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無属性魔法の救世主(メサイア)  作者: 武藤 健太
フォンタリウス屋敷編
1/80

第一話 見放された俺

初投稿です。

読んでいってやってください。

俺は粘着質な空間を抜け、大きな手に抱え上げられる。

まぶたが重い。思うように目が開けられない。

それでも外光はまぶたを透けてくる。


「ん? 何故産声をあげない?」


男性の低い声が聞こえて来た。

一瞬、聞き覚えのない言葉のように聞こえたが、俺の鼓膜を声が震わせた時には脳が言葉の意味を解釈していた。

そんな風に俺の知り至らないところで、勝手に物事が進行している感覚に陥る。


『おぎゃあ、おぎゃあっ』



少し離れたところから赤ん坊の泣き声が聞こえる。

だけどその泣き声はまるで水の中で聞こえたような、靄のかかった声に聞こえた。


「お前の妹はもっと元気に声を上げているぞ!」


妹?

何のことだ。

俺は一人っ子だぞ。


再び男の声。だが、今度はイラついた声を俺に吐きかけてくるような、乱暴な物言い。


パシッ



その乾いた音は俺の身体から鳴っているのだと、すぐにわかった。

そりゃもう、即断だよ。だって尻が痛いんだもん。

赤ん坊が産声をあげない時には、尻を叩いて泣かせることで、自発呼吸を促すこともしばしばあるのだと聞いたことがある。


俺の現状はまさにそれだと確信する。

重いまぶたを尻の痛みが後押しするように無理に持ち上げると、初めて目にする光りの眩しさに見舞われる。

だが、それも一瞬のこと。

俺の目の前に広がる光景は赤ん坊の俺の身体と、それを片手で持ち、もう片方の手を今にも俺の尻めがけて振り下ろさんとする男の姿。



そしてまたしても、その男の手は振り下ろされて、俺の人生最高ランクの叫び声が部屋に響き渡った。


「うむ、元気な男らしい産声だ」



産声って言うか、絶叫だよ。

俺はそうツッコミながら、眠りについた。



*********



俺は日本のとある都のとある区のとある家で、齢20歳男性の自宅警備員をしていた。

警備代金は3食の食事と寝床、そして月に一度の小遣い。

おい、今ただのヒキコモリじゃねえかって思った奴、表出ろ。ボッコボッコにしてやんよ。

いや嘘です、すみません。みっくみっくにしてやんよの間違いでした。


そんな俺が何を血迷ったのか外出を試みたことがあった。

そして血迷った通り魔に後ろから一突き。

倒れた俺は、そのあとメッタ刺しにされたので、ミンチ肉として麻婆豆腐のアクセントにでもなるのかと思いきや、異世界に転生していた。

そりゃ最初は目が開かないわけだ。


ここが異世界だと気づいたのは、傍にいたメイド服の女性が魔法を使っていたからだ。

それは生まれて間もない俺の赤く腫れた尻に手を当て、彼女が何かを唱えた時のことだ。

その手が緑色の光を放ったと思いきや、俺の尻の痛みがどんどん引いていった。


うおお、マジか。

どんな驚き方してんだテメエ、と言われても仕方ないのだが、俺は吐血寸前まで大口を開けて驚いた。

ということは、ここは剣と魔法のファンタジー世界。

えらいこっちゃあ。


*******



その翌日、俺はとある一室の赤ちゃん用ベッドで寝かされている。

俺の世話は基本的にメイド服を着た女性がこなす。

俺を担当するメイドは決まっているようで、毎回同じ人がオシメを変えに来たり、ミルクを与えにきたりする。

この人は俺の尻に魔法をかけて、治してくれた人でもある。

いわば、尻の恩人だ。

だがある一つの違和感に行き着いた俺は、彼女の身体のある一点を見つめる。


「この耳が珍しいですか? アスラ様」


可愛らしい目をパチクリさせて、耳にかかった髪をかきあげながら尋ねてくる。

