表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無属性魔法の救世主(メサイア)  作者: 武藤 健太
フォンタリウス屋敷編
4/80

第四話 書庫での珍事

それから、ゼフツは俺にノクトアとミレディ同様に接するようになり、依然俺は戸惑いを覚えつつ、ゼフツが何を企んでいるのかわからないままだ。



ヴィカが休暇から戻ってきても、午前はゼフツによる魔法の講義。

俺はその場では魔法を使わずに、ノクトアの魔法を見学しているだけだった。

俺は書庫の一件があってから、少し魔法を使うのに臆病になっているかもしれない。


だけど、溢れる知識欲は抑えられず、性懲りもなく、また書庫に向かう。

書庫はメイドさん達の手によって、ある程度片付いたものの、本が床に平置き状態になっている。

棚は全て撤収していて、壁や天井も修理の途中だ。



そして、いつものように昼寝を抜け出して来たミレディと会う。


それが一日のサイクルで、変わることはないと思っていた。

午前は魔法。

午後はゼフツが仕事に行き、俺達子供は昼寝。

そして俺とミレディは昼寝を抜け出して、ここで本を読む。



だが今日は違った。

二人とも黙りこんだ静かすぎる空間で余計に相手の存在を意識してしまうのか、それともやはり四歳児の集中力で何日も続く無言の空間に耐えることはできなかったのか、こんなことを聞いてきた。



「ねえ、どうやったら子供はできるの」

「は?」

「だから、どんな過程で私たち子供は生まれてきたのかってこと」

「ああ、そんなことか……は?」



そりゃあ、ヤることヤってに決まってんだろう。

なんて話をするには四歳児にとって、聞く側にも教える側にとっても内容がヘビー過ぎやしませんかね。

まったく、どこでそんなことを覚えたのか。

そして何を思って口にしたんだ。


ミレディはやはり無表情。

何を考えているか全く読めない。


「ねえ、どうなの」

「まあ、そりゃあヤることヤってだなあ。赤ん坊ができるんだよ……」


く、苦しい……。


「やるって何を?」

「えぇ……。アレだよアレ……夜にさ、あるだろ。アレが」

「言いにくい事なの?」




俺がお茶を濁す空気が伝わったのか、核心をどんどん突いてくる。

だがここで恥じらっているのも男としてなんか癪に障るので、朝ではないがズバッと言おう。ズバッと。


「ミレディのお父さんが毎日夜にやってることだよ」



別に親父の夜の下半身事情は知らないが、やってそうなので良しとしよう。

ノクトアの母親のミカルドにはそんな空気を漂わせる視線を送っていたのを見たことがある。

それで十分伝わってくるものがあるのだ。

皆までは言うまい。



俺は昼間から割と重めの下の話したというのに、ミレディは無表情。

もしかしたら、腐ったものを見るような目を俺にしてるんじゃないかと、顔色を伺ってしまう。



「……ねえ、私たち、もうすぐ五歳でしょ」

「あ、ああ」


急な話題転換に少し戸惑う。

やはりミレディは無表情。本当に怖くなるぐらいに。

ここまで感情を表に出さないのも珍しい。



「そうしたら、適正魔法の儀式があるじゃない?」

「ああ、あるな」



ミレディは一体何が言いたいんだ。

ミレディは依然、無表情のままだ。

そして言葉を続ける。


「だから、その前に……」

「その前に?」



「アスラ、子供作らないかなって。私と」

「ああ、子供ねえ……」



え、今なんて言った? こいつ。

コモドドラゴン? インドネシアの?


……だったら良かったんだが、俺は耳が存外良いようだ。

しっかり聞き取ってしまう。


「私達、兄妹って言っても、異母だし。お父様が夜やってることも、少しはわかる」



ちょっと、ドン引きだよ?

峠越えのバズーカアスラ様もドン引きだよ?

例え異母兄妹でもはさすがにマズイよ?

