~10~
曰く
「必殺技はシャウトで発動しなきゃいけないと思うわけよ」
というアニメの理屈を熱く語り新しい動力装甲『ブラスターテックアーマー』の開発を続けているエリカ博士の依頼でアリオスのシャウトに負けない音声認識用魔法結晶を造る素材を集める為にグランセルから遠く離れた、あるサーバーエリアの片隅にある《マインツ鉱山》へとやってきたタカミヤとカノンは。
「『オリハルコン結晶』ねぇ・・・、なんでこうドロップ率1%のアイテムばっかり集めに来てるのかしらね私は・・・・」
エリカ博士にアニメの理屈を吹き込んだ張本人としてマトック(ピッケルorツルハシでも可)で鉱石の採掘場所をカンカンカンと掘るのは自業自得なので別に気にしてはいないが、どうもタカミヤは《ドロップ率1%》という超高級希少素材に縁があるのかもしれない(もしくは呪い?)、下手すれば別サーバーにまで遠征しなければいけない可能性も無きにしもあらずなので愚痴の1つも溢れるというもの。
「そうか?、私は結構楽しいぞ♪」
共に鉱石採掘に来たカノンは先日完成した義手の左腕の手首から先をドリルアタッチメントに交換しギュィィィンと回転させガリガリガリと音をたてながら採掘を続けている、なんでもドリルは科学のロマンらしく義手に合わせて製造されていたらしい(クリスタライトミスリル合金製)、アタッチメントとして手首を交換する事で様々な機能が使えるらしいが今はワイヤードフィスト(腕が飛ぶ)とドリルアーム(手首が回る)の2つのみだ、まあ他の機能はその内エリカ博士によって日の目を見ることになるだろう。
「1%しかない出会いに巡り会うって、なんかロマンチックじゃないかな♪」
「カノンさんは見た目クールビューティーなのに乙女だことで・・・」
二人の会話はさておきこの《マインツ鉱山》、希少鉱石が採掘可能なフリーダンジョンであるのだが・・・・・まあお察しの通り当然危険な場所でもある、この鉱山は結晶龍や鉱物龍の巣がある場所でもある、数日前に御船達が魔法結晶用の結晶を取りに来たのがこの鉱山である、御船達の目的は純度の高い結晶であって結晶龍の角(かなり純度の高いクリスタライトという結晶)を壊して欠片やら角やらを持ち帰ればいいので戦闘を仕掛けては撤退してを繰り返し、角を折った事で既に結晶の回収を終えた御船達は既にグランセルに向けて出発している、まあようするに。
・・・・・置いてきぼりを喰らったのである・・・・・
とは言えカノンのドリルアームは採掘効率が高く既に結構な鉱石を集めている、一方タカミヤは。
「・・・未だに一個も出ないわ・・・」
『アダマンタイト』の時といい今回といい、タカミヤはぶっちゃけて言うとゲームだった頃からクジ運(ドロップ運が滅亡寸前)なのである、ぶっちゃけ人選ミス(ハズレIDなるものの都市伝説?をタカミヤは信じている)なのではないかとも思われる。
「せめて『オリハルコンの欠片』でも、数出てきてくれれば『錬金』で『オリハルコン結晶』に出来るのに、言ってて哀しくなってきた、掘ろ・・・」
「あ♪カーネリアンインゴットだ」
「なんだろう・・・・・なんか・・・・・涙出てきた・・・・・」
~『鉱石や結晶の単位?』~
『~~片』×10で『~~の欠片』×1
『~~の欠片』×20で『~~結晶』×1
『~~結晶』×20で『~~インゴット』×1
※あくまでもタカミヤがサブロール『錬金術師』のスキル『錬金』を使用した場合の数値。
あるイベントをクリアすれば専用の『錬金』をしてくれるNPCに頼めばもっと素材効率はいいので注意!
