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「勇者って何すりゃいいんだろうな」
魔公爵メスの居城からの帰路。
行きと同じくエニシダの創造魔法で用立てた二頭立て馬車に乗っている。
彼女も手慣れたもので、この程度の創造なら造作もない。
「おとぎ話のセオリーなら、町や村、国々を巡って民衆と関わり、そこで問題が起きていれば解決していきますね」
想像しただけで気が滅入る。
「なんて面倒くさいんだ」
「その旅で準備を整えながら、人類世界の脅威と対決していくのでしょう」
「…契約、やめていい?」
「………」
自慢じゃないが、わが部下、エニシダは美しい。口元には惚れ惚れする微笑がある。でも目がまったく笑ってない。
わかる。なんだかんだ付き合い長いし。かなり怒っている。
「冗談だよ!まあ、魔界の引きこもり生活はいったん止めだな」
「さっそく地上へ?」
「何しろ、情報収集を頼める魔界のツテもない。地上にコネもない。あと、金もない」
「……」
にっこりと微笑まれた。
これは哀れみだ。
「しょうがないだろ!必要なかったんだから!!」
俺にはお前だけいればいい、とか口走りかけたのを抑える。自分でもキモい。
「地上に出る。そのためにまず、おやっさんに謁見だな」
「閣下ならいくらか無心して下さるかもしれませんね」
「アテにはしてねーけどな。地上に出たら金が要る。金策は何か考えよう。
しっかし、面倒を避けられるかと思ったが、なったらなったでだるいな、大魔公ってのも」
魔界は、地上…物質界の覇権を争う魔族と竜族との大戦と和解を経て、時の魔王によって創造された、魔族の住まう隔離空間である。
君臨するは絶対王者たる魔王。その配下、66柱の上位魔族が魔界の支配者だ。
最高位の公爵位を戴く四柱の魔族は、大魔公とも呼ばれ恐れられている。ただ一人……俺を除いては。
エニシダは何か思い出した様子で、堪えきれず吹き出した。
「ブフッ。しかし、ギジッツ……様が魔公爵とは、クッ、失礼」
「威厳もクソもねーのはわかってるよ」
領地とは名ばかりのさびれた城が見えてくる。
そしてわが目を疑った。魔王の乗騎である三頭翼竜が城の前で休んでいる。
その主の巨大なシルエット。見間違うはずもない。
魔王が俺達の帰りを待っていた。
6代魔王、ディヴァン・クィービアヴァン。
その名で呼ぶ者は少ない。通称、極光帝。
「よーーーーおっ!!!!」
馬車が震える。
おっさん声でけえよ。
伴も連れずにいる。機嫌がいいのだろう、陽気そうな顔。
エニシダが念じて、馬と馬車は煙になって消えた。
魔王の下まで歩み寄る。
臣下の礼を取ろうとするも、軽く手を挙げて制した。
「ブワァッハハハハハ!!!!!
いらん、いらん。敬ってもないヤツの礼なんぞ」
こんなおっさんだから、敬う気も起きないのだが。
クソでかい声でバカ笑いする度に突風が起こるから、機嫌がいいのも厄介だ。
「わぁざわざ、小うるさいハエを振り切って来てやったんだからな。無礼講だ」
ニヤリと笑って言った。
俺の左目をしげしげ見てくる。弱い金の光を発する目。
「久しぶりっすね。なんでここに」
「なあに、メスのヤツが珍しく伝令をよこして来てな。面白そうな事になってるじゃあないか」
そんなところだろうと思ったが、事情はだいたい伝わってるらしい。
「こっちから暑苦しい魔王城に出向く手間が省けたのは感謝します」
「ブワッッハハハ!!!!!」
何が面白いんだか。
「地上に出る許可を―――」
「条件がある。最近、運動不足ぎみでなぁー」
ゲェ。
「遊ぼうや。十分もしたらハエも追いつく。それまでな!!」
「拒否権は……」
魔王は答えない。にやにや嗤っている。
エニシダはいつの間にか距離を取っていた。目が合うと、口パクした。
オウエンシテマス。
極光帝が動いた。
外見とかロケーションもうちょいちゃんと描写した方がいいと内なるゴーストが囁きます。