第三十話 不戦勝と大健闘
バリッ!!!
『ウサギの雷がキマったー! これで5連勝目です! 無属性魔法使いには1つの魔法のみという説がありますが、ウサギは身体強化の他に雷も使う!! ウサギに常識は通用しないのかぁー!!』
「すげーぞ! ウサギぃ!」
「今のところ、全部の試合で圧勝しているじゃないか!」
「キャーっ ウサギさまーっ キャーっ」
いつも通り実況の人は仰々しく言って、会場を盛り上げる。
一体どんな人が実況しているんだろう。
女性の声のようだが、一度会ってみたいものだ。
それに結局は女性層の人気もクシャトリアに持っていかれるし。
俺にはおいしいとこナシか。
******
バタ・・・・・・。
『ま、またしてもアスラ選手の勝利ー! 謎の勝利です・・・・・・!』
「・・・・・・」
さすがにこの勝ち方で会場を盛り上げることには、無理があるか。
実況の人には申し訳ないが、俺はこの戦い方でいかせてもらう。
クシャトリアからの魔力提供がある限り、鉄分で血栓モドキを作り、それで一時的に血を塞き止めて意識を失わせる。
遠隔の魔法発動と、細かい魔力調整が必要だが、砂鉄を操る時の要領で鉄分を操る。
クシャトリアの魔力があってこその技だ。
俺はクシャトリアと勝ち進むためには、この不正を行っていくしかない。
俺の勝ちが判定されたところで、相手の意識を戻す。
しばらく状況を掴めていない様子の相手選手だったが、会場が静まり返っているのを見ると、自分が負けたのだと知る。
こんなインチキくさい魔法を使うやつに負けたのだと。
実際は俺も今のところ5連勝目だ。
全ての試合において、この反則技で勝利を収めている。
そんなことを続けていたら。
いつしか―――――
『それではアスラ選手、ルザー選手、入場して下さい』
俺は戦闘フィールドに踏み入れると、何やら観客席から不穏な雰囲気が。
すり鉢状に設けられている観客席がザワザワとにわかに騒がしくなる。
どうやら俺の対戦相手がまだ入場していないようだ。
『ルザー選手? ご入場ください?』
結局、この試合はルザーという選手が姿を現さなかった。
俺の不戦勝となった。
またブーイングの嵐になるだろうな、という自覚はあるが、目的のためだ。
もしここが日本ならルザーに何か、贈り物と一緒に謝罪でもしようと思うのだが。
菓子折りとか。
それくらいには、俺も申し訳ないと思っているのだ。
それくらいには。
みんな、目に見える明確な結果を求めている。
ウサギの雷が良い例だ。
あれはウサギの勝利が明確で、わかりやすい。
でも俺の出場する試合は決まって、俺の対戦相手が急に倒れる。
ただそれだけが起きる。
ド派手で見たこともないような戦闘を期待している観客や大会側からすると、この対抗戦に対する侮辱と思われてもおかしくはない。
その上、俺は不正まで働いている。
大会側は魔法使いの参加を認めているが、それ以外の参加は出来ないというのが、選手登録の時の必読事項だった。
そりゃそうだ。
これは魔法使いに対してのみ参加が許された、魔法学園主催の対抗戦なのだ。
クシャトリアが人型の精霊だということをいいことに、俺は自分の契約した精霊も選手として参加させている。
まあ、事情が事情なんだから許してくれてもいいじゃないか、とは思わなくもないが。
でもみんなそろそろこう思い始めたのではないだろうか。
俺と対戦したら、必ず負けると。
何故、どんな魔法を使って、敗北に至るかはわからないが、これまでの俺の試合を見てきて、俺の勝ち方を少なくとも不気味に思ったはずだ。
そう、俺との試合の出場を辞退する程には・・・・・・。
『今回の試合に勝てば決勝トーナメント出場決定! その命運はどちらの手に!? 出場選手はビブリオテーカ魔法学園から出場の、ニーダ=ラーゲ選手と一般参加のアスラ選手です! 一般参加のアスラ選手にはここでの勝利に学園編入のチャンスもかかっています!! それでは入場して下さい!!』
