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第五十三話 対立、そして共闘

大変次話投稿が遅くなり、申し訳ありません。進行が遅い作者と思われてることとは思いますが、今後もどうぞよろしくお願いします。



それでは五十三話です。

お楽しみいただけたら幸いです。



そして。

挿絵の投稿の仕方がわからず、大変遅くなりましたが、イラストをいただいております。

クシャトリアのイラストです。

あんまり人物像を想像せずに文章にしてきたため、感慨深いです。感動しました。

描いていただいたのは、悠里さんです。

本当にありがとうございます!



http://14008.mitemin.net/i155966/

「私と契約してくださいますか? アスラ様」



 ああ、もちろんだ。

 と言いたいところだが、なんだか釈然としない。

 なんと言うか、こう……例えるなら、好きな女の子に告白するときに、こちらが想いを伝える前に逆に告白されたような、持って行かれた感……。

 俺はそんな器の小さいことを考えるほどには、情けない男なのだ。



「また細かいくせに内容がないことを考え込んでいるのですか」



 さっき契約を持ちかけたときのような希望に満ちた目ではなく、どちらかと言うとゴミを見る目に近い視線を送ってくるアルタイル。



「いや……それは、その」

「歯切れが悪いですね」



 なんだこの関係の逆転した会話。

 俺契約する主側だよね?



「そんなどうでもいいこと考えているうちに、今の爆発音を聞きつけた兵が来ますよ」


 それもそうだな、俺も契約を持ちかけようと思っていたところだ、なに、君に先を譲って言わせてあげただけさ、気にすることはない、ほら、これからは一緒に戦う身、お互い様だろ? さあ、先を急ごう……と強がろうとしたとき。



「はいはい、言わせていただいて感謝してます。でもさっきのは――――」



 バンッ!

 俺の考えを読んだアルタイルの言葉を遮って、突然俺たちが入るとき半開きだった巨大な扉が全開になり。



「貴様ら……なんということを……」

「爆発音がすると思ったらお前たちの仕業か!」

「ああ、フォンタリウス卿の研究所が……」

「アルタイルまで……貴様寝返ったのか!」




 十人足らずの武装した黒甲冑の集団が出入り口を塞いだ。

 あの甲冑、解放軍だ。

 この研究所の、もとい研究所だった場所の惨状に驚愕する解放軍だったが、すぐに俺たちを警戒する。

 その連中が手に握った武器が、今にも俺たちに向けられんとするとき。


「やれ! 絶対外に逃がすな!」



 誰ともなくそう宣言し、俺とアルタイルに襲い掛かってきた。

 出入口はあの巨大な扉のみ。でもそこは解放軍に閉ざされている。

 逃げ場はない。

 生き残るにはここにいる十人弱の解放軍を殲滅しなければならない。

 魔力は全快していない。体も先の魔法陣の効果がまだ残留していて、完全に自由がきくわけでもない。

 魔法を放つことしかできない。

 固定された砲台だ。俺がこうして動けない今、この人数相手では多勢に無勢。



 であれば、ここで、この状況で勝ち残る手段は一つしかない。

 もう俺の思考を読んでるんだから、何考えてるかわかるよな?


「アルタイル……」

「ええ、先手を打って『コロナの秘宝』を取ってきます」

「ああ」



 それで俺が触れさえすれば契約は完了……なのか?

 それではレオナルドとの契約はどうなる。

 今は気になるが、しかしそれしか手はない。

 そうこうしているうちに解放軍はこちらに迫ってくる。俺は稲妻で応戦するが、魔力の底が見え始めた。

 相手の数は減った。でもそれだけ。

 全滅に追い込むには状況が悪すぎる。

 魔力の残量、魔法陣から抜け出したばかりの体の調子。どれをとってもとても良いとは言えない。

 時間、俺の持ちうる力、どれを取っても満足に戦えない。

 と敵に怯みそうになったその時。



「アスラ様、これを……!」


 アルタイルが『コロナの秘宝』を手に戻ってきた。

 アルタイルがここまで焦りを表に出すのは初めて見たなどとどうでもいい情報。

 解放軍はもうすぐ目の前。

 こうなりゃ男は根性だ。俺は半ばヤケクソにアルタイルの手ごと『コロナの秘宝』を握る。

 他との契約? まずはこの状況を脱してから考えろ。



「アルタイル、お前と契約しよう」


 俺は反射的に握った手に魔力を流し込む。

 魔力は『コロナの秘宝』を伝い、やがてアルタイルの中に満ちていく。

 契約の方法はこれで正しかったのか……?

