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『殴るパラディンが爆誕しとるw』

 ◁

 本来、パラディンは防御特化のタンクであり、攻撃を得意としないが味方の回復や自信へ相手の攻撃を集中させる【挑発】と言うスキルを使用することができる。


 攻撃型の耐久系職業であるウォーリアーと違ってパラディンは堅守型の耐久系職業なのだ。 だと言うのに、なんなんだこの光景は。


「ハッハッハッハッハッハ! やるではないか黒湖ナイル! だが残念だったな、私は今ので四体目だ!」


「なんで対抗してるんですか! っていうか、挑発でサンドウルフを集めて下さいよ! バラバラで戦ってたら敵が分散して効率悪いでしょ!」


 そう、耐久型タンクであり、攻撃を得意としないはずのパラディンが、飛び掛かってくるサンドウルフをバッタバッタと薙ぎ倒している。


 おかげさまで仲間をやられてお怒りのサンドウルフは次々と仲間を呼んでしまっており、十数体のサンドウルフを相手するハメになってしまった。


「それにしても妙だ。 貴様のレベルは確か、まだ八のはずだ! なぜ貴様よりもレベルが高いサンドウルフを紙切れ同然に討伐できるのだ?」


「だから、それが俺のスキル効果なんですってば!」

 

  黒湖ナイル

 職業:ソルジャー ・Lv.8

 体力:67

 魔力:24(+126)

 攻撃力:28(+126)

 防御力:26(+126)

 素早さ:25(+126)

 幸運:28(+126)

 

 戦闘スキル

 ・初級剣術

 ・クイックスラッシュ

 ・戦術眼

 

 固有スキル

 ・信者の助言

 ・信者の声援

 

 現在の同接数は一万を超えているため俺のステータスはラーザさんに見劣りしない数字になっている。 俺たちを囲んでいるサンドウルフのレベルは十一〜十三。


 格上相手だがこのステータスなら屁でもない。 とは言ったものの、数が多いせいで厄介なのが悩みどころだ。

 

 『殴るパラディンが爆誕しとるw』

 『あれが推しへの狂愛w』

 『もはや凶戦士化しとるやんw』

 

 コメント欄は、相手をバッタバッタと薙ぎ倒すラーザさんの新鮮な光景を目にしてお祭り騒ぎだ。 しかし、先ほども言ったがいい加減挑発スキルを使ってほしい。


 サンドウルフは戦ってる最中に仲間を呼ぶらしく、一気にまとめて倒さないと戦闘がかなり長引くのだとか。


 ならばラーザさんが一箇所に集めてそれをしばき倒した方が明らかに効率がいい。


 だと言うのに、ラーザさんは今までパラディンとしてずっと敵の攻撃を耐え続けていた反動なのか、敵を薙ぎ倒す感覚が楽しくてたまらないらしい。 狂気の笑みを浮かべながら次々襲ってくるサンドウルフを盾で殴り、剣でぶった斬り、盾で叩き潰し、剣で串刺しにしてとものすごく楽しそうだ。


 そしてそんな惨殺劇を、恍惚(こうこつ)とした目つきで見惚(みほ)れながら、祈るように両手を組み合わせ続けているメメジェットさん。 あいつもあいつで大概である。


「おーいナイルー。 まだかかんのかー?」


「ナイルくん、遊んでないでパパッと倒して欲しいにゃ!」


 サラーマさんは頬杖をつきながらあくびをしている。 サナさんに関しては街で買ったであろう魚の串焼き(多分サナさんにとってはお菓子)を(ついば)みながら野次を飛ばしてくる。


 呑気に高みの見物としゃれ込んでいるようだ。


「そんな文句言うなら手伝って下さいよ!」


 俺はムキになって騒ぎながらサラーマさんに叫びかけた。 同時に背後から襲ってきたサンドウルフをノールックで両断。

 

 『すげーw 背面スラッシュだw』

 『こいつ、背中に目でもついてんのか!』

 『バトル系アニメでよく聞くセリフやw』

 

「あいつすげーな。 背中に目でもついてんのか?」


「さすがナイルくんだにゃ! 華麗な背面斬りだにゃ!」


「ハッハッハッハッハッハ! やるではないか黒湖ナイル! だが私にもそのくらいできるわ! アーハッハッハッハッハッハ!」


 サラーマさんとサナさんのセリフがコメント欄と共鳴していたのはさておき、相変わらず楽しそうな顔で背中から襲ってくるサンドウルフをぎこちなく切り伏せるラーザさん。


 あの人多分あれだ、負けず嫌いなツンデレだ。

 

 ◁

 おかげさまで討伐にかなりの時間を要した。 俺は地面に足を投げ出し、肩で息をしながら水を飲む。


 スマートフォンの画面を見てみると、俺のレベルは十まで上がっていた。 どうやらサンドウルフの仲間呼びをうまく応用すれば経験値の効率がいいのかもしれない。


 いや、こんなに疲れたのにレベルが二しか上がってないから効率が逆に悪いのか?


