『どんなバフかかってんだ?』
◁
サラーマさんが手続きしてくれた馬車に向かい合って座る。 サナさんは外を歩いて周囲の警戒、サラーマさんは率先して御者を引き受けてくれた。
なぜサラーマさんに御者をさせているのか、後輩の俺が引き受けるべきではないのか?
と、言いたい気持ちはわかるが、理由は単純明快。 俺は馬車を操作したことなどないからだ。
「おい貴様、単刀直入に聞くぞ? 貴様はなんの宗教を広めている」
「はい? 宗教? え? 突然なんですか?」
……はっきり言って質問の意味がわからない。
「惚けても無駄だ。 私の鼻を騙せるだなどと考えない事だな」
意味不明な根拠を元に、謎の質問を投げかけてくるラーザさん。 相変わらずお隣のシーツさんからはおじゃま虫扱いされてることが視線で筒抜けだし、この馬車の中は非常に居心地が悪い。
ラーザさんの質問に対して視線を泳がせていると、視聴者さんたちからの助け舟が飛んでくる。
『なるほどラーザ様の固有スキルか』
『看破だっけ?』
『所持スキルがバレるあれか、優秀だから終盤までお世話になったな』
なんという事でしょう。 所持スキルがバレるというチートな固有スキルをお持ちのラーザさん。
つまりあれか? 俺の固有スキル、信者の助言と信者の声援がバレて、俺はどっかの教祖か何かと勘違いされているのだろうか。
「貴様が信仰する神はどこの神だ。 太陽の創造神様か、鍛冶神様か? それとも月の創造神様? いや、まさか最近になって発展した新宗教?」
「ちょっと待って下さい自分の世界に入り込まないで」
「貴様もしや! 四大勢力と敵対し、新たな神を信仰する余所者か!」
「だからちょっと待って下さいってば!」
どうにもラーザさんは自分の世界に入り込んでしまう性格らしい。 勝手に神がなんだと言われても意味がわからない。
そもそも、俺は宗教になんて詳しくない。
「このスキルはですね、別の世界の人たちの声が聞こえるっていう特殊なスキルでして……」
「別世界の神を侵攻しているのか! 貴様! 太陽神様から天罰が下るぞ!」
「だから……マジなんなんすかこいつ、話通じねー」
『ラーザ様にこいつとか言うな』
『早速生意気発言ありがとうございます』
『俺は新世界の神になる』
「いや、真っ黒なノート発見したんか? ……ってヤベェ!」
俺は慌てて口を閉じた。 ついついコメント欄にツッコミを入れてしまい、ラーザさんから訝しんだような視線を向けられる。
「貴様、今誰と会話をしていた?」
「ですからその、別世界の人たちとですね……」
「《《背神者》》め! 今ここで成敗してくれる!」
「《《配信者》》だけにね……ってたんまたんま! サラーマさん助けて下さい! この犬耳お姉さん話が全く通じません!」
俺が涙ぐんだ叫び声を上げたのだが、御者をしていたサラーマさんは機嫌良さそうに口笛を吹いている。 あの人、聞こえないふりがうまいな。
狭い馬車の中で腰に刺していた両刃の剣を抜くラーザさん。 青ざめながら両手をばたつかせる俺。
緊迫した状態で睨み合っていると、ラーザさんの隣に座っていたシーツさんが大きなため息をついた。
「ラーザ様、一度落ち着いて下さい」
声質からして女性なのだろうか? 可愛らしい声から想像するに年齢は現実世界の俺より下、と言いたいところだが……それは俺の魂の話。
今は黒湖ナイルの体になっているため十四歳の設定だった。
黒湖ナイルと同年代だろうか?
シーツさんの声を聞き、ラーザさんは口を窄めながら剣を収める。
「メメジェット。 その口ぶりだとこの男の正体に心当たりがあるのか?」
「ええ、おそらくこの者は宗教などとは無縁の存在でしょう。 あなた様の高貴な剣を行使する必要はないかと思われます」
シーツさんはメメジェットと言う名前らしい。 二人の会話を聞いていて判明した。
座り直してくれたラーザさんを横目にホッと胸を撫で下ろしながらコメント欄を確認。 名前がわかったところで何者なのかを確認しようと目を凝らすが……
『え? 誰?』
『隠しキャラ?』
『俺このゲームめっちゃやってたけど、メメジェットなんて知らん』
コメント欄も困惑している様子、このゲームをやり尽くしていた人すら知らない人物。 おそらくモブキャラか何かだったのだろうか?
いやいや、モブだったとしてもこんなパンチの強い見た目の人忘れるか?
