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『ここは一番の鬼門』

 ◁

 ジョブチェンクエストは順調に進んでいき、俺たちは現在二層目まで到達した。 無論討伐数は俺の方が優っている。


 一層目に出てきたモンスターは三種類で、ポイズンリザード、マッドルーパー、レッドキャップの三体。


 ポイズンリザードの説明はいらないだろう、牙と爪に毒を持った巨大なトカゲだ。 毒状態だとHPが時間経過と共に削られる上にこのモンスターは攻撃力が高め、最優先で攻撃を回避する必要がある。


 マッドルーパーは泥を吐いたりかけたりしててくるばっちい大型山椒魚。 泥を喰らうと暗闇状態になって視界がさえぎられる。


 視界が遮られると立ち回りが難しくなるためできるだけ避けたい。 というか泥をかけられるのは生理的に無理。


 レッドキャップは裂傷効果を与えてくるモンスターで、血色の外套を纏った小柄な人型モンスター。 包丁を武器にしているのだが、これで切りつけられると裂傷状態という状態異常を付与される。


 裂傷効果は毒と同じくHP減少させられるのだが、毒と違うのは自分が動いた場合にHPが減るというところだ。 つまり裂傷効果になったら動かずじっとしていればHPは減らない。


 レッドキャップは知らない人も多いだろう、モンスターとしては珍しい分類だ。


 真っ赤な瞳を光らせ、全身にボロボロの包帯を巻いた小人だ。 血だらけの包丁を持っているので夜中に会ったらホラーかもしれない。


 三体とも状態異常攻撃を持っているという事以外は特に面倒な性能はなかった。 強いて言うならレッドキャップがすばしっこくて少々厄介だったことくらい。


 だが、二層目に出てくるモンスターを見た瞬間、運営に苦情を言いたい気持ちで満たされた。


「っざけんなよめんどくせーな」

 

 『ナイル氏落ち着くんだ』

 『ここは一番の鬼門』

 『所見だとそうなるよね』

 

 俺達の前に立ちふさがったモンスターは二種類。 ソナーバットとパライズビー。 簡単に言うとコウモリと蜂だ。


 ソナーバットは超音波攻撃で混乱を、パライズビーは尾についてる針で麻痺効果を与えてくる。


 超音波は半透明な円が放射状に飛んでくるし、針だって注意していれば避けられる。


 攻撃を避けていれば問題はない、問題はないのだが……


「おのれ卑怯者め! 降りてこんかぁぁぁ!」


「ねえ、もう撃っていいかにゃ?」


「貴様! 私と黒湖ナイルの真剣勝負に水を指すつもりか! そうはさせんぞ! 貴様が一匹でもやつらをしとめたら、この戦いはなかったことにしてやる! もう一度最初から攻略することになるのが嫌なら絶対に手を出すな!」


「だってさナイルくん、どうするにゃ? この人ちょーめんどいにゃ」


 とうとう本音が漏れてしまっているサナさんだったが、ラーザさんは空飛ぶ魔物に罵詈雑言を浴びせるのに忙しく、聞いていなかった。


 そう、相手はコウモリと蜂だ。 つまり飛行系モンスター。


 俺もラーザさんも武器は片手剣。 天井のあたりを飛びながら遠距離攻撃をしてくるあのモンスターたちには攻撃が当たらないのだ。


 よって弓を装備しているサナさんしか対応することができない。 なのにラーザさんは断固としてサナさんに手を出すなの一点張り。


 サナさんはもはや予想通りだと言わんばかりに無の表情で立ち尽くす。


「もう、ここらへんはダッシュで駆け抜けて三層目行きましょうか?」


「ふはは! 行きたければ行くがいい! だが私は残るぞ! そして一体でも多くしとめ、貴様との差を大量につけてやる! おいサラーマ、貴様も残るのだからな! 承認になってもらう!」


