~08~
翌朝には雨も止み、朝早くから農作業を開始する村人達の元気な声に誘われてマリナは目を覚ました、辺りを見回すとタカミヤの姿は無いので既に起きているのであろう、目を擦りながらノソノソと起き上がり欠伸をしながら小屋の外へ出ると。
「あら、早いわね」
タカミヤは昨日の雨で汚れた牧草地の掃除と整備を手伝っていたらしく、村人と一緒に背中にカゴを背負い、拾ったゴミを背中のカゴに放り込んでいっていた、マリナは「おはよう」と挨拶すると村人から挨拶が帰ってきた、もうすぐ朝食の準備も出来るので顔を洗ってこいとタカミヤに言われ、村の水場(井戸)に向かう、ポンプを漕いで桶の中に水を溜めると顔を洗い、冒険者に習った歯を磨くという行為を行う、小さな瓶に入った「歯磨き粉・イチゴ味(アキバ製)」と言うものは不思議な物で少し水を付けて歯を磨くとたちまち泡だらけになるが石鹸ではないらしく食べても大丈夫らしい、水で口を綺麗にすすげば口の中に爽快感があるのでマリナは結構この歯磨きという行為を気に入っていた、タオルで顔や口もとを拭くと。
「さて、今日の朝御飯はなにかな~っと♪」
だが、そう都合よく朝食にありつける訳もなく、戻ってきたマリナは鍬を持たされ畑を耕すのを手伝えとタカミヤに睨まれた、どういう事なのかと問い詰めると。
「普段、あなた達が食べている小麦や農作物は誰が作ってる?」
「ほえ?それは農家の方々が」
「なら、一宿のお礼をしないといけないでしょう?」
「うむ?」
「食べ物を作る苦労を知りなさい」
タカミヤに背中をパシンと叩かれマリナは畑をヨタヨタと歩き、畑を耕していた老人の元へたどり着くと。
「そんな、騎士さま達にゃあそんな事はさせらませんです」
「そ、そうか・・」
断られたので仕方ないから諦めようと安堵して振り返った直後、タカミヤに額をガシリと掴まれギリギリと締め上げられる、額の痛みにタカミヤの肩を必死にタップするが離しては貰えなかった。
「いえ、一宿の恩返しですので思う存分コキ使ってやってください♪」
「そ・・・そうですか?」
タカミヤは畑作業をする老人にマリナを再び預け、自身も背中のカゴを返した後にクワで大地を耕し始めた、マリナも見よう見まねでクワを力一杯ふり下ろし、発生した衝撃波は大地を抉り畑を囲っていた柵を壊してしまったのでタカミヤにペシンと頭を叩かれ力加減云々の説明を受け、再びクワを振り始める、仮にもと言うか英雄なので要領を得れば手早く作業は進み老人に感謝された、壊れた柵の修理を終えたタカミヤはマリナにタオルを投げ渡すと。
「農作物を育てるには先ずは大地を耕す、そして種を蒔いたり苗木を植えたり、長い年月をかけて世話し続けて、育てて行くのよ、少しは理解出来た?」
「彼らは何時もあんな作業をしているのか・・」
「ええ、季節が終わるまでね」
「大変・・・・なのだな・・・」
マリナが額の汗をタオルで拭うと欠伸をしながらやってきたペンドラゴンが。
「今日の朝食は何ですか?」
と発言し、寝坊したでしたペンドラゴンはマリナの倍以上働かされる事になった、朝食のサンドイッチを食べながらペンドラゴンの農作業を眺めていたマリナは怨めしい眼でペンドラゴンから睨まれ。
「マリナだけズルい!!贔屓だぞミヤ殿!!」
「マリナは既に手伝った後よ、文句言うと朝食抜きにするわよ」
「働いてます!、私真面目に働いてますよ!?」
「無駄口叩くくらいなら農作物を作る苦労を必死に味わいなさい」
ペンドラゴンはタカミヤに怒鳴られつつも無事に作業を終えなんとか朝食へとありつけていた、モッシャモッシャとサンドイッチを頬張って食べていると村の中心部付近から悲鳴が響き渡り三人は急いで駆け出す。
「食い物だぁ!!、食いもん持ってこい!!」
村の中心部では、強盗と言うには若干お粗末で武器を振り回すだけの冒険者が叫び散らしていた、恐らくは他所のプレイヤータウンでの生存競争に敗北し流れ者となってしまった冒険者なのだろう、村人達は怯えて近づく事はなく冒険者、名前は「サンダーバード」とステータスには表示されていた。
「食いもん持ってこいっつってんだろ!!NPCが何様のつもりだぁ!!」
冒険者独特の大地人の罵倒、武器を力なく振り回し叫ぶだけのサンダーバードには村人達も困惑し、どうすればいいのか分からない様だった、タカミヤが前に歩み出ると村人達が「騎士様、どうなさるので?」と聞いてくるのでタカミヤは「私に任せて」と微笑んで言ってのけた。
