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第二十七話 作戦名 二兎を追うもの、学園に編入する作戦

翌朝、まだ日が昇りきっていない時間。

上体を起こし、部屋の窓から外を見ると、東の空がぼんやりと明るい。

それでも真上の空にはちらほら星が残っている。



俺はしばらく朝日が昇る様子を眺めていた。



体調は良いようだ。

昨日のような、倦怠感や熱はない。

風邪は治ったのかとも思ったが、そうではないらしい。

俺が寝ているベッドの横に目を向けるとノノが椅子に座って船を漕いでいた。

付きっきりで看病をしてくれたようだ。




おそらく俺が寝ている間に定期的に治癒魔法をかけてくれたのだろう。

俺は寝汗を掻いていない。

気持ちよく眠れていた。

子供は無理をしてはいけないとか、なんだかんだ言っておきながら、結局は子供には甘いようだ。




後で何かお礼をしなくちゃな、と思いつつ俺はベッドを出る。

床に足を付いて、立ち上がろうとすると腰に後ろから手が回された。




「どこへ行く?」

「クシャトリア・・・・・・。顔を洗いに行くだけだよ」

「・・・・・・そうか」




布団から手が生えているいるように、頭まで布団を被っているクシャトリア。

添い寝をしてくれていたようだが、そのドキドキイベントの記憶が俺にはない。

惜しいことをした。



納得したクシャトリアは俺の腰に回した手を解き、起き上がると大きな欠伸をした。

その女の子らしからぬ粗野な感じがなければ、女神の寝起きのように見えたかもしれない。

ちょうど窓からは朝日が差し込み、クシャトリアの背中を照らしていて、後光に見えなくもない。




その窓から入ってくる朝日に目をしかめるように、次に目を覚ましたのはノノだった。

ムクっと顔を起こすと、ポキポキと関節を鳴らしながら伸びをしている。

そして目を擦りながら立ち上がった。




「おはよう、アスラ君。よく眠れたかな?」

「ああ、ノノさん、あんたのお陰でぐっすりだよ。逆にノノさんの方が無理してたんじゃないか?」

「ははは、子供が大人の心配をするものではないよ。今日はアスラ君に頑張ってもらわないといけないんだ。しっかり朝食を摂って、対抗戦に臨みなさい」



ノノがなんか母親みたいなこと言ってきた。

ここで味噌汁とか渡されたら、まんま日本の朝の食卓だな。


俺とクシャトリアは少し早いが、部屋を出て宿の食堂で腹ごしらえをする。

そこで今日の流れを確認することにした。

例によって、司会進行役はノノなワケで。




「さあ、今日は対抗戦なんだが、アスラ君は体調が芳しくない。試合の合間に私が治癒魔法を施しながら出場をしてもらうことになる。これはとても身体に負担がかかる。無理があったら我慢せずに言うんだぞ? アスラ君」