俺の名前を聞いた瞬間、観客席の声援が僅かに静まる。
それでもニーダという選手を応援する声は止まない。
俺の勝ち方に納得のいかない観客、今のところ謎の完封勝利をしている俺を倒してくれるのではないか、という期待を託す観客。
まあ、いろいろだけど、観客の納得も期待も、この会場から消え失せた。
俺のいる反対側の戦闘フィールドのコーナーに、ニーラという選手の姿が見えない。
会場の空気が一気に重くなるのを感じた。
俺は不戦勝で、決勝トーナメントに出場だ。
俺は呆気なく学園編入の切符を手にした。
目的は達成されたが、俺の気分はやけに重く、晴れない。
その理由は分かっているが、とりあえずは目的達成だ。
・・・・・・やはり、あまり気分のいいものではないな。
******
「アスラ君、ちょっと無理し過ぎなんじゃないのかい? 勝っていくのは結構だが、あんなにも一度に魔力を使う魔法は初めて見たよ。でもその分、身体にも負担が掛かっていることを忘れないように。ほら、治癒魔法だ」
俺はノノの元で治癒魔法をかけてもらっている。
また治癒魔法の効果が切れたのだ。
効果が続く間は、風邪の症状を抑えられるが、効果が切れれば風邪はまた初期症状から始まる。
気休めのその場凌ぎに過ぎない。
この方法で完治はありえないのだ。
治癒魔法で身体の時間を風邪が発症する前の状態に戻したと言った方がピンとくるだろうか。
戻した時間は効果が切れば、また進み出す。
そうなってしまえば、風邪の発症は避けられない。
これで大会が始まって5度目の治癒魔法になる。
「これだって目的のためだ。それにクシャトリアの魔力提供もある。問題ない」
「それでもだよ。魔力を使うのは一瞬だが、少なくとも君の精霊からの魔力補充はそれ以上の時間を要する。つまり、短い時間だとしても、その間は君の魔力は枯渇に近づいているんだ。他に方法はあったんじゃないのかい?」
ノノの言う通りだ。
俺には前世の記憶があると言っても、人生はノノよりかは短い。
これで、いろいろと経験しているのだろう。
「そういや、あんたの孫にあったぞ。ソーニアって言ってたな」
「おお、そうか。どんなだった?」
「いやー、あれは将来美じ・・・・・・元気で優しい子だと思う。伯爵家って言ってたからもっと偉そぶってるかと思ったが。ていうかノノさん伯爵なのか?」
「いいや。伯爵の初代は私の息子、ソーニアの父親だよ。私の代まではただの平民さ。まあ身分としては伯爵家に含まれているけど、それが決まった時は私はもう隠居していたからね」
どこか悲しそうに、遠くを見て話すノノ。
別に興味はなかったし、話題を逸らすためにした話だが、困ったような笑いをするノノは少し気になった。
「さあ、君の精霊の試合がもうすぐ始まる。しっかり不正を働いておいで」
ノノは冗談を言って、俺をクシャトリアの試合に集中するように促す。
どうやら、ノノ自身もこの話に触れて欲しくないようだ。
あまり詮索はしない方がいいな。
俺はデキル男だ。
これ以上は聞くまい。
そろそろ日が暮れてきた。
上を見上げると、チラホラ星が見え始める。
会場内は光の魔石でライトアップされ始めた。
『さあ! 対抗戦も終盤! 今回が決勝トーナメントに参加出来るかどうかの最後の試合となります!! 残る選手も少なくなってきました! ここで勝てば決勝トーナメント確定です!! さて、対戦カードは、みなさんお待ちかねウサギ!』
「ワアアアアアアッ!!!」
ウサギの名前に観客が歓喜する。
これに勝てば決勝トーナメント。
早いな、と思うのも束の間。
すぐに納得に至る。
そりゃ俺が試合開始直後にバッタバッタ人を気絶させて試合時間短縮して、その上、不戦勝連発だ。
すぐに試合も進むのも当然かもしれない。
どうやら俺の試合以外にも、ウサギを含め不戦勝が何度かあったみたいだし。
実況の人の言葉を借りると、近年稀に見る荒れた大会、だそうだ。
