~02~
あと一月もすれば春の陽射しに移り変わろうかという季節のある日、それは姿を現した、蟻型モンスター(全高2mくらいはある)の大軍による進行軍で、モンスターは近隣の村を襲い食料を奪い家畜を喰い漁り尚も進行を続けたいた、グランセルの中央会館にある執務室でオリヴァーはその報を受け取ると、ついにこの日がやって来てしまった事を知った。
「僕ら冒険者の業・・・か」
オリヴァーはそれだけを呟くと、緊急時対策パターンBと呼ばれるものを発令した、それは予め起きることが想定されていた事態に備える為に作り出された物で、聖都グランセルを含んだ近隣の住人達にも予め伝えられていた対処方法である。
「長い戦いになりそうだな」
オリヴァーは窓の外を眺めながら今幸運にもこの街に滞在してくれている英雄達を思い浮かべ心から感謝を述べたそれと同時に謝罪も、いざというときは危険を承知で死地に送り出さないといけないこともあるからであった。
ことの始まりはレオン達の来た年明け頃の事だった、久し振りに会った友人達と酒でも呑みながら情報交換でもしようと酒場でヤマトで起きた事を聞いた時、オリヴァー達は身に覚えのある出来事が有ることにきづいた、初心者の比較的多かったらしいグランセルの冒険者は、初心者育成達を兼ね様々なクエスト(依頼)を受けて各地に足を運んでいた、これによりクエスト漏れも特になく近隣で目立った事件も起きてはいなかった、ある一点を除いては、それはタームソルジャーという蟻型モンスターの発生である。
2年毎に、夏頃から冬前にかけて~~平原でタームソルジャーの群れがPOPし始める、討伐するかはフリーであり気付かずに放置するプレイヤーも多い、故に見逃していたのである、このフリーイベントが後に控える大きなレイドイベントの成否を問うもので有ることを。
~【タームクィーンの羽化】~
一部のイベントの元になった欧州サーバーの恒例イベント、イベント告知はなく、夏頃から発生し始めるタームソルジャー(蟻型のモンスター)の群れを退治し続けると、女王蟻は羽化するために十分な餌を得ることが出来ず兵隊蟻も徐々に弱体化していく、翌年の春前になるとタームソルジャーは再び動きだし冬の餓えを抱えた蟻型モンスターはかなり狂暴に近隣の村々を襲い家畜や食料を喰い尽くしていく、これにより被害は多数で、タームソルジャーを打ち倒していき、巣の奥に居る女王蟻を打ち倒せというレイドイベントの告知が行われる、タームソルジャーを倒し続けていれば女王蟻は結局羽化は出来ず、兵隊蟻も数は少ないのでハーフレイド級でイベントレベルも55とソコまでは高くはない、その反面タームソルジャー退治もろくにせず放置し続ければ女王蟻は見事な成長をとげ兵隊蟻の数も大多数、一転レギオンレイド級にまで跳ね上がりイベントレベルも80と格段に上がるのである、尚イベント報酬もレイドタイプによって格段に変わるのが特長で、ゲームであった時代なら近隣プレイヤータウンで情報交換しレギオンレイドで挑む為にわざと兵隊蟻を退治しない選択肢も選ばれたりしている、その際にはレギオンレイド挑戦したい旨を近隣プレイヤータウンに告げておく必要がある、そうしなければ他のプレイヤーが兵隊蟻を倒してしまうので。連絡の不徹底が元でレギオンレイド挑戦チームとハーフレイド挑戦チームとのPKに発展した事もあるほど。
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去年の夏頃からタームソルジャーの発生があったとチラホラと報告は聞いてはいた、同時に帝都エレボニアの冒険者が平原付近に陣取りPK行為を繰り返しているという報告もあった、それからグランセルのプレイヤー達はPKが蔓延る平原には近付かないようにしていたので失念していた。
彼等がタームソルジャーを倒していたという報告は受けてはいなかった事に
2週間前、先輩GMのトマスとタカミヤ達に冬の間にこの問題を処理出来ないか聞き探索に行ってもらった所、巣の中は荒れに荒れた状態だったとの事、兵隊蟻の数が多すぎるが故に餌が無くなって共食いを頻繁に行い、育ちに育った女王はレギオンレイドタイプのそれよりも遥かに大きいとの事だった。
帝都エレボニアのプレイヤーにオリヴァーはイベント前にそれらの旨を書き記した親書を送ってはいるのだが、当然の如く返信などは来ない、彼等からしてみても無視出来るような状況ではないと思うのだが。
「エレボニアのプレイヤー達が動くかどうか、それが問題か・・・」
