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第七十六話 帰還

ご無沙汰しております。

エタっておりました。申し訳ありません。

書籍版が軌道に乗るまでの作業、文章の勉強等で、なろう版が疎かになっていました……というのは言い訳です。


言い訳はさておき、七十六話です。

話の流れをお忘れの方も多いと思います。

通勤中通学中、休憩時間、おうち時間等、暇で暇で仕方がない時にでも、ふと思い出して読み返して頂けると幸いでございます。

 結局、遺跡は見つけはしたものの、何も手掛かりを得られなかった。エアスリルに帰る方法すらわからない。


 日本語が『古代語』として通じるが、読めない文字を操る街。


 近くにある巨大遺跡は、二十一世紀初頭の日本、それも東京の風景が取り込まれていて、どうやらそれらは謎のゲートを通ってこの世界に来ているようだ……そんな遺跡。


 そして町の表に止めている日本から来たばかりの◯ムニー。


 どれもこれも謎だらけだ。


 俺たちは何の収穫もないまま、宿に戻ってきた。



『やあ、何か見つけたかい』


 日本語を操るこの宿の店主。

 なぜこの世界に日本語が渡ってきたのか……謎が謎を呼ぶ。

 しかし、これらマリアナ海溝よりも深い謎が、何か答えに行き着いているはずなのだ。そんな気がする。



『なにも。少し休むよ。あと町の外にはサンドウルフの群れがいるから、気をつけた方がいいよ』


『ご忠告どうも。ああ、そう言えば……さっき青い髪の若い子が男女二人組を探してここに来たけど……君らのことかい?』



 店主の言葉が神の恵みに思えた。

 そう思えたのは俺だけではないようで、ソーニアと目を見合わせた。


 飛び跳ねて喜んだ。


 その待ち人は、宿の食堂にいるらしい。

 俺たちは自然と駆け足になった。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




「ソーニア様っ!」

 ひしっとソーニアに抱きつくフードを被った女。フードの端から覗く青い髪で、さっきの店主が言ってた待ち人だと得心がいく。


「オリオン……よかった、来てくれたのね」


 ソーニアが半分涙目で安堵を声にする。

 オリオン……ソーニアが契約している人工精霊だ。

 瞬間移動テレポーテーションの能力を持つと聞いている。


「はい……申し訳ありません。あの夜、寝ぼけてこんな所に飛ばしてしまいました……」


「ううん……いいの、いいの。ごめんね……」


 オリオンとソーニアは熱い抱擁を交わしている。

 いい話だ。

 契約者であるソーニアのためにオリオンは、色んな場所を訪ねて探し回り、ここを突き止めて辿り着いたのだ。

 泣けてくるじゃないか。


 ひしっ!


「きゃああああ! アンタなに勝手に抱きついてんのよ!」


 バシッ!


「へぶぅ! だ、だって感動的な場面だったからハグするものなのかと……!」


「アンタとハグするわけないでしょーが! 変態!」


 バシッ!


「へぶぅ!」


 こんな時くらい抱きつかせてほしかった。

 砂漠を歩き町まで辿り着くという困難を共に乗り切った仲だというのに、そこまで大きな信頼関係は築けてはいなかったのか。

 むなしい。


「ソーニア様、そちらの方は?」


「こいつは変態よオリオン、気を付けなさい」


「は、はい……あの、お知り合いで?」


「ええ、私がノームミストだということを知ってしまった哀れな男よ。口封じのためにどこか遠くに飛ばしてもらおうかと思ったけど、もう少し様子見よ」


「えええ……そんな怖いこと企んでたの?」


 しかし、この砂漠で過ごした数日で俺に対するソーニアの考えが少し良い方に変化したのは見てとれた。でなければ、またすぐにどこか地の果てまで瞬間移動させられていたことだろう。


