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遠征訓練


 遠征訓練。それは魔法使いの卵達が集うこの魔法学園が、定期的におこなう行事の一つ。

 生徒は同じクラスの者同士でペアを組み、森林の中を二日間かけて横断する。持ち込めるものは学園から渡される最低限の支給品と、魔法の発動にどうしても必要となる物のみ。足りないものは自力で現地調達しなければならない。

 難易度は、入学したての一年生でもクリア出来る程度とされている。跳梁跋扈しているという魔物も比較的弱い部類であり、魔法さえ使える生徒ならば十分に達成可能だそうだ。

 だが、気を抜いてはならないとティフは言っていた。

 もし森の横断中に大怪我を負い、助けが必要になれば専用のフレアを空に打ち上げることで助けを呼べる。ただし、それが間に合うとは限らない。何年か前には、死者が出たこともあるらしい。

 危険であることには変わりない。だから、心しておくことがある。身の危険を感じたらとにかく逃げろ。そして、意地を張らずに助けを呼べ。無事に遠征訓練を終えたければ、その二つを決して忘れてはならない。


「いよいよだねー、遠征訓練。あたしは今から憂鬱だよー」


 そして、一週間の時が過ぎた。今日は、遠征訓練当日である。


「一週間前からずっとそれだな、ケイトは」


 この一週間で何度かあった勉強会に、結局のところケイトはすべて参加した。

 そのこともあって交流が深まり、彼女の呼び名もイーストハルトからケイトへと自然と変わっていた。まぁ、これは俺自身の魔法を、自分がネクロマンサーであることを、ケイトに打ち明けたからでもあるが。


「だって、支給品以外に森へは持ち込めないし、水辺を見付けて身体を洗おうにも何時魔物に襲われるか分からないもん。それに何処で誰が見ているか分かった物じゃあないのが辛いところだよー」


 そう言ってケイトは項垂れるように、食堂のテーブルに額を乗せた。


「あ、そうだ。それより大丈夫なの?」


 かと思えば、すぐに顔を上げる。


「なにが?」

「ラクドくんの魔法だよ。絶対にバレちゃうよ? すくなくともペアになった生徒には」


 あぁ、その話か。


「それはもう良いんだ。ケイトにも言っただろ? 隠してもどうせ何時かはバレるから隠さないことにしたって。まぁ、何を言われるか分かったものじゃあないが、それもほとぼりが冷めれば収まるよ。それに特別珍しいって訳じゃあないんだろ? ネクロマンサーってのは」

「まぁねー。そうだけどさー」


 死霊術を扱うネクロマンサーは、なにも俺だけに与えられた称号じゃあない。例えば俺の両親の片方、あるいは両方がネクロマンサーだ。探せばこの学園にもいるかも知れない。数はそれほどいないが、決して珍しい訳でもない。ネクロマンサーとは、そう言う立ち位置にある。

 それにバレて昔のように迫害されようとも、この二人がいる限り俺は孤独にはならないから。


「ほら、もう行こうぜ。時期にティフも学園にくる頃だ。そうしてだらだら引き延ばそうとしたって、時計の針は遅くなってはくれないぞ」

「ぶー、ラクドくんは厳しいよ。あたしに対する愛はないのか!」

「愛故に厳しくするんだよ。ほら、冗談言ってないでさっさと立つんだ」


 しぶしぶイスから立ち上がったケイトと共に、俺達は学園にある広大なグラウンドへと向かう。俺達がそこへと到着する頃には、すでに大半の生徒が列を成していた。一学年の生徒がスペードからの順番でクラスごとに並んでいる。

 俺とケイトは周囲を見渡して、ティフの姿を探した。


「あ、おーい、ティフー! こっちだよー!」


 ケイトがティフの名前を呼ぶ。ケイトの視線の先に目をやると、目立つ金髪が確かにあった。きょろきょろと見渡していたティフが、こちらの位置に気が付いて駆け寄ってくる。


「おはよう、二人とも。ケイトはきちんと腹を括ったのかしら?」

「括りたくなくても括らなくちゃでしょ? もう諦めた」


 ケイトの重い腰も上がりきったみたいだ。


「もうすぐ時間だな。二人とも頑張れよ」

「頑張るのはラクドくんのほうでしょ。やめてよ? 遠征訓練が終わったら死んでましたーとか」

「また縁起でもないことを。そうならないよう、気を付けるよ」

「それじゃあ私達は行くから、頑張ってね」

「あぁ、今度会うのは遠征が終わった後だ」


 軽く言葉を交した後に二人と別れ、俺は一人でクラブの生徒が列を成している場所へと向かう。さっきまで二人と話していたからか、何人かと目があった。すぐに目を逸らした辺り、後ろめたいことをしている自覚はあるらしい。

 そして、この遠征訓練で俺とペアを組む生徒の前まで歩みを進めた。


「よう、間抜け面。またあの二人と話してたのか?」

「あぁ、そうだよ。デカ態度。友達と話をするのは当然のことだろ?」


 ウィル・ウィーストリア。よりにもよってあの態度のデカい生徒が俺のペアだ。


「ケッ、おしゃべりするのは勝手だがよ。お遊び気分で森に入って俺に迷惑をかけるんじゃあねーぞ。足手纏いにならないように、常に細心の注意を払え。分かったな、間抜け面」

