表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三姉妹とリユニエの星環  作者: ケミパパ
第5章 優しい喉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/94

①「おかえりなさいませ」──優しいノイズの入国ゲート

※世界観の補足や設定まとめはnoteにあります(プロフィールから)

1.



『現在、入国ゲートG1は封鎖中です。入国希望の方は、G2へお越しください。』


頭上から、優しい声色の機械音声が降ってくる。


ロゴスは踵を返し、G1とは真反対のG2へ足を向けた。


カゲツは一足先に別のゲートからナヤカに入っている。関係者用入国ゲートG3――監査評議会や公安関係者だけが通過可能なゲートだ。


「いちいち、めんどくさいなぁ」


ぶつぶつ言いながら、カゲツはG3へ消えていった。


ロゴスはその背中を、少しだけ可笑しそうに見送った。


セフィロス・ガバナンス・システム。通称S.G.S。


この街では、誰がどの門を通るかすら、“優しく”決められている。


G2へ向かう道すがら、ロゴスはそれとなく人々を観察した。行商人、旅行客――厚いコートの襟に顔を埋め、列に従って歩く。


ナヤカはリユニエ北部、セフィロス地区。研究都市シグマと図書館都市ルナエールの、その間に挟まれた幻影都市。


やがてG2が見えてくる。入国待ちの列。


ゲート前で人は一度止まり、S.G.Sの審査を受ける。流れ作業のように、滞りなく。


ロゴスの番が来た。指定位置で立ち止まる。


途端に、声が降り注いだ。


『入国希望者の基礎情報を検索します。』


『……入国希望者No.653。ロゴス様。シグマ研究開発機構――最高顧問。』


『影負荷:32。平常域。統治介入不要域。統治リスク:低。』


淀みなく読み上げられる言葉に、ロゴスは小さく苦笑した。


まだ、私は“そこに所属している”扱いか。


『入国を許可します。……おかえりなさいませ、ロゴス様。』


ゲートがゆっくりと開き、冬の冷気が流れ込んできた。


——その瞬間。


音声が、ごく短く、言葉にならないノイズを噛んだ気がした。


ほんの一拍。すぐに、何事もなかったように静寂が戻る。


ロゴスは、足を止めずに、胸の奥だけで呟いた。


……今のは、何?


ロゴスは久しぶりに、機械に統治された都市へ足を踏み入れた。


不気味なほど静謐だ。均一に並ぶビル群。そこにだけ、ネオン調の灯りが冷たく差し込む。


道路は磨かれたように整い、車が規則正しく流れていく。


運転席に人影はない。停車、扉の開閉、発進――すべてが同じ間隔、同じ角度、同じ速さ。


歩道の住民は、誰も車を“操る”必要がない。


彼らが確かめるのは、腕の端末に浮かぶ数値だけだ。


ルミナ系統――そして、影負荷。


「……ここも相変わらず、変わってないのね」


ロゴスが小さく呟いた、その先。


ゲートから少し歩いた場所に、黒髪を垂らした侍姿の女が立っていた。カゲツだ。


機械タバコの煙を細く吐き、都市の無機質さの中で――妙に“生きた匂い”だけが浮いている。


ロゴスの視線に気づいたのか、カゲツが軽く手を上げた。


「お、来た。……思ったより遅かったね。何かあった?」


「G1が封鎖されてた。G2から入ったの」


「封鎖?」


カゲツの目がわずかに鋭くなる。携帯端末を叩き、ホログラム画面を高速で流した。


――通知はない。事件性も警戒も、何も。


「……気になるね」


トゥリムから逃れたばかりだ。胸の奥の警戒が、嫌な形でざわつく。


「都市もシステムも、安定してるように見えるけどね」


ロゴスがオラクル・アイを起動しかける。


カゲツが、即座に手で制した。


「あー……ロゴス。言いにくいんだけどさ。その目、ここじゃあんまり使わない方がいい」


「システムが干渉してくる?」


「干渉っていうか……“観測”がログに残る。変な観測は、向こうの都合で“矯正”される。システムは女王側とは独立してる。だから影に察知される心配は薄いけど――念のためね」


「……うん。わかった。ありがとう」


ロゴスが微笑む。


「ところで……あなたのそれは? システムは干渉してこないの?」


ロゴスが機械タバコを指すと、カゲツは白い歯を見せて、にっと笑った。


「これ? 今まで一度も言われたことないな。……職務特権ってやつじゃない?」


「……とりあえず、G1を見に行く。封鎖理由が“通知なし”ってのが一番嫌だ」


カゲツが機械タバコをしまいながら言った。


「私もついていっていい?」


ロゴスが尋ねた。


「いいよ。むしろ助かる。まだ事件性も何もないなら、うちの連中は動かない。……だから余計に、嫌な予感がする」


カゲツはそう言って歩き出した。


二人が都市側からG1へ向かうと、ゲートは確かに封鎖されていた。


警備ドローンが横一列に並び、封鎖線は“美しいほど”正確に引かれている。


「ほんとに封鎖されてる。原因は……」


カゲツは一体の警備ドローンに近づき、端末を操作する。S.G.Sの最新ログを引き抜いた。


[S.G.S / Gate-G1 / Ward-03 / 06:14]


秩序係数: 45 /100(安定)


影負荷 (平均): 38 /100(安定) / 分散: 中程度


判定: 個別介入


処置: L2 → L3(段階移行待ち)


カゲツの眉が、わずかに寄った。


「……秩序も影負荷も安定。なのに、L2? しかもL3移行待ち……重すぎる」


「システムが干渉しすぎってこと?」


ロゴスがそれとなく尋ねる。


「干渉だけならまだいい。問題は――」


カゲツは端末を軽く揺らした。


「段階移行が出てるのに、公安に通知が来てない。普通なら、この時点であたしらの端末が鳴る」


「……通知経路が切られてる?」


「か、通知を出せない理由がある。……どっちにしても、気味が悪い」


G1周辺に、目に見える破壊や血痕はない。


ルミナの流れも――異常なくらい正常だ。


ただ、封鎖線の外側だけが、やけに“片付いて”見えた。


ロゴスはふと封鎖線の外に目をやった。


誰かの荷物だろうか。スーツケースがいくつか、そのまま放置されている。


「カゲツ……あれ」


ロゴスが指差すと、カゲツも目を向けた。


「スーツケース?」


カゲツは駆け寄り、ロゴスも続いた。


端末でスキャンすると、システムの優しい音声が流れた。


『照合に失敗しました。所有者情報が確認できません。入国記録:該当なし。……ご安心ください。回収手続きを開始します。』


「……マジか。記録がないのに、ゲートを通過したの?」


カゲツが唸る。


「荷物だけここに運ばれてきたわけないよね?」


「たぶん、それはない。貨物輸送ならG1は使われない」


「じゃあ、この持ち主はどこに行ったんだろうね」


「……あーもう。帰ってきて早々、気味が悪いね……」


カゲツは黒髪をかきむしり、端末をロゴスに向けた。


「ロゴス。悪いけど、先にあたしの家に帰っててくれる?」


住所が転送される。


「いいけど、あなたは?」


「こういう“記録欠落”は現場で触るなって決まりなんだ。上に上げる」


そう言い残して、カゲツは公安庁へ走り出した。


ロゴスはその背を見送りながら、胸に込み上げる不吉な違和感を覚えていた。


何か重大なことが、静かに起き始めている。


ふと都市の方へ顔を向ける。


ビルに嵌め込まれたスクリーンが妖しく光り、

「街は安定しています」とだけ表示していた。



--つづく

ここまで読んでいただきありがとうございます✨

ブックマークで追ってもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