 オリオンは怪訝そうな目で俺を警戒している。

 青く長い髪で色白の女性だ。

 いや、大人びて見えるが、歳は俺とそう変わらないかもしれない。

 白を基調とした服を着ており、腕や背中を惜しげもなく出している涼しげな格好である。見ようによっては少し扇情的だった。


「とりあえず、キーリスコールの屋敷に戻してくれるんだよな」


 オリオンの刺すような視線に耐えかね、俺は間を保たせるために話を繋いだ。


「とりあえずはね。アンタの身の上やこの遺跡の話はあとでしましょう」


 あとで根掘り葉掘り聞かれるんだろうなぁ。

 アルタイルがまだ屋敷にいるのなら、ある程度フォローはしてくれるだろうけど……前世のことを話す覚悟を決めておいても良いかもしれない。


 特に思い入れもない砂漠地帯だ。

 こんな所とはさっさとおさらばしたい。

 ソーニアに言われるままに、瞬間移動の手順に入る。


「オリオンと物理的に接触していれば、オリオンの瞬間移動に同行できるわ」


「簡単そうで良かった。じゃあさっそく」


 ばしっ!


「へぶっ……! なんでぶつの⁉︎」


「直接私のオリオンに触れないでくれる⁉︎ 間接的に接触してても瞬間移動に同行できるから、アンタはオリオンと繋がっている私の服でも摘んで待ってなさい」


「何もそこまで野獣扱いしなくても……」


 俺はブータレながらもソーニアの袖の端をちょんと摘む。

 が、しかしそれは突然だった。

 宿の中だった周囲の景色が一気に、屋敷中に塗り替えられていく。

 だけど変化しているのは周囲の景色ではない。

 俺たちのいる「位置」なのだ。


「ふぅ、ようやく戻ってこれたわね」


「え! 何今の! 面白いじゃん! もう一回やろ!」


「するか!」


 俺が子供みたいにはしゃぐと、ソーニアはすかさず俺を制止した。

 まるで子供に手を焼く母親みたいだ。

 ソーニアの袖を摘んでいた手もパシっとはたかれる。

 嫌われたなぁ。


 屋敷に戻ったところで、執事のロブとメイドのサーシャが食事や風呂の用意をしてくれた。


「久しぶりだね、アスラ君」

「驚いてないね……」


 知っていた……のか?

 驚いているのは俺とソーニアのみ。

 ソーニアがノームミストだということを元より知っていたのだろうか。


 戻ってきたのは、屋敷の食堂である。

 たくさんの食事が用意されており、彼らの様子から、オリオンとロブたち使用人の面識もあるようだ。オリオンが迎えにきた今の今でこんな料理は用意できない。

 オリオンが砂漠に俺たちを迎えに来る前に、話をしていたに違いない。


「よく帰ってきた。話はみんなオリオンから聞いている」


 と、そこに現れたのがノアだった。


 ははーん。

 なるほど、読めてきた。

 屋敷内でオリオンのことを知っているのはソーニアのみだったはず。

 しかし、オリオンの不注意で俺とソーニアが砂漠に飛ばされたことで、思うわけだ。


 あの二人はどこだ、と。

 数日を砂漠で過ごしたんだから、屋敷が広いから会わなかったでは済まされない。


 ではどこに?

 そう疑問を抱いたところで、オリオンが顔を自ら出したのだろう。

 水面下でオリオンが俺たちを迎えに来たところで、突如屋敷に戻ってきた俺とソーニアが当然屋敷の住人からどこで何をしていたのかと問い詰められるのは火を見るよりも明らかだ。


