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第九話 ルースの木箱

名前:アスラ=フォンタリウス

ギルドランク:F

性別:男

総魔力量:100,100


これが俺のギルドカードに記載されていたステータスだ。

ギルドランクはSとAからFまであり、Sランクが最も高いギルドランクで、どんな依頼でも受注することができる。初めは一様にみんなFランクからであり、依頼が成功する数が増えるにつれ少しずつランクの高い依頼を受けることができるように、ランクが上がるシステムだ。



「魔力量10万!?」

「すごいじゃない、アスラ」


レオナルドとジュリアは俺の魔力量を見て、驚きと感嘆の声を上げる。

書庫や宿で魔力を使ったことによって、超回復で少し魔力量が増えている。

少しと言っても、元の数値が数値なだけに、一度に増える魔力も多い。

魔力量だけ多くても肝心の魔法の能力がイマイチとは、レオナルドもジュリアも口には出せないだろう。



「そしてこれがルース様に預かっていた品です」


受付嬢が恭しくこうべを垂れながら、俺に脇に抱えるぐらいのサイズの木箱を手渡してきた。

木箱の大きさも大きさなので、たいして重くはなかった。

ただ、木箱の蓋に魔法陣のような唐草模様が描かれている。

書庫の本で魔法陣の説明は読んだことがあるが、本に載っていたどの魔法陣にも当てはまらない。



本にはこう書いていた。

魔法陣とは、簡易に魔法を自分以外の物体に一時的に定着させて効果を持たせるものである。

例えば、何かの封印に使ったり、大掛かりなものでは生き物を召喚出来る召喚魔法という魔法陣もあるのだそうだ。

見たところ、この木箱に書かれているのは封印のカテゴリーの魔法陣だろう。

と言うのも、さっそく木箱をクリスマスプレゼントよろしく開けようとしたが、全く蓋が開く気配がないのだ。

まるで木工用ボンドで引っ付いているみたいだ。

固まったらめっちゃ粘着力あるもんな。あれ。



「なんだ、開かないのか? アスラ」

「はい。おそらくこの魔法陣が問題かと」

「とりあえず俺達の家に来い。そこでいろいろ試して開けてやるよ」


その提案に乗ることにした俺は、はい、お言葉に甘えて、と礼を言って二人と一緒にギルドを出た。

俺はギルドでの依頼は後回しにしようと思う。

それこそ、俺の魔法なり剣なりの力や様々な知識が備わってからだ。

べ、別に今は力がないからであって、ビビってはなどはいない。

俺は大器晩成型なのだ。

そう思うことにした。



ギルドを後にして、俺は二人に連れられて王都の中心にある商業区に入る。

が、目的地はそこではないらしい。

そのまま商業区と横切り、ギルドとは商業区を挟んで反対側に位置する居住区へ向かう。

大体王都の大まかな地理が掴めてきた。

南に小規模に噴水やら何やらがあり、街の景観を整えていて、中心には商業区、それを挟む形で東にはギルドやそれに準ずる施設。そして西には今俺達のいる居住区。

最後に、王都の北に位置するのは国王が住んでいるでっかい城がある。


居住区の一角にある石造りの家の中へ入る、二人について行く。

中に入ると、結構な広さがあり、新築然りといった佇まいだ。生活に必要な家具は一通り揃えられており、生活感がある。

と言っても、ちゃんと掃除が行き届いており、瀟洒(しょうしゃ)なホテルにいるような感覚だ。



「ここが俺たちの家だ。その木箱を貸してみろ」

「どうぞ」



レオナルドは俺から木箱を受け取ると、回れ右して家の奥へと歩いていく。

何も言われないままだったので、そのまま盗られるんじゃないかと疑ってしまったが、どうやらそうではないらしい。


「この家には地下室があってね。そこがまた広くて、私達の剣の訓練で使ってる部屋になってるのよ。そこなら剣も思う存分に振れるでしょ?」


ジュリアが説明を付け足してくれる。

俺はレオナルドに付いて行き、地下へと続く階段を降りる。

ロウソクの灯りがゆらゆら揺れている不気味な雰囲気な通路だったが、地下室の扉を開き、中に入ってみると発光する魔石が天井に埋め込まれており、かなり明るかった。



魔石には魔法の増強をするものもあれば、単一の魔法を魔石に貯めることで、魔法を行使せずとも魔法を放ってくれる魔石もある。

一つの魔石に一つの魔法効果というのが短所だが、魔力のない者でも気軽に買える商品化がされているというのはこの世界で技術の進歩に大きく貢献しているだろう。


天井の魔石は光を放つ魔石だ。

石造りの地下室は天井までの高さもあり、二階建ての一軒家なら軽く収まりそうだ。



「さっそくこの木箱を開ける。中身が無事なら箱は壊れてもいいよな?」