子供つくるって言っても、まだ体の準備も始まってないだろうに。

将来の夢、お嫁さんになる的な子供時代の思い出程度にとどめられる希望なのか? それは。



「いや……なの?」


その言葉が俺をミレディの方にはたと向かせる。

ここまできても、やはりミレディの瞳には何の感情も映らない。

ふざけているのかとすら俺に思わせる。

この前も、文字が読めないと嘘をついて、俺をからかってきた。

今回もそんな程度のものだろうと思った矢先、ミレディの身体が僅かに震えている。

それは怖さによるものなのか、羞恥によるものなのか、俺にはわからないが、ミレディが今までにない程に真剣だと伺わせるのには十分だった。



「あのな、ミレディ。女の子にはいう赤ちゃんを作るのに必要な準備があるんだよ。俺は男だからよくわかんないんだけど、多分それはもっとミレディが成長してからになるんだよ」



「ふうん。じゃあ、成長したら子供作ってくれるんだ」


「おい、子供作るってどういうことかわかってんのか?」


「うん。好きってことでしょ。私、好き。アスラのこと」



ミレディはちゃんと俺を見据えて言ってくる。

それに対して、俺はそっぽを向いてしまっている。

情けない話なのだが、俺はミレディに気おされているのだと思う。

ほんと、かっこわりいなあ、俺。



ただ、それでも、俺はその答えを出すには早いと思っている。

所詮子供の恋だ、と思う反面、ミレディはおそらく子供を作ったあとのことまで考えてないだろう、という大人の所見。

父親伝てのみの血縁だとしても、確かに血の繋がりはあるのだ。

その垣根を越えることは今の俺にはできない。

将来的にもわからないが……。



その概念すらまだ曖昧な年齢。

そもそも、その『好き』が果たして、ラブなのかライクなのか自体の分別がついていないだろう。

今その答えを出すのは時期尚早というものだ。

先走りすぎても、ミレディの可能性を潰してしまう。


ぶっちゃけ、俺が四歳児の告白に戸惑っているのは真実なのだが、それはそれだ。

ミレディからしてみると、何故大人はよくて子供はダメなの、という話になる。

結局、ミレディはまだ幼すぎるのだ。



「もし、十年後、同じ気持ちなら、俺はその気持ちを受け止めるよ」



別にミレディが嫌というわけではない。

それなら、色々と理由を付けて断る。

だがミレディは俺の心配をして涙を流してくれる。好きだと言ってくれる。将来は美人になるだろう。

これはそれまでの猶予とでも言おうか。

もし気持ちが変わらなければ、また言いに来て欲しい。



「……絶対ね」



ミレディはそれだけ言うと、書庫からさっさと出て行った。

そればかりか、次の日からはもう書庫に来ることはなかった。

ミレディは最後の最後まで無表情を貫いていた。

女って怖いなぁ。四歳児でこれだもんなぁ。女って怖い。あと、女は怖い。



そして、俺はこの時点でミレディの気持ちのかけら程もわかっていなかった―――――――



*********



翌日からは、ミレディに少し変化があった。

俺と言葉を交わす数としては、以前にも増しているが、話したとしても長く続かず、最後にはミレディが乾いた笑みを浮かべて離れていく。

まるで何かを隠すような違和感。


そんな違和感を覚えつつも、今日も俺は書庫に来ている。

今日も今日でミレディは姿を現さない。


だが今日は今までにない珍客が訪ねてきた。


「あ、アスラ様だ」


ピンク色の毛並みの猫の耳と尻尾をひらひらさせながら、桃色の髪を揺らすミレディ担当のメイド、ユフィだ。



「あら、ほんと。昼寝はどうしたんですか?」


そして青い猫耳と尻尾を持つ、青髪のノクトア担当のメイド、ソフィだ。


姉妹の二人は俺がこの書庫をぶっ壊してから、たまに時間を見つけては修理や掃除をしに来ているらしい。


「その節はご迷惑をおかけして、申し訳なく思っております」


俺は本を置いて立ち上がり、深々と頭を下げて日頃の感謝の意を込め、多大な仕事を増やしてしまったことを謝罪する。

これは取り繕いでもなんでもなく、心からの気持ちだ。

嘘偽りはない。



「え!? いいよぉ、そんなの。アスラ様が無事で良かったよ」

「そうですよ。でも何だかノクトア様から聞いていた話と違うような……」



ユフィは両手の平を広げて前で左右に動かしながら、快く俺の平謝りを受け取ってくれる。

