~12~
その日、彼は長い旅の末に欧州サーバーの片隅『聖都グランセル』へとやって来た、大災害に巻き込まれ、知らない土地で過ごす厳しさや食べ慣れない料理をなんとか我慢して旅を続け、大きなプレイヤータウンにたどり着いては『妖精の環』に飛び込み続けてきた、しかし。
「はぁ・・・・ココでも俺の故郷の味は食べれそうにないなぁ・・・」
そう呟くと青年は街をうろつくために街門をくぐり都市の中央を目指して歩き出す、妖精の環の場所を確認した青年はアイテムの補充を行う為に中央広場に備え付けられていた案内板を眺め、職人街へと足を向けることに。
職人街のショップの数々に目移りしながらアイテムの購入を済ませていった青年は愛用武器を扱った店が無いことに気付いた。
「海外にはやっぱりあれはないのか・・・」
溜め息を付きつつ、次は食事を求めて歩き回る、彼が立ち寄ってきたプレイヤータウンに比べるとグランセルはかなり治安が良く、アイテムの価格も良心的な安さであるし料理屋も数多くあって何処に入ればいいのか迷う程だ、青年は迷った末に『デモンズキッチン』という店を見つけてしまい、故郷の味が味わえないなら、いつか故郷に戻った時に話のネタになるだろうしゲテモノに挑戦するのも悪くないと思いそのレストランへと入店すると、中は驚きの光景だった。
内装は中世風で魔王の城を思わせる豪華な飾りのついた椅子、そして何よりウェイターが全員サブロール『魔王』だったのである、仰々しく喋り注文を受ければ悪魔全開で高笑い、青年はテーブルにつくとメニューを開くとメニューもメニューでオドロオドロしい一応害の無さそうなものをチョイスし『ブルホーンの地獄業火焙り』という物を注文した、『ブルホーン』という青年的にはギアデバイスを向けてファイルセーブ!!と叫びたくなる名前だが牛型のモンスターである、良く分からないがこのモンスターの肉を焼くのだろうという青年の解釈だ。
「ハハハハハハハハ、汝の贄を我が手で運んでやったぞ恐れるがいいフハハハハハハ!!!、あ、こちらフォークとナイフになります、こちらのランチメニューはドリンクのおかわり自由ですので、ではサラバだフハハハハハハ!!!!!」
「・・・・・今明らかに途中素だったよな?・・・・・」
出てきた料理も名前とは裏腹に普通にステーキだったりで逆に面白い気がした、いや、やっぱり面白くないな、どうなんだろう?、そんな葛藤に頭を悩ませながらもステーキにナイフを入れフォークで刺して口に運ぶとピリリとスパイスの効いたちょっと辛口のソースが美味しかった、ドリンクを頼もうとし。
「すみません魔王様~」
「「「「「「「「我を呼んだか脆弱なる冒険者よ!!」」」」」」」」
「いえ一人でいいんですが・・・オレンジジュースを」
そう言えばウェイター全員『魔王』だったと思いつつ。
(いつかあの国に戻れたらいい土産話にはなりそうだ)
と、少し楽しい食事を堪能したのだった。
~食事を終え~
中央広場へと戻り『妖精の環』へ飛び込もうとした青年の目に青年が探していたある物が映りこみ素早く駆け寄っていくとそれを持っていた人物に声をかけた。
「すみませんそこの、えーと御船さん?」
「何でござる?見ない顔でござるな」
「旅の方なので候て」
青年は海外ではかなり珍しい?漢字の名前から色々と想像しなるべく低姿勢で話を進めていく。
「えーと、日本の方でいいんですかね?」
「いやいや、拙者も半蔵もココ欧州の人間でござるよ」
「え?、でもお名前で漢字を」
「武士なのだから名前が漢字なのは当然でござろう?」
「はあ、ひとついいですか?」