イベント発生の報告から既に2時間弱、近隣の村からの避難民を中央会館の大ホールへと誘導し、Lv90のプレイヤー達は既に出陣の準備を終え避難民の誘導が終わるのを静かに見守っていた、彼等の出番はこれから巻き起こるレギオンレイドである。
「このグランセルのLv90プレイヤーは生産職含めて約1万5千、これだけいるのだから失敗はないと思いたいが」
オリヴァーが想定する最悪のケースではエレボニアのプレイヤーの介入によるPK行為から始まるグランセルの崩壊までが織り込まれていた、その際はトマスに頼みエレボニアのプレイヤーを大人しくさせる事になるだろうと思うが、何にせよ、バグモンスター事件が切っ掛けとはいえ先輩GMのトマスがグランセルに戻って来ているのは心強い、オリヴァーの想定する最悪のケースになる可能性は1%未満だ。
「やれ、僕も避難民の誘導を手伝って来るかな」
「近隣住民の避難完了しました、レイド部隊いつでも出陣できます!!」
腰を上げた直後に避難誘導完了の報告を受け、なんとなく格好付かないながらも一つ咳払いをして気を取り直し、伝令に出陣の命令を出す、伝令も敬礼付きの返事を返し直ぐ様部屋を出ていく、オリヴァーも準備を整えると街門に向けて部屋を後にしたのだった。
~グランセル、街門~
数百にも及ぶレイド部隊達は自慢の武器を手に今か今かと出陣を待ち兼ねていた、今回のレイドは冒険者の落ち度によりレギオンレイドタイプに規模が拡大してしまったイベントだが、ここに居るプレイヤー達は一切の気負い無くただ静かにだが闘志は熱く燃やしたて、何せここに揃った冒険者達は長いものはプレイ歴20の最古参からプレイ歴3年と若いがゲームをやりこんだゲーマー達である、このイベントに心が踊らないと言えば嘘であろう。
「諸君、近隣の村々の避難誘導は既に終え、今・・・時は満ちた!!、全軍出撃せよ!!」
退役軍人らしい軍団長という人物の出陣の一喝を受け、冒険者達は力強く雄叫びを上げ戦場に向けて進軍を開始した。
「相変わらずねあのオッサン」
「ん?、ああ、カシウスさんか」
「娘さん達はインしてないんでしょ?」
「お陰さまでな」
街門の片隅で会話していたレオンとタカミヤの元に軍団長をしていたカシウスがやって来て話に混ざる。
「そう言えばミヤ君、年頃の子は普通何を欲しがるんだ?」
「どしたの急に?、まあその娘の趣味によるけど普通は服とか可愛いアクセサリーとかじゃないかな?伊織は普段プレゼントにそういうの欲しがるし」
「やはりそうなのか・・・」
「どしたのよ?」
「娘の育て方をどこで間違えたかなぁ・・・・」
「へ?」
言いづらそうにするカシウスに代わり、リアル世界でのお隣さんのレオンが話を続ける、なんでもカシウスの娘のエステルは着飾れば可愛いのにスポーツカジュアルを好みスカートよりも短パン派でスニーカー集めと釣りが趣味らしいとの事。
「また、レオンと気が合いそうな子ね」
「実際ヨシュアとエステルを連れてキャンプに行った事もある」
「可愛い義弟君のお嫁さんって訳ね」
「エ、エステルに結婚などまだ早い!!、お父さんはそんなの認めんぞぉぉぉぉ!!!」
「で、エステルにお父さんなんか嫌いてっ言われて、落ち込んで久し振りにエルダーテイルに俳人ログインしてて大災害に巻き込まれたらしい」
「・・・・自業自得じゃない?」
「ぐふぅ!!」
ぐさりという効果音が聞こえた気がしたとおもえばカシウスは地面に体育座りで座り込みグスングスンと泣いていた、もうじき50になろうというオッサンが何をいじけているのやら。
「まあ、娘との仲直りをどうすればいいのか聞いて回っているうちに巻き込まれたらしいし」
「仲直りもできないで本末転倒になったわけね」
「ほら旦那も、いつまでも泣いていないで出陣だろ」
「・・・・そう、だな」
今だに落ち込んでいるオッサンを伴い、レオンも戦場へと足を運んだ。
「良いわねぇ、結婚組は子供の悩みがあって」
タカミヤも一応は結婚組で現実には嫁が居るのだが、まあ色々理由があるのである。タカミヤは壁に立て掛けてあった複合型特殊兵装『ファランクス』を背負い1人戦場に向かった。
『カシウス』
レオンの家の隣にすむブライト一家の親父さん。
退役軍人らしく、大災害後の中でも他社を圧倒する結構な腕を持つ、娘と喧嘩してしまい、仲直りの方法やご機嫌とりの方法を聞くために古い友人達と3日間チャットし続けるという俳人ログインをしていた結果大災害に巻き込まれ、娘と喧嘩別れた状態になるという本末転倒な状態になってしまった哀れな親父。
ヒューマン:盗剣士:Lv90/遊撃手:Lv90/使用武器は刀と双棍棒