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第六十四話 作戦決行

ミレディは、寮の自室に閉じこもってしまった。

女子寮の前までミレディを追ってきたものの、彼女は俺たちの制止も聞かず、出てこない。

ロイアは女子寮の中へとミレディを追ったが、俺とアルタイルは、女子寮の前で油を売ることになった。


解放軍の問題が一件落着し、俺やミレディ、ロイアがギルドから解放されたということは、ミレディの実父であるゼフツが、捕らえられたということだ。


そして、その事件に大きく加担し、解放軍の壊滅に最も貢献したと言ってもいい俺から、それを告げられたのだ。


正確にはアルタイルなんだけど……。

一応、この人工精霊の管理は俺がしているから、いわば保護者のようなものだ。それに契約しているし……。


長期休暇も残り日数が少ない。

情報を整理し、早めにキーリスコール家の家庭問題を解決しなければならない。


しかし家庭問題など、外部の俺たちが踏み入っていいものなのだろうか。

本人たちからすれば、プライベートな問題に陸上競技用のスパイクでズカズカ踏み込まれるように感じる中、家庭問題を解決しますなどと言う頭のネジが数本飛んだ魔法学園の生徒など、相手にする時間が無駄だ。


どうしたものか……。


と、考えるのがそろそろ面倒になってきたので、顎に手をやり名探偵を気取っていると、その俺の惰情を読み取ったアルタイルが、一つ案を出した。



「マスター、私に案があります」

「おお、いいね。そういうのジャンジャン出して」


「はい。この一件で、ギルドには恩を売ることができました」

「もう本題か、まあ、確かにそうだな」


したり顔のアルタイルは、今初めて見る。


「もう一方で、マスターはどうキーリスコール家の家庭問題に踏み込もうかお悩みですね」

「ああ……」


段々と話が見えなくなってきた。

大丈夫なのだろうか、この人工精霊の策案は。


「ギルドを使って、合法的にキーリスコール家に忍び込めば良いのです」


「なるほど……」


ギルドを利用するなど、考えてもいなかった。

俺は暗黙に、そして自分たちの力で物事を解決するという方策に何の疑いも持たず、要領の悪い策を、ああでもないこうでもないと、頭をひねって模索していた。


大海原のプランクトンを手掴みで捕らえようとしているようなものだ、馬鹿馬鹿しくなってくる。


「しかしどう合法的な手段をとるか、だ……」


何か良い手はないものか。

しかしこの時点で俺が危惧していることが引っかかって、良案が出ない。


まずミレディのことだ。父親であるゼフツの悪行を知り、平静ではいられないはずだ。そこに、ゼフツの仇である俺が慰めても、あまり効果は望めない。


この大事なときに自分の無力さに腹が立つ。


そしてもう一つは、ノノとソーニアを、そう簡単に引き合わせて良いものなのかどうか、という点だ。

ただでさえソーニアがおじいちゃんと話したくないオーラ出してるのに、何の材料も得ぬまま闇雲に二人をくっつけても、本当の意味で仲良くなるとは考えにくい。



「別行動だな」

「それが良いかと」

「ミレディは学園の有名人だ。俺もソーニアと顔を合わせたことがある。ソーニアにはロイアを当てがうのが妥当だろう」


「しかし、それではマスターとミレディ様の溝がさらに浮き彫りになるだけでは……」


「それもそうだな……よし、ミレディとロイアにはノノにあたってもらう。ソーニアは俺が何とかする。そして、このどこか仕組まれている課題の真意を明らかにする」


作為的な課題。

慈善活動以前に、不自然なところしかない課題内容。家庭問題にまで踏み込んだ学園の課題。これはもはや、学園が望んだ課題ではない。



ミレディの母であり、学園長としてこの課題を仕込んだ張本人、ゼミールの思惑が少なからず見え隠れする課題内容だ。

しかし、その思惑は完成には見えてこない。もっと踏み込んで、こちらから覗き込む必要がある。


と、俺が歯噛みしていると、ロイアが女子寮から出てきた。



「編入生君、ミレディ、しばらく部屋から出てきたくないって……」


「そうか……」


「何か案は出た?」


「一応は……」


「一応? 具体的にどんな?」


「大雑把な流れとしてはこうだ」


俺がロイアに説明している間、アルタイルはどこか心ここに在らずというような表情をしてた。


ロイアにはノノにあたってもらうことを伝え、さらにノノは俺とレオナルドたちをレシデンシアからエアスリルまで馬車で送ったため、居場所もここ、ウィラメッカスだ。そう早々と街を移りはしないはず。