 俺たちと失踪は、オリオンの能力なしに説明できないのだ。


 オリオンはそれを予見し、自ら屋敷の住人の前に姿を現した。

 だからロブやノアがオリオンの存在を知っていることに、ソーニアは驚愕している。

 誰にも言うつもりはなかったのだ。

 自分がノームミストだということも、オリオンと契約していることも。


 とにもかくにも。

 俺とソーニアは、オリオンの話と現状の擦り合わせのため、起きた事の端末を、ノアの屋敷にいる全員に説明するハメになった。

 くっそー、ただ単にノアの屋敷で働いて家族間問題、ノノとの不仲を解消するつもりだったのに。

 解決でなくていい。解消でいいんだ。


「話……は、だいたいこのオリオンから聞いた……しかし、どうしてこんなことを?」


「こんなこと……というのは、怪盗をしていたこと……?」


 ノアの視線に答えたのは、娘のソーニアだった。


「……」


 ノアはこくりと首肯する。

 ノアは普段、研究職で多忙を極めている。

 この屋敷で顔を合わせることも滅多になかった。

 そのノアがこうして話に参上しているということは、屋敷の中ではそれほど大きな事件だったということ。

 あ、いや、娘が怪盗ノームミストで、さらにオリオンとかいう精霊と契約していてしばらく砂漠を彷徨っていたという事件に、大きいもクソもないか。



「私は……」


 ソーニアは、意を決したように固唾を飲んだ。

 そして紡ぐ。

 真実を。


「私は、お母さんが死んだ真相を突き止めようとしていた……」



 言っ…………た…………。

 ソーニアのお母さんは、祖父のノノに殺された。

 ソーニアはそう言っていた。

 しかしソーニアの隠し部屋にあった魔法研究所員の名簿……そして消されていた三人の名前。

 一つはゼフツ。

 もう一つはノノ。

 そして最後に、コロナ=レストレンジ。


 十中八九、コロナはソーニアの母親だ。

 レストレンジは旧姓。

 キーリスコールに変わる前の旧姓のまま、研究所に席を置いていたのだ。


「……そ、うか……そうだったのか」


 ノアは、溜め息をつきながら深く頷いた。

 そして続ける。


「この際だ……はっきり話しておこう。コロナが亡くなった真相を」


 一同が固唾を飲むのが聞こえた。


「悪いが、みんな席を外してくれないか」


 ノアが一同と目配せをする。

 ロブとサーシャ、 クシャトリアとアルタイル、そしてオリオン。

 俺も彼らについて部屋を出ようとした。


「……」


 が、しかし、ソーニアが部屋を出て行こうとする俺の服を掴んだ。


「?」

「…………」


 ソーニアのやつ。一丁前に震えていた。

 えー、もう……わかったよ。いいよ、いいけどさぁ。

 俺が足を止め、ソーニアの横でノアに向き直ると、ノアは苦笑いをした。


「いいだろう。君も聞きたまえ」


 そして話を続けた。


「キーリスコール家は知っての通り、少し前まで平民の家で貴族ではなかった。しかし、ゼフツ=フォンタリウスが魔法研究所長の時、僕の父ノノ=キーリスコールと一人の女性所員が、人工精霊の研究が理論上可能だと見つけたんだ」


「その女性所員が、お母さん?」

「そうだ」


 ソーニアの問いにノアは間髪入れずに答えた。


「父の助手をしていた僕とコロナは出会い、結婚した。しかし、それと並行してゼフツは人工精霊の研究をどんどん推し進めていた。時には非人道的なやり方でね」


 非人道的な方法。

 ゼフツの発言を思い出すと、想像に易かった。

 やつは俺のこの世界における母ルースを愛し、我が物にしようとしていた。

 そのために必要な力を、人工精霊を生み出すことで得ようとしていたのだ。


「しかし最後に研究は行き詰まったんだ。人工精霊の生成には、大量の魔力と生きた人体、そしてもう一つ必要なものがあった」


「コロナの秘宝……」


「そう、知っているのか、君は」


「名前だけね」


 俺はふと呟いてしまった。

 深掘りされれば、俺がその人工精霊と契約していることや、解放軍を壊滅させたことも話さなければならなくなる。

 口走ってから俺は馬鹿かと自責した。


「アスラ君の言う通りだ。その特殊なガラス球はコロナしか生み出すことができなかったんだ。彼女は特殊な魔力の持ち主でね。別の世界から来たとか何とか言っていたかな……」


「別の世界?」


「そう、『ニホン』とか言っていたかな?」


『日本……?』


 思わず日本語が出た。

 は?

