~14~
タカミヤがエリカ博士の依頼で久しく来ていなかった研究材料用の古代兵器の鹵獲を行い、大まかに分解したパーツ類を荷馬車に積んでいると森の奥の方で激しい爆発音が響いているのが聞こえてきた、音から大雑把に判断するに戦闘をしているのだろうとなんとか判断でき、荷馬車にパーツを積み終えるとステルス効果のある「シャドウヴェール(アイテム)」を使って馬車を隠した後、タカミヤは戦闘が行われている場所へと静かに、だが迅速に駆け寄っていく。
***「シャドウヴェール」*********************************
隠蔽効果を得られるアイテムの一種、お使いクエストで逃げ足の速い希少モンスターに近付く際に結構重宝する一回使いきりタイプのマントで、ショップや露店にて1つ金貨20枚で購入可能。
運営は意図して無いことだが、意外にも初心者や中級プレイヤーがPKから隠れる際にも結構重宝している模様。
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タカミヤが木の影に隠れ、爆発音のする方向を静かに確認すると。どうも爆発音を響かせていたのは大地人のトレジャーハンターのカノンであり、なにやらモゴモゴ動く大きめの麻袋を抱えた怪しい男達、恐らくは余所から流れてきたであろう冒険者を追い掛けて攻撃を加えていたようだ、よく見るとカノンの左腕の動力義手の兵装が魔導砲弾を打ち出す長銃に交換されている。
「待て!!貴様達、その袋を置いていけ!!」
「嫌なこった、誰がせっかく捕まえた金ヅルを渡すかってんだ!!」
事の成り行きは未だによく分からなかったがどうも誘拐紛いの事を仕出かした冒険者をカノンが追いかけているのだろうと戦闘している数人の叫び声から微かに判断できた、だからタカミヤはその冒険者の逃げる方向に先回りし、木陰から足を引っ掻けてやり、思いっきり前に派手に転んだ冒険者から麻袋を奪い取ると手刀を首へと叩き込みその男を気絶させた。
「ちっ、仲間が居たのか!!」
もう一人の盗剣士の男がデュアルソードをタカミヤへ向け麻袋を奪い返そうと襲い懸かろうとするがガゴンと鈍い音がして男はグラリと体勢を崩しながらも振り返るとカノンが左腕の義手に取り付けられた長銃を振りかざし、次の瞬間男の意識は闇へと消えた。
麻袋をカノンに渡し、タカミヤは気絶した男達を街道沿いの非戦闘エリアへと引き摺って来ると木陰へと二人を降ろした、再び隠しておいた荷馬車の元へと向かう途中、未だに麻袋と格闘中のカノンが悲しそうな声で助けを求めてくる、どうやら麻袋を閉じた紐が固すぎてほどけないようだ、中身が傷つくのを避けるためにナイフも使えないので困ってタカミヤに助けを求めたらしい。
「はい、これでいいわね」
タカミヤは冒険者の馬鹿力で紐を引きちぎり踵を返して歩き出す、カノンのタカミヤの隣を歩きつつ麻袋をガサガサと音をたてながら取り外しているようだ、そして数秒後妙な鳴き声と共に麻袋の中身が姿を現した。
「ミャア」
「よしよし、大丈夫だったか~」
「え、中身って【ハウリングドラゴン】の子供だったの!?」
袋の中から欧州サーバー最北端にある《アラバスタ大峡谷》というダンジョンにすむドラゴンの子供が出てきた事で益々嫌な予感しかしないタカミヤはシャドウヴェールを使い姿を消し、ドラゴンの子供と戯れるカノンから静かに逃げ出した、ある程度距離をとったところでカノンがタカミヤの名前を叫んでいる声が聞こえてきたが敢えて聞こえないフリをし、隠しておいた荷馬車を回収し街道まで急いで進み出す。十数分後、カノンを撒いて荷馬車を引きながら街道を歩くタカミヤは街道を少し下ったところにある川沿いに見覚えのある一団がキャンプを張っているのを見つけた、少し前にマインツ鉱山で出会った冒険者達だ、どうやら今日は川でバーベキューをしているらしく随分と楽しそうだ。つい数週間前、9人の少年少女の家となるギルド立ち上げの申請にグランセルに来ていた三人も、今ではすっかり立派な親バカ保護者になり、彼等の為に《初めてのお使い~冒険者編~》というクエスト企画書を作り上げて発注しに来ていたりしている、まあ知り合いであるという点でタカミヤにお鉢が回ってきてオリビエを殴ったのも記憶に新しい。
「あ!、おーいミヤっさーーーん」
長々と眺めていたせいか相手側もタカミヤに気付いて大きく手を振って声をかけてくる、挨拶だけでもしておこうと川沿いへの道をゆっくりとくだると、マイケル(3人いる保護者(Lv90)の内の1人でリーダーでギルマス)がバーベキューを取り分けた皿をタカミヤに薦めて来たが所用の途中で挨拶が済んだら再び出発すると丁寧にやんわり断った、子供達も挨拶が済んだらバーベキューに再びガッツいていき元気はつらつだった。