 が、それは杞憂。



 アルタイルは次の瞬間には青白いスパークをバチバチっと放ち、ゆくっりと微笑む。

 確信した笑みだった。

 何を?


完全複製(イミテーション)



 勝利を。




******




 今まで散々魔力を吸い取られて昏睡状態だった俺が、目を覚ましたのは解放軍の兵士たちが騒がしくし始めて間もなくだった。

 魔力が枯渇していたのだ。

 数日間の記憶がない。

「レオナルド……」

 耳に馴染んだ女の声が、俺を呼んだ。

「ジュリア……」

 その表情は、声にも増して心配そう。

「大丈夫なの?」

「ああ……」

 おかしい。魔力を感じられる。

 元々なけなしの魔力だったが、それでもアイツに吸い取られているのと比べれば、魔力は確かに感じられた。

「魔力が戻っている」

「え……?」

 ジュリアも、そのことに驚く。

 俺たちの声は、この牢獄によく響いた。



 まあまあ。落ち着け。

 俺もジュリアも急な状況の変貌ぶりには度肝を抜かれていた矢先のことだ。

 こんなのあっていいのか? ははは、笑っちゃうね。

 笑うのはさて置き、こんなのブラックな社会じゃよくあることさ。

 例え雇われた身とは言え、この組織に尽くしてきた。

 この組織は、平たく言えば良い組織、そんな風に思っていた。大きな犠牲を払うも、その先に見据えるものは大きかった。

 大きな希望。

 まさに夢の体現。



「兄さん、どうする?」

「どうしようもないだろ……こんな下水の香りの効いた素敵牢獄でどうしろってんだ」

「でもなんで急に魔力が? そのおかげで兄さん目を覚ましたようなものでしょ?」

「まあな。でもこんなことを聞いた。小耳に挟んだ程度だが、アイツは廃棄処分になる予定らしい。ある実験と称した廃棄。まあ実験が大好きな組織だ。実験をしたいのは本当だろうよ」