『対するはエアスリル魔法学園第13学年、ノクトア=フォンタリウスです! 残っている選手はどうやらエアスリル魔法学園の生徒が多い模様です。ここにきて初めて、トーナメントでエアスリル国民同士がぶつかりました!!』
「ワアアアアアアッ!!!」
前からちょこちょこノクトアは出場していたが、あいにく俺はそれを観戦できていない。
風邪がぶり返してノノに治癒魔法をかけてもらいに行ったり、他の選手に俺の試合に対しての文句を言われたりで、俺も中々忙しかった。
ノクトアに関しての調査不足は否めないな。
『それでは両選手、入場して下さい!!』
ウサギの仮面を付けたクシャトリアとノクトアの入場に、会場はさらに盛り上がる。
待合室で試合を終えた選手も、まだ試合を控えている選手も、この試合に釘付けなのが見える。
かく言う俺も、この試合を待ち望んでいた。
ゼフツの話によるとノクトアは解放軍の一員だ。
どれほどの力を持っているのか、ここで推し測ってやる。
が、今回ばかりはそれは難しそうだ――――――。
『西のコーナーから現れたのは、かの有名な侯爵家、フォンタリウス家の長男。ノクトア=フォンタリウス!! 得意とする魔法は火属性! 二つ名、炎竜の名を欲しいままにする彼の実力はこの会場にお集まりの皆様にならわかるはず!! ノクトア選手の力の神髄を、とくとご覧あれ!!!』
「ノクトア様ーっ 頑張って下さいねーっ」
「キャー! 応援してますーっ」
「ウサギなんかコテンパンにしちゃってくださーいっ」
『力ある者は色を好むのか、黄色い声援が絶えませんっ!!』
ノクトアのやつ・・・・・・。
やるじゃないか。
よもやこんなに、俺とお前の間に格差があったとは。
俺は女の子をキャーキャー言わせるノクトアの背中が遥か遠くに見えた気がした。
『対する東のコーナーから入場したのは、ウサギ!! この2年で国内の魔法使いで知らない者はいない程、名を馳せた無属性魔法使い! その珍しい無属性魔法は王宮魔法使いの研究対象でしたが、ナイト・リベリオンの混乱でそれも延期に。まだまだ謎に包まれる魔法使い!! 王宮魔法使いの興味すら独り占めのウサギの魔法が、今度はノクトア選手に牙を剥く!! さあ、勝つのはどっちだ!?』
「きゃあーっ! ウサギ様ーっ こっち向いてぇーっ!」
「あんな気取った野郎なんかやっちまえー! ウサギー!」
「愛してますぅー! ウサギ様ーっ!」
「頑張れよー! 応援してるぞぉー!」
『これはウサギも負けず劣らず観客に大人気です! しかしウサギは女性陣だけでなく、男性にも人気があるようです!』
ははっ ははは。
クシャトリア、君も、遠くに行ってしまったんだね・・・・・・。
女性に、延いては観客に人気のないボクが到底辿り着くことの出来ない高みへ。
『まだ決勝戦ではないのに、この盛り上がり! ある意味、頂上決戦です! それでは―――――――』
一瞬、会場が静寂に包まれたかと思うと。
『試合開始!!!』
鼓膜が破れたかと思う程の大きな歓声。
一瞬、観客席の熱意に圧倒された。
しかし、すぐにクシャトリアの試合に集中する。
ここでクシャトリアを負けさせるわけにはいかない。
なんたって、学園生活がかかって・・・・・・げふんげふん。
クシャトリアが元に戻れるかどうか、サイノーシスの効果を中和出来るかどうかの瀬戸際なのだ。
ミスはできない。
「天に舞い上がりし炎の螺旋、今ここに顕現せよ。火の精霊よ、我に力を。スパイラル・ヒートッ!!」
真っ先に仕掛けてきたのはノクトアだった。
今までに他の魔法使いから聞いてきた呪文より少し長め詠唱。
それもそのはず。
威力が桁違いだと悟った時には、フィールド上に巨大な炎の渦が地上十数メートルまで上がっている。
日が今にも暮れそうな、暗がりの空に再び太陽が舞い戻ってきたかと思う程に会場を赤く照らしていた。
その熱気は観客席の俺まで届いてきて、肌がヒリヒリする。
『おっとぉ! いきなり火属性の上級魔法です! これが炎龍という二つ名の由来にもなった魔法! 大量に魔力を消費する上級魔法をここで使うということは、魔力に相当の自信があるということなのか!! さあ、どうするウサギ!?』
