~13~
黄道12宮、12星座の名を冠するアイテムは伝説の聖剣や伝説の聖槍に見劣りしないほどのものばかりである『天蝎宮の杖』『金牛宮の斧(正確にはタウロスの斧)』『双児宮の双細剣』など、そして今。
「んじゃ、テストを始めてくださーい」
GMのトマスに指示され『人馬宮の弓』に矢をつがえ離れた的にねらいを定め、矢を放つ。矢は黄金の光に包まれて飛んでゆき的を跡形もなく砕き散らしながら空に消える、その結果を見たトマスは満足そうに頷きながらも別の矢を用意し再び的を設置し始める、何故このようなテストを行うことになったのか、それは数分前に遡る。
~数分前~
何時ものように『大和姫』を溜まり場にしてオリビエとトマスやレオン達が世間話で談笑していた時、ある話題が持ち上がってきたのが事の発端だった。
「そう言えばミヤっちは弓に剣をつがえて『カラド○ルグ!!』ってやってみなかったの?」
「ん?、ふつうに剣じゃ飛ばないでしょ?」
「試してないってことか?」
「そうね、流石に弓で剣を飛ばすなんて試してはないわね~」
レオンやオリビエもタカミヤの言葉に「そうだよなぁ」と溜め息混じりに呟く、いくらゲームでは出来なかったSクラフト(口伝)が編み出せるとはいっても、かの未来から来た英霊の弓兵みたいに剣を矢として使うなんて真似は常識的に考えて出来ないだろうと思ってタカミヤも編み出すのを断念していたのだった。
「ほえ?、『人馬宮の弓』ならテキスト効果で今なら出来るんじゃないですか?」
トマスが例に上げた弓はゲームだった頃は高い威力の矢(例:クリスタルコメット)はシステム的に使用出来ないように設定してあった、しかし安価な市販品の『鉄の矢』や『木の矢』等なら弓の能力的に安定した威力を出すことができ長期戦に向き、取り回しのいい玄人向けの弓として人気があった。
~~【人馬宮の弓】~~
『つがえた矢を光にかえ射ち出す矢を選ばない天弓』とテキストで書かれた幻想級の弓、攻撃力は幻想級の中の上位だが高威力の矢が使用出来ない反面、木の矢や鉄の矢のなどの市販品の矢でも最大威力が出るので消耗の激しくなるレイドボスやダンジョン攻略系クエストで大いに役立ち玄人好みの性能を有している。
ドロップモンスター:《人馬の太陽龍》(フルレイド級)
トマスの発言により可能性に思い至った面々は若干顔を暗くし始める、テキストが効果を持つ現状ではいくら古くて使えないアイテムですらテキスト次第では無敵の能力を持っても可笑しくはない、そしてその事を知るがゆえにトマスの発言を笑っては要られないのだった。
「テストしてみないことには分からないわね」
「だね、こればっかりは」
トマスの発言により思い至った危険性を確認しておかなければいつ問題が起きるかわかったものではない、GMという裏方であるが故にヒーロー達が巻き込まれ兼ねない危険はなるべく排除しなければいけないのである。そうして被害を考慮し郊外試験場へとやって来た面々はタカミヤに『人馬宮の弓』を渡し、様々な矢を始め、剣、槍、斧等も用意された、そして先ずは矢からテストを行うことに。
「んじゃ、テストを始めてくださーい」
トマスの合図に応じてタカミヤは弓に市販品の鉄の矢を矢としてつがえ、空へと放つ。矢は金色の光となり雲を切り裂き空の彼方へと飛んでゆく、次に鉄パイプでこれも光になって飛んでゆく、『矢』程ではないが飛距離と威力はソコソコ有りそうだった、次に斧、流石に斧では矢として認識できなかったのかベロンという弦の音と共に地面にドサリと力なく落ちる、まあ流石に斧が飛んだらテストに来た皆が困る所だったので安堵したが・・・、次に槍、長いので射ち難いが一応光になって飛んでは行った、まあデカイ矢だと認識されたのだろう、古代には『ロングシューター』なる槍を飛ばすそういう兵器もあったとかなかったとか、ないかな?。
「さて、じゃあ問題の剣か」
「じゃっジャーン!!」
「オリビエ・・・なんでワザワザ『カラドボルグ』を持ってきたのか聞きたいんだけど」