「え、じゃあ処分されたから契約が?」

「可能性はある。まあ契約っつっても仮だ仮」


 仮契約……魔力の乏しい人間が契約するための、契約相手側の最大譲歩。

 が、その代わり、契約主の権限は相手に移る。

 そう、精霊側に。


「兄さん魔力ないもんね」

「お前をかばってやったんだろ? 感謝しろ?」

「あらあら、ヒーローには似つかわしくないお言葉で」

「うるせー」

「ふふ、感謝してるわよ、兄さん」


 こいつのたまする真正面から感情をぶつけてくる様に、俺はたじろいだ。

 我ながら情けないと思う。


「じゃああの子が契約を切ったっていうことは?」

「十分にありえるが、あいつは貪欲だ。ここから逃げる機会に備えて、俺から常に魔力を吸い取ってやがった」


 ああ、でもこう考えると、同じ穴のムジナだな。

 アイツも俺たちも、結局は自分も含め、自分のものをたくさん捧げてきた組織に裏切られた。

 組織に尽くしたお礼がこれかよ、冗談じゃない。



「うーん、じゃあ廃棄処分にされたかもってことかしら」

「その線が濃厚だろうな」


 はあ。

 二人そろって大きな溜息。

 これからどうなるのだろうか。

 この組織。

 解放軍は、黒すぎた。

 そして深すぎる。俺たち、延いてはあの精霊、アルタイルは深く潜りすぎたのだ。

 浅瀬で楽しく過ごしていればいいものを……。

 何も知らないときの幸せ。そしてその幸せを感じていた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。




 この組織は国を滅ぼすつもりだ。

 良き国なんて大義名分、嘘っぱちもいいところ。

 俺たちはその言葉と雇い金にまんまと踊らされてたってワケだ。

 ざまぁねえ。

 おまけに人工精霊との仮契約だ? 剣しか握ってきていない俺には得することなんて何もない。

 でも組織側には俺たちのクライアントという名の盾がある。

 他の同業者も雇われては使い捨てられたと耳にしたときはもう遅かった。



「はあ、どうすっかな……」

「兄さんが落ち込んでどうするのよ」

「だってどうしようもねえじゃねえの」

「兄さんが仮契約を買って出てくれたから私は助かったんでしょ」


 ジュリアが半分怒り、半分感謝の目を向ける。

 しかしお互い鎖で繋がれているまま、落ち込んだりプンプン怒ったりする状態が自虐的に笑えてくる。

 

「そりゃそうだが」

「兄さんが名乗り出なかったら私が強制的に使われてたのよ?」


 強制的に使われていたかどうかは、今となってはわからないが、実質的に俺からするとジュリアは人質だったわけで。

 奴ら解放軍幹部の目に、お前が仮契約しないと妹が代わりに魔力を吸い取られるぞ、と脅されていたようなもんだ。もうその時点ですでに奴らの異常性は明らかだった。逆らえば何をされるかわかったもんじゃない。

 まあ、それは今も変わらないが。

 そんなの俺にできることは、デキの悪い兄を一人差し出すことだった。



「はあ……」


 今日何度目かもわからない溜息をついた。

 ついさっき気がついたばかりだ。もうしばらくこの下水道の地下牢獄で休まろう。

 今まではただ魔力を吸い取られるだけの、言ってみれば魔力の入れ物にすぎなかった俺。

 その入れ物はまるで小瓶のような小さなもので、そこから吸い取れる魔力なんて雀の涙。

 それを限界まで使われるんだからこちらとすれば堪ったモンじゃなかった。

 でも今、俺たちは生きている。

 それだけでも希望があるってモンじゃないだろうか。

 今は楽観的に、そう思うことにした。


 が、そのとき。



 バリバリバリッ!! バチィッ!


 ドォン……!


