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前略、魔界の実力者でしたが勇者やってます  作者: おいかぜ
二章 魔人と従者、勇名を轟かす
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二人組①

 意識がまだ戻っていない以上、行倒れの二人がどこから、どのような成り行きでこの砂漠の真ん中まで来たのかは判然としない。だが、行き倒れた理由はすぐに察せられた。

 ろくに旅の荷物をもっていなかったのだ。


 二人連れの片方、人間の男のほうは一見して獣人族とわかったが、その特徴は獅子族(レイオン)虎牙族(ティーガ)狼尾人(ロオレン)のいずれでもない。これまで行ったどの町や村落でも見かけない珍しい種族だった。男の持ち物はといえば、頭に巻きつけている布と、全身をすっぽり包むマントのほかには何もなかった。背負い袋はおろか水筒ひとつ持っていない。マントは砂渡りの外套(デューンクローク)と呼ばれる代物で、この地方に暮らす者にとっての必需品ということだった。つまり、追い剥ぎに遭った旅行者ではなく土地の人間である可能性が高い。


 翅族は首まわりや前腕をいくらか装身具で飾っているが、ヒトのように衣服をまとってはいない。背面から尻にかけてを、なめらかな曲線を描く艶やかな甲殻が覆っていた。くびれのあるカーブは女性的な印象を抱かせる。頭がひとつ、二本の足で歩き、二本の前腕を持つところは人間とかわらないが、翅族は胸と腹、尻がそれぞれ節で区切られている。顔にはどこか愛嬌のあるふたつの大きな目と、口がひとつあるが、鼻はどこにも見当たらなかった。


 事情も何も不明だったが、発見した手前、置いていくのも忍びなかった。馬車のスペースには余裕があったため二人を収容できたものの、さすがに少し手狭になった。


「でも、なんで雨季に砂渡りの外套(デューンクローク)を着けてるんでしょう」


 小雨の中を馬車が駆ける。クラジが疑問を呈した。


「なんでって……何が」

「これを着てると、体から水分が逃げにくくなるんです。乾いた砂漠で脱水を防ぐためのものなんです」

「なるほど。わからん」


 ただのマントと見分けすらつかないギジッツにわかるわけがない。


「しかし、乗せたまではいいとして、東に進んで良かったのか」ワギが口を開いた。


「「あ」」

「うん? ……あ」


 目が覚めるのを待たずに東進を再開したが、言われてみれば、この二人の目的地がわからなかった。雨に洗われた砂地には足跡も残っていなかったし、倒れていた向きから、ギジッツ達が目指す方角……東からやって来たのではないか、という推測くらいしか立たない。

 このまま二人を東に運ぶのはかえって迷惑かもしれない。が、一番近くの人里といえば、砂鱗族の町ヨ・ゼゼシナだ。ギジッツ達は立ち寄らなかったが、ここからではだいぶ距離がある。行倒れに辿り着けるとも思えない。


「うーん。急ぎじゃなきゃ町まで連れてってもよかったが」

「雨風をしのげそうな場所を探して、介抱しますか」

「そうするかあ」


 辰砂鮫(アカスナザメ)に追いかけられたおかげで、最高速度で脇目もふらずに砂漠を進んできた。多少のタイムロスは問題ないだろう。



 適当な岩場を選んで、天幕を張って野営地とする。


 石でかまどを組んで鍋を設置し、水で満たした。湯沸かしだけなら『沸騰』で十分だが、鍋で具材を煮込んでスープを作るので、結局火を焚く必要があった。ワギが火打石で着火する技術を持っていたが、クラジの練習も兼ねて魔述で火をつけることにした。

 楽譜とにらめっこしながらの演奏は成功するにはしたが、過剰な大火力が出て鍋ごと包むほどの炎が上がり、薪が一瞬で燃え尽きた。二度目は加減もうまくいって、どうにか適当な火勢に落ち着いた。湯が沸くのを待つ時間は『沸騰(ボイル)』で短縮した。こちらのコントロールは板についてきたようだった。皮をむいて輪切りにした野菜と調味料を鍋に放り込む。ギジッツがアンダーテイカーさんで野菜を切ろうとしたところ、断固反対されたのでナイフを使った。


 気温はさほど低くないが、雨ざらしだった行き倒れたちを見つけたとき、体温がかなり下がっていた。今は体も乾いて体温も平常近くなっていたが、依然目が覚めない。焚火には暖を取る意味合いもある。

 もっとも、翅族の平熱が「人肌」と同じなのかはこの場の誰にもわからなかった。時折体が動くところを見るに、死んではいないらしい。


「スープの匂いにつられて起きてくれたらいいんですけどね」

「外傷もない。空腹で倒れたのかもしれんな」

「これちゃんと食えるの?」


 味付けはエニシダが担当した。

 魔族は食事をせずとも生きていける。ギジッツには味がわからないので、食べるフリをする際どんなひどいものだろうと関係なく口に運べるが、まずいものを口にしてニコニコしていれば、とんでもない味音痴と思われてしまう。実際、味がわからないのは、味音痴と同義ではあるが。


「失敬な!私の料理の腕前はご存知でしょう」


 いかにも心外だ、という反応を見せる。自信はあるようだ。


「しらん。普段お前が作ったもの食うの、お前だけだからな…」

「ぶつくさ言ってると食べさせてあげませんよ」従者がむくれた。


「危険なにおい(・・・)はしないぞ」

 ワギがくんくん鼻を鳴らしながらいった。

「オレも腹減ってきた… そういえば、翅族の人はスープ飲めるんですかね?」


「ん、ん…… こ、ここは」


 四人は、鍋の少し近くで火に当たっていた声の主を振り返った。スープにつられてかは不明だが、そんなことを言っているうちに、男の方が目を覚ました。



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