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無属性魔法の救世主(メサイア)  作者: 武藤 健太
精霊クシャトリア編
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第五十六話 王の最期

今回の更新で、話に違和感があるかもしれません。

もし違和感を感じれば、お教えいただければ幸いです。


「お前に……」



ゼフツの唸るような声は、小さな声だった。

とてもじゃないが、聞き取れなかった。



「なんだ? ゼフツ、なにが言いたい」



すると、俯いていたゼフツは急に顔を上げ、あろうことか我を睨みつけてきた。

これまで忠実に従ってきた駒が、我に反抗せんと宣言するかのごとく、憎しみのこもった眼光を送りつけてきた。



「王、王、あなたが……いいや! 貴様がルースの何を知っている‼︎‼︎」



「ッ⁉︎」



ゼフツが……あのゼフツが、我に敵意を向けた。

それはおそらく、いや、十中八九、あのルースと思われる人物の登場が明らかに関係している……!



解放軍、延いてはレジデンシアの目的のため、ゼフツの愛する者、ルースの肉体は滅んだ。

しかし目的のためとは言え、ルースはゼフツの想い人だった。

それも極めて強い想い。



ルースの意識は生きている。

だが、意識だけ。

視覚的にルースを認識する術は、もうこの世には、少なくとも今まではなかったはずだった。



そして長らくルースに会えないゼフツの歯がゆさ。


その全てが、ゼフツの鬱憤となって蓄積され、それがあのルースの出現によって、爆破した。

それほどに、ルースはゼフツにとって大きな存在だったのだ。




「ルースが貴様に認めてもらいたがっていた! でも、それでも、貴様はそんな健気な彼女すら駒扱い! 娘だぞ⁉︎ 貴様の!」




ゼフツは、普段の落ち着き払った態度からは想像もできないほど、腹の奥から叫んだ。



まずい。

ゼフツが何を考えているのか……わかる!

それがわかるから、まずい。



「ま、待て、ゼフツ……落ち着け……」



ゼフツはゆらりと杖を構えた。



「もう、貴様には従わん……解放軍を、終わらせる……!」



「よ、よせッ!」



もう絶望的だ……!

こんなこと……誰が予想した! 誰が目論んだ! これを、これを仕組んだ者が必ずいるはずだ!


ゼフツにはもう我の言葉は届かない……!

くそッ!


我も、負けじとかたわらに備えていた杖を、ゼフツに向ける。



「ゼフツ! 今ならまだ水に流してやるぞ……!」



しかし、我の言葉は火に油だったようで……。


「あの世でほざけ……」


こやつッーーーーッ‼︎



「水の精霊よ、我に力を……」



ゼフツが、淀みなく魔法の詠唱を始める。

頭に、この世の全てがよぎった。



前王を事故に見せかけ殺め、王の座に就いてからは側近を息のかかった者で固めた。


前王の時代、ある程度友好的だった国、エアスリルを手中に治めようと企み、解放軍を水面下で組織した。



前王が隣国の危機に手を貸した恩を材料に、隣国ビブリオテーカ王国を、実質上支配した。


ビブリオテーカ、そしてレジデンシアからの資源の供給を半ば絶たれたエアスリルは、段々と弱っていった。


そんな時、エアスリル王国に姫が生まれた。名をネブリーナと言った。


あろうことか、姫の誕生以来、エアスリルは徐々に力を取り戻してきた。

このままではまずい、そして解放軍の出番だ。


ゼフツにルースをあてがいエアスリル内にパイプを作った。


人工精霊を開発させ、それをルースで試した。


するとどうだ? 人工精霊は思った以上の成果をおさめ、レジデンシアが力をさらにつける礎となった。


が、そんなとき、何の間違いか、ネブリーナも開発した人工精霊との契約をした。



時間が経つにつれ、ルースとネブリーナの契約の誓約のせいで、二人の間でたびたび問題が起き始めた。


計画は、徐々に狂って行った。



そして実力行使をすればいいと考え、エアスリルに攻め込んだ。

もちろん、レジデンシアとしてではなく、解放軍として。



解放軍の名は、しでかした罪を被らせるのには、最適だった。


我はレジデンシアの王として、知らん顔を決め込んでおけばよかった。



おおむね、上手くいっていた。

なのに、なのに、なんで! こんなことに……。



思い悩み、過去の出来事が頭によぎった直後、レオナルドの空気が変わった。



やつは、レオナルドは、笑っていた……。



これは、こやつのはかりごとか。

それに気付いたのは、我の、おそらく最後の幸運。

くそ、こんなところで終わってたまるか!