アスラと呼ばれたのは俺だ。

そして俺を呼んだこの子はヴィカという名のメイドだ。

でも、ただのメイドではなく、とんがった長い耳を持ったエルフの子だ。

見た目は中学生の女の子にしか見えないのに、すでにアラサーなのだという。

さすがは長寿と名高いエルフ。えげつない話だ。


「おふ」


「うん」と言おうとするとこのザマだ。

何がオフなんだ。カロリーか? そりゃさぞかし奥様方に人気の商品になるだろうな。

歯が生え揃うまでの辛抱だとわかっていても、意思疎通が出来ないのは歯痒い。


「まあまあ、言葉が達者でいらっしゃいますね」


ヴィカは優しく微笑み、俺のオシメを取り替える作業にはいる。

ヴィカは実年齢30と言っても、見た目は可愛い少女だ。

ポニーテールの綺麗な金髪に、小柄な体躯。身長は150センチに満たない程だろうが、未発育というわけではなく、引き締まっていながらも女性らしい膨らみがある。まあ、胸は例外だが・・・。

そんな可愛い少女に赤ん坊の身体だとしても、俺の股間があられもない姿を晒すのだ。

もうダメだ・・・。

俺に、構うな・・・先にいけ。


心の中で小芝居をうっている間にヴィカの作業は終わった。


「ではアスラ様、また明日お会いしましょうね。おやすみなさいませ」



そう言って、ヴィカは恭しく一礼し、俺の部屋から出て行った。

部屋に取り付けられている窓の外を見ると、すでに暗かった。

もう夜だ、そう感じると睡魔が俺を襲う。

赤ん坊の身体というのは単純なもので、眠くなれば寝るのだ。

俺は睡魔とは仲良くしたいと思っている。



*******


およそ一ヶ月の時が経った。


この世界の時間の流れは地球のそれと全く同じだったので、時間感覚が狂わずに済んでいる。

ここはフォンタリウス家という貴族の家のようで、俺はそこの次男として生まれた。

従って、本名はアスラ=フォンタリウス。

兄と同い年の妹がいるのだが、厳密に言うと間柄が少し違う。


と言うのも、この国、エアスリル王国というのだが、一夫多妻制を採用しており、このフォンタリウス家には俺の母親を含め、3人の妻がいる。

それぞれの奥さんに一人の子供。

つまり、腹違い。

兄妹と言っても、血の繋がりは父親を通してだけなのだ。



しかも、その父親は本妻を決めており、長男の母親、つまり俺の兄の母親しか愛していないらしい。

完全に能力主義という貴族らしい考えで脳が凝り固まっている親父は、家族には能力しか求めておらず、常に世継ぎをどれだけ能力のある子供にするかしか考えていない。

そこに愛情があるか無いかは推し量ることは出来ないが、俺の予想を言うと後者だ。

少なくとも、俺には愛情をそそぐ姿は全く見られない。



親父はゼフツ、長男の母親はミカルドという名前だったっけ。

ちなみに、これはヴィカが日中俺の部屋で世話をしているときにこぼす愚痴から得た情報だ。

俺に耳あり俺に目ありだぞ? ヴィカ。

今日も俺は聞き専に徹する。



「―――――――それでですね、アスラ様のお母様ったらヒドイんですよ? 『あの子は私が生んだだけであって、もうあの人の子よ。何故私があんな子の面倒を見なくちゃいけないの』って言うんですよ? ねえ、ヒドくないですか? ねえ」


ヴィカは俺の母親のマネをしているのか、いつもより少し低めの声でドヤ顔を決めながら、俺に詰め寄ってくる。



俺の母親はルースという名の極めて薄情な女で、俺を産んだ時からそいつの顔を一度も見ていない。

ちゃんと身なりを整えれば美人になりそうだと言うのに、いつもだらしない格好しかせずに、自室にいるのだという。

以前の俺みたいだな。



「ねえ、聞いてます? アスラ様?」

「おふ」

「アスラ様は、ゼフツ様やルース様のようにはなってはいけませんよ?」

「おふ」


「おふ」と答えはしたが、これメイドが言っていい台詞か?