俺は固唾を飲んでメメジェットさんの次の言葉を待っていると、メメジェットさんはさぞ面倒くさそうな視線を俺に向けながら……
「でませい!」と一言。
ラーザさんの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいたが、俺はこの一言で全てを察してしまった。 俺と同じく勘の鋭い視聴者さんたちも察してしまったようで、
『え? こんな早く転移者見つかるか』
『なんでアサシンじゃなくてプリーストなんだよw』
『でませいでませい!』
目を見開きながら絶句してしまう俺。
「ちょ、え? まさか……」
「余計なことを口走れば、地下室に閉じ込めて溺死させますよ?」
「あ、はいすみません」
顔を青ざめさせながら口をつぐむ俺。 ラーザさんは俺たちの会話の意味がわからないようで、仲間はずれにされてさぞご立腹なのだろう。
ぷっくりと頬を膨らませながら
「貴様らは知り合いなのか?」
「初めてお会いしましたが、どうやら同郷のようです。 彼の固有スキルは私の固有スキルに似たような強力なスキルだと推測します」
「そうか、貴様もこの国の者ではなかったか」
ラーザさんはメメジェットさんの一言で納得したのか、俺への警戒を解いてくれた。 緊張の糸がようやく解れ、ようやく愉快な旅に入れるかと思った矢先。
「あー、モンスターが近づいてくるにゃ、ちょっとナイルくん行ってきてくれないかにゃ?」
馬車の外を警戒していたサナさんが、ひょっこり馬車の窓から顔を覗かせてくる。
「ゴブリンか?」
「違うにゃ、サンドウルフにゃ」
『そのセリフを言うならもっと低音ボイスでどうぞ』
『装備から見直せw』
『貴様の鉄の剣は洞窟内で振るには長すぎる』
とまあノリのいい視聴者さんたちのコメントに含み笑いを漏らしながら、俺は馬車の外へと足を向けた。
すると怖いもの見たさだろうか、ラーザさんも共に馬車の外に出てきた。
「助太刀してやろう。 新入りがサンドウルフの相手をするには少々骨が折れるだろう?」
得意げな表情でそんなことを言いながら、馬車から出て準備体操をしていた俺に声をかけてくるラーザさん。
だが馬を止めたサラーマさんが呆れたような声で
「そいつをそこらへんの新入りだなんて思わねえ方がいいぞ?」
と余計な口添えをしてきてしまう。 だがラーザさんはなぜか鼻を鳴らしながら腰に刺していた剣を抜き、背中に背負っていた盾を構えながら口角を上げる。
「ならばなおさらだ。 サラーマ、お前も私を以前の実力で測らん方がいい。 なぜなら今の私はそこらへんの傭兵よりもはるかに強いからな」
何がなおさらなのだろうか? 俺は首を傾げながらも背中に背負っていた鉄の剣を抜いた。 ポケットに突っ込んでいたスマートフォンがぶるぶる震え、ポケットから画面を半分出しながら通知内容を確認。
【ラーザがパーティーに加わった】
【メメジェットがパーティーに加わった】
ラーザさんだけじゃなくメメジェットさんも戦ってくれるのか、そんなふうに思いながらいまだに馬車に乗っていたメメジェットさんを肩越しに見てみると、
「あれ? 何もしてない?」
メメジェットさんはシーツの下で両手を組み合わせているだけで、戦闘に参加するようには見えなかった。 なんだかなにかに祈っているようにも見える、シーツのせいでなんとなくしかわからないが……
俺は周囲を確認し、まだサンドウルフが姿を現していないことを確認してからスマートフォンを取り出す。
スマートフォンのパーティー編成を確認すれば、ラーザさんとメメジェットさんのステータスを確認できるからだ。
ラーザ アヌビス族
職業:パラディン ・Lv.27
体力:(112)——201
魔力:(75)——135
攻撃力:(64)——115
防御力:(80)——144
素早さ:(69)——124
幸運:(82)——147
戦闘スキル
・初級盾術
・シールドアタック
・挑発
・堅牢
・中級盾術
・リジェネ
・聖なる加護
固有スキル
・性能看破
……はい? 思わず二度見する俺。
これは()の方が本来の数値で、三桁になってる方が現在の数値だろうか。 おそらくなんらかのスキル効果で全ステータスにバフがかかっている。
一体なんのスキルだろうか? 怪しいのは聖なる加護なのだが、これはコメント欄を見れば見当違いということが分かった。
『なんじゃあのステータスw』
『どんなバフかかってんだ?』
『装備見たかぎり怪しいのはないぞ?』
となると、怪しいのは背後で祈るように手を合わせているメメジェットさんだ。
俺はすぐに画面をメメジェットさんに切り替える。
メメジェット
職業:プリースト ・Lv.8
体力:64
魔力:28
攻撃力:23
防御力:22
素早さ:28
幸運:30
戦闘スキル
・初級杖術
・ヒール
・クリア
固有スキル
・推しへの狂愛
「これだぁぁぁぁぁ!」
化け物ステータスの原因が判明して思わず大声を上げてしまい、周りのみんなが思わずびくりと肩を跳ねさせていた。
『なんじゃこのスキルw』
『上昇値は80%と見たw』
『メジェド様強えw』
おそらくメメジェットさんの固有スキルは好きなキャラクターへ徹底したバフ。 これを目にしただけでラーザさんへの愛が痛いほど伝わってくる。
メメジェットさんの能力が判明したところでふと周囲に視線を彷徨わせると、俺の叫びはモンスターまで驚かせてしまったのだろうか?
街道の真ん中で立ち尽くしていた俺たちに、岩陰に潜んでいたサンドウルフたちが同時に飛びかかってきたのを確認した。




