卒業アルバム
「写真に心が乗り移るなんてことあるかなあ?」
「さあ……」
卒業式を間近に控えた高校三年生の春、久しぶりに会った友人に聞いてみた。
「優実はいいよね。進路決まってるし。こういう写真のことにも夢中になれて。私なんか、浪人だよ」
私はデパートに就職することが決まっている。恵子の言うように、とりあえずは安心できる環境にいるから、写真に気を取られていられるのかもしれない。だけど、ずっと探してきた人なのだ。
中学二年生の春、帰り道のごみ捨て場に捨てられていた卒業アルバム。制服がきれいな高校というぐらいにしか思っていなかったのが、このときから憧れの高校となった。文化祭を撮った写真の片隅に写る人。ひと目で心を打たれた。この人に会ってみたくて、入学した。
「写真に写っているのが高一のころで、私達が入学した時点では高三だったんでしょ。だったら、会えたと思うんだけどなあ」
「うん」
彼はどこにもいなかった。一年間、探し続けて見つからなくて、部活の先輩に聞いてもわからなかった。もしかしたら、年数を間違えていて、もう卒業しているのかもしれないとも思ったけれど、やはりはっきりしなかった。
「優実は、この高校に入ってよかった?」
「え、うん……」
恵子が突然聞いてきた。
「私は、まあまあかな。一生懸命になれるものが、あまりなかったしね」
私が大事そうにこの卒業アルバムを抱えているのを見て、恵子が言う。
「女は結婚しちゃえば、みんな同じなのかなあ。だったら、大学なんて行っても、意味がないのかなあ」
「そんなことはないよ……」
「いつか、その彼が見つかるといいね」
結局、彼は見つからなかった。
今も大事に、この卒業アルバムと私達の卒業アルバムが、本棚の片隅に並んでいる。