Ⅳ.警鐘、黒紫の咆哮
6. 警鐘、黒紫の咆哮
その時だった──
「警報!? ギルドの正門に、王国兵が!」
駆け込んできた団員の声に、場が一気に張りつめた。
ラオが舌打ちする。「ちっ……またかよ。くそ、よりにもよって今……」
オルディナが前に出た。
「……ここは、あたしたちが行く」
「でも姐さん、まだ身体だって……」
「分かってる。でも、あたしの居場所を、仲間を、放っとけるわけないわ」
アクシオンとロゴスも、静かに頷く。
ギルドの広場に飛び出した三人を、重装の王国兵たちが取り囲む。
「裏切りの三姉妹……貴様らに再起の余地はない」
「なら、試してみる?」
オルディナが拳を打ち鳴らした。
「ちょっと待って、オルディナ」
ロゴスが慌てて制止する。
「あなたが暴れたら、今の力でも憲兵は無事じゃ済まないわ。全盛を失ったとはいえ、私たちはまだ彼らにとって十分に脅威よ」
「だーい丈夫!手加減するからさ!私のルミナ・コントロール、ロゴスだって知ってるでしょ?」
「私の《ルミナ・レクイエム》で眠らせる。今の力でも、憲兵相手なら十分よ」
「ええ~、わかったよ。痛めつけるのが目的じゃないしね……あ~あ、いいウォーミングアップになると思ったのになあ」
「何をごちゃごちゃ言っている! 精霊の力も全盛の力も持たぬ貴様らなど、ただの小娘だ! 我々を甘く見るなよ、この裏切り者風情が!」
堪りかねた憲兵たちが、一斉に三姉妹に飛びかかってきた。
「《ルミナ……レクイエム》」
アクシオンの瞳が一重の螺旋を描き変化する。
「なっ!」
「まずい、やつの目を見るなっ!」
「もう遅いわ。しばらく、眠ってなさい」
バタ、バタ……憲兵たちは、その場で一斉に崩れ落ちた。
「アクシオン姉さん、お見事」
ロゴスがぼそりと呟く。
だが──その瞬間、倒れた憲兵の一人から黒紫色の邪悪なルミナが滲み出した。
「ちょ……何あれ?」
「ラオ、あなたにも見えるの?」
「うん……見えるよ……あの禍々しいルミナが」
憲兵は赤い瞳を宿し、体中に謎の紋様が張り巡らされ、すさまじい黒紫のルミナを放っていた。
「この地のルミナ濃度が急上昇してる。ある閾値を越えると、ヒトの目にも認識できるのね」
「もはや、《ルミナ・レクイエム》も通じなさそうね…」
「よーし、なら──いよいよ、オルディナちゃんの出番ね!ちょっくら暴れちゃうよ!?」
「オルディナ、気をつけて。あのルミナ、私たちの力を吸収する可能性があるわ」
「え? マジ? なら、純粋な殴り合いで行く?」
「援護は任せて」
ロゴスの眼が《オラクル・アイ》に変わり、即座に戦闘態勢へ。
「私も……久しぶりに拳で行こうかしら」
「アク姉、遅れずについてきてね!」
「先導は任せるわ、オルディナ」
「はーい!! オルディナちゃん、いっきまーす!!」
紅蓮色のルミナを拳と脚に纏い、オルディナは王国兵の頭上へと飛び上がる。
空中で一回転──そしてかかと落とし。地面が割れんばかりの衝撃が響く。
退避しようと身を翻した憲兵の正面へ、アクシオンが回り込む。
「《ルミナ・レクイエム》」
一瞬、動きが止まる。だが──すぐに再起動。
(やはり、今の私の眼では完全停止は無理か……)
「アク姉、ナイス!」
その刹那、紅蓮の拳が憲兵の腹部へ向けて振るわれた。
──だが。
拳は、憲兵に見事に受け止められていた。
「え? 嘘? 止めたの?」
拳を包む紅蓮のオーラが、吸い取られるように小さくなっていく。
「やばっ、マジで吸収されてる!!」
すぐさま飛び退くオルディナ。
「これ、けっこうピンチなんじゃない?(笑)」
「《オラクル・アイ》の解析によれば、邪悪なルミナは憲兵自身のルミナ炉に取り憑いてる。そこを断つしかない」
「でも、外からじゃ干渉できないわ。私の眼でも、オルディナの拳でも、体内までは……」
「大丈夫。できるか分からないけど、私の《オラクル・アイ》であの邪悪なルミナだけ別次元に飛ばす!」
「マジで? ロゴス?」
「任せて。援護は私とオルディナで」
突進してくる憲兵を《ルミナ・レクイエム》で牽制するアクシオン。
動きを鈍らせた憲兵を、オルディナが羽交い締めに。
「よーし、勝負よ! 私のルミナが尽きるか、あんたの炉がお腹いっぱいになるのが先か!」
「オル姐、ナイス……《オラクル・アイ》!!」
ロゴスの碧眼が鋭く輝いた。
「……ご主人のもとへ帰りなさい」
その一言と共に、憲兵の体から紋章が浮かび、邪悪なルミナが霧散するように消えた。
憲兵はその場で気を失った。
「ふぅ……助かった〜」
その場にへたり込むオルディナ。
「姐さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫! でも……やっぱ前みたいに無尽蔵じゃないね。スタミナ落ちてる(笑)」
「今日は一旦、あたしのギルドで休もう!」
「ありがとう、ラオ。甘えさせてもらうわ」
ロゴスはアクシオンと視線を交わす。
「……これは、始まりにすぎない。ね?」
「ええ、問いはまだ、終わってない」
──その時だった。
ロゴスの《オラクル・アイ》がわずかに反応する。広場の片隅──誰もいないはずの暗がりに、一瞬、何かが揺れた。
黒い布のようなものか。あるいは、翼の影か。
風も光もないその場所に、確かに──何かがいた。
ロゴスは眉をひそめたが、口には出さなかった。
嵐のような再会の夜は、ようやく静けさを取り戻していた。