「そ、それ正気?」

「俺はいつでも大真面目だ」


説明後、ロイアの顔が引きつっていた。俺の妙案は、一般的に、あまり人が好まない愚策でもあるらしい。自覚はある。



「それと……今回、ミレディは休みだ」

「……うん」


ロイアは一拍遅れて俯いて言う。


ミレディは、ショックでそれどころじゃないはず。いくら俺たちと仲が良くて、ずっと一緒にいたいと言っても、今回の事件の犯人が自分の父親とあらば、あまり外に出たくないというのは、よくわかる。


これで、フォンタリウス家は終わりだ。

最近力をつけてきたキーリスコール家とは真逆に、右肩下がりに落ちていくだけだ。


ミレディの肩には、そのことも大きくのしかかっているはずだ。

没落貴族というやつか……。


フォンタリウス家を見返すという目標は、別の意味で達成されてしまった。

俺を追い出したゼフツに泡食わせて、レシデンシアの牢獄にぶち込んで、不味い飯を食わせる。

ある意味、俺の大逆転だろうが、望んだことではなかった。少なくとも、今のミレディを見ていると、そう思う。


貴族と言えば、キーリスコールはノノの息子さんの時代から貴族になって力をつけてきたって話だったような……。


話が少し見えたような気がした。



◇◆◇




その後、さらにエアスリル魔法学園で一日休養をとってから、作戦決行となった。


ミレディはまだ部屋から出てこないようだ。このまま引きこもりにならないといいのだが、切にそう思う。


しかし、またミレディが出てきにくくなる出来事がまた一つ。


「私を置いて『作戦』とは、偉くなったもんだな、アスラ」


「く、クシャトリアさん……! もう調子はよろしいので?」


あまりの唐突な出来事、そしてクシャトリアの剣幕が怖くて、俺は思わず敬語に……。


「おい、なぜここにコイツがいる?」


保健室から出てきて、完全復活したクシャトリアがけたたましく現れた。

そして矢継ぎ早に療養中に溜まった不満や鬱憤を吐き散らし、さらにアルタイルに噛み付く。


やっやこしい奴が出てきたな……。しかもコイツはミレディとも一悶着どころか、二悶着、三悶着ぐらいある人との付き合いが極めて下手な人工精霊だ。


はっきり言って面倒くさい。ぶっちゃけ置いていくつもりでした。


「お姉様、おはようございます。お加減はいかがでしょう?」


「快調だよ、おかげさまでなっ!」


二人の皮肉合戦。人工精霊というのは、すべからく人付き合いが苦手なのか?



「それで何でここにコイツが!?」


クシャトリアは念を押した。

人工精霊同士の不仲に内心うんざりしていたのが顔に出ていないといいが……。



「成り行きで……」


口をついて出た咄嗟の言葉の割に、妙に的を射た答えだ。

魔法学園の野外活動中の解放軍の突然の襲来。

俺をコピーしたアルタイルにやられたクシャトリア。

拉致を免れたミレディ。


この学園を揺るがせた恐怖の事件の事情聴取を、教員のメルヴィンにされた。しかし、クシャトリアが俺の契約精霊だと知られたくない俺。


そこで、世論に晒したくない学園長は、俺やミレディ、ロイアの不真面目として取り立てて、解放軍の襲来自体、なかったことにしようとしている。


時系列に考えると、とんでもない学園だな……解放軍の次はお前たちだ、エアスリル魔法学園。


などと状態はさて置き。


しかしそれは、逆に事件を揉み消して、事情聴取自体を取り止めにさせるという、学園長の粋な計らいだった。

そうすることで、クシャトリアの正体を明かさずにすんだのだ。


表向きは俺たちの不真面目。

その制裁として課題を課した学園長ゼミール。


その課題とは、ギルドでの慈善活動。

そして、現在目下思案中のキーリスコール家の長女と、その祖父の不仲。お前たちみたいだな、クシャトリアとアルタイル。


もう一つ、三つ目の課題が用意されているようなのだが、それは二つの課題を先にクリアさせると、課題内容がわかるとのこと。




まず手始めに、ギルドに訪れると、過去の仇、ノクトアの母であるミカルドがギルド長をしていた。


そして都合よく、俺に依頼された騎士隊の解放軍への潜入作戦。

はっ、実に馬鹿げている。

ゼミールやミカルド、騎士隊のレイナード……奴らは各々の正当性を主張するが、今思えばあれはれっきとしたプロパガンダに違いない。


誰が俺の身を案じてくれた?

