『どの小野だよ』
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一時はどうなることかと思ったが、無事にモンクへジョブチェンジできた。 お気づきの方も多いかもしれないようだが、ソルジャーだった時のステータスは引き継いでいるようだ。
よって、今のステータスはソルジャーLv14の時のまま変わっていない。 同接数によってステータスの変動はあるかもしれないが、攻撃特化の職業や防御特化の職業をバランスよくジョブチェンジしてステータス調整するのが良さそうだ。
心眼スキルを習得し次第、積極的にジョブチェンジしてステータスを調整していこう。
他にも引き継げるのがスキルだ。
スキルには細かく分類すると数種類あるらしく、まず装備している武器を扱うための武器スキル。 ソルジャーの時は剣しか装備してなかったので初級剣術になっていた。
他にも闘技スキル、補助スキル、特殊スキル、強化スキルなどがあり、ジョブチェンジで引き継げるのは補助スキルのみ。
ソルジャーだった時習得した補助スキルは戦術眼だけだった。 このスキルは三割の確率で相手の行動を予測できる。
しかし、戦術眼というスキルは書いてあることは強そうなのだが性能的に、あってもなくても変わらないと言うのがぶっちゃけた話。
モンスターとの戦闘ではゲーム慣れしてれば予備動作さえ見れば攻撃の予測ができるし、敵がものすごく速い攻撃をしてきた時は戦術眼があっても早すぎて対応できない。
せいぜい役に立つのは先日の盗賊との戦いで経験した騙し討ち対策くらいだ。
とはいっても、嬉しい話はここからである。 なんと、心眼スキルは補助スキルなのだ! つまり心眼スキルを習得するLv22にさえなれば、他のジョブにチェンジしても心眼スキルが使えるということ!
ジョブチェンジはあくまで出発点、俺の戦いはこれからだ!
『急にガッツポーズしてるが?』
『もしかして誰かのパンチラでも三鷹?』
『恐ろしく早いパンチラだ、ナイルじゃなきゃ見逃しちゃうね』
「見てねーわ!」
思わず焼けくそ気味にツッコんでしまったが、突然叫んだ俺へサラーマさんたちが好奇の視線を向ける。 またやってしもた。
「なあナイル」
「はいすみません、信者と会話をしておりました」
「ちなみに何を見たんだ?」
「だから何も見てませんってば!」
サラーマさんが半にやけ顔で問いかけた後、ちらりと女性陣の下半身を順番に確認する。 この中にスカートを履いているキャラクターは残念ながら一人もいない。
「ちなみに何色だったんだ?」なんて問いかけをしてきても、そもそもアレの話ではないから肩を竦めるしかないのだ。
そんなゲスっぽい会話をしながら武器屋に到着。 どうやらモンクに装備できる武器は棒らしい。
槍と棒は別物の武器として取り扱われており、実はこのゲーム、打撃攻撃と斬撃攻撃、刺突攻撃の三種類が存在しており、モンスターによって耐性が異なるらしい。
わかりやすく言えばどんなモンスターでも最低限通用するのが打撃。 刺さるやつには刺さるが、相手によっては無効化されることもあるのが刺突。
斬撃はこの二つの中間に位置しており、刺突ほど相性がいい敵はいないが、打撃ほど広範囲に有効な訳では無い感じ。
まあ、初心者なら斬撃系の武器を選ぶのが無難だろう。 打撃系はどうしてもダメージ効率が微妙なため手数重視になるらしい。
『最も優秀なのは斧である』
『どの小野だよ』
『は? 槍に決まってるだろ』
『抜かせ三下、弓ならテク次第ではすべて対応できるんだぞ』
『落ち着けお前ら、このゲームでの最強は魔法だから』
『ウィザードが優勝w』
どうしよう、武器屋にずらりと並んでいた武器を見てワクワクしていたのだが、視界の端に映っているコメント欄のウィンドウで激しい論争が始まってしまった。
すぐに喧嘩はやめてもらいたいのだが、他のお客さんもいるから一人でぶつぶついってたら変な人だと思われてしまう。 とりあえず苦笑いしてごまかしておく。
◁
武器屋で良さげな棒を見つけたので、武器屋に併設されていた訓練場で試しに使ってみた。 他のゲームでも長柄武器は使ったことがあったのですんなり使えたので良しとする。
このお店で最も攻撃力が高かった聖銅の錫杖を購入。 まあ、一応モンクだから錫杖は解釈一致なのだが、これは棒の分類でいいのだろうか?