最終的にこの形で対抗戦に臨むこととなった。

ノノは俺のために協力してくれるのだと言う。

とてもありがたいのだが、いざ上手く事が運ぶと、俺の意見を無理に通したようで申し訳なくなるという、小心者の俺。



「わ、わかった」



もしかして昨日俺が寝た後に勝手に決められたことじゃなかろうな。

大体俺の思い描いていた通りだから構わないのだが、マネージャーを持つとこんな感じになりそうだ。




「今回の目標はアスラ君の10位以内入賞なのだが、アスラ君。本当に大丈夫なのか? 見たところ君は杖すら持っていないようだが」



そこは俺に代ってクシャトリアが答えた。


「王級精霊の私と契約する程の実力の持ち主だ。この年代の者の戦いであれば優勝は堅いな」



確かに、俺はクシャトリアに出会ってから、確実に実力が伸びている。

現在もクシャトリアに魔力を吸われ続けているが、魔力の底は一向に見えてくる気配はない。

だが、ノノが言いたいことは違うだろう。

おそらく、油断をするな、という意味だ。

俺はそれを肝に銘じておくことにした。



「油断はしないよ。少しぐらいなら修羅場もくぐり抜けて来ている。心配無用だ」


「ふうむ。そんな風には見えんが・・・・・・。とにかく無茶は禁物だ。いいかな?」


「ああ、わかった」




俺は自信満々に答えはしたが、内心少し焦っていた。


実は、今、起きて大して時間は経っていないのだが、既にノノの治癒魔法の効果が薄れてきていた。

さっきよりも断然、身体が重い。

これは試合をあまり長引かせかせると、逆に不利だ。

早々にカタを付ける必要がありそうだ。



と、思った矢先。

そんな焦りなどイス○ンダルの彼方まで超重力で吹っ飛ばしてしまいそうな、さらに深刻な問題が発生した。

これは完全に俺のミスだ。

どうしてその問題を見落としていたのだろう、自分が恥ずかしいぞ。





「ふふっ アスラ、これで一緒に魔法学園とやらに通えるなっ 制服というものも着れるのだろう? 楽しみだなっ」



クシャトリアは珍しく上機嫌に、そう言うのだが、オイ、誰がお前も入学させることを許可したんだ。



「ちょっと待てクシャトリア。まさかお前も学園に編入するとか、そういう話じゃないよな?」

「いや、その通りだが。その話を進めていたんだろう?」



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バーチャルな歌姫が消失する歌の最後の歌詞が頭をよぎる。



「違うぞクシャトリア。目的はあくまで俺の入学だ。そもそもお前精霊だろう。入学なんて出来ないんじゃないのか?」

「そ・・・そんな・・・・・・。馬鹿な・・・・・・ッ!」




クシャトリアは半分涙目で、この世の終わりを目にするかのような、絶望的な表情をする。

ぶっちゃけ、それくらい考えれば、まず一番に引っ掛かりそうな問題だろうに。



「お前は阿呆か。大体クシャトリアは対抗戦に出場しないだろ」


俺がそう言うとクシャトリアは、痛いところを突かれた、と言っているも同然に、ありありと顔に険しい表情を浮かべる。

クシャトリアはしょんぼりとして俯いたかと思えば、これまた最近では珍らしい反抗的な態度、というより拗ねたように偉そうにして腕を組みだした。



「で、では私が出場すればいいのだ。精霊だとバレずに参加すればいいのだ。そうだろう?」


俺は一瞬呆気にとられたが。


「あ、ああ。そうなんだが。問題はそこじゃなくてだな・・・・・・」


その熱意に弱かった。

だって精霊と言えど、可愛い女の子が俺との学園生活を送るために、ここまで言い張っているんだぜ。

ともすれば男としては弱くなって当然だろう。

と、当然だよな?