 そんなどうでもいいことを考えていたら、俺のそばまで真っ白な影が近づいてくるのが視界の端に見えた。 もしかしなくてもメメジェットさんだ。


「あなた、このスキル何? 意味がわからないんだけど」


「ああ、俺ゲーム実況者なんですけど、なんか知りませんが生配信中に転生したら配信切れなくなっちゃいまして」


「どう言うこと?」


「つまり俺が見えている光景は全世界に生中継してて、視聴者が多ければ多いほど全ステータスがアップするし、視聴者たちのコメントもリアルタイムで確認できるんです」


「……ってことは私の姿も全世界に晒されてるってこと?」


「まぁ、そうなりますね」


 沈黙。


「それで信者の声援……なるほどね。 まあ丁度いいわ。 私は一応無事だってこと、家族に伝えといてくれないかしら?」


「あ、多分今ので伝わったんじゃないっすかね?」


「あっそ。 なんだか、実感湧かないわね」


「まあ気にしすぎてもしょうがないですからね」


 俺は苦笑いしながら立ち上がると、サラーマさんに休憩はもういいのかと呼びかけられたので、すぐに親指を立てて返事をする。


 俺たちが馬車の中に戻ると、腕を組んでどっしりと座っていたラーザさんが目についた。 なぜか清々しげな表情をしている。


「ふっ。 新入りの割に、この私といい勝負ができるとはな」


「あ、はいどーも。 あなたが挑発スキル使ってくれてたらもっと早く討伐が終わったんですがね」


「そんなことをしてしまったら、味気ないではないか」


「雑魚相手の戦闘に旨味を求めないでくれます?」


「ほほう、レベル八の新入りがサンドウルフを雑魚呼ばわりか! 結構結構、気に入ったぞ黒湖ナイル!」


「もうレベル十ですけどね」と、一言余計に返事をすると、ラーザさんはさぞ愉快そうに大笑いし始めた。


 ひとしきり笑った後、ラーザさんはキリッとした目つきを俺に向けながら、


「だが残念だったな。 私の討伐数は七。 貴様は五だ! つまり、私の方がたくさん討伐している」


 なんだそのドヤ顔は! つーか、新入り相手に何ムキになってんだ! なんてことは言えず。


 俺は顔を引き攣らせながら「さすがっす」と答えると、またしてもラーザさんは機嫌良さそうに大笑いし始めた。


 なんだかこの人、ポンコツ臭がする。

 

 『さすがラーザ様だw』

 『相変わらずお茶目で助かる』

 『いやー、ここまでずっと視聴していた甲斐があったってもんだ』

 

「そんなことより、貴様らは今からシーナイに向かうのだろう? 何故あの街に向かう? まさか、シーナイの近くにシリス様の体の一部があるのか?」


「いや、それは知りませんけど、ジョブチェンジしたくてですね」


「ジョブチェンジ? なぜだ?」


「モンクという職業に、魅力を感じまして……」


 腕を組みながら目を丸くするラーザさん。 隣にしれっと座っていたメメジェットさんはわずかに眉根を寄せているような雰囲気だ。 布被ってるせいで表情はわからんが。


「貴様はこの私が認めた男だ。 今のままでも十分に強いと思うのだが、なぜわざわざジョブチェンジを?」


「あー、それはですねー、なんと言いますか。 ほら、モンクって状態異常耐性も高いし、自己強化で一人でも戦えるじゃないですか」


 視聴者さんたちから教えてもらった知恵をひけらかし、それらしい理由を並べようとしていたのだが、


「貴様は一人で旅をするつもりなのか? なるほどわかったぞ、サラーマに不満があるのだな? ならば安心しろ、私がお前をパーティーに加えてやろうじゃないか!」


 ガタガタと小刻みに馬車が揺れる中、小声で耳打ちをするように告げてくるラーザさん。 しかし馬車の外からは「聞こえてんぞ!」というサラーマさんの声が響いてきた。


 思わず苦笑いしてしまう。


「いやいや、そういうわけではなくてですね。 ただその、心眼スキルとか、覚えると便利なスキルが多いじゃないですか! あれがあれば目を瞑ってても移動できますからね!」


「確かにあれは便利だが、心眼スキルを使うのは暗闇の中か相手に目を潰された時くらいだぞ?」


 不思議そうにちょこんと首を傾げるラーザさんの隣で、メメジェットさんは何かを察したように「あ〜、そういうことか」などと独り言を呟いた。


 そんな独り言が聞こえてしまったのだろう。 ラーザさんがメメジェットさんに「何か分かったのかメメジェット!」と言いながらずずいと体を寄せ、突然迫られたメメジェットさんは目をハートマークにしながらしどろもどろしている。


 騒がしい馬車の中で、俺は窓の外をぼんやり眺めながら決意を改めた。


「俺は心眼スキルさえ手に入れば、あとはなんでもいいのだ!」

 

 『異常聴覚の間違いだろw』

 『悪即斬されるぞw』

 『モンクは棒しか装備できないのが残念』

 

 コメント欄を見て思わず吹き出してしまい、「貴様、今私を笑っただろう!」などと言いながらぷんすかするラーザさんを、めんどくせえ女だな……なんて思ってしまったのはここだけの話である。

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