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第五十話 黒いウサギが捕まった

再び告知です!



本日、31日より書店にて『無属性魔法の救世主(メサイア)』のタイトルで発売開始です!

最高の形で世に作品を出す事ができるのも、一重に読者の皆様のおかげです!

無属性魔法の救世主(メサイア)を、どうぞよろしくお願い申し上げます!



それでは五十話、今回は短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


その甲冑の人物は無言だった。

なぜわざわざ騎士隊が集まるこの場所に着地したのか、意図はわかりかねるが、ついでだと言わんばかりに、騎士隊は解放軍の甲冑もターゲットにした。

しかし、その甲冑は私の片棒を担がされたようなものなのに、平然としている。




甲冑の人物そのものに、恨みはないが、ここは利用させてもらう。

周囲にたちこめた霧に紛れ、王城に忍び込んだ。

甲冑も、騎士隊も、私の正確な位置を掴めていたいようだった。



王城に入ると、まず目に飛び込んでくるのは大理石で造られた大広間。

太い柱。

夜ということもあって月明かりが入り込んでくるにも関わらず、その広さは奥まで明かりを通さない。



大広間の開口部はたくさんある。

私が入ってきた、大きく口を開けた入り口。ここは扉など、外と隔てるものがなく、大広間と言っても開放的な巨大な玄関と考えた方が造りに相応しい。

壁の上端には外光を入れるために、小さめの四角い形にいくつもくり抜かれた穴がある。



綺麗な月の光が、惜しみなく降り注いでいた。

荘厳な造りに相応しい光景だ。



だがそこに響く、ここには似つかわしくない音が一つ。

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン。

大理石の床を遠慮なく甲冑が歩く。



甲冑の隙間には、剣や矢がいくつも突き刺さっていた。

中の人間は大丈夫なのか?