そうこうしている間に、火の渦はクシャトリアにどんどん迫って来ている。
俺にとって火属性魔法使いは鬼門だった。
俺は磁場を操る魔法を唯一、使える。
それは物を磁化させたり、磁場の向きを変えたりする力だ。
しかし限りなく高温の炎の前では、ほぼ意味を成さない。
磁気には向きがあり、それは普段は整列している。
だから磁場が有効に働くのだ。
しかし、それが失われてしまっては俺の魔法で放電や金属を操ることは出来ない。
炎はプラズマと呼ばれる物質の状態の1つだ。
プラズマ内は多数の自由電子がある。
それが俺にとって大きな問題だった。
自由電子があるため、プラズマである炎の中は極めて電流が流れやすいと前世で聞いたことがある。
電磁場をかけて電流が流れれば、そこにまた電磁場が生じる。
つまり炎の中で電流が流れるのだが、それにより新たに生まれる電磁場の干渉を受けて、以前のように的に向かって正確な放電が出来ない。
炎の渦にかき消されてしまう可能性もある。
それが俺にとって非常に厄介な原理の正体だ。
無表情なウサギの仮面のまま、クシャトリアはちらりと俺の方を振り返る。
俺は首を横に振って答えると、それを確認したクシャトリアはすぐに回避行動に移った。
悪いがクシャトリア、今回は大したサポートをしてやれそうにない。
『どうしたウサギ!? いつもの雷魔法は使わないのでしょうか!? 』
フィールドの端の方で、クシャトリアが炎の魔法に追い詰められている。
と、そこで俺は突然、若干の呼吸苦を呈した。
さらに動悸がする。
気付けば汗が額に浮かんでいた。
「クシャトリア・・・・・・」
俺は恨めしさ半分、応援の気持ち半分で半眼でクシャトリアの名前をぼそっと口にする。
クシャトリアは試合中、攻撃面ではほとんど俺に頼っていた。
魔力を使うのは俺なのでクシャトリアはその間、魔力を吸わずに、逆に俺に魔力提供をしてきた。
それはサイノーシスの効果によるまやかしの気持ちであるが、俺を想っての配慮だ。
しかし、今回は俺の魔法は役に立たない。
クシャトリアは選んだ。
好きな人を気遣って、魔力を吸わずに苦しい戦いを続けるか。
好きな人を思いやってはやれないが、好きな人の隣にいるために魔力を吸って、勝率を上げるか。
クシャトリアは後者を選んだ。
あの精霊の目的は俺と一緒に学園に通うことだ。
だから俺は今、こんなにも魔力の減りを感じながら観客席で膝を付きかけているのだ。
今までクシャトリアの魔力提供で、魔力の回復をしていた俺から、また再び魔力を吸って、それを自身の力に変える。
まだ満タンまで回復しきっていない俺の魔力が、クシャトリアの身体強化に使われる。
今まで順調に回復していた魔力を急に吸われたことも災いし、反動が大きい。
だがしかし、それはもちろん悪いわけではない。
クシャトリアはノクトアの炎の渦を華麗に躱した。
あえてクシャトリアは渦に向かって突進し、渦巻く炎の間をバク宙で背中を反らして避け、さながらアクロバットでノクトアの眼前に躍り出る。
クシャトリアは無属性魔法の王級精霊だ。
精霊のランクで言うと、神級の次だが、この精霊の身体強化は確実にトップレベル。
しかもそれを今度は俺に付与するのではなく、自身に使うのだ。
そこまでとなると、ノクトアの上級魔法を、身体1つで躱してしまうと言うのか。
身体強化、正直舐めてたぜ。
『な、何という体さばき!! こうも簡単に上級魔法をあしらってしまうのか!!』
「ウサギ、やっぱり身体強化はピカイチだな・・・・・・」
「え、でも雷魔法もあるし、無属性魔法使いって使える魔法1つじゃなかったっけ」
「ああ、そこがまたウサギの謎を深めるんだよな」
観客にも驚きと同様が広がり、これにはさすがにノクトアも歯噛みする。
「ウサギ、君には驚かされてばかりだよ。でも安心しなよ。僕は上級魔法しかまだ使えない・・・か、ら!!」
