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三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
エピローグ

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エピローグ

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)




それから、半年後――


リユニエの空が赤黒く染まった夜から、半年の年月が経っていた。

木の実のなる木々の葉は青々と緑色に染まり、初夏の陽光を力一杯浴びている。小鳥のさえずりと、昆虫のうなるような鳴き声が、リユニエ城の謁見の間まで届いていた。


アクシオンは玉座に座り、目を閉じていた。

玉座の冷たさにも、もう慣れてしまった。

慣れたくなかったのに――それでも、日々は淡々と進み、決裁と報告と謝罪と祈りが積もっていく。


再びリユニエに襲来した影の厄災――三姉妹が命懸けの戦いの末、選んだ道は殲滅でも……統合でも……再封印でも……なかった。

彼女らは影のものを影界へ送り返した。

アマリリス女王とともに……


生き残った街はこの半年で、かつての活気を取り戻し、人や精霊に笑顔が戻っていた。

何より街に流れる黒紫のルミナが薄れ、暖かいルミナが満ちる。市場が開き、子どもの声が戻り、精霊の歌が戻る。


リユニエは救われたが、代償もあった。

かつてアマリリス女王に忠誠を誓っていた街や拠点は、賢者とともに影界へ引きずり込まれていた。

街があったところは影の沼と化し、三姉妹と共に懸命に戦った賢者たちの手で厳重に結界が張られている。


アクシオンは唇を噛んだ。


影の沼の調査は核心に迫れていない。そもそも危険なのだ。

影の沼に漂っているのは黒紫のルミナだけではない。三姉妹を苦しめた――全てを“虚無”に還す白いルミナが、今もそこに残っている。

下手に浄化魔術や防御魔術を展開すれば、術者に跳ね返り、取り返しのつかないことになり得る。

「助けよう」とした意思が、刃になって自分へ返ってくる。あの理不尽が、沼の縁に貼りついている。


影の残滓は、いまだリユニエに存在しているのだ。


謁見の間の二枚扉が開き、忙しなく人が入ってくる。

各省の大臣、親衛隊、生き残った街の代表である賢者たち、そして二人の妹――オルディナとロゴス。


二枚扉がパタンと閉じられると、静謐な空気が空間を覆った。

ざわめきが沈み、息を呑む気配だけが残る。誰もがこの場で“未来”が決まると知っている。


「アク姉……違った……アクシオン女王陛下“代理”、皆集まりました……」


紅蓮の次女の照れたような声が謁見の間に響いた。

言い直しの一瞬に、オルディナの“姉を姉のままでいてほしい”という願いが透けた気がして、アクシオンは胸の奥が少しだけ痛んだ。


アクシオンはゆっくりと紫紺の目蓋を開けた。

円状の階段の頂点に鎮座する玉座から、謁見の間に集まった者の顔がよく伺える。皆、緊張の糸が張り詰めた表情を浮かべている。

恐れているのは、影だけではない。

“次の一手”が、国を割ることも、救うこともあり得るからだ。


「皆さん……お集まり頂きありがとうございます……本日、お集まり頂いた目的は……皆さんに決定事項をお伝えしたかったからです。」


アクシオンは一拍置き、大きく深呼吸した。

オルディナとロゴスが神妙な面持ちで紫紺の姉を見つめている。


「この半年間……皆さんのご尽力により、リユニエ各地の再興は進み、かつての輝きを取り戻しつつあります。一方で、影の残滓は各地にまだ残っている。それに……」


「アマリリス前女王をはじめ、消失した街に住んでいた人や精霊の生死が今だ不明です……」


張り詰めた空気が一層濃くなった気がした。

誰かが唇を噛み、誰かが目を伏せる。

不明――その言葉は、希望にも絶望にも転ぶ。


「したがって……今宵、“影界”への潜入調査を開始します……」


謁見の間にどよめきの声が起こった。

反対の声が喉元まで上がり、しかし言葉にならない者もいる。――やるべきだと、どこかで皆がわかっているからだ。


「どうやって、その“影界”とやらに潜入するのです?」


ある大臣がアクシオンに質問した。


「もちろん……影の沼を利用します。」


「女王“代理”、あの沼には白のルミナがあるのでしょう?あのルミナの脅威はあなたが一番わかっているはずだ。下手に境界をいじろうとすれば、命を落とす危険がある。」


質問した大臣の周囲にいた者たちも同意するように深く頷いている。

恐怖は正しい。慎重も正しい。

――けれど、“待つ”は、時に最悪の選択になる。


「ええ……承知しています。だから、その専門の者をここに呼んであります。ロゴス」


ロゴスは頷くと、二枚扉の向こう側に声をかけた。


「入ってきてください。」


ロゴスの呼び掛けとともに、二枚扉がぎぎっと床を擦る音を立ててゆっくりと開いた。

カツカツと乾いた靴音が鳴る。一定のリズムで、迷いがない。

その音だけで、謁見の間の空気が少し変わった。――この国の者ではない。慣れ親しんだ靴音の“重さ”が違う。


まっすぐ、オルディナとロゴスの方まで向かってくる。

濃灰色の羽衣は光を吸い、肩の線は細いのに、背筋が真っ直ぐだ。視線は低く、しかし揺れない。

リユニエではまず見ない衣装なのだろう。そこにいる者全員が訝しげな視線をその“女性”に向けている。

わずかなざわめきが立ち、それでも誰も口を挟めない。――“未知”が入ってきた瞬間の沈黙だ。


「お待たせしました……」


濃灰色の羽衣に身を包んだその女性は、透き通った声でアクシオンに話しかけた。

声は柔らかい。けれど、どこか刃のように研ぎ澄まされている。

生き延びてきた者の声だ、とアクシオンは直感した。


「遠路はるばるありがとう……」


アクシオンは微かに頷いた。

この一手が、祝福になるか、火種になるか。

だが、どちらにせよ――“進む”しかない。


「皆さん、紹介します……この方はノア・マーレーさん」


女王"代理"が告げると、謁見の間の空気がさらに固くなる。


「彼女の国では、“鈍色の魔女”と呼ばれています。」


濃灰の羽衣が、朝の光をほんの少しだけ反射した。

それは鈍色――鋼のように、曇りのように、そして、決して折れない色。


アクシオンは玉座の上で、静かに息を吸った。

影界。白いルミナ。影の沼。消えた街。生死不明の人々。

そのすべてが、いま目の前の一人へ繋がっていく気がした。



第一部 完

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

これで「三姉妹とリユニエの星環」の第一部は完結です。

次回は、三姉妹シリーズ第二部やノア・マーレーの物語でお会いできたら嬉しいです✨

ありがとうございました!!


ケミパパ

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