同郷の人ではなかったのは残念だが本題は別にあった、青年は御船という名前の武士の腰に携えられていたそれを指差し。
「刀、何処で売ってるんです?」
「ん?、この街では刀は売ってはござらんよ?」
「え?じゃあその刀は?」
「住宅街方面の一画にあるギルドの建物にわりと目立つ看板で刀鍛冶と書いてあるでござるよ」
「ありがとうございます!!!」
青年は頭を下げてお礼を言うと御船が指差していた方角へ一目散に走っていってしまった、残った御船と半蔵は顔を見合わせて。
「気をつけないと炉に投げ込まれるっていい損ねたでござるな・・・」
「まあ、たぶん大丈夫で候て」
店主の機嫌を害すると結構大変なことになることをいい忘れてしまったが青年は既に走り去ってしまっているので無事を祈っておくことにした二人だった。
青年は街を走り回り、漢字で『武士刀姫』と書かれた看板と『大和姫』と書かれた料理屋の看板も見つけた、日本食が有ると知っていればレストランで食べなかったのだがもう遅い、青年は刀だけでも購入しようと鍛治屋のドアを開こうとしたがドアには『大和姫へ回ってください』と札がかかっていたので料理屋のドアへと回り扉を開けて中へ入った。
「いらっしゃいませ~♪」
割烹着を着た紅色の髪を揺らす女性の元気な声に案内され空いていた席に座る、青年はソワソワしながらステータス画面を開き割烹着を着た女性店員の名前を確認すると。
「伊織さん、いい名前ですね」
「え~ナンパですか~♪」
「いえいえ、本心でろいふぉっかー!!!!」
青年は恐らくは日本人であろうと推測し同郷の人に会えた感動から伊織の手を取ろうとしたのも束の間、台所から包丁が飛んで来て青年の頬を掠めて壁に突き刺さったのである。
「気を付けてくださいね~♪、私をナンパすると盛れなく包丁やナイフが額か心臓目掛けて飛んできますよ~♪」
「((((((((; ‘ □ ‘ ))))))))ソ、ソウミタイデスネ・・・・・」
まさかの包丁投擲に脅えつつも何とか要件であった刀の事を聞こうと勇気を出すと、伊織は台所にいるある人物に向けて声をかけた。
「み~さ~ん、『武士刀姫』のお客さんだよ~」
青年は先程の包丁の事からどんな強面の人物が出てくるのかとドキドキしていたが、出てきた人物を見て唖然としてしまう、イメージとはまったく違う白い長髪を揺らす白いジャケットコートを着た女性が出てきたからだった。
「・・・・・・」
「要件は?」
「え?」
「だから、要件を言いなさいって言ってるのよ」
どうやら『武士刀姫』に来た理由を聞かれているのだと思い、青年は刀が買いたいと申し出ると、刀は売ってないと即断られた。
「ええ!?」
「素材持ち込みのオーダー生産なのよ、素材はあるの?」
「え?あ!、銀行に行けばちょっと」
そう答えると白い髪の女性は溜め息を付きつつも素材を引き出したら『武士刀姫』へ来いと言って、奥へと姿を消した。
「・・・・・」
「おきゃくさーん、おーい」
「え?、ああ!!ごめんなさい、あ、じゃあおいとまさせていただきます」
「はいは~い」
青年は銀行に預けている素材を引き下ろしに向かうべく料理屋を後にし手を振って見送る伊織を背にして名残惜しそうに歩いていった。
「珍しいな、海外サーバーじゃあ滅多に日本人は見ないのに」
「イベントかなんかに参加してたせいで海外で大災害を迎えた人じゃないかな?」
静かに緑茶をすするレオンと伊織はそう呟きながら青年の背中を静かに見送った。
~『武士刀姫』~
青年が素材を引き下ろして鍛治屋にやって来ると既に炉に火が入っていたらしく部屋の温度がかなり高かった、青年は素材を材料台に乗せると、それらを物色していた女性は。