「よし、じゃあクシャトリア、俺にいい考えがある」

「本当か!?」


当然だと思いたい、またしても小心者の俺。

目を輝かせて俺に期待の視線を向けるクシャトリア。



「ああ、任せろ。作戦名、二兎を追う者、学園に編入する作戦だ」

「あ、アスラ君、何を言っているんだい?」





「・・・・・・なんだよ。ちょっと、言ってみたかっただけだろ」





******






俺達は宿で朝食を摂った後に、対抗戦の会場である魔法学園を目指した。


ノノの話によると、魔法学園にはたくさんの会場が設けられており、試合の進行具合によっては1日で対抗戦が終了するとこもあるのだと言う。



「私の孫もね、今年初めて対抗戦に出場するんだよ」



と、ノノは上機嫌に言う。

本当にお孫さんのことを大切にしているのだな、と思う。

そしてそんなノノも立派だな、とも思う。



それに比べて俺とクシャトリアは。



「前が見えにくいぞアスラ。よくこんな仮面を被って戦っていたな」

「仕方ないだろ。我慢しろ。その方法しか思い浮かばなかったんだから」



話し合った結果、魔法学園の敷地内ではクシャトリアにはウサギの仮面を被って、ウサギに成り済ましてもらうことになった。

試合本番で戦うことになれば、どこか人目に付かない所で服装を交換して、俺がウサギの仮面を被り出場する。

その間はクシャトリアにはなるべく姿を隠せるような場所で待機してもらう。

そして試合が終わればまた服を交換だ。

今の子供サイズの身体の俺と、そう背丈の変わらないクシャトリアだから出来ることだろう。



これでウサギとアスラ=フォンタリウス。

出場する時に限って、俺は一人で二役をこなさなくてはならない。

ウサギとして戦う一方で、アスラとしても戦う。

初めて仮面を付けなくて済むが、トーナメントならいずれウサギとアスラがあたる可能性も考えられるな。

風邪をひいていることもあり、かなり負担が大きいが、念には念をだ。



この対抗戦が開催されている期間中、試合に出場する時以外はクシャトリアにはウサギとして動いてもらう。



「クシャトリア、くれぐれも声は出すなよ。お前だってことがバレるからな」

「ああ、アスラの頼みだ。絶対に守り通す」

「だから声出すなって」

「ッ!?」



クシャトリアは、しまった、とでも言うように仮面の上から口元を押さえる。

何だか、だんだん不安になってきた。

この方法で仲良く編入できることを願うばかりだ。



ウサギの通り名は広まっているが、幸い、その正体をアスラ=フォンタリウスだと知る者は限られた人間だけだ。

しかもその限られた者達は、立場上ウサギの正体を明かすことは出来ない。



例えばルースの場合は、明かす事が出来てもそれを俺が否定してしまえば、その真実はたちまち子供の戯言に変わる。

ルースもネブリーナの身体という拭いきれないハンデを負っているのだ。



だからこそ、現状維持を続けたいと思っている。

逆に言えばクシャトリアが俺と共に行動していることが知られる危険だってある。

それが知られてしまえば、ルースの記憶のこともあり、解放軍は何らかの行動に出ることが予想される。

この学園で、またクーデターなんか起こされたら堪ったもんじゃないぞ。



俺は慎重になり過ぎなくらい、解放軍を警戒していたのだった。



だが、警戒していたのは、何も俺だけではなかった。




******





ウィラメッカスの中心部、魔法学園に到着したのだが、いきなり緊急事態発生だ。



魔法学園の正門で、行列ができている。

そして学園の職員と思しき者たちが、どうやらその行列に並んでいる一人一人の顔をチェックしているようだ。

おそらく、こちらも解放軍対策として、検問を設けているのだろう。



こういう催し事に乗じて、また解放軍が行動を起こすことを警戒してのことだ。

念には念を。

みんな考えることはほぼ同じというワケだ。


クシャトリアの顔を見られて、ウサギの正体を間違った形で知られてしまうのは、この際良いとして。

問題はここでクシャトリアの被っている仮面が外され、精霊クシャトリアの動向が何らかのルートで解放軍側に知れ渡ることだ。



解放軍にはクシャトリアの存在が大きく関わっている。

考え過ぎだとは思うが、前回の例があるのだ。

ビビリ上等だぜ。

何もなければ、それはそれでいいんだ。

ただ、何か起こってからでは遅い、そういうもんだろ?



だが、俺の心配をよそに、クシャトリアは頼もしいことを言ってくれる。



「任せろアスラ。上手くやる」



周りに聞こえないぐらいの小声で、俺に囁く。

ちゃんと言いつけは守ってくれている。

要はこの検問じみた、高校の抜き打ちの風紀検査のようなものを突破すればいいのだ。

頼むぞ、クシャトリア。




そして、とうとう学園の教師であろう、女の職員が回ってきた。



「やはりここにも姿を現したか、ウサギ。2年前のナイト・リベリオンでの解放軍のことが危惧されているため、ここで顔を記録させてもらう。お前は顔を晒すことを極端に避けているようだから、手早く済ませてやろう。この銀の板に顔を映してくれ。それで登録は完了だ」



