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『あんな変なプリースト知らん』

 ◁

 ジョブチェンクエストを受けるために、俺たちはファイヤームの街を後にすることになった。 目的地はシーナイという街で、大きな修道院があるらしい。


 そこでジョブチェンジの申請を出して、修道院に隣接している特殊ダンジョンに潜ればジョブチェンジできるとか。


 シーナイの街に行く前に旅の支度を整えて馬車を依頼する。 馬車で移動中も魔物に襲われる事があるから事前準備は大切なのだ。


 ファイヤームの街で回復アイテムのおにぎりやら魔力補充剤の原初の雫を購入するために商店街を歩いていると、最後尾を歩いていたサラーマさんが大きなため息をついた。


「サラーマさん、ずいぶんお疲れですね?」


「ああいやな、今朝団長に呼ばれたからアジトに向かったんだが、団長室にハレンドスさんもいてな……」


 歩きながらサラーマさんの愚痴を聞いていて分かったが、サラーマさんは朝っぱらからシリスの右手を入手したことをベタ褒めされていたらしい。


 ハレンドスさんと団長の二人から「さすがはサラーマだ!」「こんな優秀な御仁がいたとは、ファイヤーム傭兵団に捜索依頼を出して本当によかった!」などと言われ、かなり大袈裟に誉められたんだとか。


 その話だけを聞いた時は「お手柄じゃないですか、なんでそんな疲れた顔してるんです?」なんてことを問いかけてしまった。 するとサラーマさんは鬼面を浮かべながら俺にずずいと顔を寄せ。


「お前が見つけたダンジョンなのに、なんで俺が誉められてるんだよ! 本当なら誉められるのはお前のはずだろ! 手柄横取りしちまったみたいで後味悪いだろ!」


 なんて正義感に溢れた回答をしてきたものだから、俺は苦笑いしながら後ずさってしまう。 しかしサラーマさんはここぞとばかりに距離を詰めつつ、


「そもそもな、どうやってこんなに早く見つけたかとか、何かコツがあるのかとか聞かれても、お前にスキルのことは内緒にするよう頼まれてんだから……なんて答えりゃいいかわかんないだろうが!」


 唾を飛ばしながら怒鳴りかけてくるサラーマさん。 かなりご立腹なようだ。


 それもそのはず、俺はサラーマさんに自分の能力のことは内密にお願いするよう頼んだ。 そのせいでお偉いさんたちからの質疑応答に対応できず、必死に話題を変えようと試行錯誤していたようだ。


「あれはたまたまですよー」とか「運が良かっただけでー」とかうまく誤魔化していたらしいのだが、俺たちがこんなにも早くシリスの体を発見したことを団長たちは大変喜んでいるようで、二人ともご機嫌すぎてペラペラとマシンガンのように口が回っていたらしい。


 心中お察しします。

 

 『本当はサラーマさんがあのダンジョン見つけるのにねー』

 『ナイルくんがサラーマさんの手柄奪ったからw』

 『ちゃんと反省しろよw』

 

 視聴者さんたちからも野次が飛んでしまった。 サラーマさんには頭が上がりません。


 しかしサラーマさんが苦労話を積み上げている間にサナさんがしれっと買い物を済ませていたようで、ようやく街から外に出る事ができるようになった。


 サナさんはいつの間にこの場を抜け出していたのだろうか? っていうか、おそらく俺が起きてくるまで永遠にこの愚痴に付き合わされていて、危機を察知してしれっと逃げたのでは?


 なんて探りを入れようとしてサナさんにジト目を向けた瞬間。


「止まれ!」


 背後から凛々しい声が響いてきた。


 驚いて俺たちは同時に振り返ると、そこに立っていたのは少し変わった見た目の二人組。


 犬耳をピンと立て、夜闇色の髪の毛を腰の辺りまでサラリと伸ばし、紺色の軍服を纏った凛とした女性。


 その隣には小柄の、人らしき物体。 なんだか知らんが頭からシーツのような白い布をかぶっていて、見えているのはシーツに開いた二つの穴から覗くすみれ色の瞳と足元のみ。 よく見るとかぶっている布はただのシーツではなく、布端に金の装飾がぐるりと一周している高級そうな布。 でも面倒だからシーツと呼称する。


 幽霊とかのアンデットなのだろうか、それとも普通の人間じゃないから姿を見られたくないのか、見た目からして謎しかない。

 

 『え? もうラーザさん出てくんの?』

 『これは嬉しいイレギュラー!』

 『隣の変なのは誰だ?』

 