なんの躊躇いもなく、甲冑は次々と自身に刺さった武器を抜く。

騎士隊から逃れてここまで来るうちにやられたのだろう。

しかしまだ霧は濃いはず。

よくあの霧の中でここがわかったものだ。




そこまでして狙うのは、おそらく私。

先ほど捕まえようとしたことも考えると合点がいく。いや、そう考えるのが妥当だろう。




「あなたはいったい誰?」




 私は思わず尋ねてしまっていた。言ってから、声がバレたことに気付く。

この広い空間に、やけに声が響いた。

 しかし。 

 甲冑の人物は依然としてガシャン、ガシャンと金属の音を立てながら、ゆっくりとこちらに歩いてくるだけで、一向に答えようとはしない。




 仕方ない。

 ここは目当ての物が手に入るまでは自力で逃げ切って、最後にオリオンの力を使おう。

 見るからにこの解放軍の甲冑に身を包んだ人物は危ない。

 騎士隊の猛攻を受けても、平然としているのだ。本能的な部分で危険を察知したのはいつぶりだろう。久しく身の危険を感じる。

 今まではオリオンさえいれば、と高をくくっていたが、今回ばかりはどうもオリオンだけの力じゃ心許ない気がする。

 いや、オリオンの能力も相当なものなのだが、むしろそれにも関わらず危険を感じることが腑に落ちない。




 しかし、そうこうしているうちにも甲冑は近づいて来る。

 が、



 どうしたものか。

 一定以上甲冑はこちらに近づいて来ない。

 ピタリと止まって動かなくなってしまった。





 しかしそこで。




「逃がすなあ!」

「いたぞ! ノームミストだ!」

「続けぇッ!」

「解放軍も逃がすな!」




 騎士隊がようやく入ってきた。

ぞろぞろと数騎が私と甲冑をとり囲む。

私たちは 剣や槍を向けられた。

動くな、と脅される。

しかしそこでまたしても、闖入者が現れた。



突然として、私たちを取り囲んでいた騎士隊は、みな一様にバタバタと馬から落ちる。

まるで操り人形の糸が突如として切られたように。

いったいどうしたと言うのだ。これじゃまるで対抗戦でアスラが使っていた魔法のよう。原因不明の意識消失。

いったいどんな魔法なのやら。

そして目の前の光景は、それに酷似していた。




しかし使い手はこのゴツい甲冑。

アスラの体ではとてもじゃないが、着て動くなど不可能だ。



それとも私の知らない間にこの仕掛けのわからない魔法が魔法使いの間で広まっていたのか。



しかしこれはマズイことになった。

この魔法は仕掛けも何もわからなければ、対処のしようがない。

私に使われたら。



終わりだ。



緊急事態とはこのこと。

魔力が勿体無いなんて言ってる場合じゃない。

可能な限り遠くに逃げようか。

いや待て、今の残魔力じゃ遠く逃げれてもせいぜい王都の商業区。

商業区にノームミストの警備のため騎士隊が張ってることなど火を見るよりも明らかだ。今はこの場から逃れることさえできればそれでいい。

この建物から出られれば、それでいい!

一刻を争う!



「オリオン!」




名を呼べば彼女の精霊の力が与えられる。

しかし吸い取られる魔力は規格外。

つくづく思う。なんて燃費の悪い精霊なんだ。




私は青白い光に包まれ、次に視界が開けたときには王城の庭園にいた。さっきいた大広間のすぐ隣の敷地。

ここには前回王城に侵入した際に訪れたことがある。

見晴らしのいい高台になっていて、高所ということになるのだろうか、気持ちのいい風が撫でるのだ。

そのおかげで次第に焦りも失せる。

ここは相変わらず綺麗な場所だ。花は色鮮やかで、近くの小川のせせらぎは耳に心地良い。



が、体がだるい。倦怠感もある。

魔力が底をつくまでもう少しだ。

あと三回、いや二回がオリオンの力を使う限界だろう。



辺りを見回しても黒いウサギの仮面をつけた男が一人。それ以外は誰もいない。

ふう。

一安心だ。

どさりと草の上に座り込む。

はあ、危なかった。解放軍が現れるだなんて予想外にもほどがある。

しかもあれほどの強さ、そしてあの魔法……明らかに解放軍幹部クラスだ。



しかしこちらにはオリオンがついている。そう簡単にはーーーー




「おい」

「きゃああああ⁉︎」



驚いた!驚いた!

急に声を掛けられた。声の主の方を向いてみると、黒いウサギの仮面をした男が立っていた。

しまった。さっきの極限状態から抜け出したせいで、緊張が解かれていた。

目に入ったのかもしれないが、魔力切れの懸念もあり、頭が処理し切れてなかった情報。

なんてやつなの。この私の不意を突くなんて。思わず声出しちゃったじゃない。

私の警戒心をここまで解くなんてアスラ以外では初めてよ。

アスラはアスラで信用させといて試合棄権するわ、魔法の謎は教えないわ。対抗戦では分かり合えたと思ったのに。




「貴様、人のことを無視して何安心して座り込んでんだ……」

「うるさい」




はっ!

しまった! またしても声を!

怪しい奴……騙し討ちにもほどがある。



「あんた、ノームミストだろ? 女だったのか……しかしノームミストって名前センスないよな、あはははは」

「くぅぅぅ……」




こんな屈辱は初めてだ。

しかも名前まで馬鹿にされた!

だから言ったじゃないオリオン! ノームミストはダサいって!