サンダーバードは限界で、レベルも42と低く1人で旅をするのは無理があった、メインホームとして滞在していたプレイヤータウンでは大地人の排他と格下プレイヤー達の追放、タウンを自分達だけの要塞とすべく食料や金品や高価な装備はタウンを仕切る大きなギルドのPK行為によって全て奪われた、なんとか命辛々逃げ出した者達は徒党を組み別の土地に移っていった、だがサンダーバードはまだギルドにも入ってないソロで頼れるようなフレンドも殆ど居なかったのであった、サンダーバードはギルドのPKからなんとか逃げようとしたが無惨に捕まり金品を奪われた挙げ句、安物のミスリルソード1本しか持たないままで妖精の環に投げ込まれたのであった、モンスターを倒そうにもミスリルソード1本しかないのではなにもできないし、耐久値が無くなってこの剣が折れてしまえば絶体絶命である、なんとかザコモンスターを恐る恐る倒しつつ金貨を稼いだが微々たる金貨では装備を買える訳もなく、食料アイテムを1つ2つ買うのが精一杯だった、だがその街でも見知らぬプレイヤーを追い出しタウンを取り仕切る閉鎖的なギルドがあった、再び住む場所を失い最低限の飢えを凌ぐ食料しか買えない放浪はサンダーバードの精神を酷く消耗させたのであった。
「なんだよ!!あんなたなんだよ!!、また俺を追い出そうってのか!!そうなんだろ!!」
人間不信に陥り身を守ってきた武器で食料を求めたサンダーバードは投げ渡されたタオルを訝しげに見つめ、激怒した。
「バカにしてんのか!!食いもん持ってこいっつってんだろ!!」
「いいからそのタオル持って井戸で顔やら泥汚れを洗って来い!!」
「ひぃ!!」
タカミヤの一喝にサンダーバードは怯えて腰を抜かして地面に尻餅を付いた、だがタカミヤはそれを別に気にした様子も見せず井戸のある方向を指指すだけだった。
サンダーバードは恐る恐る立ち上がると言われた通り井戸に向かいポンプを漕いで桶に水を汲むと顔を洗った、オチオチ寝てもいられないような野宿ばかりで顔など随分と久しぶりに洗ったのではなかろうか、サンダーバードは桶の水を頭からかぶり全身水浸しになりながらも生き返ったような気分だった、再び水を汲むと頭から桶に突っ込み思う存分水を飲んだ、ただの水だ、・・・・でも・・・・・最高の水だった、思う存分水を飲み、渡されていたタオルで顔等を拭いていると何処からかいい臭いがしてきた、サンダーバードのお腹が臭いを嗅いだ瞬間からグゥゥ~と鳴り始めた我慢出来ずに臭いのもとへと走っていくと、先ほどタオルを投げ渡して来た格上の冒険者であろう人物が一軒の家のドア前で手招きしていた、警戒しつつも空腹に逆らえず大人しく付いていき家に入るとテーブル一杯に並べられた料理の山々があった。
「食いもんだ・・・・、食いも・・・」
「ちゃんと席に付いていただきますって言いなさい」
「あ、はい」
タオルを渡して来た白髪、白いジャケットスーツを着た女性冒険者にそう言われてフラフラと椅子に座り、言われたとおりに「いただきます」と言うと「どうぞ」と声がかかる、そこでようやくサンダーバードはこれらの料理の山が自分のなのだと理解しそして夢中で食らい付いた、マナーなど欠片もない食べ方だが何も言われなかったし、止められもしなかった、そして自分が涙を流しているのを知った。
マリナとペンドラゴンもサンダーバードの気持ちは痛い程理解できた、二人も英雄であるにも関わらず食料に飢え行き倒れた事がある、幸い二人は幸運な方で優しい冒険者達が食事をくれたお陰で今も元気でいられるのであると理解している。
「相当辛かったのであろうな」
「武器も相当傷んでいた、あと2·3度使えば折れていただろう」
「やっぱ、他の場所はもっと酷いみたいね」
村長の家のキッチンを借り数々の料理の作り終えたタカミヤがマリナとペンドラゴンに合流する、サンダーバードは山程料理を食べた後、ベッドで休むように言われて二階に上がっていった恐らく今は何にも怯える事もなくゆっくり休んでいることであろう、コッソリとマリナ達に教えてくれた内容ではサンダーバードはこのまま村長の家で居候し畑仕事等を手伝う代わりに食事と宿(寝床)を提供という形で村で雇われる提案なのだとタカミヤは言う。
「ん?その装備はどうするのだ?」
タカミヤが魔法の鞄から取り出して行く武器や鎧を見てマリナが疑問符を浮かべていると、タカミヤは静かに微笑んで教えてくれた。
「村の用心棒ってやつね、この辺ならこの装備でレベル42もあれば問題なく倒せるモンスターが多いし」
「ふむ、一宿一飯の恩を体で返すと言うことか」
「彼が落ち着いたらいずれ事情を聞きましょう」
さて、とタカミヤは気を取り直して昨日の海岸に行くわよとマリナとペンドラゴンを連れだって歩き出した、一応『アダマンタイト』を目的個数集めない事にはグランセルに戻るにしても格好付かないと言うことらしい、マリナとペンドラゴンはやれやれ人使いが荒いと愚痴を溢しながらも顔は少し笑顔で満ちていた。
結局その日は『アダマンタイト』は2個しか手にはいらず、再び村でサンダーバードと会うことになってしまうのだった。
『アダマンタイト』が無事5個集まったのはその日からさらに3日後の夕方だった。