 コメント欄をチラ見する限り、あの二人組の片方はラーザさんというらしい。


 俺は声をかけてきた本人である凛々しい見た目の女性に視線を送り、


「誰ですか?」と問いかける。 すると、サラーマさんが眉を開きながら、


「おお、ラーザじゃねえか。 そっちの、えーっと……それは人間か?」


「新入りだ。 少し変わった見た目をしているがな、一応プリーストだ」


 どうやら凛々しい見た目の女性がラーザさんらしい。 シーツ被ってる方は俺と同じ新入りだという話だ。

 

 『あんな変なプリースト知らん』

 『そんなことよりラーザ様登場だぞ!』

 『アヌビス族バンザイ!』

 

 コメント欄が盛り上がっている。 ラーザさんという犬耳の女性はかなりの人気キャラらしい。


 そういえば、この子もサナさんやサラーマさんと共にオープニングムービーに出ていた。 その時は隣に立ってるパンチ力強めなシーツさんはいなかったのだが、何者なのだろうか?


「そんなことよりサラーマ。 貴様らは早速シリス様の体の一部を発見したようだな」


「ああ、あれはたまたまだな」


 またしてもシリスの体を見つけたという話を振られ、サラーマさんはあからさまに嫌そうな顔をする。 後で徹底的に謝ろう。


「先を越されるとは悔しい限りだ。 今日もダンジョンに潜るのか?」


「いや、今日はこいつがジョブチェンジしたいらしいからそれの付き添いだ」


「何? 見ない顔だな、そいつも新入りか?」


「ああ、隣のこいつが黒湖ナイル。 後ろのバステト族はサナっていう優秀な新人だ」


 サラーマさんは俺たちをチラリと横目に見ながら軽く紹介をしてくれる。 俺も軽く頭を下げて挨拶をすると、ラーザさんは興味深げな顔で俺の周りをくるりと一周した。


「臭うな貴様。 只者ではないだろう」


「えっと、確かに昨日はダンジョン潜ったのにお風呂入れてないですから、あまり嗅がないでもらえると助かります」


「そういうことではない! 貴様、私をからかっているのか!」


 理不尽である。 宿屋にお風呂がなかったから濡れた布で体を拭くことしかできなかったのだ、臭うと言われれば誰でも気にするだろう。 しかも相手は犬耳生えてるし。


 ムッとした顔でラーザさんと睨み合っていると、少し離れた位置でサナさんも自分の体をクンカクンカとチェックし始めているのが横目に見えた。

 

 『サナたんも自分の匂いを気にしている件』

 『くっそ萌えるんだがどんな匂いするのかな?』

 『それは流石にキモい』

 

「安心しろ、貴様の体臭は割と好ましい香りだ」


「どうしよう。 ラーザさんってツンデレなのかな」


「ツンデレ? なんで今の流れでそうなるのだ?」


 ちょこんと首を傾げているラーザさんに苦笑いを向ける。 なぜならコメント欄がとんでもなく荒れていたからだ。

 

 『貴様今すぐそこになおれ!』

 『調子に乗るんじゃねえぞクソガキ!』

 『ラーザ様をナンパするとは身の程を知れw』

 

 どうやらラーザさんのファンは想像以上の過激派が多いらしい。 これは今後の対応を気をつけなければアンチが増えてしまう可能性がある。


 そんなどうでもいいことを考えていると、ふとシーツさんから禍々しい視線を感じた。 俺は冷や汗を流しながらシーツさんをこっそり盗み見ると、

 

 『なんかすっげえ殺気を感じるな』

 『あいつもラーザ様親衛隊なのかw』

 『なんか、どっかで見た気がするぞあいつ』

 

 コメント欄もシーツさんから向けられている憎々(にくにく)しい視線に気がついたらしい、思わず額からこぼれた汗が線を引いてしまう。


「おい貴様、黒湖ナイルとか言ったな。 貴様の実力を見せてもらおうじゃないか」


「え? いきなりお手合わせとか嫌ですよ?」


「そうではない、ジョブチェンジするということはシーナイに向かうのだろう? 途中まで行き先は同じだ、同行してやろうではないか」


「おいおい勝手に話進めんなよ」


 サラーマさんは呆れたように肩を窄めながらラーザさんを止めようとするが、ラーザさんの鋭い視線がサラーマさんに刺さる。


「まさか、何かやましい事があるから同行されると困るとでも言いたいのか?」


「あ、いや、別にそんなやましいことなんてねえよ」


「ならば断る理由はなかろう? 我々が同行すればそれだけ見張りの時間が減る、移動中の魔物討伐が楽になるのだからな」


 サラーマさんは口をつぐみながら俺の方に視線を向けてきたため、俺は仕方がなく首を縦に振った。


 その間も、シーツさんからは俺たちを邪魔者だと言わんばかりに、煙たそうな視線を向けられていた。

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