『濃霧にミスト! 上手いし語呂もいい! 格好いいですよ!』


あの時のオリオンの言葉のどこに説得力があったのだろう……。馬鹿すぎた。




「おれは解放軍だ。解放軍は国のため人のために働いている。王都を脅かす怪盗め。大人しくお縄につけ!」



何を偉そうに。

おそらく現場にでてきているだけの支部の人間だろう。

前回の侵入で調べはついている。

解放軍の末端は、解放軍上層部が本当にしようとしていることを知らない。



「いわば慈善活動だ! つまり無償でだぞ! 無償で!」



本当に何も知らないんだ。

可哀想な人……。同じ解放軍の部下さえも必要であれば切り捨てる。そんな幹部が取り仕切る組織に何の意味があろうか。

だんだんこの男が哀れに思えてきた。

黒を基調にした服装、昔のウサギを真似たような、黒いウサギの仮面。

見た所まだ若そうだ。私よりかは年上だろうが、おそらく二十歳の成人の儀もしていないだろう。まだ未来がある。



もうすでに声は割れているし、話したところで問題ないだろう。魔力回復の時間も稼げれば儲け物だ。




「何が慈善活動よ。本当に慈善活動の精神で働いている人間が無償無償と粋がったりしないわ」

「やっと話す気になったか。聞けば聞くほど若そうな声だ。何が目的でこんなことをしている?」



やたらと余裕ぶったやつだ。

自分が強いと思い込んでいる。しかしこんな安い挑発に乗るほど私も馬鹿ではない。



「ふふふ、王宮の魔法研究所が大事に隠しているものよ?」

「というと?」



のってきた……。



「焦らないで。解放軍にも関係のあるものよ」



さあ……これは聞かずにはいられないはず。解放軍の人間は幹部以外は大抵心の綺麗な人間だ。本当に人のために働いている人間だ。

だから自組織がエアスリル侵略の橋掛りを築こうとしているなんて、思いもよらないし信じたくもないだろう。

しかし、だからこそ、自分の大切にしている組織の裏話には敏感なはず。




「ほう、それは個人的に是非教えてほしいものだ。おれ自身も解放軍の実態は気になっていてね」



ん? どういうことだ。

予想外の反応に調子が狂う。



「捕縛任務はやめだ。悪いが一緒に来てもらおう」



捕縛任務はやめ?

しかし一緒に来てもらおうって捕まえるってことではないのか?

どういうことだ。

なんなんだコイツは。

しかし毛頭この男についていく気もない。

意図がわからないのだ




「なんなら、今回怪盗として盗みをしてからでもいい」



なんですって……?

怪しい。怪しすぎる。盗みを働いてからでいい? バカな。

目的はなんだ。解放軍では初めて見るタイプの人間だ。

しかし……盗み出してからでは解放軍にも痛手のはず。だって研究所にあるものは……解放軍の精霊技術に関係するもの……。

研究所自体が解放軍の根幹なのだとこの男は知っているのか?

そこの情報を再び私に盗み出させるつもりか?



では……王都とも解放軍とも関係のない外部の人間……?




もしそうだとすれば、解放軍の実態を追っている者として心強いことこの上ないが。

しかし彼自身、自分を解放軍と名乗っていたし……。



いや、もうよそう。

学んだではないか。

この計画の中で、自分以外は信じないと。



「嫌だと言ったら?」



私は自分でも驚くほど、低い声で話していた。



「力ずくでも」




そう男が静かに言い放った直後。

ズシン。

私の後方で何かが庭園に勢い良く着地する音がした。




背後には黒い甲冑が佇んでいた……。



「悪いが時間稼ぎをさせてもらった。こいつを飛んで来させるのに手間取ったが」




え……。

この甲冑はこの男が操っているのか?

てことは、甲冑の中は……無人⁉︎

ものを操る力があるのか?

しかしそれでは騎士隊たちを気絶させた魔法の説明がつかない。

この甲冑は操られているのであって、魔法の行使者ではない。

では、やはり甲冑は有人か? いやでもしかしこの男が超遠距離で魔法を使ったとも考えられる。この高台の庭園に張っていたことの説明もつくし。

しかし物体を操る魔法と気絶させる魔法、その二つの魔法の相互関係が全くわからない。

それとも二属性の魔法を使っている?

本当になんなのだ、こいつの魔法は。




いや、これほどの高度な魔法となれば、やはりこの男は幹部……。

ではなぜ、研究所から精霊技術の記録を盗み出して構わないと言うのだ? 解放軍が最も知られてはならない情報の一つだぞ?

やはり外部の人間?

それとも私を泳がせるだけか……?

