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間話② 四年の日々

〈アスラ視点〉


俺はその後、毎日のようにレオナルドに実践の相手をしてもらい、戦いの中で自分の戦術を身に付けていった。

それは剣術において、正しいのか間違っているのかはわからない。

だけど、俺にとってはそれがしっくりくるという戦い方が成り立ってきた。

レオナルドの教え方は俺に合っていたようだ。

レオナルドは以前のようにギルドの依頼を受けることは一切なくなり、付きっきりで俺と向き合う。

依頼を受けなくても、今までの貯金で生活は何とかなるのだとか。


俺の負ける要因を粗探し、そして荒削り。

どんどん俺のミスはなくなっていき、負けるまでの時間が長くなってきている。

まあその時間は一瞬に変わりないのだが、本当に僅かだが、時間が長引いてきている。


ジュリアも参加したそうにしているが、家事や掃除、武器の手入れに手を回してくれている。

本当によくできた妹さんじゃないか、レオナルド。

俺は嬉しいよ。


もちろん、魔力増強にも余念はない。

魔力が底を尽きるまで、毎日魔力を使う。

初めは銀皿やスプーンを浮かしていたのだが、その内一日では魔力を使い切れなくなった。

より繊細かつ微細で複雑な動きをさせたり、浮遊させる金属を増やしたり重くしたりして、一度に消費する魔力を何とか増やして、一日で使い切るように工夫をする。



そうしていると、日に日に魔力は超回復の効果で増えていく。

そして次の日もレオナルドと戦い、魔力増強。

これは剣術の分野で言う、悪手なのかも知れない。

レオナルドの戦いに慣れてきた。

と言うのも、レオナルドの体捌きや、次の行動、といったような規則性と言うのだろうか。

そういうものが掴めてきた。


これは如何なる相手とも戦うことが出来なければならないという、剣術の腕を高める意味では間違った方向に進んでいるのかも知れない。

だが、俺には焦りはなかった。


レオナルドはある程度の攻撃パターンと言うか、流派による型の流れやリズムは決まっているものの、それが全てではない。

必ず、いつもある程度決まった動きの後に奇想天外な動きを見せる。

それに対応できるかどうかが、俺の腕の見せ所だ。

大抵は俺はそれをいなしきれず、若しくは防ぎきれずに、攻撃をモロに受けて吹っ飛ばされる。


だけどそれも教訓だ。

痛みは鮮烈にイメージとして記憶され、まさか相手がこんな行動は取らないだろう、という油断を消してくれる。

そうして、より洗練された剣術が生まれるのだ。


上述した通り、俺の剣術は剣術として正しいのかどうかわからない。

もし達人が俺の剣術を見たら、激昂するかも知れない。

ただ、レオナルドは俺の剣術を褒めてくれる。

剣術の訓練の後にいつも褒めてくれるのだ。

俺はそれだけで正しいか間違っているかなんて、どうでも良くなった。


ただ必要なのは、俺にとっての力だ。

その剣術が俺にとってよりプラスに働くのならば、間違っていようが知ったことではない。

むしろ、これが俺の剣術なんだと胸を張って言おう。


魔力の方はと言うと、どれだけ増えているのかわからない、というのが正直なところ。

毎朝、超回復で魔力が増えている感覚があるのだが、それはあくまで感覚的なものだった。

俺の体感で感じたままの感想。

酷く曖昧で、もやもやしたものだったので、剣術程に明確とした手応えではなかった。



はっきり言って、不安に近いものかも知れない。



そんな時に励ましてくれたのはいつもジュリアだった。

ジュリアは良くも悪くも空気が読めない。

俺が剣術の訓練に四苦八苦したり、魔術の伸び悩みに頭を抱えたりしていると、いつもと言っていい程に励ましてくれる。

励ますと言ってもやはり、その励ますの意味を履き違えているのでは? と言われても仕方ない言葉を掛けてくる。

でもその方が俺にとって、変に心配されるより心強かったのかもしれない。


「どうしたの、アスラ? 今日ずっと鎌を磨きながらぼーっとしてばっかりじゃない」

「はい。最近自分が伸び悩んでいるな、と」

「ギルド受付のニコとのこと?」

「はい、実はこの前にお兄ちゃんと呼んでもらったことが……って違うわっ、剣術のことですよ」

「ふーん……アスラってさ……」


「はい」


ジュリアはたまに真剣な顔をする。


「ニコのこと好きなの?」

「え、まあ端的に言うとそうなります。でも彼女って彼氏とか好きな人とか……って何の話題転換だっ」

「だよねー、あの子コロコロしてて可愛いもんね。でもニコの浮ついた話は聞いたことないなあ……」


真剣な顔をしたかと思うとこの有様だ。

俺の悩みなんて端から聞く気がないのか、それとも俺を悩みから遠ざけようとしてくれているのか、わからない。

でも勘違いしないで欲しいのだが、俺はニコも好きだが、ジュリアも好きだ。

世界中の女性を愛する包容力のオリジン。

それが俺という男だ。



「え、じゃあ脈はあるんですかね」

「うーん、わからないわね。この前告られたとかなんかで断ってるところは見たことあるけど」

「ニコって断るんですか? 押しに弱そうなのに……」

「このマセガキめ……それよりアスラ、悩みって?」

「だからニコが俺のことをどう思っているか……」


とまあ、俺は存外単細胞なのかも知れない。

ジュリアは優しかった。

俺がこの世界で久しぶりに触れることが出来た優しさなのかも知れない。

とても心が豊かになった気がした。


レオナルドも厳しいものの、根本的には優しい人間だった。

ただ甘いと優しいの区別がしっかりと付けることができる、というだけだ。

しかもレオナルドの場合は、それが容易にわかるという可愛げもある。


結局、レオナルドもジュリアも優しいのだ。



それがこのレオナルドとジュリアとの生活で、俺の進んできた道だった。

本当の家族と思えた。

単なる他人から始まった人間関係を超えたものだった。


でも、そうは言うものの、すべてを分かり合えたわけではなかった。

どうやら俺は小さくて、とんでもない思い込みをしていたようだ。

それは最初のうちは蕾のように小さくても、ある日突然満開の花となって咲き誇るのだ。

さながら、やっとある事を果たすことが出来た、という歓喜に近いものかも知れない。



レオナルドが唐突に言ってきたことがある。



「なあ、アスラ、解放軍って知ってるか?」

「ええ。新聞で読んだことありますよ。国王の命を狙ってるテロリストとか何とか」


「ああ、それでな……」

「何ですか? 急に」


「……いや、何でもない」

「?」



変なレオナルドだった。

その時だけはいつもの覇気がなく、普段ギラギラしている目も俺と合わせることなく、下方に向けられていた。

そして、そんな生活が四年を過ぎた頃。







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