もうとする不届き者を殴っている。


 勅命の一つ『門を潜る者は列を作って並ぶこと。ただし魔王は除く』。


 しかし魔族は身勝手な輩が多い。

 整列係は勤勉で実直な魔王の配下という訳でもなく、そういうバカを殴りたい者の寄せ集めだ。


 列はのろのろ動いている。

 まだしばらくかかりそうだった。


「俺らはどこに繋がるんだっけ」

「整理券に記載が」

「ええと…ボルドー大陸、南西地方」


 ボルドー大陸。たしか北大陸とか呼ばれていた。


「亜人種の大陸ですね。公用語はエスノ語」

「ラッキー。エスノ語はわかる」

「と言っても…ギジッツ……様の知識は二百年前のままでは」

「それが?」


 アホを見る目で見られた。


「二世紀も経てば、言葉は様変わりするものです」


 ……理解できるまで少しかかった。

 そういうものか。


「俺のエスノ語だと、ムダに古風な言葉遣いのカン違い野郎いっちょあがりか」


「その可能性は高いです。通じればマシでしょう。言葉だけでなく文化、風俗も、ギジッツ…様の知る北大陸とは大きく異なっているでしょうし、最低限の常識も身につけないままでは円滑な情報収集は難しいかと」



 地上に出たらまず一般人に偽装。

 上級魔族である俺は、望む姿に擬態できるので外見は問題ない。

 そうして目立たず社会に溶け込み、手近なところから”危機”に関する情報を集めるつもりでいた。

 常識はどうしようもない。


 いきなり予定が狂ってしまった。


 とにかく面倒を避ける。

 素性は隠し通して、”危機”にアタリを付けたら最短で叩いて凱旋。それが理想だ。


 プランの体も成していない理想はあっけなく崩壊する。

 わかってましたよ。いや目を逸らしてたが、見通し甘々だったのは認めざるを得ない。



 「…何から始めるべきだと思う?」


 ノータリンな俺のノープランはエニシダにはお見通しだったようである。


 「メス様から、現在のボルドー大陸の情勢を大まかにではありますが、伺っております。まずはその確認をしましょう」


 さっすが、俺への態度以外はソツがない。


 「あいつ地上も探ってたのかよ」



 ボルドー大陸は、主として「霊長」を自称する人間の迫害から逃れた、他に行き場のない亜人種たちでごった煮状態の土地だ。


 

 東部一帯は原住民でもある翅族(しぞく)の支配圏。

 広大な原生林は不可侵とされ、統一女王が厳格な身分制度の下に統治する。

 翅族は他種族を奴隷として扱うことに躊躇がないらしいとエニシダは顔を少し歪めて言った。



 北部は兎人(ラビト)その他の獣人たちの寄り合い所帯。

 小さく力の弱い獣人種が北へ北へと追いやられたらしい。

 手先が器用な者が多いらしく、細工物を輸出して細々とやっている。



 そして西部から南部にかけては、大陸の最大勢力「竜虎連合」の領土。

 力ある獣人族と、竜の末裔と称する蛇鱗人(ジャリーン)の国。

 最大勢力ではあるがかろうじてまとまっているに過ぎず、部族間の衝突が絶えない。

 竜虎連合と翅族(しぞく)は反目し合っており、危ういところで均衡を保っている。



「大陸の南西っつうと…」

「竜虎連合ですね。人間による迫害は過去となって、今では外見による差別は鳴りを潜めているようです」


 獣人族は亜人種の中でも、外見が大きくばらつく。

 ケモノの特徴を色濃く残すものとそうでないものとでは同じ種族に見えないほど。

 ただしその中間と言える層が最も多い。


 人に迫害された亜人種たちの中にあって、人に近い外見の者がどんな扱いを受けるか、さすがに察しは付く。

 それでも話の通りならエニシダの外見もさほど問題にはならなそうだ。


「そして、獅子族(レイオン)に少しきな臭い動きが見られると」


「竜虎連合の有力部族だったよな」


「ええ。部族間の合議制を敷く竜虎連合ですが、近ごろ獅子族(レイオン)の酋長が代わり、軍拡を訴えるようになったそうです」

「ふうん…」


 軍拡。

 戦争の準備、あるいは国家間の軍事的優位に立てるだけの武力を蓄えること。

 真っ先に思い当たるのは翅族だ。連合が大陸の覇者となるための障壁。

 あるいは人間の国家群に対する牽制か。


 これが『人類の危機』に直接繋がっていると見るのは早計だろう。

 しかし何か関係はあるかもしれない。


「また、未確定ですが、獅子族(レイオン)が独自に腕の立つ者を集めているという話もありました」

「傭兵を?」

「はい。求めるのは力のみ。出自は問わないそうです」


 うーん。

 気は進まないが、地上で取れそうな行動は今のところ一つ。



「整理券番号、1450から1459番。お前らの番だ。どうぞー」


 横柄な整列係が告げた。



 俺の前に並ぶ魔族の肩を軽く叩いて、相談を持ち掛ける。

 地上に続く列が動いた。

活動報告にて、キャラクター設定第一弾を出しました。

自分のモチベ維持に必要なだけのアレですが、よければそちらも見てやってください。

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