だめだ、どの可能性も想像の域を出ない。




「さあ、覚悟してくれ」



そうこう考えているうちに、男な手をスッと前に出す。

まずい、気絶させられる……いや、甲冑で襲ってくるか?



だが、そのとき。

男の足元に赤く光る唐草模様が円形に出現した。

魔法陣だ。

そこで、黒いウサギの仮面の男は手を前に突き出したまま動かなくなってしまっていた。魔法陣の効力だ。解放軍が得意とする魔方陣技術……。

てことは解放軍のものであろう魔法陣に拘束されている彼は、解放軍ではない?

本当に独自で動いているものなのか?



どうやら魔法の使用も制限されているらしい。依然、仮面の男は動けないまま、固まっている。

背後の甲冑がバラバラに崩れ落ちた。やはり無人だ。男に操られていた。




そこに、トサっと軽快に着地する足音があった。



「よぉ、トゥエルヴ。任務ご苦労さん。ノームミストを追い詰めたとこまでは良かったがもう少しだったな」




見知らぬ男だ。

年は三十代。骨格のいい筋肉質な体型。

突き出す手には赤い唐草模様の小さな魔法陣が浮かんでいる。

魔法陣を仕掛けたのはこの男に違いない。

いやらしく歪んだ口元は狂気を孕んでいる。



「アインス……お前……なんのつもり、だ」




黒ウサギの仮面の男は息も絶え絶えに、見知らぬ男に言った。アインス、というのが呼び名だろうか。二人は見知った関係のようだ。

私はどちら側につけばいいのか、それとも逃げるべきか、逡巡する。

それは結果的に事の行き先を見守る形になった。




「へへへ、トゥエルヴ、ゴツい甲冑は脱いだのか? ウサギなんか気取りやがって」




トゥエルヴと呼ばれた黒ウサギの仮面の男は、仮面の下から覗いた歯を食いしばりながら、抵抗を見せる。




「騎士隊の犬め。クワトロ! ゼクス! ひっとらえろ!」



そして庭園の陰から茶髪の少女とメガネの少年が現れた。二人とも重い足取りだった。俯いた顔は浮かない表情。




「まったく、こんな王城にまで入りやがって……見つけるのに苦労したぜ。おい早く縛れクワトロ!」



苛立たしげなアインスという男。茶髪の少女は、ビクッと肩を震わせた。どうやら目の前の少年少女は不本意な状況にあるようだ。




「ごめんなさい、トゥエルヴ……」



茶髪の少女は、囁くように、だが確かにそう言った。その表情には嘘はないように、不思議と思えた。

黒ウサギの男は解放軍ではない……!

何か理由があって解放軍と名乗っているだけなのか?

しかし解放軍に関しては、何か重要な情報を掴んでいるはず。でないとあそこまで私に興味を示さない。

解放軍を脅かすもの、研究所の精霊技術の記録。

それを知っているのかは定かではないが、少なくとも、盗み出してからでも構わないという言葉には、私に似た意思が感じられた。




もう一度あの男にコンタクトを取らなければならない。



「おい、ノームミスト」



アインスという男が不意に呼び掛けてきた。




「お前にはたっぷり借りを返さなくちゃなぁ。盗んだ物、全部出してもらおうか」




歪んだ笑みを浮かべるアインス。

だめだ。このままじゃ魔法陣を使われればおしまいだ。

逃げるか?

いや、研究所の記録は最大の武器となる。絶対に欲しい。黒ウサギの男を見ているとそう思う。

理由もなく、荒唐無稽な考えだが、黒ウサギの男とは何か通ずるものがあるように感じた。




解放軍に一泡吹かせてやろう。




そのギラついた意思は、私にもある。

それを届けたのか?

まあいい、ともかくだ。

何としてもここから無事に離脱し、記録を研究所から盗み出す。




魔力を振り絞った。

瞬間移動は多くても三回が使用限度だ。



でも背に腹は変えられない。

まずはここからの離脱。




「オリオン‼︎」




私は青白い光に包まれ、最後にはアインスの悔しそうな声が聞こえた。








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