ヴィカは雇い主に対して不満しかないようだ。


とは言うものの、俺もこの家の愛情が希薄な家庭環境には少し疑問がある。

この世界に来てすぐに、改めて新しい母親に懐けるかと言われれば、答えあぐねるが、俺のことは兎も角として親としては子供の育成方針は間違っていないか?

俺は前世の記憶があるからいいものの、兄妹が将来こんな大人にならないか心配だ。



******



親からの愛情を一切そそがれないまま、1年の時が過ぎた。


俺は這い這いという画期的な移動手段を身につけたことで、家の中の様々な場所へ行くことができるようになった。

この家は2階建ての木造で、かなり広い。豪邸と言ってもいいレベルの屋敷だ。

ただ階段は登れなかったので、それは俺の最終形態になった暁に果たすべき使命として取っておこう。

俺は峠越えのバズーカ。風になる男だ。

もう誰にも俺を止められねえ。

通常のモビ○スーツの3倍の機動力。赤い彗星とは俺のことよ。



だから発見することができたのだが、その惨状を見た時は目を疑った。



なんと、なんとなんと、レンガの暖炉がある温かい雰囲気の部屋で親父が、俺の兄と妹と思しき赤ん坊と楽しそうにふれあっていたのだ。

俺の親父、ゼフツはアラフォーという熟年孕ませ野郎だが、家族には愛情をちゃんとそそいでいたのだ。

主に俺以外に。



その場には俺とヴィカ、俺の母親であるルースは居らず、代わりに長男と長女とその家族だけで和気あいあいとしている姿があった。

ゼフツの白髪の髪とヒゲを楽しそうに弄んでいる子供達。いつもは厳格という言葉を体現したようなゼフツも子供の前ではアマアマだ。

主に俺以外にっ!


つまりこういうことだ。

長男と長女は次期後継者として大切に愛情をもって育てているが、次男には一切期待していないのだ。

期待しているからこそ、愛情を注ぐのだ。

期待の無い次男は所詮長男の予備としか考えられていないそうだ。

そんな気はしていたが実際目の当たりにすると、お前は必要ないと言われているかのようでショックだった。



しかし、ヴィカは違った。



「今まで隠していてすみませんっ ゼフツ様は長男であるノクトア様を次期後継者にお考えになっていて、その次は長女のミレディ様。そしてその次がアスラ様なので、万が一ノクトア様とミレディ様に何かあった場合の備えとしか思われていないようです。酷な事を申し上げてすみません」



でも2人に何かあった場合だとしても、俺を次期後継者にしようって気概が失意の中に生まれるとは思えない。

従って、俺は事実上このフォンタリウス家の次期当主にはなれないということだ。




言葉がまだわからないと思っているだろうにも関わらず、ヴィカは律儀に頭を下げてくる。

確かに残酷な天○の○ーゼだが、物心ついてから言われるよりかはずっとマシってもんだ。

神話になるチャンスはいくらでもある。

ただ、別に次期当主になる気もさらさらなかったので、この封建的な親父の考えは別に気にならない。


だから別にヴィカが気に病むことはないのだ。

俺は赤ん坊を演じて、彼女の足に抱きついた。

親に見捨てられた俺に唯一愛情を注いでくれている人だ。

元気になって欲しい。


「あ、アスラ様・・・」


彼女は一瞬涙ぐんでから、目をこすると、下げていた顔を上げてやる気に満ちた表情をしていた。


「私、頑張りますからっ アスラ様も周りの人を見返してやりましょうね!」



「・・・・・・・・・」



え、あ、何? 聞いてなかった。

俺の親を見返す決意をしたヴィカのメイド服の長い丈のスカートから若干見えた純白ショーツに目を取られていたとは口が裂けても言えない俺だった。



感想お待ちしております。

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