 いやいや、名前コロナ=レストレンジじゃん。

 明らかに日本人の名前じゃないでしょ。


「とにかくだ。彼女はこの世界の人間が持ち得ない特殊な魔法が使えたんだ。彼女は無属性魔法使いだったんだよ。魔法の能力名は『魔力適合』。僅かな差なんだが魔力にも人によって様々な種類があってね。魔力適合は色んな人と同じ性質の魔力を生むことができる。そんな無属性魔法だった。コロナの秘宝には、そういった誰にでも合う魔力が材料として必要だったんだ」


 無属性魔法使い。

 日本人の前世を持つ俺が無属性魔法使いであることと関係がありそうな気がしてならなかった。

 ソーニアが俺の服を掴む力がどんどん強くなるのを感じた。


「結果、コロナがゼフツに強制的に実験材料にされるのを、父は止められなかった。父も脅されていたからね。ソーニア、彼女が君を出産した後だ。君はゼフツの人質にされていたんだよ……」


 ソーニアは息を飲んだ。

 まるで熱が失せた人形のように青ざめた表情と硬直した体。

 今にも気絶しそうな彼女を知ってか知らずか、ノアは容赦なく続ける。


「父はソーニアを守り、コロナを見殺しにした。研究は大成功。ゼフツが貴族の身分と領地をキーリスコールに与えるよう王族に掛け合い、見事キーリスコール家は貴族となったんだ……笑えるだろ?」


 そうか、その事件をきっかけに、ノアは父親であるノノと絶縁関係にあったんだ。

 そのことを、ソーニアは限られた情報だけで判断し、「ノノがコロナを殺した」と曲がった結論を勝手に出していたのだ。


「笑えないわ、そんな話……おじいちゃんに謝らなきゃ……!」


 俺が気付いた時には遅かった。

 ソーニアは唐突に走り出して、食堂を出て行った。


「追ってくれ! アスラ君!」


 一番に反応したのは俺ではなく、ノアだった。


「言われなくとも!」


 ソーニアはオリオンの力でノノのところへ瞬間移動(テレポーテーション)で飛ぶ気だ!

 俺は弾かれたようにノアのいる食堂を飛び出し、ソーニアを追った。


クシャトリア(・・・・・・)! ソーニアを捕まえろ!」


 アルタイルは完全複製(イミテーション)で俺の思考を読むことができる。

 クシャトリアに力の限り叫んで指示を出した。


 が、その瞬間にソーニアはオリオンと共にこの空間から姿を消した。


「くそ……! すぐにノノのいる宿へ向かおう。今日中に会えるはずだ……!」


 頭を切り替え、次の段階に事を進める。

 一度食堂に戻った。

 ノアは影の落ちた表情をしている。


「やぁ、間に合わなかったかい?」

「ええ。でもすぐにソーニアを追いますよ」

「その必要はない。今は待ってくれ」

「?」


 ノアは居住まいを正し、こちらを見据える。



「なぜ君が人工精霊クシャトリアのことを知っているんだ?」



 あ……。

 そう言えば今しがた俺はクシャトリアと叫んだところだ。

 ソーニアを追うことに必死になりすぎて迂闊なことをしてしまった。

 しかも人工精霊の話をした直後だ。クシャトリアの名前を聞いて人工精霊に考えが行かない方がおかしい。



「ソーニアのところに行くのは、それを教えてくれてからでもいいだろう?」


「バカアスラ……」


 ノアの言葉を受けて、クシャトリアは辟易したようにつぶやき、頭を抱えて見せた。

 

 

書籍版とは随分と話の内容は異なりますが、ダイジェスト化はせずに済んでいます。

今後も細く長く続けていきますので、よろしくお願いします!

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