「何ですかその荷馬車?」
タカミヤの引いていた荷馬車の繁々と眺めていたのは《J》、メイスとタワーシールドそれにフルプレートと重装備型の施療神官でサブが料理人で兜で分かりにくいが女性である(恥ずかしがりやで兜もしくはマスクがないと喋れない)、最後の1人はタワーシールドにフルプレート、そして片手でも一応扱えるアックスを片手武器として使う守護戦士で《フォックス》と言う名前だ、なお顔はどこぞの誰かのようにOPを歌っていそうなウルフマスクを被っているので分からないが一応《人間》なのだそうだ、なお本人曰くキツネマスクが欲しかったが無かったとの事、彼がマスクを被るのはゲームだった頃からの趣味らしい。
「なんか、ドクとデロリアンが欲しくなる名前よねぇ相変わらず」
「仕方ないさ《大災害》の起きたときはログインしてなかったんだから」
「あ、ごめんなさい私はこれで、ちょっと!!、それはまだ半生よ、あ~コラ!!!」
何て言うことはない世間話をしているとJが挨拶を済ませバーベキューをしている所へ慌てて戻っていく、それを見送ってマイケルとフォックスに挨拶を告げ街道まで戻るとタカミヤの頭に急に何かが乗っかってきた。
「アギャァ」
「あ・・・」
頭の上に乗っかったモノをどけるとそれは先程のハウリングドラゴンの子供だった、少し世間話に花を咲かせ過ぎたらしい、カノンが追い付いて来ていきなりタカミヤの腰元にしがみついた・・・が、ゴンという鈍い音を立ててカノンは鼻を押さえて涙目で踞る。
「い~たぁぁ~い~!!」
「まあ、私はこう見えて鎧着けてるから」
※タカミヤは普段から課金スクラッチアイテムであるコスチュームアイテムを着ているので鎧を着けていても見た目からは分からない。
****【ハウリングドラゴン(子供)】****************************
音波の鳴き声で相手を攻撃するドラゴン、《召喚術師》は子供のドラゴンと契約でき、チビドラゴンがレベルアップすると《ワッ》→《ギャ》→《ガー》→《ギャー》とパワーアップしていく《スタンボイス》を初め、超音波で敵の聴覚を刺激し相手の動きを封じる《バインドボイス》、超音波で辺りの音(空気振動を操る)を狂わせる事で相手の魔法等を封じる《サイレントヴォイス》、超音波で敵を攻撃する《ソニックボイス》、超音波でダンジョンのマップを把握したり宝箱等を探せる《スキャニングボイス》等といった色々役に立つスキルを備えているのが特徴(レイドボスは大体が状態異常が効かないので出番は少ない)で見た目もウィンドドラゴンと同じくモコモコフワフワとした毛並みを持つ可愛い系で女性冒険者に好まれる事が多い、なお契約できるレベルが35とドラゴン系の中では以外と低く契約しやすいが、ダンジョンがかなり面倒くさい。
※生息場所は《アラバスタ大峡谷》
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鼻を押さえて涙目のカノンに手を差しのべて立ち上がらせたタカミヤは頭に乗っかってきたチビドラゴンを渡すと何事も無かったように再び荷馬車を引き始める、カノンもゆっくりと歩き出したタカミヤに付いていくべく隣を歩き始めた。しばらくゆっくりと歩き続けた後、カノンはタカミヤに逃げた理由について問いただしてみた、カノンはタカミヤが渋って答えてくれないのではないかと疑っていたがアッサリと答え、理由は単純にカノンが「チビドラゴンを住んでいた場所へ連れて帰してあげよう」と言い出すと予想し、それが面倒だと思ったとのこと、カノンはまさにタカミヤにそう言ってチビドラゴンの住みかまで同行してもらおうと思っていたので図星を突かれて反論できず「むぅ~」と小さく唸るしか出来なかった、頬を膨らませて拗ねていた様子を見てタカミヤにクスクスと笑われてしまい更にムスっとするが、タカミヤの手が頭を静かに優しく撫でる感触に照れながらも顔だけは拗ねたままでそのまま撫でられ続けていることにしたカノンだった。
~グランセル~
カノンがチビドラゴンを中央会館のクエストカウンターへ連れていき「この子を住みかに帰してあげたい、一緒に行ってくれる冒険者求む」と冒険者向けのクエスト発注を行っていると、書類の束を抱えたオリビエが通りかかり「そのクエストの発注待った、僕の部屋まで来てくれ」と、言葉を残して階段を必死に上っていった、カノンも良くは分からないが言われた通りにチビドラゴンを抱えたまま中央会館執務室へと足を運んだ、オリビエが秘書の人に鞭打たれながら部屋の中央の執務机で必死に書類と格闘している中、遅れてタカミヤとレオン、カノンは面識はないがカシウスとアリオスが部屋へとやって来た。