「あぁ、肝に銘じておくよ。デカ態度」

「なんだ? 口の悪さはともかく、やけに殊勝だな。なに企んでやがる」

「べつに、なにも」


 相変わらずのデカい態度だが、ここで反抗的に言葉を返してはならない。

 これから向かう森、黄昏の森と呼ばれる地は危険地帯だ。魔物が跳梁跋扈し、いつ襲われても不思議じゃない。協力者となるペアとは、なるべく仲良くしておいた方が良い。ただでさえ以前のことがあったのだ。脛への一撃を決めた分、こちらが殊勝になろう。

 それに魔物との戦闘に関して、俺はド素人ともいいところだ。どうしてもウィーストリアを頼らざるを得ない。無事に遠征訓練を終えるために、殊勝になることは必要なことだ。


「ふん、まぁいい。お前が何を企もうと俺の障害にはなりえないからな。間抜けは間抜けらしく、猿知恵でも働かせてろ」


 最後まで殊勝でいられるか、ちょっと不安になって来たな。

 途中で堪忍袋の緒が切れなきゃ良いけど。


「生徒のみなさーん。注目してくださーい」


 これからに一抹の不安を抱いていると、先生の大きな声が響く。

 いよいよこれから遠征訓練が始まる。何事もなく終わればいいが、抱えた不安要素の数は多い。今のうちにしっかりと腹を括っておこう。何が起きても冷静に対処できるように。



 黄昏の森への移動は、魔法陣という幾何学模様の円によって行われた。

 この世界では一般的な転移というもので、言うなれば瞬間移動が出来る円だ。ある地点からある地点へと、時間を挟むことなく移動する。現在地点と目的地に同一の魔法陣があることが条件で、魔法陣の作成も何かと面倒らしいが、その辺の話は忘れてしまった。

 またティフとケイトに教えて貰わないと。


「それでは次のグループ。前に出てください」


 魔法陣の大きさは人間が十から二十ほど乗れる程度。それがそのまま一度に転移できる人数の上限だ。この度はペアをいくつか寄せ集めたグループを作り、順に転移が行われた。その優先順位さえもスペードからで、俺達の順番が回ってくるまでに結構な時間が掛かった。

 そのお陰でウィーストリアはご機嫌斜めだ。


「では、転移させます。黄昏の森を抜けた先で、また会いましょう」


 先生から力強い言葉をもらった後、魔法陣が淡く輝き始める。

 その次の瞬間だ。一瞬だけ視界が暗転し、それを境に見えていた景色が一変した。

 グラウンドの剥き出しで土色をした地面が、今は生い茂る緑に覆われたものになっている。その先を見れば、数え切れないほどの木々が生えていた。どれもこれも幹が太く、背が高い。樹齢はどれくらいなのか、想像も付かないほどだ。


「はい、ぼーっとしてないで魔法陣から出る。そして私に注目して」


 指示にしたがって、魔法陣から出て現場の先生に注目する。


「今からグループは解散、以降はペアで行動すること。ペア同士で協力するしないは自由。それぞれで考えて森に入りなさい。以上」


 簡潔簡素に説明は終わり、先生は口を閉じた。

 必要最低限のことしか言わず、あとは自分達で考えろということらしい。俺達と一緒に転移してきた生徒達は、恐る恐るほかのペアに声を掛けている。この場にいる殆どの生徒が、協力を望んでいた。

 そう、殆どの生徒は。


「ハッ、協力だ? 有り得ないな。俺は一足先に森に入らせてもらう」

「なっ、おい! ウィーストリア!」

「嫌なら付いてこなくて結構だ。お前はそこでうだうだ言ってる奴等と行けばいい。俺は一人でも森にいく」

「一人でもって、ああもう! おい、待てよ。ウィーストリア」


 本当に一人で森に入ろうとするウィーストリアを追いかける。


「何が気に食わないんだよ。味方は多い方がいいだろ」

「あぁ、そうだな。俺もこれが学園の行事じゃあなけりゃそうしてるよ」

「どう言う意味だ?」

「分かんねーのか? この遠征訓練の評価に関わるって言ってんだよ」


 そう聞いて、ウィーストリアの考えていることが少し見えてきた。

 他のペアと手を組んで大人数で遠征訓練を乗り切るのは、いい手だ。生存率が飛躍的に上がるし、難易度も大幅に下がる。だが、その分だけ個々の評価は低くなる。ウィーストリアは、それを嫌ったのだ。


「俺はクラブなんかで終わるつもりはない。なんとしてでも上のクラスに這い上がるんだ。そのためには仲良し小好しで評価を低くする訳にはいかない。単独でもクリアして、少しでも評価を高くする。それが近道なんだ。このくそったれなクラスから脱出するにはな」


 クラブの環境から脱出したい。考えていることは、みんな同じだ。


「分かった。なら、止めないことにする。でも、一人じゃあ森の横断なんて出来っこないだろ? 俺も付いていくよ」

「はぁ? いったいどう言う風の吹き回しだ」

「単純な話だ。ペアの片割れが無謀なことをして死にでもしたら、こっちの夢見が悪い。どうして止めなかったんだって非難されること請け合いだ。だから、付いていく。お宅はどうせ、口で言ったって言うこと聞かないだろうからさ」

「……勝手にしろ」

「ああ、勝手にさせてもらう」


 話は済み。俺達は他のペア達よりも一足早く、森の中へと足を踏み入れる。

 黄昏の森。そう呼ばれるだけのことはあって、森の中は鬱蒼としていて薄暗い。巨木が密集しているから、枝葉に遮られて太陽の光が此処まで届いていないのだ。まだ午前七時ごろだと言うのに、気分はまるで宵の口だ。


「さて、行くとしますか」

「足を引っ張るなよ」


 そうして俺達は、森の奥へと歩みを進めた。

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