「ええ、構いません」

「わかった。じゃ、ちょっと離れてろ」


ジュリアが、凄いモノが見られるわよ、とウインクをして俺の手を安全な部屋の隅へ引っ張る。

それを確認してからレオナルドは腰に下げていた剣を抜いた。

剣が鞘から抜かれる、金属が擦れる音がレオナルドの集中力を掻き立てる。

見てくれはどこにでもありそうな、シンプルなデザインの剣だが、柄と刃の間に赤い魔石が嵌め込まれている。

その魔石が赤く光ったかと思うと、うっすらと剣の刀身が熱を帯びたように蜃気楼を発生させながら赤く光る。

そして次の瞬間には刀身が発火した。

炎の熱気はこちらにまで伝わってきて、それに怪しく照らされるレオナルドの顔には先程までのおちゃらけた面影は見られない。


まずは、普通に剣を木箱に突き立てるレオナルド。



ギンッ



木箱の魔力に剣が弾かれた。

その瞬間だけ、木箱の魔法陣は赤く発光する。

これでは木箱を開けることは出来ないようだ。


今度はレオナルドがちゃんと剣を構える。

型とか、流派は全く知らない俺だが、様になっているとは思った。

すると、レオナルドから微弱な魔力が放たれて、次の瞬間には木箱に刃を突き立てていた。


鳥肌がたった。

俺はその瞬間を、少なくとも目で追うことすら出来なかった。



********


「いやー、ありゃお手上げだわ」

「兄さんカッコわる」

「うるせ」



あの後、何度もレオナルドが試してくれたが、一向に木箱は剣の刃を拒んだままだった。

レオナルドの剣の炎すら延焼することはなかった。

レオナルドの剣は炎の魔石の力を借りて、刃が超高温に熱を帯びる仕組みになっている、珍しい剣なのだそうだ。

あの熱に耐えられるようになるまで刀身を鍛えるのは苦難の技なのだとか。


だが、その剣でもビクともしない木箱。

レオナルドは箱を開けようとしてくれたが、結局は開くことはなかった。

何でルースはこんな頑丈に魔法を掛けられた箱を俺に託したんだろう。


「まあ、いずれ良い方法を思いつき次第、開ける努力はします」

「すまねえな」


俺の気休めの言葉にもレオナルドは礼を言う。

そこで、あっ、とジュリアが何かを思いついたように手の平の上で拳を打つ。



「ねえ、アスラ。提案なんだけど、どうせ剣の稽古を私達がアスラにつけるなら、ここに住まない? 部屋も余ってるし、広い地下室で訓練もできる。木箱のこともあるしね。宿はまだなんでしょ? どうかしら」



またしてもお得情。

それならヴィカの金を極力使わずに済む。

再三に渡る俺の今後を理性と話し合う、厳正に厳正を重ねた、厳正な会議の結果―――――


「俺に断る理由がありもしましょうか、いや、ない」



ジュリアの髪から香るフレグランスの香りの前では、俺の理性は会議欠席を余儀なくされ、邪な動機の独壇場となった。



***



俺は二階の部屋に通された。

この家は地上二階建てで、レオナルドとジュリアの部屋もこの同階にある。

だが、二人は同室ではないらしい。

一階にはリビングと風呂場及び洗面所とトイレがあり、地下室には剣の整備場所や訓練で用いられる大部屋がある。

フォンタリウス家の屋敷までとは言えないものの、かなりの大きさのある家だ。



「あの、お金のほうは大丈夫なんでしょうか。俺も少しですが生活費を持ってきてますんで、よかったら」

「ああ? ガキが金の心配してんじゃねえよ」

「私達ね、ギルドでそれなりに稼いでるから、自慢になっちゃうけどお金には余裕があるのよ」

「そうだ。てめえの金の面倒はてめえで見ろ」



レオナルドは不遜な態度で、ジュリアは苦笑いで俺の申し出を断った。

二人とも、優しかった。

二人とも俺の両親以上に自分に近しい存在だと思えた。


今まで向き合わなかったが、俺の内に抱える両親に見捨てられた悲しみや、黒く染まっている心の闇は案外大きかった。

例え、前世の両親とは違うにしても両親から全く必要とされないのは悲しいことだ。

おそらく貧しさや病などよりも、悲しい孤独だろう。

ヴィカやミレディがいなければ、俺の心は病んでいたかもしれない。



だが俺の世界はどんどん広がり続け、その心の闇を白く染めていく。

その最たるものが、モーリス、レオナルドとジュリアの存在だと今は思う。


「おい、どうした!? 何でまた泣いてんだ!? アスラ、また自分の魔法が微妙で悲しくなったのか!? 」

「ちょっと兄さんっ!」

「ち、ちがいます。ちょっと、突発的に目に大量の埃が……」

「む、無理あるぞ。それ」



この世界の俺は涙もろいのかもしれない。



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