 薄暗かったこの牢獄が、突如、強烈な青白い光に飲み込まれた。

 激しく点滅する青白い閃光。

 ほとばしる青く白い光。

 目をつぶすようなその光は、やがて地面に吸収されるように消えていった。



 網膜を焼き付けるような閃光は消え、元の視界に戻った。

 目がようやく慣れてきた目にはとんでもないものが映っていた。

 下水道の流れるこの地下牢獄の壁に、大きな穴がぽっかり開けられていた。

 穴の上端からは瓦礫がポロポロと落ちる。

 そしてその穴からは。



「なんでお前が、ここに……?」


 俺が呟くと。


「アスラ……?」


 ジュリアは夢でも見るかのような、呆然自失として名前を呼んだ。

 数年前まで生活を共にしていた少年。

 その人が地下牢の壁を魔法でぶち抜いて現れた。

 あの魔法は共に暮らしていたとき、見た魔法。



「レオナルド……ジュリア……」


 向こうもこちらに気づいたようで、名前を順に呟いた。

 間違いない。

 背丈も、声色も、大人に近づいたが、まだまだ子供っぽさが残る少年。


 俺とジュリアがやったウサギの仮面。

 正体がバレないよに、能力を周囲に知られて不自由のないように、老婆心であげた仮面。



「まだつけてたのか……」

「……」


 あいつは答えない。

 そりゃそうか。あんな裏切られ方を俺たちにされたんだ。

 でも今ならわかる。

 俺たちが、いや、解放軍が間違っていたことを。



「おい、アスラ、こんなとこで何してんだ?」


 俺に聞く権利はないのかも知れない。

 でもそんなことを聞く権利もないゴミみたいな人間のいるところに、なんでアスラがいるのか、気になった。



 が、状況の混乱は止まらない。

 彼の後ろの穴から、もう一人、ウサギが現れた。いや、アスラがもう一人現れたのだ。

 いったい何がどうなっている。



「お、おい……どうなってやがる」



 俺が焦燥と困惑、その他諸々入り混じった感情を乗せた言葉。

 それにいの一番に反応したのは、二人目のアスラ。



「これはこれは、元マスターことレオナルド様ではありませんか」



この口調、元マスターというキーワードと、アスラが二人という状況。

この奇怪な事態を起こせるのは俺の知る限り一人だけだ。



「アルタイルだな……」

「ご機嫌麗しゅう」



礼儀なんてこの方習ったこともなければ知るはずもないが、二人目のアスラ、もといアルタイルは行儀良さそうにこうべを垂れた。



「お前この野郎、廃棄を逃れるためにアスラを利用しやがって……!」

「え? なになに、どういうこと?」



状況についてこれていないジュリアが、ようやく口を挟んだ。

アルタイルは肯定も否定もしない。

アスラも……口を利こうとはしなかった。



「こいつはな……先の作戦の失敗と魔力消費の燃費の悪さで廃棄処分になる予定だった。『精霊還元装置』が完成すれば、その実験と称して廃棄になるはずだった……」



俺がアスラとの対面にまだ頭の整理ができていないままジュリアに説明する。

ジュリアはそこまで説明したとこで、納得したように、ああ、と言って眉を動かす。



「その『精霊還元装置』が完成するまで、この地下牢獄にいるはずだったけど、何かの拍子にアスラも捕まり、合流、そして契約に至ったわけね」



俺はジュリアに頷く。


「簡単に状況を説明すればそういうことです。新しいマスターはレオナルド様の比ではないほどの魔力をお持ちです。契約をするならどう転んでも私が従者側。ここから脱するのには持ってこいのお方でした」



「貴様……!」



俺はアルタイルを睨む。

この精霊は下衆だ。我が身可愛さにアスラを利用しやがった。

アスラも逃げ出すことを優先するだろう。アルタイルはそのアスラの状況を逆手にとって、廃棄を逃れるつもりだ。

しかしアスラ、こいつの魔力消費は半端じゃないぞ。

それを知らずして契約しているのなら、考え直させたいところだ。



が、そこで。


「レオナルド……」



口を挟んだのはアスラだった。

俺は額に汗が浮かぶのを感じた。

潔く言おう。

緊張しているのだ。

今一番謝りたい人。

俺は過去にアスラを裏切った。

そこ事実は、いくら謝っても拭えない。



「な、なんだ……アスラ」


声が上ずるのがわかった。

呼吸が早くなる。



「アルタイルとは協力関係だ。決して俺を騙してなんかいない。アンタと違って」



「……」



重い、苦言だった。

俺はその言葉を認め、受け入れるしかない。

アスラは続けた。



「アルタイルと契約についても話も、俺の承諾の話も、ちゃんとしている。お互いが今必要だ。口を挟まないでくれ」



ああ、アスラ。こんなにも、遠くなってしまったんだな……。

自分のしてきた選択に、今は後悔しかない。



「……今のマスターの魔力は非常に濃いです。マスターの力を思う存分使えます。誰彼構わずコピーはできませんが、マスターのコピーだけでも、まずここを抜け出すのは容易でしょう」