※例:ある場所にいるエルフの賢者(元イベントNPC)に頼めば『~の欠片』×5で『~結晶』×1
欠片の成分を無駄なく抽出し錬金出来るからという理由らしい(エルダーテイル公式ガイドマニュアル『冒険者の手引き書』より抜粋)
「お、『オリハルコンの欠片』見っけ、採掘回数限界までに一個は出たからギリギリね」
場所にもよるがこの『ザクセン鉱山』の基本的な採掘可能回数(一ヵ所につき)は12回程である、最もレアの出やすい採掘場所はよりにもよって結晶龍や鉱物龍の食事場所になっていたり巣の中にあったりと危険が満載なので、二人は安全性の高い他の採掘場所へと移動していく、移動しながらカノンの採掘アイテムを鑑定する事になったタカミヤは鑑定そっちのけで涙が止まらなかった。
・・・未鑑定アイテムを鑑定し終わった以下がカノンの採掘結果である・・・
『オリハルコンの欠片』:2 『カーネリアンインゴット』:2
『カーネリアン結晶』:3 『ミスリル銀』:4 『石』:1 の計12個
・・・一方のタカミヤはというと・・・
『オリハルコンの欠片』:1 『石』:11
次の採掘場所周辺の索敵をカノンがしている間にタカミヤはカノンのドリルの研磨と自分のマトックの打ち直しも行い、採掘の準備を進めていく、周辺の索敵が済み安全が確認された所で二人は黙々と採掘を始める。
採掘回数の半分を終えた頃、タカミヤは何かの気配を感じカノンに採掘停止を求めるがドリルの音が大きく聴こえていなかった様なので無理やりカノンの採掘を止めさせて岩場の陰に隠れる、カノンもそこで気配に気付いた、足音・・・それもかなり巨大な生物だろう、ズシンズシンと響く足音が近付き陰からソッと顔を出して見ると鉱物龍がエサ場に向かう為に移動中だったようだ、12mはあろうかという巨大な龍を静かに見送り終えた二人はようやく安堵の息を漏らす。
「色々と言いたいこともあるのだが、まずは下ろして貰えないか?」
「ああ、ごめんなさい」
タカミヤとカノンの身長差(14cm差)の問題とタカミヤがカノンの胴体を抱えているのでカノンは手足をブラブラするしかない状態だったのに気付いたタカミヤはカノンをゆっくり下ろした、するとカノンは急にモジモジと照れ始め挙動不審になり始める。
「///いくら二人っきりだからって無理やり陰に連れ込むのはどうかと想うんだ、私だってできれば心の準備もしたいし、殿方との逢瀬に興味だってあるから色々興味だってあるし女同士で練習するにしてもでもできればもっっっとムードとかシチュエーションとかそのゴニョゴニョ///」
「さて採掘再開しましょうか」
「///そそそ、そうだな///」
カノンの独白は聞こえて理解は出来たがあえて聞こえないフリで流すタカミヤに促されカノンも慌ててドリルを回し始める、照れているせいなのかドリルが妙な回転をしギュインギュギュインギュギュギュギュインという怪しい音を響かせる、タカミヤは気まずい雰囲気を作ってしまったので場の空気を変えようとし。
「カノンって思った以上に着痩せすんのね、さっき抱えたとき触っちゃったんだけど凄いバインバインだったわ」
「////にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!!!!!!////」
オヤジジョークで場を和ませようとしたタカミヤさん(28歳)はどうも自爆ったらしくカノンさん(21歳)はさっきのタカミヤの発言のせいで手元が狂いドリルが根元からベキャリと壊れ、そんなこともお構いなしに腕で胸元を隠すようにして遠ざかる光景は修復不可能な空気を作り上げていた、しかも間の悪いことに再び龍の気配を察知して岩陰にさっきと同じ方法で隠れたタカミヤはモジモジしつつも意を決して目をつぶって顔を差し出すようにするカノンを見て「しまったなぁ・・・」と思ったが手遅れなので気にしない事に決めた、少し後ゴシャンゴシャンという足音をたてつつ結晶龍が餌場に向かう為に通りかかった、静かに覗いてみると角が無いので少し前に御船達が戦いを仕掛けて角を折った個体だろう、角を折られ怒っているらしく口元からブレスが溢れ出ていた。
「今日はこれ以上はマズイかしら」
「///そんな続きは宿屋だなんて!!///」
自爆したあげく爆発させてしまったので面倒になったタカミヤは手っ取り早く首筋に手刀を入れてカノンを気絶させ結晶龍が見えなくなった後で折れたドリルや採掘した鉱石を回収しカノンを抱えて鉱山を出ることにした。
ハイドスキルやステルスアイテム(**秒モンスターとエンカウントしない系アイテム)を駆使しなんとかモンスターと遭遇せずに鉱山の麓にある鉱山町に戻ってきたタカミヤは宿屋に2部屋取りカノンをベッドに寝かせると、カノンという爆弾が爆発するまえに取ったもう1部屋に退避し折れたドリルの修復が可能かを調べ始めた、どうやら接続機能は問題ないがドリルを回転させる軸部分が壊れてしまっているらしい、オリビエに念話を入れるとエリカ博士に事情を説明してもらい、通常の方法で鉱石採掘(様はピッケルやマトックで掘る!!)を続ける事を告げた後に念話を切ると、続いて家(元ギルドハウス)で留守番する伊織に念話を入れ数日は帰れそうにないと連絡を入れると。
『只でさえみ~さんは爆発させたり地雷を踏む癖があるんだから気をつけた方がいいよ?』
「ゴメンナサイ」
『え、もしかして・・・』
「自爆から大爆発させたあげく別のなにかを誘爆させました・・・」
『ほんと・・・気をつけてね?』
「面目無い・・・」
伊織にまで心配されてしまい何やら余計に気まずくなったタカミヤは気晴らしに町に資材の買い出しに出ることにした、町は鉱山町ならではでガッシリした体躯の鉱夫が数多く酒場では仕事終わりに仲間とエールを飲み酔っぱらってウェイトレスに声をかけてはいつもの事だと言わんばかりに笑顔で断られては笑ってエールを飲み直している光景が見えた、この町は元々鉱山に用がある冒険者が数回利用するくらいでプレイヤータウンではないのでこの町に住み着くような冒険者はいないらしく、町は活気を保ったままらしい。
「う~ん、採掘用具の補充とバックパックも1ついるかしら、後は」
買い物を終えたタカミヤが宿屋に戻ると、別のプレイヤータウンから訪れた冒険者数名が宿を取りに来たらしくカノンが借りていた部屋を1部屋に纏め空いた部屋を提供したらしい、タカミヤは伊織に心配された通りになっているのではいかと頭を抱えて部屋へとトボトボと帰っていくしかなかったのだった。