「ふむ、中々あるわねコレなら充分いい物が打てそうだわ」
「・・・・」
「なに?」
青年の疑惑に満ちた眼差しに気付いた女性は気分を害したのか眉を潜めてにらみ返してきた、青年は折角なので失礼ついでに踏みいった事を聞くことに。
「名前じゃわからないんですけど、日本・・・人?」
「なんで疑問符なのよ」
「いや、このお店の事を聞いた人は漢字の名前だったけど欧州の出身だっていってたから」
「ああ、御船達からここの事聞いたのねなるほど」
溶かした素材の下打ちが完了し、再び炉に入れながらも青年の質問に答えていた女性はすこし答をはぐらかしているような気がしたので青年はもう一度念をおすように強い口調で質問をする。
「で、どうなんです」
「日本人よ、一応、多分」
「ええ~~!、なんだそれ、どうなんだよ日本人なのか!?」
「黙れ、炉にぶち込むわよ」
「ゴメンナサイ」
今次の素材を入れたばかりの炉に胸ぐらを捕まれて片手で持ち上げられ青年は慌てて謝罪し、なんとか下ろしてもらうと。
「それにしても『武士刀姫』ねぇ、コレなんて読むんです?」
「『武士刀姫』なんだそうよ」
「なんだそうよって、アナタが付けたんじゃないんですか?」
「違うわよ、料理屋もココもこの街に住む武士のなりきり野郎共の嘆願の結果、私がやらされてるだけだし」
「そんな怒らないでもいいじゃないですか~、別に変な名前じゃないですよ?」
「黙れ『~盗んだバイクで走ったあの夏~@20××』の癖に」
「がんがるぶ!?!?、ちょまっ俺の名前を罵倒文に使わないで下さいよ!!」
あの夏(笑)は必死に訂正を求めたが、店主はまったく取り合う気もなく刀を打つ事に集中し、ひたすらハンマーを振り続けていく、夏もその作業の邪魔をしないようにと固唾を飲んで見守る中、打ち上がった刀を品定めしていたタカミヤは。
「錬成が甘い!!」
「ええ!?」
出来上がった刀を再び炉に放り込み打ち直しを行う店主に驚く夏、見たかんじでは充分にいい出来上がりだったと思うのだがそうではなかったらしい、夏も刀ならなんでもいいと言うわけではなく、武士として共に冒険を乗り越えてきた相棒なのだから妥協はしたくない。
まあ、初めてのレイドに傭兵参加しこれまた初めて手に入れた幻想級のここ2年愛用してきた相棒である『鋼刃丸』ももうボロボロで代わりの刀で代用しようとしていたのはたしかではあるが・・・。
再び刀を打ち続けていく店主は出来上がった刀を品定めすると、彼の手に合わせた柄と鞘を拵え夏に手渡した、無銘だから名前は愛着が湧くように自分で付けろと言われ、どんな名前にしようかと刀を受け取ろうとしたのだが、急に引っ込められ左手を差し出された。
「ん」
「え?、ああ!!お金ですね」
「違うわよ、そっちの刀を寄越せっていってんの」
「そんな『鋼刃丸』は俺の相棒なんだ!!、これだけは!!」
「打ち直してやるから貸せって意味よ」
店主はそう言って『鋼刃丸』を奪い取ると刃を眺め始める、すると何故かご機嫌な様子で。
「丁寧な手入れを欠かさなかった証拠ね、刃がまだ生きているわ」
「・・・・・」
自分の愛刀を褒められ夏は驚いたが悪い気は全然しなかった、相棒が褒められて嬉しくすらある、そして夏は店主によって炉に入れられる相棒を見届けると、静かに目を閉じて今まで共に冒険を乗り越えてくれた事を感謝した。
店主は持参した素材には目もくれず鍛治場に備え付けてあるアイテムボックスを開けて中を漁ると色々鉱石を取り出すとそれも素材用の炉に放り込んでいく、そして溶けて混ざりあった塊をハンマーで打ち鍛えはじめた、ハンマーが金属を叩く音を静かに聞きながら夏は生まれ変わる相棒に心踊らせていた。