綺麗な濃いブルーの髪を頭の後ろでまとめた女の職員は、メガネをクイっと上げて、銀の四角いプレートを差し出してくる。

その銀のプレートはどうやら魔導具のようで、差し詰め、顔を映すと自動的に記録される仕組みと言ったところだろうか。


どうでもいいのだが、この女は若い先生だ。

こんな先生に1対1の補習という名の実技を・・・・・・。

なんて考えている場合じゃない。



仮面には俺が少し手を加えていて、後頭部まで覆えるぐらいの暗幕を付けている。

それのおかげて、クシャトリアの長い髪を頭の上でまとめてさえいれば、それを暗幕が覆ってくれて、女だと簡単にバレることはないだろう。

身に纏っている黒装束もブカブカなので、体型も見抜かれにくい。

そしてウサギの仮面をしたクシャトリアは未だに無言を貫いているから心配ないとは思うのだが。




どうするのかと思いきや、クシャトリアは器用に暗幕で顔を隠しながら仮面を上に少しだけずらし、プレートに顔を映す。



プレートに映った顔を見た女の職員は、一瞬驚いた顔をしたが、どうやら不審には思われていないようで、プレートをクシャトリアから受け取る。


ふう、これで一安心だ。

精霊だとバレることもなく、顔も大っぴろげに晒されることもなく済んだ。



「女だったとはな・・・・・・」


女の職員は、大丈夫、誰にも言わない、と言ってプレートに落としていた視線をクシャトリアに再び向ける。



もしかするとただ単に疑わしいか、そうでないかの揺さぶりの意味も込めていた踏み絵に近いものなのかも知れない。

何はともあれ、条件はクリアした。

精霊だということがバレる心配は取り敢えずはしなくて済む。

その女の職員は俺が危惧していたこととは、また別のことを疑っているようだ。



「2年前の精霊祭に君が初めて参加したタイミングに合わせるかのように、解放軍がクーデターを起こしている。学園側はこの対抗戦にもウサギが現れるのではないか、と言っていたが、その予想は大当たりだな」



顔の登録が終わった後に女の職員は、ウサギの仮面を付け直しているクシャトリアに何やら忠言のようなことを言い始めた。


「学園はお前と解放軍との関係性を疑っている。ナイト・リベリオンで姫様を救出したのはお前だという情報で信頼する者もいるかもしれんが、くれぐれも妙なマネはするなよ」



それだけ言うと、ギルドカードに似たガラスのカードを手渡してくる。

クシャトリアはまさに、忠言耳に逆らう、といった様子で乱暴にそのカードを受け取る。

その苛立ちのようなものは仮面で顔を覆っていても、こちらに伝わってきた。

だがしかし精霊ということがバレやしないか、という俺の不安は杞憂に終わり、俺は胸を撫で下ろす。




次に俺、ノノの順番で銀のプレートの魔導具に顔を登録して、俺だけガラスカードを受け取る。

おそらくこのガラスカードは精霊祭で言うところの身分証明書。

学園敷地内での対抗戦参加選手という標識になるのだろう。


当初の予定とはだいぶ異なる方向に進むことになったが、難を避けてそのまま学園内に逃れることが出来たので良しとするか。




「クシャトリア、このカード、たぶん後で出場試合とかが表示される。大事に持っていろよ」

(こく)