「我に……我に逆らってただで済むとーーーー」


が、もう遅かった。

ゼフツの魔法の詠唱が終わった瞬間。



「アイスキャノン」



アイスキャノン……大砲の弾丸並みの大きな氷を高速で放つ魔法。

しかし、放たれたのは極小の弾。

ゼフツが調整したのだ。ゼフツの魔法に関する技術や知識はずば抜けて高尚なものだ。


それは、一直線に、まるで最初から決められていたように、我の胸を貫いた。



ズガンッ‼︎‼︎



と、そこに一足遅れて。

レオナルドを背後から追い抜いて現れたのは。



「失礼! 本当ですか、ザレイラス様! ここに解放軍が現れたというのは!」


ザッと勢い良く現れたのは、レジデンシアの近衛兵士。

我の側近の護衛部隊に当たる兵士たちだ。

それを率いて現れたのは、アイゼンシュタットという四十の男。

こけた彼の頬は、彼がいかに苦労人かということを窺わせる。

が、しかしその苦労の原因は、一重に解放軍の他国への侵略行為。

こいつだけは、弱味を握り、囲い込むことは叶わなかった。

彼は、他国をも巻き込み、平和に治めようと尽力する、まさに正義だ。

弱味などない。すべて行いは正しくあろうとしているアイゼンシュタットに、悪が漬け込む隙はなかった。



が、ここにきて、ようやく気付いた。

我は傲慢だったのだ。

アイゼンシュタットを正義と言い切るあたり、自身、延いては解放軍が悪なのだと、心のどこかで自覚している。



こんなに気弱な、情けないことを考えるのも、ゼフツの信頼を、そして我が命さえも、すべてを失ったからに違いない。



目に見えている、ここから、この状況から我は、人生の奈落に転落する道しか残されてはいないのだ。



遠のいていく我の意識の中で、アイゼンシュタットは続ける。



「ゼフツどのもご一緒ですか。その者は誰ーーーー…もしかして、彼女はルース様では⁉︎ 生きておられたのですか!」



アイゼンシュタットは、混乱気味に、だが状況をいち早く理解しようと努める。

他の兵士は困惑しているように、ただ状況を見つめていた。



ゼフツがアイスキャノンの弾を小さくしたことで、傷も小さい。

だが威力は本物。傷は、小さいが、深かった。


ゼフツは、この事態に冷静でいるのだろうか? それとも、ルースと思われる人物の出現で、我武者羅に、怒りや鬱憤に任せて行動しているのだろうか?



この我への叛逆は、ゼフツの真意なのか? ゼフツの意思か?



「ザ、ザレイラス様、血が……っ!」



アイゼンシュタットが、我の胸部に滲む血に気付く。

今、彼だけが、この状況についてこれていない。


途端に、アイゼンシュタットの眼光は険しくなり、レオナルドに向けられる。



ゼフツをたきつける言葉以外は口にしないレオナルド。ゼフツや我を煽ったルースの格好をした人物。

二人は、今の状況を見守っていた。





「貴様かッ!」


アイゼンシュタットがレオナルドに詰め寄ろうとした時。

レオナルドは、まるで勝ち誇ったかのような微笑みで、そしてゼフツは……。



「私だ……」


先ほどとは打って変わって、落ち着き払った、が、しかし落胆を思わせるゼフツの声音。



アイゼンシュタットは、信じられないというような顔を、ゼフツに向けた。



「ゼ、ゼフツ様……なぜ……?」


「ザレイラス様、いや、こいつは解放軍の頭だ。それをこの者が証明した」



ゼフツは、レオナルドを指差した。

こ、こやつ……ゼフツめ……完全に解放軍を売りおった……。

しかしそれではゼフツ、貴様の身ももはや安泰ではないぞ……!



「そ、そんな……ザレイラス様が……解放軍……?」



アイゼンシュタットは、地面に膝をつき、絶望した。

ゼフツは、我と同様、いや、部下には我以上に信頼されている者だ。

自身にも、他にも厳しいゼフツの性格。

しかし、ゼフツは無属性魔法使い以外、つまり適正魔法を持つ、将来魔法的に希望のある者には、大変親身だ。

つまり、この世ほとんどの者の味方。

それはレジデンシア内でも例外ではない。

何故無属性魔法を嫌うのかはわかりかねるが、我の言葉より、ゼフツの言葉の方が、国中に響き渡ることだろう。



その証拠に、アイゼンシュタットの反応。

ゼフツの言葉はすでに真実になりつつある。アイゼンシュタットが絶望している様が、その何よりの証拠。



そう、これで名実共に、我は解放軍だ。

死に急いだか……。



我は、体が冷たくなるのを感じ、目を閉じた。

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