「出来た、『鋼刃丸』改め『陽炎細雪』」
「これは・・・・・・・・・・・・」
手渡された生まれ変わった相棒は綺麗な透き通る雪のような背と峰、しかし刃は炎のような美しい紋の入った綺麗な刀だった、店主は鋼刃丸に使っていた柄と鞘をその新しい刀に拵えてくれると。
「『ノウアスフィアの開墾』で新しく追加されたレシピよ、鋼刃丸を元にしなきゃ作れないけどね」
「な!?、そんなスゴいものをどうして俺に?」
「スゴいと言っても製作級よ?、ヤマトを目指す道程は長いでしょうし、帰れても東西別れて睨み合ってる状況だから望み通りの生活が出来るとは限らないし、餞別よ餞別」
店主はそう言って手を振って店の奥へ消えていく、夏は店主が消えた扉へ向けてお辞儀をすると店を後にした。
夏は生まれ変わった相棒と新しい相棒を腰に差すと『妖精の環』のある中央広場へとやって来た、飛び込む前にアイテムの補充し忘れがないか確認を行っていると、料理屋で見た店員の子とその友人らしいカフェテリアのウェイトレスが手に持っていたミニバッグを差し出した。
「こっちは保存食、好みの量でお湯で溶いてね、あと梅干し」
「マジか!!!!!マジだ!!!!やったあ♪梅干しとか!!!!マジ嬉しい!!!!」
夏はバッグに入っていた瓶詰めの1つである梅干しの瓶詰めを取り出して早速1つ口に放り込むと、懐かしい故郷の味を噛み締めるように味わった、そして他の瓶詰めの中身に気付くと心が弾むのが止まらなかった、味噌の瓶詰めに野菜の塩漬けの瓶詰め等、故郷の味の詰め合わせだった。
「み~さんからの餞別だって、あと伝言」
「なんて?」
「ヤマトに帰れなくてこの近くに飛んで来たらまたこい、だってさ」
「ははっ、もしそうなったら有りがたくそうさせてもらおうかな」
「ちょっと伊織!!、長話はその辺になさいランチボックスが冷めてしまいますわ」
ウェイトレスが押し付けてきたのは焼そばパンやカツサンドと言った懐かしい味の逸品だった、恐らくはこれもあの白い髪の店主の差し入れなのだろうと思うと少し涙がでそうになった。
「出来れば今日中に食べてくださいましね」
「ええ、道中に有りがたく頂戴します」
夏は礼を言ってランチボックスを受け取ると、餞別を持ってきた二人に見送られながら妖精の環へと飛び込んだのだった。
~大和姫~
台所の奥で後片付けをしているタカミヤの背を静かに見ながら、レオンは静かに声をかけてみることにした。
「やっぱ、ヤマトに戻りたいのか?」
「ん~?、私はそうでもないわよ?元々こっちの方がフレは多いし、伊織は持ってきたし」
「いや持ってきたって物みたく言うなよ、それにしても帰れるといいな・・・・ヤマトに」
「そうね・・・、友達の待ってる場所に帰りたいでしょうね」
ヤマトに帰れると信じて『妖精の環』に飛び込み続ける冒険者に二人は静かに杯を掲げるのだった。
数ヵ月後、実はこっそりとバイクで走ったあの夏にフレ登録されていたタカミヤに最南端とはいえヤマトにたどり着いたと念話が送られてくるのだが、もっともっと先のお話。
【陽炎細雪】
鋼刃丸をキー素材とし、複数の秘宝級と幻想級の鉱石を掛け合わせる事で産み出される製作級武器、青年が持つものはタカミヤの特別製で柄の部分に(正確には柄を取り付ける刃の取っての部分)タカミヤがエリカ博士から貰った『オリハルコンの欠片』を加工した月の女神の紋章が刻まれた魔法結晶が仕込んであり使用者のマナ効率を良くする効果が付与されている(消費MP2/3)。