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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

手・怖い

作者: 妹明

一応『残酷な描写あり』としましたが、本当に微妙だったので、自己判断で読んでください。

 (あー、あれ。ソフトクリームみたいな形してるなあ。喰いてえ)

いつもの放課後、車なんてほとんど通らない車道をゆっくり横断しているときだった。

「危ないっ!!」

女の人の切羽詰まった様子の声。それとほぼ同時に車のブーブーという危険を知らせる音が聞こえた。

ヤバいと思って本能的に防御の形を取り目をつむる。

一瞬後に聞こえた車の急ブレーキの音。恐る恐る目を開けると、そこには、黒いアスファルトも、赤黒い血も見えず、どこも痛みを感じなかった。ただ目の前には、真顔の髪が少し長い女の人の顔があった。

彼女は、近所の僕と同じ学校の女子用制服を身に纏っていた。

「あ、あの……」

「怪我はないのか?」

彼女は顔色を一切変えずに、女の人にしては少し低く聞こえる、でも女の人の声で聞いてきた。

「は、はい! 大丈夫です」

「なら、良かった。これからは気をつけろよ。じゃあな」

特に後ぐされもなくすんなりとその場を去ろうとする彼女に無意識に声をかける。

「あ、あの! 僕は、二年の三間って言います!! 名前と学年は?」

「……東条。三年生だ」

こちらに振り返りもせずに、東条先輩はその場を立ち去ってしまった。


僕はその時、その先輩に一目惚れのような感情を覚えた。


 それからというもの、毎日暇さえあれば、東条先輩に会う日々。

教室に出向いたり、廊下ですれ違ったり。

なんの脈絡もない話をして、別れる。

些細な日常。それが凄く楽しかった。


 だけど時々、先輩はなにか怖い物を見たように全速力で逃げ出す時があった。

そういう時は大体、誰かが腕を組んできた時や、手を振った時とかと決まっていた。

だけど、何で逃げ出すのかは理由が分からなかった。


 ある日、下校する時に東条先輩を見かけた。

思わず嬉しくなって、思い切り手を振って、彼女に近づいた。

「東条先輩ー!」

「あ、三間……。!!」

まただった。手を振ったのに気がついたとたん、殺人鬼でも見たような顔をして、全力で逃げ出そうとする東条先輩。

逃げられるのは不服だったし、なんで逃げるのか理由が聞きたくて、追いかけて先輩の腕をつかんだ。

「待ってくださいよ!!」

「な、なにするんだ!!? 急に……」

「なんで逃げたりするんですか!? そんなに僕のことが嫌いですか?」

「違う!! 嫌いとかじゃ……」

「なら、どうして!!」

「……三間。とにかく、近くの喫茶店とかで話をつけよう。ここで話し合うのはまずい」

先輩の諭すような声で改めて周りを見回すと、大声で僕が喋っていたせいか全員がこちらを見ていた。

「……はい」

周りが見えて初めて自分が愚行を犯したのかと気がつくのであった。



 適当に近場の喫茶店に入って、お茶を頼み、ウェイトレスさんが商品を運んできた辺りで

東条先輩が話し出した。

「あの、笑うなよ」

「? はい」

いつもと違い煮え切らない態度をとる先輩の様子に変な感じを覚えつつ、先輩の次の言葉を待った。

「実はな、私……。手恐怖症なんだ」

「……へ?」

「いや、だから。私、手が怖いんだ」

「……」

つまり、どういうことなんだ? と思い、なにも答えなかった。

リアクションを起こさない僕に対して東条先輩は少し困ったような笑いをし、説明を始めてくれた。

「小さい頃、私は目の前で両親が殺された」

「!」


 東条レン。彼女が四歳の時の出来事だった。


 ある日の深夜、レンは物音で目が覚めた。

「!」

視界の先に見えたのはタンスの物を物色している男の人の姿だった。

「レン……、どうしたの? 寝付けないの?」

横で寝ていた両親が、彼女が起きたことに気づいて、起きあがってしまった。

両親が起きことに男がパニックを起こしてしまった。

とっさに男はレンの両親の首を絞め殺し、その手で、今度は、幼かった彼女に襲いかかる。

だが、間一髪のところで、彼女は僅かに意識を取り戻した母親に助けられたのだ。


 「あぁ…。あああっ!!」

「レン、早く逃げ……」

男がもう一度レンの母親の首を締め直す。

「お母さん……!」

母親の体がぐてっとなり、動かなくなった。そうして、再び男の手がレンに伸びてきた。

「いやぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」


 ティーカップを持つ先輩の手や体が震えていた。

「ついこの前、やっと犯人が捕まったんだ。だから、ずっと……そいつに襲われていた。何度も。何度も」

「……」

「あの夜……、何で起きたりしたんだろうって、未だに後悔してる。そして、あの男の狂気に満ちた目と『手』に対する恐怖心が抜けないの……!!」

「先輩、落ち着いて」

頭を抱えて、小さくなる先輩を落ち着かせたい一心でなだめる。

すると少し落ち着きを取り戻したように、頭を抱えるのを止めた。

「ありがとう……。これを話したのは三間が初めてだよ」

「……どうも」


しばしの沈黙。無意識のうちに勝手に口が動いた。

「大丈夫ですよ。何も心配しなくてもいいです。僕が、先輩の手恐怖症を治してあげます」

「三間?」

「だから、僕とずっと一緒にいてくださいっ!!」

「……三間、お前って」

先輩はそこで言葉を切った。大体何をいおうとしていたか予想は付くが。


「まあ、いいか。三間。本当に守り抜けよ? 私のこと」


「! はい! もちろんっ!!」


『僕にできるのであろうか? そんなことが……』

そんな消極的な考えは、一切なかった。

必ずそうしてみせる。ただそれだけが、頭の中で回り続けていた。


いつか、先輩が『手』を普通に感じられるまで、

僕は……

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