幻想級の聖剣を差し出してドヤ顔を見せるオリビエにタカミヤは眉を潜めて睨み付けるが、オリビエはとくに気に止めてなかったようだ、トマスもトマスで
「幻想級のアイテムを矢に使用したら威力的にどうなるのかが知りたいので僕が用意しました」
と、発言をしていた、幻想級の矢のテストがまだ残っているというのに何故先に幻想級の剣でテストなのかとタカミヤは渋々ながらも剣を何とか弓につがえると。
「!!!」
つがえた聖剣は金色の光に身を包み、その姿を光の矢へと姿を変えたのを見て、タカミヤは弦をゆっくり緩め矢を取り外す、すると光の矢は光を失い元の聖剣へと姿を戻す、これには流石にタカミヤ達もグウの音もでなかった、まさか剣ですら矢として使える処かちゃんと元に戻せるのだから。
「威力的にも半端ない威力がでそうだったな・・・」
「この弓危険じゃないの?、大丈夫かしら・・」
「ん~、テストしてみて威力を確認、その後封印かそうでないかを判断しましょう」
トマスの提案に頷きタカミヤは再び剣を弓につがえると、弦を引き絞り光となった剣を射ち放った、クリスタルコメットの様な幻想級の矢程の威力は無かったようだが、幻想級なだけありその威力は相当高いようだ、雲は光となった剣で綺麗に切り裂かれ空に金色の光を空に残して剣は彼方へと消えて行った、矢として使われたアイテムは失われるのでテストとは言え幻想級の剣がもったいないが、中々愉快であり恐ろしくもある。
「この弓、もしもの時の為に対策を考えておかないと後々大変なことになりそうね」
「だな、幻想級で固めた守護戦士ですら砕く程の威力がでる程だ」
「ん~、まあ・・・・・めんどいからミヤっちに任せるよ」
「やれやれ、オリビエは面倒くさがりですねぇ」
トマスが呆れ、オリビエは陽気にギターを引きならしながら金色の光が未だに漂う空を眺め、レオンは弓をじっくり吟味し始める中。
「あ!、そう言えば『大和姫』で出してるミヤっち謹製の日本酒、アンケートの結果から売り出すことにしちゃたから酒造宜しくぅ♪」
「カァラァドォボォルゥグゥ!!!!!!」
オリビエの何時ものような急な無茶ブリにタカミヤは勢い良く全力で『人馬宮の弓』に幻想級の剣を矢としてつがえオリビエに射ち放った、オリビエは間一髪で身を翻して矢を回避し矢は空を突き進み×××m先の山の麓に直撃し中規模の爆発を発生させる。
「あんなの喰らったら死んじゃうじゃないか!!!」
「いつもいつも、あんまふざけてると本気で殺るわよ」
「今のも十分本気だったじゃないか!!!」
タカミヤとオリビエの何時ものやり取りを見やりつつトマスは念話である人物たちに先程えた情報の統制を敷いてくれるように頼み込む、様子を見るために先ずは伝えるべき情報と理解を求めていく方針だそうだ、そして場合によっては邪具(テキストにより呪いの様な効果を持つアイテム等)のように封印する事も辞さないのだそうだ。
オリビエを追いかけ回していたタカミヤが溜め息を付きながら戻ってきて弓をトマスへと返す、念話は既に終わっていたので弓を受け取り自身のマジックバッグへと仕舞い込むと代わりのある代物をタカミヤへと渡した、タカミヤはそれを礼を言って受けとるとそれを仕舞いトマスに背を向けて歩き出した、その代物の使い道を知っているトマスは思わずタカミヤの後ろ姿に声をかけてしまった。
「そのパラメーター設定で本当にいいんですか?」
「いいわよ?、どうしたんです急に?」
「ミヤ君、もしかして君は・・・・・」
トマスはそこまで言って口を閉じた、タカミヤの表情がそれ以上は言わせないと語っていたからだったのだが、それと同時にタカミヤが何時の日にか絶対必要になると考えての備えなのも知っているが故に、タカミヤの想いに水を差すのは野暮だと思ったのだ、だから変わりに。
「その時はオリビエやレオン君共々一蓮托生で付き合ってあげますよ」
「それじゃ意味無いんだけど、まあ今さらよね」
「ふふふ~、カレコレ10年ですからね~」
「まあ、そうならない事を祈っておいて」
「そうですね、皆で祈っておけば届くかもしれません」
二人はソコでようやく会話を打ち切り、グランセルへむけて歩き出した。