「やあ、皆集まったみたいだね」
「改まって何?、また何か起きてるの?」
「いやぁ~、全くもってそのとおりなんだよねぇ」
オリビエは羽ペンでこめかみを掻くとペンをカノンが抱えているチビドラゴンへと向けた後、言葉を続ける。オリビエがGMネットワーク(GM専用念話)で集めた情報、そしてココ最近頻発しているある問題について詳しい話を始めた。
春の花が少しずつ咲き始める時期、最初の事件は仏サーバーはパリ辺りの大地人貴族邸宅で発生、本来町に入って来るはずもないモンスターが町の中に入って来て人間を傷付けたと言うものだった、当然そのモンスターは貴族お抱えの近衛兵や雇われ用心棒の冒険者によって退治されたのだが。
「何か、色々辻褄が合わない話でよくわかんないよミヤ~」
「もう本題に移る筈だから大丈夫よ」
「ちょっとそこ!、緊張感無いぞ!!」
ミヤに話の意味を聞いていたカノンを軽く怒鳴り、タカミヤが言った通り本題へと移るオリビエ。
「他にも10~30前後同じような事件が起きているけど貴族達は冒険者に一切の罪を問わなかった、何故か。それは・・・そのモンスターは貴族達がペットにしようと冒険者達に捕ってこさせたモノだったからなのさ」
オリビエのその言葉にカノンは抱えていたチビドラゴンを見た、その様子を見ていたオリビエが言葉を続ける。
「そのおチビさんもきっと何処かの貴族に売られる予定だったんじゃないかな、一応確認出来ている範囲では召喚術師用の小型でわりと大人しい種類が対象みたいだね、多分人を襲ったのも貴族に躾だなんだと鞭で叩かれて攻撃されたと思ったんだろうね」
オリビエの言葉を聞き終えたカノンはチビドラの頭をゆっくりと撫でる、チビドラもカノンは敵じゃないと分かっているので頭を撫でられてくすぐったそうにしている。
「さーて、こっからが僕からの依頼の本題だよ」
「「「「まだ続いてたのか・・・・」」」」
「続いてたよ!?、なんのために四人を呼んだと思ってるのさ!!」
ギャースカギャースカ喚くオリビエは秘書の人に鞭で叩かれて我に返ったのか依頼書を配り始める、受け取った面々は其々思うところあるように「成る程」とか「コレは骨が折れそうだ」などと言いながらもしかと受領したことを伝え部屋を後にしていった、残ったのはタカミヤのみでその依頼書には地名しか書いてなかったのであった。
「で、コレは私に頼みたいけど言えないことってことでいいの?」
「まあね、そうなんだよ」
「なんか私に黙ってないかしら(ギラン)」
「そ、そんなことないよ~~(((((( ; ’ □ ’))))))ガクガクガクガク」
「まあいいわ」
タカミヤの人殺しの眼をなんとか耐えきったオリビエは残されたカノン手招きすると。
「ミヤっちのいく場所がそのおチビさんの住みかにも近いし一緒に行くといい」
「わかりました」
「ああ、それと」
「?」
「キレたミヤっちには要注意ね、キレたら多分嫌でも分かると思うけど」
「???分かった」
カノンが部屋を出ていった後、オリビエはシェラに静かに話しかけられた。
「あの件ミヤにやらせてよかったの?」
「ミヤはさ、出来ることはちゃんとするけど、そうじゃない出来るかもしれない何かには手を出さないじゃない?」
「まあ、確かにね」
「でも、今僕達にはやらなきゃいけないことが山程あってそれが出来そうなのが僕らのなかではミヤしかいない訳・・・何だよね~、だからやってもらうしかないわけ何だけど」
「ミヤが帰ってきたらまたあんた大神殿送りにされそうね」
「気にしてるんだから言わないでよ!!!」
「本当に、裏方も大変ね」
~グランセル街門前~
馬車を手配し、煙管を燻らせながら旅の同行者と一匹を待つこと数分、長旅用の買い物を済ませた大きなバッグをカノンとチビドラが馬車まで駆け寄ってきて荷台にバッグやらなんやらを押し込み始める、カノン達が荷台に乗っていることを袰を捲って確認したタカミヤは馬車の手綱を引き、馬車を静かに発車させた。
~街道~
荷物をおろしたカノンも荷台から出て来てタカミヤのとなりに座ると穏やかな風の吹くなか、ブラシを取りだして膝に座るチビドラゴンをブラッシングしてあげていた。
「ミャア♪」
「随分となついてるわね、ドラゴンって知能高いしやっぱり助けてくれたって言うのがわかってるんでしょうね」
「そういうもんかな?」
「まあ、それとは別にカノンを気に入ってるんじゃない?」
「そうかな?、もしそうなら嬉しいな、よし!ツヤツヤになったぞアルン♪」
「アルンって、今から住んでる所に帰しに行くのに名前付けちゃだめでしょ!?」
「ええ~!!」
「別れ際に寂しくなって泣いたって知りませんからね!!」
こうして、タカミヤとカノンのチビドラゴンのアルンを住みかに届ける旅が始まったのだった。