「とばっちりかよ、まあどうせ暇だからいいけどよ」


 肩を窄めるサラーマさん。 やる気は皆無で斧すら構えていない。


 どうやらラーザさんが討伐したモンスターはサラーマさんがカウントし、俺が倒したモンスターはサナさんがカウントしてくれるらしい。


 やつらは空を飛んでいるからと言って全く降りてこないわけではない。 ソナーバットは噛みつき攻撃をしてくるし、パライズビーも針を飛ばさず突進してくることもある。


 だが、直接接近してくる系の攻撃が来るまで待たないといけないのだ。 それがどれだけストレスな事か……


 格闘し続けること数分。


「ようやくすべて討伐したな!」


 額の汗を爽やかに拭いながらホッと息をつくラーザさん。 なお、ここで言っているすべてとは、大量にある大部屋のうち一つの部屋を指している。


 つまりいま終わったのは二層目の中のたった一部屋だ。 前述した通りこのダンジョンは大部屋がいくつもあり、大部屋と大部屋を細い回廊が繋いでいる。


 一層目は大部屋が体感で八つあった。 おそらくそれは二層目も同じだろう。


 そう考えると、さきほどの部屋でかかった時間が約十分。 これが八回だから二層目攻略に一時間二十分以上はかかる計算だ。


 ゲーマーのみなさんならお気づきだろう。 一つのダンジョン、しかもここはただのジョブチェンダンジョンでストーリーに関係なし。


 そんなダンジョンに一時間もかけてられない。 もしここでレベルアップのための周回をいられた場合、地獄絵図である。


「ねえねえナイルくん、このままだと三層目に行く頃には日が暮れちゃうにゃ」


「わかっていますともサナさん。 ちなみに、ソルジャーって弓使ったらどうなります?」


「うーん、ソルジャーは片手剣か素手。 珍しい人だと槍とかかにゃ? 弓使ってるソルジャーは聞いたことないにゃ」


 回廊を進みながら思考を巡らせる。 槍なら届くかもしれないが、わざわざラーザさんとの競い合いのために今からダンジョンリタイアして商店街に戻り、槍を購入して戻るというのは非常に面倒だ。


 だからといってサナさんから弓を借りて攻撃し始めれば、絶対ラーザさんがうるさい。 


 そもそも、ソルジャーの俺は弓を装備できるのだろうか? そんなことを思ってちょっと実験してみる。


「ちょっとサナさん、その弓もたせてもらっていいですか?」


「いいけど、面倒な予感しかしないにゃ」


 先頭を機嫌悪そうな足取りで歩いているラーザさんの様子をうかがいながら、嫌そうな表情で弓を渡してくるサナさん。


 俺は真顔で弓を受け取り、ちょっと構えて空打ちしてみる。


 すると、俺の行動を見て顔を真っ青にするサナさん。


「ちょっとナイルくん! 何してるにゃ! 空打ちは危ないからしちゃだめにゃ!」


「え? いや、ちょっと弓を使えるか試してみたかっただけなんですけど?」


「空打ちは弓もだめにするし、怪我しちゃうにゃ! もう、弓の使い方を知らないナイルくんなんかに貸したあたしが馬鹿だったにゃ!」


 サナさんはめちゃめちゃ怒りながら俺から弓をぶん取ってきた。

 

 『サナちゃんのこういう真面目なところがすこ』

 『いやいや、普通に空打ちはギルティー』

 『弓道部が見たら悲鳴をあげるぞw』

 

 視聴者の皆さんから厳しいダメ出しが飛んできてしまった。 弓の空打ちはタブー行為だったらしく、経験者の皆様は空打ちの危険性を長々とコメントに書いてくれていた。 長すぎて読めなかったが……


 それだけでもメンタルがやられてしょんぼりしてしまうのに、サナさんからも悪人扱いされてしまったら泣きそうになってしまう。


 なんだろう、ものすごい罪悪感にかられてしまった。 しかもサナさんが騒いでしまったせいでラーザさんが振り向いていた。 俺が弓を使おうとしていたのをバッチリと目視したラーザさんは、口をわなわなさせながら俺をバッチリ指さしてきた。


「貴様! 弓を使って優位に立つつもりか! ソルジャーとしての誇りはないのか! 神聖な勝負でずるっ子するのはダメなんだぞ!」


「そうですよ黒湖さん! あなたははずかしくないんですか! ラーザ様は真剣勝負をしているのですからね! 弓なんて使ったら地下室に閉じ込めて溺死させますからね!」


「ああはいはい、使いませんよ弓なんて。 ていうか俺弓使ったことないから勝手がわからないしぃ〜」


 空打ちのことを怒られた次は卑怯者扱いか、ラーザさんはセリフと行動がもはやガキ大将にしか見えないし、メメジェットさんに関してはもうラーザさんのとりまきだ。


 こうなったら片手剣を使ってこの面倒な状況を打破するしかないだろう。


 仕方がない、さっきの戦いの途中で何となくいけそうかもしれないと思った作戦をやってみるしかないだろう。


 俺は肩をぐるぐる回しながら女子たちからの叱咤を聞き流し、念の為持ってきていた初期装備の【傭兵の片手剣】を装備した。


 最後尾を歩いていたサラーマさんは俺の行動を見て不思議そうに首をひねる。


「ナイル? おまえなんでそんな武器装備してんだ?」


「今にわかりますよ?」


 サラーマさんは興味深そうな顔で質問を重ねようとしていたが、次の大部屋が目前に迫っていた事に気がつくと、「まあいいか」とつぶやいて歩みを進めた。


 さて、俺の新戦法を見たラーザさんの反応が気になるが、卑怯だとは言えないはずだ。

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