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第六十二話 クワトロとゼクスと、あとミレディと

〈ミレディ視点〉


ウィラメッカスのギルドで、酒場の店員をしながらアスラの帰りを待つこと二週間近く。

もうすぐ魔法学園の夏の長期休暇が終わろうとする頃。ギルドの職員として、若い二人の男女が、ある日来た。



クワトロとゼクスという、何とも人らしくない名前の二人だ。クワトロは赤毛で私より一つか二つ年下くらい。ゼクスは金髪にメガネで、年の頃はクワトロと同じくらいだろうか……。



初めて二人が勤務する日、二人が勤務を始める前に、軽く二人の自己紹介があった。

二人の自己紹介は、名乗るだけという、何とも簡素なものだった。

あまりにも紹介になってなくて、何人かが彼らに質問をすれども、返ってくる返答は「わからない」の繰り返し。

出身地もわからないのだ。

私は、ギルドの二人の雇用に何か裏があると睨んだ。でも、そんなもの簡単にわかる裏ではないことくらい承知している。

つまるところ、今の私の立場ではどうすることもできない。


「ロイアちゃん、ここの仕事も慣れてきたんじゃないか?」

「……」



酒に酔った冒険者から声を掛けられようと、私の相方のロイアはどこぞ吹く風。まるで聞こえていないかのような対応をしている。

なぜこのような対応で仕事をやってられるのかと言えば、どうやらこのギルドに同行したアスラが、ギルドのために動いているから、こうして酒場の職に就いてここでアスラの帰りを待つことができるのだ。


アスラはここに来て、ギルドの裏に通されたかと思えば、行方を知らせず、何らかの依頼に赴いた。


アスラはここでいなくなった。戻ってくるなら、やはりここだろう。

アスラならギルドは来にくい場所でもないはず。


しかしアスラがそうなってから、しばらく経つ。

と思ったらこの二人だ。


クワトロとゼクス。


一体何者なのだろう……。

アスラと関係あるのかな。


謎は尽きない。


「おーおー、ロイアちゃん今日も冷たいねえ。なあ、そう思うだろ? ミレディちゃん?」


「……」


しかしタイミングが良過ぎる。

アスラがいなくなって二週間。聞けば解放軍が解散したというじゃないか。




「最近ここの若い職員は冷てえな」

「おい、ミレディって、フォンタリウス家じゃないのか?」

「あのフォンタリウス家?」

「バカ言え。なんで大貴族様がここで俺たちの酒盛りしてんだよ」

「ああ、確かに」

「もしフォンタリウス家の令嬢なら、解放軍解散よりびっくりだ」

「違えねえ! がははははっ!」



「……」


今日は小鳥が良くさえずる。



ヴィトナさんは噂していた。いや、どこか確信めいた話にも聞こえた。

解放軍は内部分裂で解散したと言われていた。


「解放軍がどうしたって?」


私は他の職員と解放軍の話をしていたヴィトナさんに、そう話し掛けたのを覚えている。


「解散したんだって」

「解放軍が? 解散?」

「ええそう。私も今日報告聞いてびっくりしちゃった」


「報告って、誰からの? ギルド長?」



「ううん。アス……」



「あす?」

「き、騎士隊のひとっ!」

「騎士隊のひと?」

「う、うんそう。レイナードさんってひと!」

「ふーん」

「騎士隊の人が解放軍に潜入してたんだって! それで解放軍の一番悪い人やっつけて、内部分裂? させたんだって! すごいね! あははっ、あは」



不自然だ……。

いや、日頃のヴィトナさんの様子から考えると平常運転だろうか。

ヴィトナさんはだいたい挙動不審。

しかし、それにしてもいつも彼女と少し違うような口ぶりだった気がする。


ものすごく感覚的な話だけど……。


今それを思い起こしても、そう感じてしまうのだ。

アスラの失踪? それに解放軍の解散。

もっと言えば新人職員のクワトロとゼクス。


無関係とは思えない。


そして今日はこれだ。



「クワトロとゼクスの……呼びにくい……まあいいや、その二人に仕事教えてあげてほしいんだけど、頼める? ミレディさん」


ヴィトナさんはいつも突飛押しもない仕事を任せてくる。それはあなたの仕事だと思うのだけど。

なぜ私が。

私も新人職員には変わりないのに。


「……」


いや、しかしだ。

二人の話を聞けば、少しはアスラについて答えが出るかもしれない。

今私が抱える謎の一端は、彼女ら二人組にもある。



「わかりました……」

「す、すごく嫌そうだね……」

「別に、大丈夫」



苦笑いしながらヴィトナさんは、頼んだよ、と言いクワトロとゼクスの元へ戻った。

そしてヴィトナさんは二人にあれこれ説明しているような動きを見せてから、私を指差して何かを言っている。


今日からあの人が色々教えてくれるから! じゃ、そういうことで!



と言ったところか、ヴィトナさんの台詞は。

クワトロとゼクスはまだ小さな少女と少年。二人は目配せし合ってから、こちらに歩み寄って来た。



「あの……さっきの人から聞きました。お世話してくれるって」

「今日からよろしくお願いします!」


クワトロとゼクスが緊張した面持ちで軽くお辞儀した。

まずはこの職に慣れてもらわないといけない。

その第一歩となるのが、人間関係だと私は個人的に思うのだけど、こういった挨拶の場での第一印象は言わずもがな大事だ。



「よろしく」



ああ、いつも通りの声が出た。

また無愛想だと思われる。



「よ、よろしくお願いします!」

「します!」


クワトロとゼクスは若干たじろいでから、頭を振りかぶってお辞儀をした。

二人の一生懸命さ……いや、必死さが伝わってくる。

この職を失えば終わりのような、張り詰めた空気。

本人たちすら自身の素性をしらないような人物が二人。

ワケありなのだと察してくれと言っているようなものだ。

その二人が、生活に困り日なたの世界に出てきた、という塩梅だろうか……?



ああ、やめやめ。

二人の詮索はどうでもいい。

まずはアスラのことだ。

前述した通り、証拠はタイミングが合いすぎている、という何とも頼りないものだが、二人に聞いて損はないだろう。


解放軍解散のこと。

アスラという人物のこと。


「ねぇ、あなたたち、アスラって知ってる? 男の人よ」


意を決して言ってみた。

二人の反応は、唖然とする。

知らない……か……。


意味のわからないことをごめんなさい、と口が言葉を用意する。

が、そのとき。



「私たちの恩人です……」


クワトロが胸に自身の手を抱いて、そう言った。

何か特別な感情を秘めるように、何かを祈るように、大事に言葉を紡ぐ。

ゼクスも過去を思い出すように、幸せそうな微笑みをこぼした。



それだけ聞ければ、今は十分だった。

やはり、解放軍の解散。二人の急なギルドでの雇用。そしてアスラの行方。

全てはどこかで繋がっているのだ。


そして、やはりアスラは誰からも感謝されるような、そんな見上げた人物だということ。



私は自分のことのように嬉しかった。

二人の世話を、俄然頑張ろうと、自然に思えたのだから。





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