学園長か?

ギルド長か?

騎士隊か?

どれも自分のことしか考えてない。


解放軍に潜入し、ノームミストという怪盗が現れ、潜入先の仲間たちと怪盗を捕縛しようとすると、解放軍発の二重スパイ、イヴァンに俺の潜入が密告され、逆に俺が捕縛された。


ノームミストの行方や正体は、名の通り霧のように消えた。


そして捕縛先に魔力消費の燃費が悪いという理由で廃棄予定だったアルタイル、そして先のミレディ拉致作戦でアルタイルと契約させられていたレオナルドとジュリア。


その三人、うち人工精霊一人は、敵でありながら一番俺の心配をしてくれた! なんたる皮肉だ!

しかもその三人に悪意はないと見える。

組織に操られていただけだ。


それらの新たな仲間と解放軍を壊滅に追い込み、最後の一押しはゼフツ自ら解放軍のボスであるレシデンシア王国の国王殺害という形で終結した。


その後、課題のためレオナルドとジュリアと別れて現在にいたる。

解放軍壊滅に先立ち、アルタイルと契約したのは不可抗力だ。この人工精霊も人間のエゴで生み出され、そしてまた、廃棄されるところだったのだ。そんな勝手な話があってたまるか。

それにアルタイルはこの上ない俺の理解者だ。


対象者を完全に複製する能力。

有用性にも富んでいる。


「はぁ、はぁ、こういう成り行きだ……」


俺は半ば苛立たしげに、そして矢継ぎ早に説明した。

説明して改めて自身の置く状況を見直すと、俺はとんでもなく周囲の人間のエゴに巻き込まれ、便利な道具にされていることがわかる。しかも使い捨てときたものだ。


何とか俺は生き延びてはいるが、この先の保証はまずないだろう。


「編入生君……大変だったんだね……」


「まあな……」


早口で説明したせいで、息も絶え絶えだ。

そういえばまだロイアとミレディにはことの顛末は知らせていなかった。


ミレディにも、またちゃんと話さなくてはな。


「だ、だからと言って私を殺そうとしたコイツと契約するか?」


しかしクシャトリアの怒りはおさまらない。


「仕方なかったんだって。死の瀬戸際だったし」


「もう敵対する理由も立場もないです、お姉様」


「そのお姉様と呼ぶのはやめろ! 私はお前の姉畜生ではない!」


クシャトリアはさらに激昂した。

とりあえず喚き散らしている。

彼女が気を失っている間、俺たちがクシャトリアを置いて色々と駆け回っていたこと。


それを傍観するでもなく、ただただ過ぎてしまったことが、彼女にとっては悔いなのだろう。



「落ち着け。まだ課題が残ってるお前にも動いてもらわないといけない。時間がないんだ。こんなとこで油売ってる暇はない」


クシャトリアがその俺の言葉に、ピクッと肩を動かしたのが見えた。

ふふふ、釣れるのが早いぞクシャトリア。


「目下、ロイアはノノの宿を探し、家族間に何があったのか書き出したのちに、その都度報告してくれ。一応、解放軍の時のようにぶっ続けで働くつもりはない。夜には集まって情報整理の時間を設ける。いいな」



クシャトリアが単純でよかった。上手い具合に話がまとまった。


「もう今から?」


「そうだ、ロイア。ノノを探してくれ。俺たちはギルドに向かうぞ。ミレディが復活し次第、ロイアと合流させる。ロイア、さっき話した手筈で頼む」


「……無理だと思うけど」


「これしか手はないと思え。俺も他に策が思い浮かばない」


不服そうにノノ探しに足を進め始めるロイア。


ーーーー無理だと思うけど


ロイアの言葉を思い出す。


俺も無理だと思うよ……。

でもやるしかない。



「俺たちも行くぞ精霊姉妹」

「誰が姉妹だ」


しかしクシャトリアはどこか安心したように見えた。

行き先は、えーっと。


「冒険者ギルドですね」


と、アルタイル。

彼女は俺の思考や記憶もコピーできる。

解放軍の一件で疲れが抜けなくて、頭が働かなくてもこの通りだ。


「無理はするな……」



クシャトリアが小声で言った。

俺の身を案じてくれる者が、もう一人。しかし、ここでは踏ん張らなくてはならないのだ。


これが終われば、思いっきり甘えよう。





ミレディはまた後で出てくる、はず。

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