アスラの言葉に、俺は押し黙ることしかできなかった。

暫しの沈黙。

それを突き破ったのはアルタイルの自慢気な言葉だったのが妙に癪だ。



とにかく、アスラは俺を許してはくれない。これが結論だ。暫定的にだと思いたい。



「レオナルド様は何をされているんですか? お隣の女性は?」


アルタイルが、代わりに俺たちの状況を把握しにかかる。



「お前と同じだ。作戦に失敗して雇い主である解放軍を抜けさせられる。だが解放軍の最深部を覗いた人間は生かして返さないのが解放軍だ。あとはわかるだろ」



そうしてここで処分されるのを待っていると、目の前の壁が破壊されアスラが現れたのだ。



「で、お隣の女性は?」



ああ、そうだった。

こいつ、アルタイルはコピーしていない人間の思考はコピーしていない、つまり思考は読めない。

今アルタイルが読めるのはアスラの思考のみ。

俺の思考からジュリアが誰かは特定できない。



「俺の妹だ」

「似ていませんね」

「腹違いだ」

「ああ」



「私のマスターには酷いことをしたようですね」

「あ…ああ…」

「マスターの悲しみや怒りが伝わってきます」

「……」

「相当お辛い思いをされています。私も許しませんよ」

「……」



少し、アルタイルと言葉を交わしたが、話すことができない。

自分が情けなさすぎる。

こんな格好で拘束されて、剣士の名を汚し、弟子にも見下げられる。



「兄さん……」


ジュリアが気遣う。

できた妹だ。俺には勿体無いくらい。



そう、勿体無いのだ。

そう思うほどには頭も切れるし、何より心が綺麗だ。

解放軍に連れ込んで置いて言えたことではないが、心が澄んでいる。

少なくとも俺以上には。


だから……。



「兄さんは私を助けるために戦ってくれていたの」



ジュリアが口火を切る。

アスラがピクッと顔を上げる。興味はあるようだ。



「私たちは生計を立てるために解放軍へ入ったの。解放軍はどこから得たお金なのか、割のいい配当と仕事量だったの」



わかった。

ジュリアの魂胆なんてすぐわかる。

ここでアスラと和解させようとしている。

でもそんな事情を話して、なんて言う? 仕方なかった、レオナルドも被者だと同情を誘って、アスラに許してもらうのか?

馬鹿言え。俺だって男だ。

自分のことは自分でなんとかする。



「でも私たちは腕が立ったの。まあ今では腕が立ってしまったがために、こんな目にあってるんだけど、私たちが戦闘面で役に立つって名目で幹部に昇進させた解放軍は、ただ強靭な肉体が欲しかっただけなの。実験に耐えられるだけの」



アスラが仮面を外した。

数年前より、より整った顔つきをしている。

でもそれよりも、苦労や辛い経験が湛えられた、そんな顔にも見える。

今はアスラのことが、気になって仕方がない。



「でも兄さんは私が使われないようにーーーー」

「ジュリア、もういい」

「でも兄さん、このままじゃ……」

「いい。自分でする」



ジュリアは、聡い。おれがチンケなプライドを振りかざしていることくらい、容易にわかっただろう。だから、今にも泣き出しそうな顔をしているのだ。

馬鹿だとは思う。

ジュリアにあのまま説明してもらえてたら、アスラの気は多少なりとも引けたはず。

でも嫌だったのだ。

男ってのはな、男のぶつかり合いがあるんだ。それが何なのかは具体的にはわからない。ただの脳筋思考。

でも、それでもだ。



が、しかし。



ガキョッ! ガシャン!




「話はここを出てからだ」

「アスラ……!」

「お前……」



アスラは持ち前の魔法で、俺とジュリアの拘束を解いた。枷が嘘のように容易く外れる。



「お前、俺が憎いんじゃないのか?」



俺が場違いな質問をする。まずは感謝の言葉だろうに……。

でもアスラに聞かずにはいられなかった。



「ああ、憎いよ。この脳筋野郎め。でもな、あんたを含めて解放軍も憎い。ワケあって解放軍と関わったが、もうここはダメだ。潰す必要がある。でもそれは、腹の内はレオナルドも同じだろ?」




こいつは昔から口が上手かった。

俺は口頭の論理じゃアスラに勝ったことはない。



俺はジュリアに支えられて立ち上がった。

さっき気を取り戻したばかりだ。体に力が入らない。



でも、そんなことはどうでもいいほど、ここを抜け出す希望と、未来に光が射した。



「レオナルドさん、マスターのおっしゃることは、彼の本心です。誠意とでもいいましょうか。マスターをコピーしたときから、彼の心根はこんなにも豊かなのだと、私は知っています。マスターの言葉を、私は保証します」



まだ、こんな俺なんかに……アスラ、お前。お前これから後悔ばっかすることになるぞ。そんなに人に優しくしてたらキリがねえ。



「馬鹿やろうが……」


アスラは、久しぶりに笑う。

ニッと口角を吊り上げる笑い。昔からそうだ。何か悪だくみをしている。




「少し、考えがある」



アスラは秘密話をするように、俺たち四人の輪を小さくし、小声で話を進めた。

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