クシャトリアは無言で頷く。

精霊祭の時も俺はこんな感じだったんだな。

確かにちょっと不気味だ。



この検問で顔を登録されてしまったため、先程の試合出場時だけ入れ替わるという作戦は使えない。

もし俺がウサギとして出場している間に、クシャトリアが見つかったりすれば一巻の終わりだ。




しかも結果的にウサギはクシャトリアが終始演じることになったため、俺は前回ウサギとして使用して観客達に知られてしまった魔法は使えない。

ウサギの専売特許である雷魔法などもってのほかだ。

そんなものを使おうものなら、即刻俺とウサギの関係性が疑われる。



クシャトリアにはウサギの仮面を付けてもらい、対抗戦中は過ごしてもらう。

試合以外の過ごし方はこれで良いのだが、問題は試合中だ。



ウサギが鎖鎌使いということで、使用の有無はどうでもいいとして、クシャトリアには鎖鎌を持たせた。

そして、どうやってウサギの雷魔法を、あたかもクシャトリアが使ったように見せるかという問題なのだが。


魔法に関する知識が人並みかそれ以下のノノと、アホな俺と、アホの契約精霊では、やはりどう頭をひねっても、この程度の案しか浮かばなかった。





その案というのは。





クシャトリアがウサギの仮面を被って出場している時に、ウサギの魔法としてお馴染みになっている魔法を、俺が遠隔で使用することだ。



魔法の使用者と、効果範囲の間に距離が空けば空くほど、1度の魔法での魔力の消費は激しくなる。

それはレオナルドとジュリアの家の地下室で魔法の練習をしていた時に感じたことだ。

その時は静電気の放電を避けるために、離れたところで魔法を使おうと思ったのがきっかけで知ったんだっけ。



多少魔力の消費が増したからといって、俺の魔力全損ということは、まずあるまい。

それまでに、俺は自分の魔力量に自信があった。

だって、もうクシャトリアの吸う魔力の残量を気にしなくても良いくらいなのだ。

上手くいくはずだ。



そして残った俺は、自分がウサギだとバレないように使用する魔法に注意し、体調を気にしながら地味に勝ち進めばいい。

俺とクシャトリアの役は逆でも良かったのだが、それはもうできない。

クシャトリアの顔イコール、ウサギの正体という解釈をされてしまっている。



あとには退けないか。





******






「それにしてもアスラ君。君がウサギだったなんてね。君には驚かされてばっかりだよ」

「あれ、ノノさんもウサギを知っているのか」



俺は学園内に入ったところで、クシャトリアとは一旦別れた。

ずっと一緒にいては、ウサギの正体をクシャトリアに偽ってもらっている意味がなくなる。

俺とウサギは何の関係もないと周囲に思わせなければいけない。

逆に言うと、そうしている間は、クシャトリアと俺は対抗戦で勝ち続ける限り学園編入の目的は達成できるのだ。




「当たり前だよ。王都に住む者ならほとんどの者が知っている。魔剣武祭の決勝トーナメント出場。さらにはネブリーナ姫の救出。どれも君の噂は輝かしいものばかりだ」



ああ、そうだな。

でもそれは、その事態の裏側で密かに暗躍している者の存在を知らないから言えるのだ。

王都がまた以前のように本当の意味で賑やかな街に戻るのはまだ先の話だろう。

ウィラメッカスを王都のようにはしてはならない。



「でも今日ばかりはノノさんの力を借りないと何も出来ないようだ。また治癒魔法を頼むよ」




ノノの治癒魔法の効果が切れかかっていることを告げるように、俺の体温はだんだん高くなる。

頭がぼーっとしてきて、立っているのもままならなくなり、その辺の植木の傍の石段に腰を落とした。



「おや、もう効果が切れたのかい。昨日にもまして早いね」



そういって、ノノは今回で何度目になるかも分からない治癒魔法を俺に施す。



徐々に熱が引いていくのを感じながら、学園の敷地を見渡す。

正門を抜けた人の列はそのまま会場に吸い込まれていくように進むので、その列から外れて今俺達がこうしている所は閑散としている。

正門から入った俺はガラスカードに出場会場が表示されるのを待っているワケだが、どうやらそれは大して気にしなくても良さそうだ。




「それにしても、デカイ会場だ」




今回の対抗戦で使用される会場は一つだけのようだ。

その会場の中にはいくつかの戦闘フィールドがあり、どうやら会場内にいる限りはすべてのフィールドでの試合状況を確認できるようなのだ。

そのため、クシャトリアの試合で俺が魔法でサポートするために、クシャトリアの出場試合を管理するべく、一緒にいる必要もない。



魔法のサポートと言っても、この不正がバレたら一発アウトだろう。

もっとも、クシャトリアの高度な身体強化の魔法があれば、ある程度は勝ち進めるかとは思うが、あの仮面を被っているのは精霊祭にもいたウサギだと周囲に思い込ませるためにも、ウサギの代名詞でもある雷魔法を使うところを見せつけなくてはならない。




それでクシャトリアは精霊ではなく、参加者と勝手に周囲に認められる。

我ながらこすっからい手だ。




「はい、もういいよ。調子はどうだい?」

「ありがとう。調子は・・・・・・いいようだ」


俺は何度か腕をグルグル回して体調を確認してから答える。




『定刻となりましたので、参加選手のみなさま、観客のみなさま、会場にお集まりください』



辺りに響くアナウンスを聞いて、俺はノノと顔を見合わせて立ち上がる。



「では、私は南側の観客席にいるよ。治癒魔法が必要になれば来なさい」



「ああ、わかった」



俺は風邪というハンデを抱えているが、それに気を取られているお陰で、緊張感は不思議となかった。

二兎を追うもの、学園に編入する作戦、開始だ。




・・・・・・やっぱ作戦名、変だな。




いつも誤字・脱字をお知らせして頂き、ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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