と言うのも束の間。
最後まで言い切らないうちに炎の球を放ち、その隙にクシャトリアから距離をとるノクトア。
無詠唱だ。
無属性魔法は種類が人によって違うから呪文が決められていない。
だから必然的に無詠唱になるのだが、適正魔法を持つ魔法使いが無詠唱を使うのは珍しい。
ノクトアの魔法は確かに強いが、身体強化したクシャトリアが相手となれば、話が変わってくる。
筋肉の微細な動きも意識するようになり、あらゆる感覚器官研をぎ澄まし、限りなく究極的に身体の性能を高める。
無属性魔法の王級精霊。
トップレベルはそこまで己を高めるのだ。
クシャトリアは身軽にトントンと地面を蹴り、ノクトアに迫る。
初めてこめかみに汗を滲ませて、ノクトアは更なる呪文を唱えた。
「火の精霊よ、我に力を。フレイムブレイド!!」
ノクトアの持つ赤い魔石の付いた杖が、燃え上がったかと思うと、その後には杖を握っていた手に剣をかたどった炎が握られていた。
俺が雷魔法をこっそり使えないせいで、クシャトリアは近接戦をするしかない。
だからノクトアに近づいたのだが、ノクトアも策を講じていた。
「身体強化で押し切るつもりかい? でもあいにく僕は家で剣術を習ったことがある。称号は上級剣士さ」
「・・・・・・」
俺が出て行った後にそんなことしてたのか。
剣術だけではレオナルドやジュリアと同レベル。
でもそれではレオナルド達には並べない。
何故なら、実戦経験の差だ。
まあ、それはレオナルドの請け合いでもある。
基礎の前に実戦をさせられたのが良い例だ。
クシャトリアは俺の言いつけの通り、無口を貫いている。
でもそれは攻撃開始の静かな合図だった。
ズギャッ!!
クシャトリアが加速するために踏み込んだ地面から、えぐれる音がした。
さっきの炎の球で距離をとったノクトア目掛けて、一気にフィールドを駆け抜けるクシャトリア。
風の抵抗でたなびく黒装束は怪しく、地面をねじ伏せるクシャトリアは美しくもあった。
それを待ち構えるノクトアは最高のタイミングで炎の剣を振るう。
が、それは空を切るだけで、クシャトリアは走るために低姿勢だった身体を、今度は一気に仰け反らせてノクトアの剣を避ける。
ノクトアの剣は躱されたことで、勢い余って次の動作が遅れた。
その隙にクシャトリアは後ろに片手を付き、両足を持ち上げて、ノクトアの両腕をホールドする。
身体強化しているとは言え、あの体勢は真似できない。
「なっ しまったっ!」
ノクトアの油断と隙は大きかった。
それがレオナルドの言う実戦の差だろうか。
あいにく俺は教える側の立場ではないので、あまりピンとこないのだが。
クシャトリアはホールドした足をそのまま引き寄せ、上体も浮かせた。
これでノクトアの腕を足で挟んだまま、片手で逆立ちした形になる。
「す、すげえ・・・・・・」
観客から感嘆の声が漏れる。
あの体勢から足で持ち上げるとか、どういう腹筋してんだよ。
それは次の瞬間には、ノクトアの炎の剣をノクトアの両手ごと地面に突き刺した。
ドッゴォンッ!!
「ぐわっ」
剣ごと地面に叩きつけられたノクトアの手の骨は、折れただろう。
しかし精神ダメージ変換により、痛みだけが身体の異常として蓄積される。
その場で地面から手を引っこ抜き、クシャトリアの姿を探すノクトアだったが、その影も見つけられないままクシャトリアの渾身のかかと落としをくらい、剣と仲良く地面に潜った。
ズコォンッ!!
「きゃあっ、ノクトア様がぁーっ」
「え、えげつねえ・・・・・・」
腹臥位で半分地面に埋まったノクトアの身体は、ピクリとも動かなかった。
『これは容赦がないウサギのかかと落とし!! ノクトア選手は戦闘続行不可により、ウサギの勝利!!! これでウサギも決勝トーナメント進出、さらにトップ10入りで学園編入の資格もゲットです!!』
これでノクトアは剣と仲良く地面から引き抜かれ、俺とクシャトリアは仲良く学園編入が叶うことになった。