なんてことを思いながら、推定HP100万超えのカカシを殴り続けていた。 このカカシ、かなり優秀で全属性全攻撃に対しての耐性が10%で固定、さらにはめちゃくちゃやり込んでいた人がダメージチャレンジと称して80万ダメージをぶち込んだが、結果的にぶらんぶらんと揺れただけで破壊できなかったらしい。 しかも攻撃を与えたら一秒後に全回復するという無敵仕様。
実はこのゲームの裏ボスよりも強い説があるカカシくんと別れを告げ、俺達はシーナイの商店街最奥にある噴水広場に集まった。
「ま、ナイルも無事にジョブチェンジできたし、俺達は明日この街を出て行こうとしてるが、ラーザたちはどうすんだ?」
「ふむ、ならば私たちも明日経とう。 お前らは次にどこへ向かうのだ?」
「それはまだ決めてねーからな、おいおい決めていこうとしてる感じだ」
会話の流れ的にラーザさんたちは今後も同行するようだ。 おそらくラーザさんはどこまでも偶然を装ってついてくるだろう。
それはされおき、一応この街での目的は達成したため、これからの時間は自由行動になった。
宿は昨日の夜この街に到着したばかりの際に使用した宿があるため、おそらく各々の私用が済んだらそこに集合して次の目的地を決める流れになるだろう。
さて、自由時間とは言っても俺はこれと言って欲しいものはない。
まあ、このゲームの仕組みをまだ理解してないからなのか? そもそも今生きているここをゲームと称していいのだろうか?
メメジェットさんはもじもじしながらラーザさんを食べ歩きに誘っているし、いつの間にかサラーマさんはふらっとどっか行っちゃうし、出だしで置いてけぼりにされた俺はぽつんと一人で噴水広場に放置されてしまった。
はてさてどこへ行こうか? まあなんにせよ特に必要なものはないのだ。
だからといって他のみんなもそれぞれで必要なアイテムを集めるために雑貨屋や防具屋、装飾品店に魔導具屋などを回るらしい。
確かにどんなアイテムがあるのか気にはなる、気にはなるのだが……
「ふっふっふ、俺はなんのためにモンクへジョブチェンしたと思っている?」
居ても立っても居られないのが男というものだ。
『やっぱりなw』
『賢いとは思うが……』
『オススメはパラディンのジョブチェンダンジョンですよ!』
そう、俺は今、またしてもシーナイ中央に建設されていた修道院の長い長い階段の下に立っている。 強者に挑むがごとく仁王立ちだ!
「新しく買った棒の使い心地も調べたい。 そしてモンクでの立ち回りを勉強したい! ならば、目的地はここ以外に無いでしょう!」
ここに来る前にラーザさんから聞いていた。 このジョブチェンクエストは単純にジョブチェンジを目的にしている人は少なく、その多くは修行のために訪れているのだと!
おあつらえむきじゃあないか。 Lv22になれば心眼スキルを習得できる、さらにパーティーメンバーが少ないほうが経験値効率もいいと来た。
これは視聴者に教えてもらったのだが、戦闘中は貢献度というものが存在しており、とどめを刺したキャラが確定で経験値の半分、後は与えたダメージ量や味方へのバフ貢献度、回復の補助やヘイトの収集などによって貢献度を稼げるらしい。
この貢献度は正確に明記されているわけではなくて、相当暇だったであろうガチ攻略勢が汗水たらしてデータを収集したらしい。
まあ、覚えれば賢くレベルアップできるのだが、面倒だからレベリングは一人で、もしくは少数精鋭で行うのが最高効率だという結論に落ち着いてしまうため、あまり意味がなかったんだとか……
ちなみに集計した本人たちにこれを言うと血涙を流されるらしいから、こういう考えは頭の中だけにとどめておく。
「てなわけで、目標は今日中にLv22目指すんでこれからは、耐久配信的な感じになります!」
『お前の場合、死ぬまで耐久配信だろw』
『人生をかけた耐久配信は精神が摩耗しそうだなw』
『こいつはちゃっかり寝ているから耐久配信とは呼べない』
『死ぬまで配信してるナイルは耐久配信できない、なのに耐久配信だと?』
『これはまさか……ヘリポリに生じた概念の歪み!』
『お前ら何なの?』
確かに、俺は普通に寝てるし戦ってる時くらいしか配信モードに入っていないから気がつかなかったが、傍から見れば死ぬまで耐久配信という過酷な状況下にいると勘違いされてもおかしくない。
しかしまあ、俺は楽しくやりたいようにやっているだけだから、本気で頑張っている方々に面目が立たないので気軽に耐久配信とか言うべきではなかったのかもしれない。
「じゃあ耐久配信というのは撤回! なににしようかな……あ、RTAなんてどう?」
にんまりと化け狐のように口角を上げてしまう俺。
『うわw』
『ダンジョンに入ったらタイマースタート?』
『それとも階段の一歩目からか?』
Real Time Attack通称RTA。 これは本来ゲームを起動と同時にタイマーを開始し、ローディング時間やメニュー画面の時間すらも計算に入れてゲームクリアまでの最短を目指すという競技だ。
しかし、今の俺の状況ではゲームスタートから計測するなんてことはできない。 なので、
「今回は、ダンジョンを周回するので、入口から入ったと同時にスタート、転移陣で戻るまでの時間を計測します!」
そんなわけで、ノリで始まったRTAダンジョン攻略だが、これのせいで波乱が巻き起こってしまうだなんて思っても見なかった。