ソフィはそれに同感するも、俺の口調に違和感を感じている様子。

差し詰め、ノクトアから俺の言動が粗野だとでも聞き及んでいるのだろう。


「なら、この喋り方の方がいい?」


「わお、アスラ様使い分けてるんだ」

「ノクトア様はこのことをおっしゃっていたんですね。アスラ様、話し方はこのままで結構ですよ。その方が楽でしょうし、私達は言葉遣いなど気にしません」

「助かるよ」



ユフィやソフィはあまりその辺は頓着しないらしい。

特にユフィはそれが顕著だ。

ふわふわした雰囲気で接してくる。

何て言うか、ゆるゆるな感じ。

いつもお菓子の家やお花畑なんかを夢みてそうだ。


「あれ、今日はミレディ様は来てないの?」

「ああ、ここ最近は来てないぞ。ていうか、昼寝抜け出してたこと知ってたのか?」



「えへへ。知ってるも何も、私が行ってきていいよって言ったんだよ」



おっとここでユフィの職務怠慢が浮上してくる。

まさかミレディはメイドの公認下で書庫に足を運んでいたとは。



「毎日書庫に行く前に着ていく服に悩んで、髪を整えてたんだよ。誰かと会うの? って聞いても秘密って言ってたけど、まさかアスラ様だったとはね」



ユフィは隅に置けませんなあ、このこの、と俺を小突いてきた。

何となくユフィの人となりがわかってきた。



「そういえば、今ノクトアやミレディを放っておいていいのか?」

「はい、ノクトア様はアホみたいに昼寝で爆睡するから大丈夫ですよ」



「ミレディ様も目を離しても大丈夫だよ。いつも大人しいから」



メイドが揃いも揃って本音をぶちまける。

そしてソフィは地味にノクトアをアホ扱いしているように感じるのだが、これは俺の気のせいか?

確かにノクトアは少し抜けてる所がありそうだが、ここまで馬鹿にされるいわれはないんじゃ……いや、もう何も言うまい。


と、そこに。


「こおらあっ! アスラ様、またここにいたんですね!?」


「げ、ヴィカ」


「何が『げ』ですか失敬ですね。ほら、部屋に戻りますよ」



ここにヴィカ、推参!

俺が昼寝を抜け出していた事がリアルタイムでバレたのは初めてだ。

ヴィカの俺捕捉スキルが上達しつつある。

これは由々しき事態だ。



ヴィカは俺の手を握ると、俺をその場に立たせて連れて行こうとする。


「ちょっと待ちなさい、ヴィカ。アスラ様の好きにさせてあげていいんじゃないかしら。本を読むのも大事な成長よ」

「そうだよっ 成長にやり方なんて決められてないんだよっ?」


そこでソフィ、ユフィによる制止の言葉の集中砲火を受けるヴィカ。


「ダメです! ここにいたらまた魔法を暴発させるかもしれません。子供は子供らしく昼寝しとけばいいんですっ!」

「ちょっと、本人を前にしてそれを言うのは……」

「え? 何か言った?」

「ほおら、アスラ様は図太いんですよっ」

「これ図太いって言うのかなあ……」


ヴィカとこの2人が話している所を見るのは初めてだ。

だけど、同僚なだけあってかなり仲が良さそうだ。

仲良きことはなんとやらだ。うん。


そこでソフィは膝に手を付いて、かがんで俺と同じ目線になる。

メイド服の谷間からもう少しで俺達のユートピアへの道が見えそうだ。

そして俺の眼前にまで顔を近づける。



「ねえ、アスラ様、ヴィカのとこじゃなくて、私達がお世話した方がいいと思いません?」

「あ、それいいかもっ そうだよ! アスラ様、ミレディ様と一緒にいれるよ!」



「え?」

「な、なあっ」



俺は若干耳を疑う。

俺としては、まあどっちでもいいんじゃね? 程度にしか考えてないので何でもいいんだが、ヴィカはそうでもないようで、ワナワナと身体を震わせる。

そして俺をソフィとユフィから隠すように引き寄せて、身体で覆ってくる。




「だあっめですよ! 何言ってんですか! アスラ様は私のなんですからっ」

「あ、ちょっと」

「ヴィ、ヴィカ?」



ソフィとユフィの制止にも耳を貸さずに、ヴィカは俺を連れて書庫を出る。

その後のヴィカはというと、ずっと話しかけてもムスっとした態度で、気のない返事しか返してくれなかった。

べ、別にそのことに対して悲しいとか、寂しいとか、そんなこと思ってないんだからねっ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